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う[禹] (人名)古代中国の夏(か)の聖王。堯の時、洪水を治めて成功し、舜が崩じて後、その禅(ゆずり)を受けて即位、国を夏と号した。徒然草、百七十一段「禹の行きて(さんべう)を征せしも、師(いくさ)をかへして徳を布(し)くにはしかざりき」=禹が三苗を遠征した時も、(その効果は結局)軍隊を引き上げて仁政をしくのには及ばなかった。(「三苗」は中国古代の蛮族)
う[卯] 十二支の第四位。時刻では午前六時頃。方角では東。
う[得] (動、下二)(1)自分のものとする。(2)できる。
う[宇] (接尾)家などを数えるとき、数詞の下につけて上の数詞とともに単語を構成す
る接尾語。「一宇の堂」
うえん[有縁] (名)仏教で、仏道にゆかりのあること。仏道に縁のあること。謡曲、竹
生島「或は天女の形を現じ、有縁の衆生の諸願をかなへ」(「有縁の衆生」は「信徒」)
うがい[有涯] (名)一定の限度のあること。無常。平家、灌頂、大原人御「有涯は秋の
月、雲に伴なつて隠れ易し」
うかがはくウカガワク[窺はく] (名)「く」は用言の下について、名詞の資格を与える接尾語。「うかがうこと」の意。古事記、中「しりつとよ、いゆきたがひ、まへつとよ、いゆきたがひ、うかがはく、しらにと、みまきいりびこはや」=(ひそかに弑しまいらせようと)後の門を行きかい、前の門を行きかい、(その生命を)うかがうことを御存じなくいらっしゃる、みまきいりびの命はよ。⇒わざうた。
うかがふウカガウ[窺ふ] (動、四)(1)機を見て得ようとねらう。神代紀、上「敢へてこの処をうかがふか」前項参照。(2)ひそかに見る。のぞく。様子を見る。竹取「まめならむ男どもをゐてまかりて、あぐらを結ひて上げてうかがはせむに」=忠実な男たちをつれて行って、足場を作って、そこへ上げて、そっと見させたなら。(3)ひそかに時機を待つ。宇津保、俊蔭「武士の寝しづまるをうかがひて」
うかがふウカガウ[伺ふ] (動、四)(1)「問ふ」の敬語。狂言、餌差十王「まづ閻魔王へうかがはう」(2)「訪ふ」の敬語。伺候する。(3)しらべる。見る。考える。平家、一、祗園精舎「近く本朝をうかがふに」
うがつ[穿つ] (動、四)(1)穴をあける。こわす。古事記、上「その服屋(はたや)の棟をうがちて、天の斑駒を逆剥ぎに剥ぎて、おとし入るる時に」(2)突きぬく。貫ぬく。土佐日記「棹はうがつ波の上の月を、舟はおそふ海の中の天を」(この句は中国の唐の詩人賈島の「棹は穿つ波の底の月、舡は圧す水中の天」を少し変えて用いたもの)
うかねらふウカネラウ (動、四)窺い狙う。万葉、[8-1576][この丘に小鹿ふみ立てうかねらひ左(か)も右(か)もすらく君ゆゑにこそ]⇒かもかも。
うかねらふウカネラウ (枕詞)諸説があって明らかでないが、鳥獣を捕らえようとする時は、その足跡を見て窺い狙うことから、大和の地名「跡見(とみ)」に冠するという説が、まず妥当であろう。万葉、[10-2346]「うかねらふ跡見山の雪のいちじろく恋ひば妹が名人知らむかも」
うかは…カワ[鵜川] (名)鵜を使って魚をとらせること。それを行うことを「鵜川立つ」という。万葉、[17-4023]「めひ川の速き瀬ごとにかがりさし八十伴(やそとも)の男(を)は鵜川立ちけり 大伴家持」(「めひ川」は越中の国、富山県婦負郡を流れる川。「八十伴の男」は朝廷に仕える百官)
うかひ…カイ[鵜飼] (名)鵜を飼いならして魚をとること。また。その人。うかは。万葉、[19-4156]
「あらたまの……島つ鳥鵜飼伴なへ、かがりさし、なづさひ行けば」
うかひがともウカイ…[鵜飼が伴] (名)鵜飼を職業とする人たち。「伴」は「人人」。古事記、中「しまつとり、うかひがともよ」万葉、[17-4011]「大君の……鮎走る、夏の盛りと、島つ鳥、鵜飼が伴は」
うかぶ[浮かぶ] (動、四)(1)浮く。(2)動いて定まらない。動揺する。不安である。万葉、[4-711]「鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて浮かべる心あが思はなくに」(上三句は「浮かべる」というための序詞。(3)うわっつく。和泉式部日記「御気色の、例よりもうかびたることどもをのたまはせて」(4)苦しい境地を脱する。古今著聞集、五「同じく流されし人人許されけれども、身ひとりはなほうかびがたき由を伝へ聞きて」(5)仏教で、亡者の霊が解脱し成仏する。風雅集、釈教「沈みこし憂き身はいつか浮かぶべき誓ひ舟の法(のり)に逢はずば 示証上人」(6)世に出る。立身する。宇津保、嵯峨院「明王の出でおはしまして、かくまかりうかびたる喜びをすれば、馳走せむと思ひ侍りつれども」(7)思ひ起す。玉葉集、秋下「来し方は皆おもかげに浮かび来ぬ行く末照らせ秋の夜の月 藤原定家」(8)満足する。よろこぶ。栄花、若枝「うかばぬ嘆きをしたり」
うかぶ[浮かぶ] (動、下二)前項の他動。(1)浮かばせる。浮かべる。万葉、[5-840]「春柳かづらに折りし梅の花たれか浮かべしさかづきの上に」(2)立身させる。出世させる。源氏、明石「沈めるともがらをこそ多くうかべ給ひしか」(3)仏数で、亡者の霊を解脱させ成仏させる。宇津保、梅花笠「前世の罪業をもほろぼさむ、かのおもとをもうかべ救はむとて」(4)思い浮かべる。(5)暗誦する。栄花、十五「そらにうかべ誦しなどして」
うかむ[浮かむ] (動、四)「うかぶ」に同じ。
うかむ[浮かむ] (動、下二)「うかぶ」に同じ。
うかむせ[浮かむ瀬] (名)助かる機会。世に出る機会。空也上人絵詞伝「山川の末に流るる橡殻(とちがら)もみを捨ててこそ浮かむ瀬もあれ」(「み」に「実」と「身」とをかけている)
うから (名)みうち。みより。やから。うがら。万葉、[3-460]「たくづのの、しらぎの国ゆ、人言(ひとごと)を、よしと聞かして、問ひさくる、うから・はらから無き国に、渡り来まして」
うがら (名)前項に同じ。本居宣長は「古訓古事記」において「族」を「うがら」とよませている。
うかりける[憂かりける] (句)悲しかった。つれなかった。「憂し」の連用形「憂かり」に過去の助動詞「けり」の連体形「ける」の付いたもの。千載集、十三、恋三「うかりける人を初瀬の山おろしはげしかれとは祈らぬものを 源俊頼」=初瀬の山おろしよ、失恋で悲しく思っている私は、どうか恋人に逢わせてくださいと初瀬寺に祈りこそすれ、そんなにはげしく吹いてくれなどとは祈らないものを。
うかれづま…ズマ[浮かれ妻] (名)遊女。うかれめ。続千載集、雑下「一夜あふゆききの人のうかれづま幾度かはる契りなるらむ」
うかれびと[浮かれ人] (名)(1)浮浪人。浪人。一定の地にいつかず、波に浮かびただようように、さまよい歩く人の義である。(2)月や花に浮かれ歩く人。風流人。歌人・俳人など。(3)遊蕩児。道楽者。
うかれめ[浮かれ女] (名)遊女。うかれづま。あそびめ。大和物語「亭子のみかど河尻におはしましけり。うかれめに白といふものありけり」(「亭子のみかど」は第五十九代宇多天皇)
うき[盞] (名)さかずき。うくは。古事記、下「ありきぬの、みへのこが、ささがせる、みづたまうきに、うきしあぶら」=三重のうねめが捧げているりっぱな盃の中に浮いたあぶらのようなよい酒。(「ありきぬの」は「三重」の枕詞)
うき[埿] (名)泥深い地。古今六帖、三「芦根這ふうきは上こそつれなけれ下はえならず思ふ心を」
うき[憂き] (名)憂いこと。つらいこと。形容詞「憂し」の連体形が名詞となったもの。千載集、十五、恋五「つらしとも(て)恨むる方ぞなかりける憂きをいとふは君ひとりかは」
うぎ[雨儀] (名)昔、雨天の時に行われた宮中の儀式。晴天の時の儀式に比し、かなり省略して行われた。
うきうた[宇岐歌] (名)古代歌謡の一。古事記、下「みなそそく、おみのをとめ、ほだりとらすも、ほだりとり、かたくとらせ、やがたくとらせ、ほだりとらすも。こは、うきうたなり」=おみの少女がほだり(酒器)を執るよ。その執るほだり、固く執れよ。いやが上にも、しっかり執れよ。これは宇岐歌という歌謡である。(「みなそそく」は「おみ」の枕詞。この宇岐歌は、雄略天皇が、とよのあかりの日、春日の少女にむかって詠まれた歌)
うきき[浮木] (名)(1)いかだ。源氏、松風「いくかへりゆきかふ秋をすぐしつつうききに乗りてわれかへるらむ」琴後集、三、秋「もろともにゆきて見ましを天の川うききのかよふ道し絶えずば」(2)「浮木の亀」の略。狭衣、四、上「うききに逢はむことよりも、かたきことどもかな」
うききのかめ[浮木の亀] (名)法華経・涅槃経などに見える故事で、大海に住む盲の亀が、岸へ行こうとするが行けない。すると一本の木が浮いて漂っているのに出会い、それにつかまって、やっと岸に達することができたというので、めったに遭遇することのないことの比喩。千載一遇の機会。夫木抄、二十九「浮かぶてふ浮木の亀にあひぬれば業(ごふ)の罪こそこころやすけれ」
うきくさ[浮草] (名)「うきくさ」といふ特定の植物もあるが平安時代の歌人などの言ったのは、水に漂う水草の総称であろう。枕草子、三「草は……まろこすげ・うきくさ」
うきくさの[浮草の] (枕詞)語呂の上から「うき」に、また、浮草は根が水底につかないから「根を絶えて」に冠する。古今集、十二、恋二「たきつ瀬に根ざしとどめぬ浮草のうきたる恋もわれはするかな 壬生忠岑」(浮いた恋の意)同、十八、雑下「わびぬれば身をうき草の根を絶えて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ 小野小町」(「うき」に「憂き」と「浮き」とを含ませている)
うきしま[浮島] (地名)(1)陸前の国、宮城県宮城郡塩竈市の浦島の別称。新古今、十五、恋五「塩竈のまへに浮きたる浮島のうきておもひのある世なりけり 山口女王」枕草子、九「しまは、うきしま・やそしま」(2)駿河の国、静岡県駿東郡から富士郡にわたる一帯の沼沢地。「浮島が原」ともいう。謡曲、羽衣「天の羽衣浦風に、たなびきたなびく三保の松原、浮島が雲の」
うきしまがはら[浮島が原] (地名)前項の(2)に同じ。新勅撰集、雑四「足柄の関路越え行くしののめに一むらかすむ浮島が原」太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「明くる霞に松見えて、浮島が原を過ぎ行けば」
うきしまの[浮島の] (枕詞)頭音をくりかえして「浮き沈み」に冠する。能宣集「宿るらむ方し知らねば浮島の浮き沈みたる恋もするかな」
うきじまり 語義・品詞ともに不明であるが、文脈から考えて、「たしかに立ち」の意ではなかろうか。古事記、上「天の浮橋に、うきじまり、そりたたして」(「浮島あり」「浮洲あり」などとする説もあるが、感心されない)
うきせ[憂き瀬] (名)苦しい場合。つらい時。古事記、上「あらゆるうつしき青人草のうきせに落ちて苦しまむ時に助けてよとのりたまひて」」「浮洲あり」などとする説もあるが、感心されない)
うきたのもり[浮田の森] (地名)歌枕の一。山城の国、京都府乙訓郡淀村の予杼(よど)神社の森を称したという。万葉、[11-2839]「欺くしてやなほも守らむ大荒木の浮田の森の標(しめ)ならなくに」枕草子、六「もりは、おほあらきの森……うたたねのもり・うきたのもり・うへ木のもり」
うきぬなは…ヌナワ[浮蓴] (名)「浮蓴」は「水面に浮いているぬなは」で、今の「じゅんさい」のこと。万葉、[7-1352]「わが心ゆたにたゆたにうきぬなは辺にも沖にも寄りがてましを」=自分の心は、ちょうどじゅんさいがゆらりゆらりと波にゆられているように動揺していて、どうにも定まることができない。(これは比喩であって、「うきぬなは」が枕詞として用いられたものではない)
うきね[浮寝] (名)(1)水鳥などが水上に浮いて寝ること。また、人が船中で寝ること。万葉、[7-1235]「波高しいかに揖取水鳥の浮寝やすべきなほや漕ぐべき」(2)安眠のできないこと。古今集、十一、恋一「涙川まくら流るるうきねには夢もさだかに見えずありける」(憂き寝)(3)ねどころの一定しないこと。かりそめの添い臥し。源氏、帚木「いと、かう、かりねなるうきねのほどを思ひ侍るに」
うきふししげきたけばしら〔憂き節滋き竹柱〕 (句)憂いことの多いから、浮いている節の多い竹柱にかけていう。平家、灌頂、大原御幸「世に立たぬ身のならひとて、うきふししげき竹柱都の方の言伝(ことづて)は、間遠(まどほ)に結へる猿垣(ませがき)や」
うきみ[憂き身] (名)つらい身。悲しい身。
うきめ[憂き目] (名)つらいこと。悲しいこと。
うきめ[浮藻] (名)うきも。源氏、須磨「うきめ刈る伊勢をの海士(あま)を思ひやれもしほたるてふ須磨の浦にて」。
うきも[浮藻] (名)海面に浮かんでいる海藻。うきめ。
うきやうしきウキヨウ…[右京職] (名)昔、右京を管した役所。京都の右京の戸口・田宅・租税・商業・道路・橋梁・訴訟・警察などのことを司った。みぎのみさとのつかさ。
うきゆひ…ユイ[盞結] (名)「うき」は「さかずき」、「ゆひ」は「互に結び固めること」。酒杯をかわして、契りを結び固めること。誓約。古事記、上「かく歌ひて、すなはちうきゆひして、うながけりて、今に至るまで鎮まります」
うきよ[憂き世] (名)つらい世。仏数で、われわれの現実生活の世界を言う語。伊勢物語「散ればこそいとど桜はめでたけれうきよになにか久しかるべき」
うきよ[浮世] (名)(1)前項の転。現世。世の中。(2)さらに転じて、江戸時代に流行したことばで、その内容には「浮かれ遊ぶべき世」「享楽すべき世」「当世」「現代的」「好色」などの意を含み、当時下積みになっていたが金には不自由をしない町人社会の人生観・処世観を煎じつめたことば。「浮世草子」「浮世絵」「浮世節」「浮世人形」なども、この観点から考えられねばならぬ。
うきよざうし…ゾウシ[浮世草子] (名)江戸時代の小説の一種。仮名草子の一変したもので、井原西鶴を創始者とする。西鶴物および八文字屋本などの小説の総称。当時の浮世を描き、好色物を主としたもの。
うきよどこ[浮世床] (書名)式亭三馬の小説。文化八年(一八一一)作。くわしくは「柳髪新話宇喜世床」。次項の「浮世風呂」の続編として書かれたもので、江戸の髪結床に集まる町人男女の言語・風俗を滑稽に描写したもの。
うきよぶろ[浮世風呂] (書名)式亭三馬の小説。文化六年(一八〇九)作。「男湯の巻」と「女湯の巻」とに分かれ、軽妙・酒脱な筆で、よく当時の町人の風俗を描写している。前項の「浮世床」と共に三馬の傑作である。
うぐ[穿ぐ] (動、下二)「うがつ」の自動。穴があく。徒然草、五十三段「頸もちぎるるばかりに引きたるに、耳・鼻欠けうげながら抜けにけり」=くびもちぎれるばかりに引っぱったら、耳や鼻は欠けて穴があいたが、(とにかく)抜けてしまった。
うぐひすのさへずりウグイスノサエズリ (名)⇒しゆんあうてん。
うけ[食] (名)古語で「食物」のこと。
うけ[桶] (名)桶。一説に、大きな槽(ふね)。古事記、上「天の岩屋戸にうけ伏せて、踏みとどろこし」
うけ[有卦] (名)その人の生年の干支により、七年間吉事の続くという年まわり。「うけに入る」といえば、幸運の際会して、にこにこと喜ぶ意となる。
うけがふウケガウ[肯ふ] (動、四)承知する。神皇正統記、二、第十四代「天皇うけがひ給はず。事ならずして、かしひの行宮にしてかくれ給ふ」
うけがふウケガウ[肯ふ] (動、下二)承知する。「名義抄」に「不レ肯(ウケガズ)」とある。
うけきらふウケキラウ (動、四)「うけ」は接頭語であろう。「きらふ」に同じ。竹取「男はうけきらはず、よびつどへて、いとかしこくあそぶ」
うげつものがたり[雨月物語] (書名)上田秋成の短編小説を集めた書。明和五年(一七六八)刊。日本や中国の古典や伝説から脱化した妖怪・変化(へんげ)に関する材料を取り扱い、古典味ゆたかな流麗な和漢混淆体の文章で貫かれている。
うげのく[穿げ除く] (動、四)穴が開く。平家、一、願立「まこと・そらごとは、これを見よとて肩脱ぎたるを見れば、大なるかはらけの口ほどうげのいてぞありける」⇒うぐ。
うけのをの…オ…[浮子の緒の] (枕詞)「うけ」は魚を釣るときの「うき」、「を」はそれにつける紐。うきの紐の浮くから「浮かれ」に冠する。万葉、[11-2646]「すみのえの津守網引(あびき)のうけのをの浮かれか行かむ恋ひつつあらずば」
うけばる[受け張る] (動、四)一身に引き受けておこなう。源氏、若菜「大将、したりがほにて、かかる御ならひにうけばりて物し給ふ」増鏡、二、新島もり「いよいよ身おもく、勢ひそふこと限りなくて、うけばりたるさまなり」
うけひウケイ (名)「うけふ」の連用形の名詞となったもの。神に祈ること。また、神に祈って誓うこと。誓約。神皇正統記、一「さらば、うけひをなして、清きか黒きかを知るべし」
うけひがりウケイ… (名)神に祈り、獲物によって、事の吉凶をうらなうためにおこなう狩猟。古事記、中「とが野に進み出でて、うけひがりしたまひき」
うけひき (名)承知すること。承知。承諾。次項の名詞形。
うけひく (動、四)承知する。ひきうける。承認する。源氏、桐壺「御うしろみすべき人もなく、また、世のうけひくまじきことなれば」
うけふウケウ (動、四)(1)神に祈る。(2)神に祈って誓う。古事記、上「おのもおのも天の安の川を中に置きてうけふ時に」(3)のろう。伊勢物語「罪もなき人をうけへば忘れ草おのが上にぞ生ふといふなる」
うけぶみ[請文] (名)仰せを承った旨をしるした文章。うけしょ。古今著聞集、二「領状のうけぶみ書きて奉る」
うけら[朮] (名)今、蒼朮(おけら)という。山野に自生する菊科の植物。秋、白色に近い頭状の花を開く。万葉、[14-3376]「恋ひしけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出(づ)なゆめ」(うけらの花のように、決して色を見せるな)
うけらがはな[うけらが花] (書名)加藤千蔭の歌文集。享和二年(一八〇二)から文化四年(一八〇七)ごろまでの千蔭の歌文を収録している。文政七年(一八二四)刊。
うげん[有験] (名)祈禱の効験のあること。あらたかなこと。古今著聞集、十五「うげんの僧たれかはあらむと」
うげんべり[繧繝縁] (名)白地に繧繝彩色をほどこした畳のへり。枕草子、八「昔おぼえて不要なるもの、うげんべりの畳の古りて、ふしの出できたる」(「ふし」は縁の布の「ふし」)⇒うんげん
うごなはる[集なはる] (動、四)集まる。参集する。祝詞、祈年祭「うごなはれる神主・祝部(はぶり)ら、もろもろきこしめせとのる」
うこんのたちばな[右近の橘] (名)紫宸殿の階下の右方(向かって左方)に植えてある橘。「左近の桜」の対。
うこんのつかさ[右近府] (名)「右近衛府」に同じ。また、その府の将曹以下の職員。源氏、桐壺「右近のつかさのとのゐ申しの声きこゆるは」⇒とのゐまうし。
うこんゑふ…エフ[右近衛府] (名)左近衛府と共に内裏の警衛を司る官庁。また、その職員。右近衛。右近のつかさ。みぎりのちかきまもりのつかさ。
うさ[憂さ] (名)憂いこと。悲しいこと。また、その程度。落窪物語「日にそへてうさのみまさる世の中に心づくしの身をいかにせむ」(「憂さ」に「宇佐」を、「心づくし」に「筑紫」をかけている)
うさ[宇佐] (地名)昔あった国名。もと「菟狭」と書いた。今の大分県宇佐郡の地で、宇佐八幡宮のあるところ。
うさのつかひ…ツカイ[宇佐の使ひ] (名)国に事のあった時、宇佐八幡宮へ差遣された使い。伊勢物語「この男、宇佐の使ひにていきけるに」
うし[丑] (名)十二支の第二位。時では午前二時ごろ。方角では北北東。
うし[大人] (名)人の尊称。師または学者の尊称。
うし[雨師] (名)雨の神。また、雨。太平記、十一「雨師道を清め、風伯塵を払ふ」
うし[憂し] (形、ク)つらい。悲しい。ものうい。万葉、[5-893]「世の中を憂しと恥(やさ)しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」「憂きことのなほこの上に積もれかし限りある身の力ためさむ」(この歌は熊沢蕃山の詠という)
うしおに[牛鬼] (名)牛のような形をした鬼。枕草子、八「名おそろしきもの……いりずみ・ばうたん・うしおに」
うしおふもの…オウ…[牛追物] (名)鎌倉時代に流行した騎射の一。小牛を追いながら射るもの。「犬追物」はこれから出たという。
うしかひ…カイ[牛飼] (名)牛を飼うこと。また、その人。古事記、下「身を隠して、うまかひ・うしかひにぞ使はえいましける」(「使はえ」は「使われ」)平家、十一、一門大路被レ渡「大臣殿(おほいどの)の牛飼は」
うしき[有識] (名)(1)有情。衆生。凡夫。(2)僧官の名。「知識を有する」から出た語。巳講・内供・阿■梨の三官の総称。大鏡、七、太政大臣道長「御さきに、有識・僧綱(そうがう)どものやむごとなきさぶらふ」
うしたはけ…タワケ〔牛婚〕 (名)上代の罪の一。牛を姦すること。古事記、中「馬婚・牛婚・鶏婚・犬婚の罪のたぐひ」
うしとら[丑寅・艮] 十二支の第二および第三。北と東との間の方角。きもん。
うしはく[領く] (動、四)(1)領有する。占める。支配する。古事記、上「汝(な)がうしはける葦原の中つ国は、我(あ)が御子の知らさむ国とことよさしたまへり」(2)(神が)居られる。しずまる。万葉、[19-4245]「ゆゆしかしこき、住の江のわが大御神、船の舳に、うしはきいまし」
うしほ(ウシオ)[潮] (名)(1)海水。古事記、上「いましせむは、このうしほを浴み、風の吹くに当たりて、高山の尾の上に伏してよといふ」(2)塩。(3)海の水面が高低・満干の変化を起す現象。
うしみつ[丑三つ] (名)十二支による時刻の名。今の午前三時ごろに当たる。
うじもの[鵜じもの] (枕詞)「じもの」は「状(さま)」の義。鵜のようにとの意から「うな(くび)」に冠する。祝詞、祈年祭「うじもの頸根(うなね)衝き抜きて」
うしよ[羽書] (名)急を要するため、羽をつけた檄文。「羽檄」ともいう。太平記、十六、西国蜂起官軍進発事「西国の退治たやすかるべき由、しきりに羽書を飛ばせて京都へ注進す」
うしろべたし (形、ク)「うしろめたし」に同じ。枕草子、一「めのと代へてむ、いとうしろべたし」
うしろみ[後ろ見] (名)補佐する人。世話する人。後見者。源氏、桐壺「とりたてて、はかばかしき御うしろみしなければ」
うしろむ (動、上二)「うしろみる」の転であろう。後見する。狭衣、一、下「げにおぼろげに思ひうしろむる人のはかばかしきなくば、うしろめたげにぞおはしける」
うしろめたし (形、ク)(1)気がかりである。不安である。源氏、桐壺「また、見奉らでしばしもあらむは、いとうしろめたう思ひきこえ給ひて」(2)うしろぐらい。やましい。増鏡、二、新島もり「賤しけれども義時、君の御為にうしろめたき心やはある」
うしろや[後ろ矢] (名)(1)敵に内応して、うしろから味方を射る矢。裏切ること。平家、七、燧合戦「ここは馬の足立よき所にて候ふ。後ろ矢をば仕らむ」(2)味方のうしろから敵を射る矢。後援すること。平家、十一、勝浦「もしこの辺に、平家の後ろ矢射つべき仁は誰かとのたまへば」
うしろやすし (形、ク)(1)信頼できる。安心である。源氏、帚木「うしろやすくのどけき所だに強くば、うはべの情は、おのづからもてつけつべきわざをや」(2)包むところがない。むきだしである。紫式部日記「言ひ出でたらむことも、うしろやすく、はぢなき人は、世にかたはものとおぼしならひたり」
うしんじや[有心者] (名)物のわかる人。なさけのある人。風流心のある者。大鏡、三、太政大臣頼忠「四条の宮とぞ申すめりし。いみじき有心者・有識にぞいはれ給ひし」
うす[失す] (動、下二)(1)うせる。なくなる。消える。竹取「しら山にあへば光のうするかと鉢を捨ててもたのまるるかな」(2)死ぬ。古事記、中「この天皇の御世に、疫病(えやみ)さはに起りて、おほみたからうせて尽きなむとす」
うず[髺華] (名)(1)上古、花木の枝葉を頭にさして飾りとしたもの。かざし。古事記、
中「くまかしがはを、うずにさせそのこ」=熊樫の葉をかざしとせよ、その子。万葉[19-4266]「鳥山に熟(あか)るたちばなうずにさし、紐解き放(さ)けて」(2)のち、冠の飾りとしてさした金属製の花木、または鳥獣の尾など。
うすすく (動、四)「いすすぐ」に同じ。驚きさわぐ。あわてる。源氏、槿「御門守、寒げなるけはひ、うすすき出で来て」
うずすまる (動、四)うづくまる。一説、むらがり集まる。またの説、漫然とすわる。古事記、下「にはすずめ、うずすまりゐて」
うすにたてて[臼に立てて] (句)「うす」は酒をかもす槽。「酒槽として立てて」の意。古事記、中「このみきを、醸(か)みけむひとは、そのつづみ、うすにたてて、うたひつつ、かみけれかも」=この酒を造った人は、その鼓を酒槽として立てて、歌いつつ造ったのであろう。(この「鼓」は丸木の中心をくりぬいた原始的な楽器)
うすにび[薄鈍] (名)薄にび色。多く喪服の色に用いる。うすにぶ。枕草子、八「こころもとなきもの……これより見あぐれば、うすにびの裳、からぎぬ、同じ色のひとへがさね」
うすにぶ[薄鈍] (名)前項に同じ。宇津保、国譲、上「うすにぶのひとへがささね、黒橡の小袿奉りて」
うすはく[領く] (動、四)「うしはく」の転。「うしはく」に同じ。祝詞、遷却崇神祭「山川のさやけきところに遷り出でまして、あが地と宇須波伎ませと」
うすべ (名)「おすめどり」に同じ。
うすべどり[臼辺鳥] (名)「にはとり」の古称。下学集、上「鶏………ゆふつけどりといひ、或はうすべどりといふ」
うすめ[碓女] (名)上古、葬祭の時、供える米をしらげることを司った女。古事記、上「そこに喪屋を作りて、河雁をきさり持とし、鷺をははき持とし、そにを御食人(みけびと)とし、雀をうすめとし、きざしを哭女(なきめ)とし、かく行ひ定めて」
うすめ (名)「おすめどり」に同じ。
うすらかに[薄らかに] (形動、ナリ、連用形)うすく。うっすりと。あっさりと。淡泊に。枕草子「雪のいと高くはあらで、うすらかに降りたるなどは、いとこそをかしけれ」
うすらに[薄らに] (形動、ナリ、連用形)前項に同じ。清慎公集「初雪のうすらに降れる庭の面は踏みこむこともあたらしきかな」(「あたらし」は「惜しい」)
うすらひ…イ[薄氷] (名)うすい氷。琴後集、六、雑「世を渡る人もかくこそうすらひをふむはかしこき心わするな」(用心して、薄氷を踏むがごとくせよとの意)
うすらひの…イ…[薄氷の] (枕詞)頭音をくりかえして「うすき」に冠する。万葉[20-4478]「佐保川の凍り渡れるうすらひのうすき心をわが思はなくに」
うすろぐ[薄ろぐ] (動、四)うすらぐ。
うそ[嘯] (名)口笛。竹取「或はうそを吹き」
うそぶく[嘯く] (動、四)(1)口笛を吹く。神代紀、下「浜にゐてうそぶきゐたまふ時」(2)苦しい息を吹く。あえぐ。万葉、[9-1753]「ころもで、常陸の国に、ふた並ぶ、筑波の山を…汗かきなげ、木の根取り、うそぶきのぼり」(3)咆哮する。「虎うそぶいて風を起し」(4)詩歌を口ずさむ。更級日記「棹に押しかかりて、とみに舟を寄せず、うそぶいてみまほし」(5)そらとぼける。知らぬ顔をする。「うそぶいて他を言ふ」
うそむく[嘯く] (動、四)うそぶく[嘯く]に同じ
うそゑむウソエム[薄笑む] (動、四)少しく笑う。ほほえむ。ほくそえむ。
うだ[宇陀] (地名)大和の国、奈良県宇陀郡の古称。「あきの野」のあった地。古事記、中「かれ、ここに宇陀のえうかし・おとうかしとふたりありけり」万葉、[2-191]「毛ごろもを春冬かたまけていでましし宇陀の大野は思ほえむかも」=春にも冬にも向くような皮衣を用意して御狩りに行幸された宇陀の大野のことが思いしのばれることであろうよ。
うたあはせ…アワセ[歌合せ] (名)歌人が左右二座に分かれて歌を作り、判者または衆議によって、その優劣を判定し、勝負を決する遊戯。平安時代に大いに流行した。
うだい[有待] (名)地水火風の合成した有形体。肉体的方面から見た人間。生滅無常の理に支配される身。凡夫。保元物語、一、法皇崩御事「有待の御身は、貴賤も高卑も異なることなく、無常の境界は、刹利も首陀もかはらねば」太平記、二十六、正行参二吉野一事「有待の身、思ふにまかせぬ習ひにて」
うだい[宇内] (名)天下。あめがした。
うだいじん[右大臣] (名)太政官の長官で、左大臣の次位。左大臣と並んで、天皇を輔佐し、天下のまつりごとを行う職。みぎのおほいまうちぎみ。
うだいべん[右大弁] (名)太政官の判官の一。従四位上に相当し、太政官右弁官局の長官。兵部・刑部・大蔵・宮内の四省を管する職。源氏、桐壺「このみこを鴻臚館につかはしたり。御うしろみだちて仕うまつる右大弁の子のやうに思はせて、ゐてたてまつるに」
うたうら[歌占・歌ト] (名)うらない法の一。古くは、巫女が神を降して歌を唱え、その歌のことばによって吉凶を判じ、のちには、占う人みずから歌占の本を開き、その歌で占なった。近世になると、歌占の本に代えて、百人一首などの歌を用いた。謡曲、歌占「さてもこのほど、いづくの者とも知らぬ男神子の来たり候ふが、小弓に短冊を付け、歌占を引き候ふが、けしからず正しき由を申し候ふほどに」
うたがき[歌垣] (名)(1)上代において春や秋に山にのぼり、または市場に集まり、人人が歌いながら踊ったことをいう。春の花や秋の紅葉を楽しむと共に、未婚者は配偶を選び、既婚者は一時的乱交を公然と行う機会ともなった。肥前の杵島が岳、常陸の筑波山、大和の椿市などが、歌垣の行われた地として名高い。かがひ。古事記、下「かれ、をけのみことも歌垣に立たしき」(2)のち、一つの風流遊芸化し、舞曲のようになり、踏歌のように、宮中で叡覧に供するようになった。続紀、十一、天平六年「天皇、朱雀門に御し、歌垣をみそなはす。男女二百四十余人」
うたかた[泡沫] (名)水に浮かぶ泡。あわ。方丈記「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまることなし」(大福光寺本「とどまりたるためしなし」)
うたかたの (枕詞)前項参照。泡は消えやすいことから「消ゆ」に、また、浮かぶものであるから「うき」に冠する。後撰集、十三、恋五「降りやめば跡だに見えぬうたかたの消えてはかなき世を頼むかな」続後撰集、恋五「知る人も知られざりけりうたかたの憂き身も今や物忘れして 小野小町」
うたかたも(副)「泡沫のように」の意。(1)少しの間も。しばしも。万葉、[17-3968]「うぐひすの来鳴く山吹うたかたも君が手触れず花散らめやも」(2)あぶなげに。転じて、たぶん。おそらく。万葉、[12-2896]「うたかたも言ひつつもあるかわれならば地(つち)には落ちじ空に消(け)なまし」同、[17-3949]「天ざかるひなにある我をうたかたも紐解き放(さ)けて思ほすらめや」(「宇多賀多毛・宇多我多毛・歌方毛」などを「うたがたも」と読む人もあるが、「うたかたも」と読んでよい。「賀茂」を「かも」と読むように)
うたがふらくはウタゴウラクワ〔疑ふらくは〕 (副)疑うには。下に、推量の語を置く。「疑ふらくはこれならむ」
うたく (動、四)(獣が)怒り叫ぶ。たけり吼える。うなり鳴く。古事記、下「天皇、鳴鏑をもちてその猪を射たまへる時に、その猪怒りて宇多岐寄り来」(「うだぎ」ではないであろう)
うたぐ (動、下二)「うちあぐ」の約。さかもりをする。宴会をする。古事記、中「ここに、くまそたける兄弟(あにおと)ふたり、そのをとめを見めでて、おのが中に巫(ま)せて、盛りにうたげたり」⇒うちあぐ。
うたぐ[踞ぐ] (動、下二)あぐらをかく。腰をかける。欽明紀、十五年十二月「一本にいはく、明王、胡床に乗りうたげて、佩刀を谷智(こくち)に解き授けて斬らしむ」
うだく[抱く] (動、四)「いだく」の古語。(1)だく。かかえる。垂仁紀、五年十月「ここに皇后、皇子をうだかしめて、城の上を越えて出でたまへり」(2)心に思いこむ。(3)内に囲む。
うたぐさり[歌鎖] (名)古歌の下の句の初めの一字を取り、これを次の歌の上の句の初めに置いて詠みつづける文学上の遊戯。古歌の暗誦に役立ったといわれる。
うたくづ…クズ[歌屑] (名)歌の中で、最も拙劣なもの。徒然草、十四段「貫之が糸によるものならなくにといへるは、古今集の中の歌屑とかや、いひ伝へたれど」
うたげ[宴・楽] (名)「うちあげ」の約。さかもり。宴会。古事記、中「ここに、みむろうたげせむと言ひとよみて、食物(をしもの)を設(ま)け」⇒うちあぐ。
うたじめのはし (地名)枕草子、三「はしは……さののふなばし・うたじめのはし・とどろきのはし」とあるが、どこにある橋か不明。「枕草子」の清水浜臣の校合本の書入れに、「散木集恋部、ふみみつと聞くにつけてもうたためのはしたなさまでぬるる袖かな、この歌いづくとも其の所は知るべからねども、この枕草子によりてよめるにや。うたため・うたじめ、いづれ一つは誤りなるべし」とある。
うたた (副)(1)普通でなく。あやしく。古今集、十九、誹諧歌「花を見て折らむとすれば女郎花うたたあるさまの名にこそありけれ」(2)いよいよ。甚だしく。ますます。「うたた今昔の感に耐へず」
うたたけだに (副)諸説があるが、「愉快に・楽しく」の意とする説が妥当であろう。「うた」は「歓楽」の意で、「うたた」はその畳語の略、「け」は接尾語、「だに」は助詞。古事記、中「あが見し子に、うたたけだに、むかひをるかも、いそひをるかも」=自分の逢った少女に、(今こうして)楽しくむかいあっていることよ、添いいることよ。
うたたねのはし (地名)大和の国、奈良県吉野郡中荘村大字宮滝にあったという橋。枕草子、三「はしは…うたたねの橋」夫木抄「橋の名をなほうたたねと聞く人の行くは夢路かうつつながらに 恵慶法師」(義経主従がこの地を通った時、義経がこの橋の上で、うたたねしたことによる名というのは、全くの俗説である)
うたたねのもり (地名)前項と同一の地にあった森であろう。枕草子、六「もりは……神なびの森・うたたねのもり・うきたのもり」
うただのし (形、シク)諸説があるが、「うたた楽(たの)し」の約転とみるのが妥当であろう。ますます楽しい。古事記、中「このみきの、みきの、あやに、うただのし、ささ」=この酒の、酒の、いよいよ、ますます楽しい、うまい。ささ。(「ささ」ははやしことば)
うだち[梲] (名)うつばりの上に立てる短い柱。つか。うだつ。うだて。
うたづかさ…ズカサ[雅楽寮] (名)「ががくれう」に同じ。源氏、胡蝶「うたづかさの人召して、舟の楽せらる」
うたて (副)(1)ますます。なお甚だしく。古事記、上「なほ、その悪しきわざやまずてうたてあり」源氏、桐壺「すべていひつづけば、ことごとしう、うたてぞなりぬべき人の御さまなりける」(2)普通でなく。おだやかでなく。あやしく。ふしぎに。古事記、下「うたてものいふみこ」古今集、一、春上「散ると見てあるべきものを梅の花うたてにほひの袖にとまれる 素性法師」(3)なさけなく。いとわしく。わるく。竹取「うたてあるぬしの御許につかうまつりて、すずろなる死にをもすべかむめるかな」大鏡、三、太政大臣頼忠「女房のつぼねまでめぐりて、残りたるをかへし入れて、また今日の油に加へてともさせ給ひけり。あまりにうたてあることなりや」紫式部日記「かく人に異ならむと思ひ好める人は、かならず見劣りし、行く末うたてのみはべれば」(4)笑止千万に。かたはらいたく。不覚に。「あら、うたて」「うたてやな」
うたてげなり (形動、ナリ)普通と変わっている。異様である。枕草子、三「草の花は……かまつかの花らうたげなり。名ぞうたてげなる」大鏡、一、序「例の人よりは、こよなう年老い、うたてげなる翁二人、嫗と行きあひて、同じ所にゐぬめり」
うたてし (形、ク)甚だしい。あやしい。いとわしい。おもしろくない。(多くは、よくない場合にいう語)宇津保、蔵開、上「常に思ひ嘆くと聞き侍るは、いとうたてくなむ」栄花、莟花「こちたく酔ひののしりて、うたてく乱りがはしきことども」古今著聞集、十五、宿執「あながちに利を求むる御ふるまひうたてし」
うたても (副)つれなくも。なさけなくも。あやしくも。竹取「うたてものたまふかな。みかどの御使ひをば、いかでかおろかにせむ」
うたなし (形、ク)「うたがひなし」の略か。古今著聞集、五、和歌「天の川みぎはうたなくまさるかないかにしつらむかささぎの橋」(一本には「ことなく」とある)
うだのおほの…オオ…[宇陀の大野] (地名)⇒うだ。
うたのくち[歌の口] (名)歌のよみはじめ。十六夜日記「今年は十六ぞかし。歌の口なれば、やさしく覚ゆるも」
うだのそに[宇陀の蘇邇] (地名)大和の国、奈良県宇陀郡曾邇村の地であろう。古事記、下「かれ、そこより逃げて、うだのそにに到りませる時に、御軍(みいくさ)追ひ到りて殺(し)せまつりき」(仁徳天皇が、はやぶさわけのみこを殺したという地)
うたのつかさ[雅楽寮] (名)「ががくれう」に同じ。宇津保、祭使「うたのつかさの楽の近く聞ゆるかな」
うたのまつばら[宇多の松原] (地名)土佐の国、高知県香美郡赤岡から岸本を経て手結に至る間の海辺の松原。土佐日記「かくて、宇多の松原をゆき過ぐ。その松の数いくそばく、幾千年(いくちとせ)経たりと知らず」
うたひウタイ[謡] (名)能楽の台本の歌詞。謡曲。
うたひものウタイ…[謡ひ物] (名)節をつけてうたうべき詞曲の総称。神楽歌・催馬楽・風俗歌・今様歌・宴曲・謡曲・長唄など。「語り物」の対。
うたふ(ウタウ)[訴ふ] (動、下二)うったえる。訴訟する。万葉、[16-3859]「このごろのわが恋力(こひちから)賜(た)ばらずば京兆(みさとづかさ)に出でてうたへむ」
うたぶくろ[歌袋] (名)(1)蛙の鳴く時に、のどのふくれあがるところ。夫木抄、春五「いたづらに鳴くや蛙の歌袋おろかなるにも思ひ入ればや」(2)和歌の詠草などを入れおく具。
うたへ(ウタエ)[訴] (名)うったえ。訴訟。
うたへただすつかさウタエ…[刑部省] (名)「ぎやうぶしやう」に同じ。
うたまくら[歌枕] (名)よく和歌に詠みこまれる諸国の名所の称。あさかやま・すゑのまつやま・あかしがたなどの類。徒然草、十四段「今もよみあへる同じことば、歌枕も、昔の人のよめるには、更に同じものにあらず」=今も昔と同じように詠んでいる同一の用語でも、歌の名所でも、昔の人の詠んだのは、決して今の人たちのと同じものとは思えないほどすぐれている。
うたれう…リョウ[雅楽寮] (名)「ががくれう」に同じ。
うたろぎ[歌論議] (名)歌についての討論。うたろんぎ。大鏡、五、太政大臣伊尹「殿上に、うたろぎといふこといできて」
うたろんぎ[歌論議] (名)うたろぎ[歌論議]に同じ。
うたゑ…エ[歌絵] (名)一首の歌を、ある語は絵で、ある語は文字で、絵と文字とをまぜて書いたもの。また、歌を賛のように書くべきための絵。源氏、梅枝「うたゑを思ひ思ひにかけとのまはへば」
うち[内] (名)(1)みかど、主上。源氏、桐壺「うちにも御けしきたまはらせ給へりければ」(2)宮中。内裏。源氏、桐壺「今はうちにのみさぶらひ給ふ」(3)その他多くの意があるが、ほとんど現代でも用いている内容と同じである。
うち (接頭)動詞に冠して、その意を強めたり、感情を添えたり、口調をととのえたりするのに用いる。「打つ」の意はないのが普通である。うち見る。うち出づ。うちいふ。うちつづく。うち寄す。
うぢウジ[氏] (名)家家の系統に従って、一族および子孫の相伝えて称する名。上古からあるのは、大伴・物部・蘇我などであり、朝廷から賜わったものは、源・平・藤・橘などである。すなわち、家の名である。古事記、序文「姓(かばね)を正し、氏を撰びて」同、下「ここに、大后(おほきさき)石(いは)の姫の命みづから大御酒(おほみき)の柏を取らして、もろもろの氏氏の女どもに賜ひき」(「柏」は「酒を盛る容器」)⇒みやうじ。⇒かばね。
うぢウジ[宇治] (地名)もと、山城の国の東南の郡名。今、その大部分は宇治市となった。宇治川に臨み、水車・氷魚・網代・茶などで名高い地。徒然草、五十一段「さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ」
うちあぐ (動、下二)さかもりの時には、一座の人人が、手をうちならしつつ歌うことから転じて「宴会をする」意となった語。宇津保、藤原の君「七日七夜、とよのあかりして、うちあげあそぶ」竹取「このほど、三日、うちあげあそぶ」
うちあふウチアウ (動、四)「うち」は接頭語。(1)(調子が)揃う。源氏、帚木「もとのしな、ときよのおぼえ、うちあひ」=家柄といい、時勢の評判といい、何もかも調子が揃い。(2)(身のほどに)かなう。源氏、帚木「うちあひてすぐれたらむもことわり」=身のほどにかなって、何事にもすぐれているのも道理。
うちあり (動、ラ変)「うち」は接頭語。(1)ある。紫式部日記「いかでかは我が心のうちあるさまをも深うおしはからむ」(2)普通である。ありふれている。宇治拾遺、十五「これは、うちある矢にもあらざりけり。神箭なり」
うちいでのはま[打出の浜] (地名)「うちでのはま」に同じ。
うちえする[うち寄する] (枕詞)「うちよする」の東国方言。「うちよする」とひとしく「駿河」に冠する。万葉、[20-4345]「わぎめことふたり我が見しうちえする駿河の嶺(ね)らは恋(く)ふしくめあるか」=わたくしが妻と二人で見た富士山は恋いしいことであるよ。
うちおとりのとめでた[内劣りの外めでた] (句)内裏においでのころは、それほどでもなかったが、御出家になってからはよく修行されたということ。大鏡、五、太政大臣伊尹「そのみかどをば、内劣りの外めでたとぞ世の人申しし」(花山院の御事)
うちおぼめく (動、四)「うち」は接頭語。「おぼめく」に同じ。はっきりさせない。ぼかす。徒然草、七十三段「げにげにしく、ところどころ、うちおぼめき、よく知らぬよしして」
うちかくむ[打囲む] (枕詞)「うち」は接頭語。「かこむ」に同じ。家を囲むの意から「戸」に冠する。播磨風土記、神前郡「いよつ彦の神、うちかくむとよほの命と相たたかひし時」
うぢがはウジガワ[宇治川] (地名)(1)京都府宇治市辺の勢田川の別称。この川は琵琶湖に発し、伏見の淀に至って淀川という。新古今、三、夏「鵜飼舟あはれとぞ見るもののふのやそ宇治川の夕闇のそら 大僧正慈円」(2)伊勢の五十鈴川の別称。
うちかぶと[内兜] (名)かぶとの裏面。かぶとの内側。平家、四、宮御最期「上総の太
郎判官が射ける矢に、源太夫の判官うちかぶとを射させてひるむところに」
うぢがみウジ…[氏神] (名)(1)その家の祖先を神としてまつるもの。藤原氏の
春日神社などは、その例。(2)うぶすながみ。その里の鎮守。

うちぎ[袿] (名)衣の上、装束の下に着る服。ひろそでで、ゆっくりしたもの。⇒いだ
しぎぬ。


うちぎき[打聞] (名)「うち」は接頭語。(1)聞くこと。聞くともなく耳に入ったこと。源氏、常夏「深きすぢ覚えぬほどのうちぎきには、をかしかなり」(2)歌などを聞いたままにしるしておくこと。また、その記録。聞書。枕草子、十二「ここもとは、うちぎきになりぬるなめり」十六夜日記「これも続後撰よりうちつづき、ふたたび・みたびの家家の打聞にも、歌あまた入り給へる人なれば」


うちぎぬ[打衣] (名)婦人のひとえまたはあこめの上に着る衣。きぬたで打って光沢を出したものをいう。「うちあこめ」「うちあはせ」ともいう。枕草子、二「くれなゐのいとつややかなる打衣の、霧にいたくしめりたるを」
うちごろも[裏衣] (名)身分の高くない、一般の僧の着るころも。平家、十、熊野参詣「那智籠りの僧どもも、みなうちごろもの袖をぞしぼりける」
うちざし[内鎖] (名)「うちとざし」の略。内部からとざすこと。落窪物語「内ざしにさしこもらむと思ひて、よろづに明くまじきやうに構ふ」
うちさしのく (動、四)「うち」は接頭語。「さしのく」に同じ。疎外する。よそよそしくする。宇治拾遺、三「うちさしのきたる人にもおはしまさず」=よそよそしい仲でもない。
うちしき[打敷] (名)物の下に敷く布。宇津保、俊蔭「うちしき・しとね、みな新しくせられたり」
うちしきる (動、四)「うち」は接頭語。「しきる」に同じ。繁くなる。たびかさなる。源氏、桐壺「まうのぼり給ふにも、あまりうちしきるをりをりは」=(みかどの御室へ)参上するにも、あまり頻繁になる時は。
うぢじふでふウジジユウジヨウ[宇治十帖] (書名)「源氏物語」五十四帖のうち、最後の十帖をいう。場面を山城の宇治にとったのでいう。薫中将を主人公とし、宇治八の宮の三女大君・中君・浮舟との恋愛生活を描いている。橋姫・椎本・総角・早蕨・宿木・東屋・浮舟・蜻蛉・手習・夢の浮橋の十帖。
うぢしふゐものがたりウジジユウイ……[宇治拾遺物語] (書名)鎌倉時代の初期に成ったと思われる説話文学集。編者も年代も不明。「今昔物語」すなわち「宇治大納言物語」に洩れているものを拾ったというのが書名であり、序文にもそうあるが、全編百九十余の物語のうち「今昔」と同一のものが約半数を占めている。しかし、文章は「今昔」よりも、ややすぐれている。
うちすがふウチスガウ (動、四)「うち」は接頭語。「すがふ」に同じ。(1)匹敵する。似ている。源氏、手習「うちすがひたる尼ども二人臥して、劣らじといびきあはせたり」(2)転じて、対抗する。反対する。狭衣、三、下「いとうるはしうて帰るもあり、また、うちすがひて、愛敬づきもてなすなどもありつつ」=たいそう真面目にして帰る者もあり、また、反対に、あいきょうたっぷりに応待する者もあり。
うちずみ[内住み] (名)宮中に住むこと。「里住み」の対。源氏、桐壺「かく心細くておはしまさむよりは、うちずみせさせ給ひて、御心もなぐさむべくなどおぼしなりて」
うちそかけ[打麻懸け] (枕詞)「うちそ」は「うつそ」ともいい、麻をうってやわらかにしたもの。それを、わくにかけてうむということから「うむ」に冠する。万葉、[12-2990]「をとめらが績麻(うみそ)のたたりうちそかけうむ時なしに恋ひわたるかも」(「たたり」は「糸巻」)
うちそはし[打麻はし] (枕詞)「はし」は感動の終助詞。前項の「うむ」の転「をみ」に冠する。万葉、[16-3791]「みどりごの・・・うちそはし麻積(をみ)のこら」(竹取の翁の長歌の一節)
うちそを…オ[打麻を] (枕詞)前項とひとしく「をみ」に冠する。万葉、[1-23]「うちそを麻積(をみ)のおほきみあまなれやいらごが島の玉藻刈りをす」(をみの王が伊勢のいらごが島に流されたのを悼んで歌ったもの)
うぢだいなごんものがたりウジ…〔宇治大納言物語〕 (書名)「今昔物語」の別称。「今昔」は源隆国の編述したものであるが、隆国は大納言で、宇治に別荘があったので世人から「宇治大納言」と呼ばれていた。その人の著であるところからの名。
うちだて (名)戸の両側の縁。落窪物語「うちだてを二人してうちはなちて、やりどを引きはなちつれば」
うちたれがみの[打垂髪の] (序詞)「打垂髪」は「すべらかし」で、婦人や子供の頭髪を結ばないで垂れたままのもの。乱れ易いので「みだれ」の序詞とする。拾遺集、二、夏「ほととぎすをちかへり鳴けうなゐこがうちたれがみのさみだれの空 凡河内躬恒」(「をちかへる」は「初めにかへる」)
うちたをり…タオリ[打手折り] (枕詞)「うち」は接頭語。手折ればたわむから「たむ」に冠する。万葉、[9-1704]「うちたをり多武の山霧しげみかも細川の瀬に波の騒げる 柿本人麻呂」(「多武の山」は大和の国、奈良県磯城郡にある山)
うちつけ (名)露骨。むきだし。源氏、帚木「うちつけのすきずきしさなどは、このましからぬ御本性にて」
うちつけなり (形動、ナリ)だしぬけである。突然である。源氏、若紫「うちつけなる御夢物語にぞ侍るなる」土佐日記「うちつけに海は鏡のごとなりぬれば」
うちつけめ (名)率爾な見方。ふと見た感情。源氏、浮舟「うちつけ目かとなほ疑はしきに」増鏡、二十、月見の花「頼もしくめでたき御守護(おんまもり)かなと覚ゆるもうちつけ目なるべし」
うちてしやまむ…ヤマン[撃ちてしやまむ] (句)「し」は強めの助詞。うってやめよう。うたずにはやめない。古事記、中「みつみつし、くめのこが、くぶつつい、いしつついもち、うちてしやまむ」=久米の兵士たちの瘤枝・石杖をもって、撃たずばやめない。(「みつみつし」は「久米」の枕詞)
うちでのはま[打出の浜] (地名)「うちいでの浜」ともいう。琵琶湖の岸。今の大津市石場町辺の旧称。枕草子、九「はまは……うちでの浜」太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「憂きをばとめぬ逢坂の関の清水に袖ぬれて、末は山路を打出の浜」(「山路を打出る」から「打出の浜」にかける)
うちとねり[内舎人] (名)「うどねり」に同じ。
うぢどのウジドノ[宇治殿] (人名)関白藤原頼通の別称。宇治にその別荘があったのでいう。古今著聞集、十一、画図「為成、一日がうちに宇治殿の扉の絵を書きたりけるを」宇治拾遺、三「伏見修理大夫は宇治殿の御子におはす」(「伏見修理大夫」は「藤原俊綱」)
うちなす[打ち鳴す] (動、四)打って鳴らす。古事記、上「天の逆手(さかで)を青柴垣(あをふしがき)」にうちなして隠りましき」万葉、[11-2641]「時守りの打ち鳴す鼓よみみれば時にはなりぬ逢はなくもあやし」(「よむ」は「かぞえる」)
うちなびく[うち靡く] (枕詞)「うち」は接頭語。草や髪は靡くものとの意から「草」「髪」に、また、春は草の靡く時との意から「春」に冠する。万葉、[8-1428]「うちなびく草香の山を」同、[2-87]「うちなびくわが黒髪に」同、[3-260]「うちなびく春さり来れば」
うちならし[磬] (名)楽器の名。ひらたい形で曲がり、物に掛けて打ち鳴らす。もとは磬石で作ったが、のちに銅などで作った。古今著聞集、五、和歌「或所に仏事あるけるに、唐人二人来たりて聴聞しけるに、うちならしに八葉の蓮を中にて、孔雀の左右に立ちたるを、文に鋳つけたりけるを見て」
うちのあそ[内の朝臣] (名)「うち」は親しんでいう語。「あそ」は「あそみ」の略。
「あそみ」は「吾兄臣(あせおみ)」の略。天皇の親しい臣という義。古事記、下「たまきはる、 うちのあそ、なこそは、よのながひと、そらみつ、やまとのくにに、かりこむときくや」=大臣(武内宿禰)よ、卿は今の世の長寿者であられるが、大和の国に雁が卵を産んだということを聞かれたことがあるか。(「たまきはる」「そらみつ」ともに枕詞)
うちのおとど[内大臣] (名)「ないだいじん」に同じ。
うちのおほおみ…オオ…[内大臣] (名)「ないだいじん」に同じ。
うちのおほきおとど…オオ…[内大臣] (名)「ないだいじん」に同じ。
うちのかしはでのかみ…カシワ…[内膳正] (名)「ないぜんのかみ」に同じ。
うちのかしはでのつかさ…カシワ…[内膳司] (名)「ないぜんのつかさ」に同じ。
うぢのかみウジ…[氏の上] (名)上代において、諸氏の中で宗家たる者の称。その一族のことをつかさどった。うぢのをさ。うぢのちやうじや。
うちのくらのかみ[内蔵頭] (名)「くらのかみ」に同じ。
うちのくらのつかさ[内蔵寮] (名)「くられう」に同じ。
うぢのさだいじんウジ…[宇治の左大臣] (人名)藤原頼長の別称。左大臣であり、宇治に別荘を有したのによる。世に悪左府と呼ばれた人で、崇徳上皇に勧めて保元の乱を起し、保元元年(1156)敗死した。年三十六。徒然草、百五十六段「大臣の大饗は、さるべき所を申しうけて行ふ。常のことなり。宇治の左大臣殿は、東三条殿にて行はる。(「東三条殿」は「二条南町口西、南北二町に亘っていた御殿」)
うぢのしばふねウジ…[宇治の柴舟] (名)柴を積んで宇治川をのぼりくだりする舟。新古今、二、春下「暮れてゆく春のみなと知らねども霞に落つる宇治の柴舟 寂蓮法師」
うぢのやしろウジ…[氏の社] (名)氏神をまつるやしろ。藤原氏における春日神社の類。神皇正統記、四「氏の長者たる人、むねとこの院を管領して、興福寺および氏の社のことを執り行はる」
うちのしるすつかさ[内記] (名)「ないき」に同じ。
うちのたくみのかみ[内匠頭] (名)「たくみのかみ」に同じ。
うちのたくみのつかさ[内匠寮] (名)「たくみれう」に同じ。
うぢのちやうじやウジノチヨウジヤ[氏の長者] (名)「氏の上」に同じ。
うちのとねり[内の舎人] (名)「うどねり」に同じ。
うぢのはしひめウジ…[宇治の橋姫] (神名)宇治川のほとりに祭られている女神。俗説に、住吉大明神が夜な夜なこの神の許へ通われたという。古今集、十四、恋四「さむしろに衣かたしきこよひもやわれを待つらむ宇治の橋姫」謡曲、江口「また、宇治の橋姫も、訪はむともせぬ人を待つも、身の上とあはれなり」
うちのぼる[うち上る] (枕詞)「うち」は接頭語。古来諸説があるが、とにかく「左保」または「佐保川」または「保」に冠する。大和の佐保へゆく道は坂が多くてのぼってゆくからとか、佐保川を漕いでのぼるからとか、穂の出ることをのぼるというから、「さ」を隔てて「保」にかかるとかいう。万葉、[8-1433]「うちのぼる佐保の河原の青柳は今は春べとなりにけるかも 大伴坂上郎女」
うちのみこ[内の御子] (名)内親王。
うぢのみやびとウジ…[宇治の宮人] (名)伊勢大神宮に奉仕する人。伊勢の神官。新後撰集、神祗「さかきもて八つの石つぼふみならし君をぞ祈る宇治の宮人」
うぢのわきいらつこウジ…[宇遅能和紀郎子] (人名)第十五代応神天皇の皇子。幼にして聰明、百済の人阿直岐および王仁について漢籍を学ぶ。皇太子となったが、父帝の崩御に及んでも、即位を拒んで御兄大雀命(おほさざきのみこと)と相譲る。そのため、皇位は三年も空しかったが、ついに自殺された。末子相続制の非を儒学によってさとられたものか。
うぢのゐんウジノイン[氏の院] (名)同じ氏の子弟教育のために設けた学校。藤原氏の勧学院の類。宇津保、祭使「たうえいは氏の院の学しやうにはあらずや」
うぢのゐんウジノイン[宇治の院] (名)宇治川のほとりに建てられた平等院の別称。蜻蛉日記「暁より出で立ちて、午の時ばかりに、宇治の院に至りつつ見やれば」
うぢのをさウジノオサ[氏の長] (名)「うぢのかみ」に同じ。
うちばかま[打袴] (名)きぬたで打って光沢を出した袴。婦人の晴れの際に着用するも
の。今鏡、二、白河の花宴「袴も打袴にて花をつけたりけり」
うちはし[打橋] (名)(1)川に板をうち渡し、かけはずしのできる橋。万葉、[2-196]
「とぶとりの……上つ瀬に、石橋渡し、下つ瀬に打橋渡す」(柿本人麻呂の長歌の一節)(2)建物と建物との間に廊下のない場合、かりにうち渡す板の橋。源氏、桐壺「うちはし、わたどの、ここかしこのみちに、あやしきわざをしつつ」

うちはしの[打橋の] (枕詞)打橋の端(つめ)の意から「つめ」に冠する。天智紀、九
年五月「うちはしの、つめのあそびに、いでませこ」(「つめのあそび」は男女が集合して遊楽すること)


うちはふウチハウ[打延ふ] (動、下二)ひきつづく。ながびく。古今集、十七、雑上「咲きそめし時より後はうちはへて世は春なれや色のつねなる 紀貫之」枕草子、五「春のうちはへ降るころ」古事記、下「あは、うちはへたる病しあれば」


うちはふウチハウ[打延ふ] (動、下二) 前項の他動。ひきのばす。古事記、上「たくなはの千ひろ縄うちはへ釣らせる海人(あま)が大口のをはたすずき」


うちひ[内樋] (名)宮中の内殿にかけた樋。太平記、四十、中殿御会事「日すで内樋にか 
 がやくほどなり」



うちひ[打樋] (名)「かけひ」に同じ。


うちび[打火] (名)火打石で出した火。きりび。謡曲、野守「恐ろしや、打火かがやく
鏡の面に、うつる鬼神の眼の光」



うちひく (動、四)せめさいなむ。いじめる。落窪物語「夜ひと夜、知らぬことによりうちひき給ひつるこそ、いとわりなかりつれ」




うちひさす (枕詞)諸説があるが、「うつくしい日がさす」意から「宮」「都」などのきらびやかなものに冠すると見るのが妥当であろう。万葉、[4-532]「うちひさす宮に行く児」同、[20-4473]「うちひさす都の人に告げまくは」





うちひさつ (枕詞)前項に同じ。転じて「みやけ」にも冠する。万葉、[14-3505]「うちひさつ宮の瀬川のかほ花の」同、[13-3295]「うちひさつみやけの原ゆ、ひたつちに」


うちびと[内人] (名)(1)宮中に奉仕する人。禁裏の人。内裏の人。(2)昔、伊勢神宮に
勤める職員の一。ねぎの次位。祝詞、四月神衣祭「ねぎ・うちびと・おうととなふ」



うぢびとウジ…[氏人] (名)(1)同じ氏族の人。(2)氏神の祭祀に当たり、氏の長者に伴われて参集して奉仕する人人。


うぢぶみウジ…[氏文] (名)氏の出処・由緒、氏の代代の事蹟などを書いた文書。高橋氏文の類。


うちまかす[うち任す] (動、下二)(1)まかせる。一任する。(2)ありふれている。尋常
である。宇治拾遺、四「この病のありさま、うちまかせたることにあらず」
うちまかせ[うち任せ] (名)前項の連用形から名詞に転じた語。尋常。普通。義経記、
四「土佐は、もとより賢き者なれば、うち任せの京上りの体にてはかなふまじとて」
うちまかせて (副)一概に。普通に。琴後集、十三、書牘「詩書礼楽をあげつらふ時のこ
ととて、うちまかせて、かからでは詩にあらずとは言はれまじきなり」古今著聞集、五、和歌「うちまかせては言ひ出でがたかりける女房のもとへ」
うちまき[打蒔] (名)祓の時に米を蒔き散らすこと。また、その米。邪鬼をはらうまじ
ないという。宇治拾遺、十一「うちまきを霰の降るやうに投げ散らす」
うちまもる (動、四)「うち」は接頭語。「まもる」に同じ。じっと見つめる。源氏、若紫「をさなごこちにも、さすがにうちまもりて、ふしめになりてうつぶしたるに」

うちまゐり…マイリ[内参] (名)参内。源氏、竹河「うちまゐりより外のありきなど、うひうひしくなりにて侍れば」
うちめ[打ち目] (名)つやを出すために、絹布をきぬたで打ったあと。枕草子、九「見
るものは……地摺袴の中より氷かと驚くばかりなるうちめなど、すべていとめでたし」
うちものし[打物師] (名)打物を作る人。刀工。刀鍛冶。
うちやめこせね (句)打ち悩ましてやりたい。一説、やめて欲しい。古事記、上「うれた
くも、なくなるとりか、このとりも、うちやめこせね」=なさけなくも鳴く鳥であるよ。この鳥も、打ち悩ましてやりたい。(鳴きやめて欲しい)
うちゆうべん[右中弁] (名)右大弁の下の職。職掌は右大弁に同じ。⇒うだいべん。
うちよする[うち寄する] (枕詞)「うち」は接頭語。諸説があるが、「する」の音から
「駿河」に冠する。東国方言では「うちえする」と言った。万葉、[3-319]「なまよみの甲斐の国うちよする駿河の国と、こちごちの国のみ中ゆ出で立てる、ふじのたかねは」(「なまよみの」は甲斐の枕詞、「こちごちの」は「かなたこなたの」)
うちわたす[うち渡す] (枕詞)「うち」は「ずっと」の意を添える接頭語。「渡す」に
は、いろいろの意がある。純粋の枕詞ではない。「やがはえなす」「竹田の原」「をちかた」「水の入江」などに冠する。古事記、下「うちわたすやがはえなす」=ずっと長く伸びたひこばえのように。万葉、[4-760]「うちわたす竹田の原に鳴くたづの」=ずっと広くつづく竹田の原で鳴く鶴の。古今集、十九、旋頭歌「うちわたすをちかた人にものまうすわれ」=ずっと遠くはなれている遠方の人にものを言うわたくし。夫木抄、三「うちわたす水の入江のたまやなぎ」=ずっと広く見渡される水の入江の美しい柳。
うつ[棄つ] (動、下二)捨てる。古事記、上「かれ、投げうてる御杖に成りませる神のみ名は、みちのながちはの神」
うつ (接頭)(1)「全く」「まる」「まるはだか」などの意を添える語。古事記、上「天のかぐ山のさをしかの肩をうつ抜きに抜きて」(2)「からっぽ」「空虚」の意を添える語。「うつほ(空洞)」「うつぎ(空木)」の類。
うづウズ (名)高貴。美麗。古事記、上「あれは、み子を生み生みて、生みの果てに、三柱のうづのみ子を得たり」祝詞、大殿祭「すめわがうづのみ子すめみまのみこと」
うづき…ズキ[卯月] (名)陰暦四月。卯の花の咲く月の意。
うつきのもり (地名)未詳。枕草子、六「もりは……いくたのもり・うつきのもり」
うつく (動、下二)(1)「空(うつ)」を活用させた語。からっぽである。神功紀、仲衰
天皇九年十二月「一に云ふ……たとへば鹿の角の如く、以てうつけたる国なり」(2)ぼうっとしている。まがぬけている。ばかげている。顕宗紀、二年九月「気力衰へすぎ、老いほれうつけつかれたり」狂言、三人片輪「さてもさても、うつけたることを致した」
うつくし[愛し] (形、シク)かわいい。かわいらしい。古事記、上「うつくしきあがな
にものみことや、子のひとつけにかへつるかも」=愛する我が妻よ、木の一片に価するほどのねうちしかない子のために、尊い生命と交換して死んでしまったのか、ああ。増鏡、一、おどろがした「みかどいとおよずけて賢くおはしませば、法皇いみじううつくしと思さる」
うつくしむ[愛しむ] (動、四)かわいがる。愛する。いつくしむ。源氏、東屋「若君い
だきてうつくしみおはす」
うつし[移し] (名)移し馬、すなわち乗換用の馬にもちいる「移し鞍」の略。宇津保、
初秋「御馬にうつしおかせて」
うつし[現し] (形、シク)現れている。現にある。生きている。古事記、上「葦原の中
つ国にあらゆるうつしき青人草」続紀、和銅元年正月「うつしく出でたる宝にあるらしとなも、神ながら思ほしめす」(この年、武蔵の国から銅を奉った時の宣命の一節)
うつしおみ[現大身] (名)姿を現された神。古事記、下「すめらみこと、ここにかしこ
みて申したまはく、かしこし、あが大神、うつしおみまさむとは、さとらざりき」
うつしくにたまのかみ[現国魂神] (神名)大国主命の別称。この国土を守護する意の名。
うつしごころ[現心] (名)本心。正気。落窪物語「越前守……爪はじきをして、うつし
ごころにはおはせぬか、越前は、いとほしく、恥づかしきことのありけるに、おもていたき心地す」
うつしごころ[移し心] (名)移り変わりやすい心。移り気。万葉、[12-3058]「うち
ひさす宮にはあれど月草の移し心は吾が思はなくに」=宮中でうるわしい人をたくさん見るが、あなたを措いて他に心を移すような、わたくしではない。(「うちひさす」「月草の」は共に枕詞)
うつせがひ…ガイ[うつせ貝] (枕詞)「うつせ貝」は肉のない貝殻のこと。「みなし」「むなし」に、貝殻の合わないことから「あはず」に、また、頭音をくりかえして「う」などに冠する。万葉、[11-2797]「うつせ貝実なき言(こと)もちわれ恋ひめやも」後拾遺集、十一、恋一「うつせ貝むなしき恋に年の経ぬらむ」以下、例略。
うつせみ[現身] (名)生きている身。また、転じて現世。
うつせみ[空蝉] (名)蝉のぬけがら。また、転じて蝉。
うつせみの[現身の] (枕詞)「いのち」「世」「人」「身」などに冠する。万葉、[1-
24]「うつせみの命を惜しみ波にぬれ」同、[3-465]「うつせみの世は常なしと知るものを」以下、例略。
うつせみの[空蝉の] (枕詞)「むなし」「わびし」「から」などに冠する。後撰集、四、
夏「空蝉のむなしき恋も我はするかな」管家万葉「空蝉のわびしきものは夏草のつゆにかかれる身にこそありけれ」以下、例略。

うつそやし[打麻やし] (枕詞)「うちそはし」に同じ。

うつそを…オ[打麻を] (枕詞)「うちそはし」に同じ。

うつたへにウツタエニ (副)直接に。うちつけに。ひとえに。ただただ。蜻蛉日記「うつたへに秋の山辺をたづね給ふにはあらざりける。まなこ閉ぢ給ひしところにて、経の心説かせ給はむとてこそありけれ」万葉、[10-1858]「うつたへに鳥は喫(は)まねど繩(しめ)延(は)へて守(も)らまく欲しき梅の花かな」
うづち…ズチ[卯槌] (名)邪鬼を払う具として用いたもの。桃の木を巾一寸、長さ五寸ばかりの槌の形に作り、縦に孔をあけて、絹糸の緒を長くつらぬいて下げる。枕草子、四「五寸ばかりなる卯槌二つを卯杖のさきにかしらつつみなどして」
うつつ[現] (名)(1)現実。万葉、[5-807]「うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢(いめ)にを継ぎて見えこそ」(2)誤って、夢ごこち。うつらうちらしていること。 「ゆめうつつ」と言い続けたことから来たもの。
うつなし (形、ク)疑いがない。たしかである。神武紀「これ破ることうつなし」
うづなふウズナウ[諾ふ] (動、四)承諾する。うべなふ。万葉、[18-4094]「あめつちの神、相うづなひ、すめろぎの、御霊助けて、遠き代に」
うつぬき[うつ抜き] (名)⇒うつ(接頭)。
うづのふウズノウ[諾ふ] (動、四)うけいれる。承諾する。うづなふ。うべなふ。祝詞、大嘗祭「すめかみたち相うづのひまつりて」
うづのみてぐらウズ…[うづの幣帛] (名)とうとく厳めしいみてぐら。祝詞、祈年祭「すめみまのみことのうづのみてぐらを」⇒うづ。
うつのやま[宇津の山] (地名)駿河の国、静岡県安倍郡と志太郡との境にある山。昔の
東海道に当たり、その山路を「宇津の谷峠」という。伊勢物語「行き行きて駿河の国に到りぬ。宇津の山に到りて、我が入らむとする道は、いと暗う細きに、蔦・楓は繁り」「十六夜日記」にもほぼ同一の文がある。
うつはぎ[うつ剥ぎ] (名)全く剥ぐこと。古事記、上巻「ひむし(さざき)の皮をうつ
はぎに剥ぎて着物にして」
うつはものウツワ…[器物] (名)(1)器量。才能。(2)器具。
うつはりウツワリ (名)「いつはり」に同じ。虚偽。うそ。欽明紀、五年三月「汝の先祖ら、惧にうつはりをいだきて」
うつはるウツワル[偽る] (動、四)「いつはる」に同じ。あざむく。うそをいう。持統紀、三年五月「あきらけきことをやぶりて、うつはりて、なまめき媚ぶることを求む」
うつぶし (名)うつぶすこと。うつむき。竹取「たけく思ひつる造麻呂(みやつこまろ)も物に酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり」
うつぶしいろ〔空五倍子色〕 (名)五倍子(ふし)で染めた薄黒い色。にびいろ。喪服の
色。うけらが花、三、秋「しぐれつつ秋も過ぐめる山寺にうつぶし色の袖ぞ寒けき」
うつぶしぞめ〔空五倍子染〕 (名)うつぶし色に染めること。また、染めたもの。大和物
語「霜雪のふるやが下にひとり寝のうつぶしぞめの麻のけさなり」(「降る」と「古」、「うつ伏し」と「うつぶし染」、「袈裟」と「今朝」とをかける)
うつほウツオ[空・空洞] (名)(1)中の空虚な所。うつろ。うろ。うつぼ。宇津保、俊蔭「この木のうつほを得て、木の皮を剥ぎ、広き苔を敷きなどす」(2)素肌の上に着物をただ一枚だけ着ること。平家、八、法住寺合戦「短き衣、うつほにかぶつて帯もせず」
うつぼ[空・空洞] (名)うつほウツオに同じ。
うつぼ[靫・空穂] (名)矢が雨にぬれないように、矢を入れて背に負う中空の太い筒。
うつぼものがたり[宇津保物語] (書名)二十巻。作者・年代ともに不明であるが、「竹
取」「伊勢」などについで古い物語であり、大体十世紀の半ばごろに成ったものであろう。清原俊蔭という秀才がわずか十六歳で遣唐副使として渡唐の途中、難船して波斬(はし)国に漂着し、そこで天女から琴の秘法を伝授されて帰国することに筆を起し、ついで仲忠という音楽の妙手を中心として芸術の徳を礼賛し、さらに転じて貴官(あてみや)という女性を中心として幾多の恋愛物語を描いている。枕草子、九「物がたりは、住吉、うつぼの類」源氏、絵合「竹取の翁に宇津保の俊蔭を合はせて争ふ」
うづまさウズ…[太秦] (地名)京都市右京区の町名。この地名は雄略天皇の朝、中国の秦氏の一族が亡命したのに「禹豆麻佐」の氏を賜わったことに起る。
うづまさウズ…[太秦] (寺名)前項の地にあった聖徳太子建立の広隆寺の別称なる太秦寺のことであるが、多くの場合、略して「太秦」とのみ呼んだ。保元物語、二「左京大夫教長卿と近江中将成雅と二人は、広隆(うづまさ)なる所に出家してありければ」徒然草、二百二十七段「その後太秦の善観房といふ僧」
うづまさどのウズマサ…[太秦殿] (人名)未詳。徒然草、百十四段「この高名のさい王丸は、太秦殿の男、料の御牛飼ぞかし」
うつむろ[無戸室] (名)密閉して出入口のない室。神代紀、下「このはなさくや姫…すなはちうつむろを作りてうけひて曰く」「古事記」では同じくだりを「戸無き八尋殿を作りて」としている。」
うつゆふの…ユウ…[虚木綿の] (枕詞)諸説があるが、真淵の「冠辞考」によれば、中のうつろなまゆの義である。中に蚕のこもることから「こもる」に、中が狭いことから「まさき」に冠する。「まさき」の「ま」は美称。「さき」は「狭き」義。万葉、[9-1809]「葦の屋の…うつゆふの、こもりてませば」神武紀、三十一年四月「うつゆふのまさき国といへども、なほあきつのとなめの如くもあるか」
うづらごろもウズラ…[鶉衣] (書名)江戸時代の俳人横井也有の俳文集。十二冊。
也有の死後、蜀山人らが編集し刊行したもの。すこぶる軽妙・酒脱な文体で、まさに俳文中の白眉である。続編に文政六年(1823)の序のある外、刊行年代未詳。
うづらとりウズラ…[鶉鳥] (名)「うずら」のこと。古事記、下「ももしきの、おほみやびとは、うづらとり、ひれとりかけて」=大宮人は鶉のように肩巾(ひれ)を取り掛けて。(「ももしきの」は枕詞)
うづらなくウズラ…[鶉鳴く] (枕詞)鶉は荒れ果てた草の深い野に住むところから、荒れ古した意で、「ふる」に冠するという。万葉、[4-775]「うづらなく古りにし里ゆおもへども何ぞも妹に逢ふよしもなき 大伴家持」
うづらなすウズラ…[鶉なす] (枕詞)「鶉のように」の意。鶉が草原を這うようとの意から「はひもとほる」に冠する。万葉、[2-199]「うづらなす、いはひもとほり、さもらへど、さもらひ得ねば」(柿本人麻呂の長歌の一節)
うづらのとこウズラ…[鶉の床] (名)野辺に仮り寝すること。また、むさくるしい床。太平記、五、大塔宮熊野落事「昼は野原の草に隠れて、露に臥す鶉の床に御涙を争ひ」
うつる[移る] (動、四)(1)(位置が)変わる。土佐日記「船より人の家にうつる」(2)(時が)たつ。万葉、[20-4483]「移りゆく時見るごとに心いたく昔の人し思ほゆるかも 大伴家持」(3)変わる。変遷する。拾遺集、九、雑下「春秋に思ひ乱れてわきかねつ時(折)につけつつうつる心は 紀貫之」(4)散る。死ぬ。万葉、[3-459]「見れど飽かずいましし君がもみぢばの移りいゆけば悲しくもあるか」(5)(色が)さめる。あせる。うつろふ。古今集、二、春下「花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町」(6)その他いろいろの意味があるが、多くは現代語の内容と同じである。
うつろはすウツロワス[移ろはす] (動、四)移らせる。変わらせる。源氏、総角「さるべき処にうつろはし奉らむなど」
うつろひわたるウツロイワタル[移ろひわたる] (動、四)色が変わる。源氏、帚木「菊いとおもしろくうつろひわたりて」=菊の花が、たいそうよい色になって。
うつろふウツロウ[移ろふ] (動、四)「移る」とだいたい同義。(1)位置が変わる。移転する。源氏、橋姫「うつろひ住み給ふべきところの、よろしきもなかりければ」(2)変わる。源氏、桐壺「おぼし紛るとはなけれど、おのづから御心うつろひて、こよなうおぼし慰むやうなるも、あはれなるわざなりけり」万葉、[7-1339]「月草にころも色どり摺らめどもうつろふ色といふが苦しさ」(3)(色が)あせる。盛りが過ぎる。蜻蛉日記「例よりはひきつくろひて書きて、うつろひたる菊にさしたり」万葉、[15-3716]「あま雲のたゆたひ来れば長月のもみぢの山もうつろひにけり」
うづゑ…ズエ[卯杖] (名)昔、邪気を払う意味で、正月上の卯の日に、大舎人寮や諸衛府などから、天皇・中宮・東宮等に献じた杖。梅・桃・椿・柳などの木を長さ五尺三寸に切り一本または三本ずつに束ねて献じた。枕草子、四「五寸ばかりなる卯槌二つを卯杖のさまにかしらつつみなどして」
うていこく[于定国] (人名)中国の漢時代の人。于公の子。元帝の時、丞相となり、西
平侯に封ぜられた。かつて、定国の父于公の門が破れたのを、里人が修繕しようとした時、于公は里人に言った。「門を高く大きくせよ。自分は陰徳を以て民を治めているから、自分の子孫に必ず諸侯が現われて、四馬高蓋の車を出入せしめるだろう」と。果たして、かれの子に定国のような傑出した人物が出たと「前漢書」にある。枕草子、一「大進なりまさが家に、宮の出でさせ給ふに…あな、恐ろしと驚きて、それはうていこくがことにこそ侍るなれ」(「于公」と言うべきを誤る)
うてな[台] (名)高殿。立派な御殿。竹取「むぐらはふ下にも年は経ぬる身の何かは玉
のうてなをも見む」=(こんな)葎の生い茂っているいやしい家に長い間生活して来ました身で、今さらどうして金殿玉楼などを望みましょうか、決して望みはいたしません。
うてなのたけ[台の竹] (名)清涼殿の東の庭にある呉竹の台の側に植えた竹。昔、舞人
は呉竹の台のもとにある竹の枝を折って、かざしにさしたという。琴後集、一、春「みな人にかざしの花ぞたまふなるうてなの竹の昔おぼえて」

うてんだいわう…オウ[優塡大王] (人名)天竺の憍賞弥国の王で仏教の保護者。始めて、金をもって仏像を鋳させた人という。その金の名を紫磨金(しまごん)という。平家、五、奈良炎上「優塡大王の紫磨金をみがき、昆須羯磨が赤梅檀を刻みしも、わづかに等身の御仏なり」
うとうとし[疎疎し] (形、シク)極めて疎遠である。冷淡である。源氏、帚木「もては
なれて、うとうとしう侍れば、世のたとひにも、むつれ侍らず」
うとく[有徳] (名)(1)徳の高いこと。沙石集、七、下「ある山寺に有徳の房主、弟子・門弟ありけり」(2)有得。富裕な人。富豪。義経記、七「直江の次郎と申しける有徳の者に仰せ付けて、三十領の鎧を賜びて建立し給ひし源氏重代の御本尊なりければ」
うとし[疎し] (形、ク)(1)疎遠である。親しくない。徒然草、六十九段「うとからぬ
おのれらしも、恨めしくわれをば煮て、からきめを見するものかな」=赤の他人でもないお前たちが、恨めしくもわたしを煮て、ひどいめにあわせるものだなあ。(2)よく知らない。不案内である。徒然草、四段「後の世のこと心に忘れず、仏の道うとからぬ、心にくし」=死後のことを常に忘れず、仏道修行について一通り心得ている、そういう人は人間としておくゆかしい。
うどねり[内舎人] (名)うちとねり。うちのとねり。「うちとねり」の約転。「うち」
は宮中。「とねり」は近侍官人の称。中務省に属し、朝廷の雑務に従い、行幸には左右前後に供奉して警衛した。多くは、公卿の子の元服以前に、殿上のことを習わせるために奉仕させた。大和物語「殿に仕うまつりける内舎人にてありける人、いかでか見けむ、この女を見てけり」(摂関の随身をも、やはり内舎人といった)
うとぶ[疎ぶ] (動、下二)「うとむ」に同じ。祝詞、祈年祭「うとぶる者の、下より往
かば下を守り、上より往かば上を守り」(皇孫をうとんじ親しまぬもの、邪神悪魔をいう)
うとまし[疎まし] (形、シク)厭わしい。気味がわるい。味気ない。宇津保、俊蔭「い
かで鳥の声もせざらむ山に籠りにしがな。今や恐ろしく疎ましきめを見むずらむ」源氏、
桐壺「なずらひにおぼさるるだにいと難き世かなと、うとましうのみ、よろづにおぼしなりぬるに」=(桐壺の更衣に)少しでも似通った点をお見出しになることすら、非常にむずかしいことであるよと、すべてのことを味気なくお思いになって。
うとむ[疎む] (動、四)遠ざける。きらう。つれなくする。つらくあたる。うとぶ。う
とんず。
うとむ[疎む] (動、下二)前項の他動。人と人との間が疎くなるように仕向ける。離間
する。中傷する。敦忠卿集「人にいひうとめられてかへりごとせぬ人に 憂きことの繁さまされる夏山の下ゆく水の音もかよはず」
うどむ[澱む] (動、四)「よどむ」に同じ。
うどんぐゑ・・・グエ[優曇華] (名)「うどんげ」に同じ。竹取「いつか聞きけむ、くらもちのみこは、うどんぐゑの花持ちてのぼり給へりとののしりけり」(もとは、「華」を「ぐゑ」、「蹴」を「くゑ」などと発音していたのである)
うどんげ[優曇華] (名)(1)仏教で、三千年に一度花を開くと称する想像上の植物。この花が開けば、世に金輪王が出現するといい、また、金輪王が出現する時に、この花が開くともいう。太平記、二十、義貞首懸ニ獄門一事「中将はこの幾年を恋ひ忍んで、相逢ふ今の心の中、優曇華の春待ち得たる心地して」(2)転じてほとんど有り得べからざること、極めて稀なことにたとえていう。狂言、花子「ただ何事もうち捨てて、たまたま逢ふこそうどんげなれ」
うとんず[疎んず] (動、サ変)名詞「うとみ」と動詞「す」との合して音便化した語。
「うとむ」に同じ。
うな[項] (接頭)下の語に「うなじ」すなわち「くび」の意を冠する語。うなかぶす。うなだる。うなづく。
うながける (句)くびに手をかけて親しみあう。古事記、上「かく歌ひて、すなはち、うきゆひして、うながけりて、今に至るまで鎮まります」⇒うきゆひ。
うながす[促す] (動、四)急がせる。さいそくする。
うながせる (句)くびにおかけになっている。古事記、上「あめなるや、おとたなばたの、うながせる、たまの、みすまる」=天の弟棚機姫のくびにお掛けになっている玉のみすまる。⇒みすまる。
うなかぶす (動、四)「項傾(うなかぶ)す」の義。うなだれる。悲しむ。古事記。上「なかじとは、なはいふとも、やまとの、ひともとすすき、うなかぶし、ながなかさまく」=泣きはしないと、そなたは言われても、山地の一本すすきのように、うなだれて、そなたは泣かれるよ。
うなかみ[海上] (名)海のほとり。うみべ。万葉、[5-813]「うなかみのこふの原に」
うなかみ[海上] (地名)(1)上総の国、千葉県市原郡の地。⇒うなかみがた。(2)下総の
国、千葉県海上郡の地。万葉、[9-1780]「足ずりし、ねのみやなかむ、海上の、その沖を指して、君が漕ぎ行かば」
うながみ (名)馬の首の上にある毛。たてがみ。
うなかみがた〔海上潟〕 (地名)上総の国、千葉県市原郡の面する海。万葉、[7-1176]
「夏麻(なつそ)引く海上潟の沖つ洲に鳥はすだけど君は音もせず」同、[14-3348]「夏麻引く海上潟の沖つ洲に船はとどめむ小夜ふけにけり」
うなぐ (動、四)「うな」は「くび」。くびに掛ける。万葉、[16-3875]「わがうなげる、玉の七つを取りかへも、申さむものを」

うなさか[海境・海坂] (名)「さか」は「境」。海の境界線。古事記、上「うなさかを
塞きてかへりましき」万葉、[9-1740]「春の日の……うなさかを、過ぎて漕ぎ行くに」


うなじ[項] (名)くび。くびすじ。宇津保、俊蔭「左大将のおとど、ましてあはれがり
給ひて、御あこめ一かさねを脱ぎ給ひて、御うなじの寒げなるもかかればぞかし」



うなじをしらぐ…オ…[項をしらぐ] (句)頸をむちうつ。平家、一、鹿谷「その時、神人、白杖をもつて、かのひじりがうなじをしらげて」


うなね (名)くびの根。くびねっこ。
うなねつきぬく (句)鵜などが、くびを水の中に突き入れるように、くびを垂れ、ひたい
を地に着けて、かしこまるさまにいう。祝詞、祈年祭「鵜じもの、うなねつきぬきて」⇒うじもの。


うなび[海辺] (名)うみべ。うなべ。うみのほとり。海岸。
うなひをとめウナイオトメ[菟原処女] (人名)摂津の国、今の兵庫県芦屋市の辺に住んでいた少女。生田川伝説の主人公。万葉、[9-1801]「いにしへの、ますらをのこの、あひきほひ、つまどひしけむ、あしのやの、うなひをとめの、おくつきを、わがたちみれば…」⇒いくたがはでんせつ。




うなべ[海辺] (名)うみべ。うなび。うみのほとり。海岸。
うなや[檻] (名)牢屋。ひとや。檻(おり)。神功紀、五年三月「新羅の使者三人を促
へてうなやの中にこめて」




うなゐウナイ[髫髪] (名)「くびの辺まで垂れさがった幼児の髪」の意から転じて、幼児・幼童・幼女の義となる。うなゐこ。宇津保、俊蔭「おとな二十人ばかり、うなゐ・下仕(しもづかへ)など、いと多く召し集めて」




うなゐこウナイ…[髫髪子] (名)前項に同じ。宇津保、俊蔭「十五歳ばかりにて、玉光り輝くうなゐこの」
うなゐこがはらウナイ… (地名)未詳。枕草子、一「原は……うなゐこがはら・あべのはら・しのはら」古今六帖、二「名にしおへばいづれも悲し朝な朝な撫でておふししうなゐこがはら 山上憶良」
うなゐはなりウナイ…[髫髪放・童女放髪](名)女児が垂れ下がっている髪を肩のところで切ること。万葉、[16-3822]「たちばなの寺の長屋にわが率宿(ゐね)しうなゐはなりは髪あげつらむか」(「ゐねし」は「共に寝た」)



うなゐをとめウナイオトメ[髫髪少女] (名)うなゐ髪の少女。夫木抄、一「けさ見ればうなゐをとめがすりごろも春たちそむる軒の松風」(「うなゐをとめがすりごろも」は「春」というための序詞)
うねのの[宇根の野] (地名)近江の国、滋賀県蒲生郡繖山の南、雪野川の東、愛知川に
至るまでの地。もと、「布引」または「蒲生の野」とも呼んだ。古今集、二十、大歌所御歌「近江より朝たちくればうねの野にたづぞ鳴くなる明けぬこの夜は」太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「行きかふ人に近江路や、世をうねの野に鳴くたづも、子を思ふかとあはれなり」(「世を憂」から「うねの野」にかける)
うねび[畝傍・畝火] (地名)大和の国、奈良県高市郡にある山。大和三山の一。万葉、
[1-13]「かぐやまは、うねびををしと、みみなしと、相争ひき、神代より斯くなるらし、いにしへも然(しか)なれこそ、うつせみも、妻を争ふらしき 中大兄」(この歌は「うねびををし」を「うねびを愛し」と解するか「うねび雄雄し」と解するかにより、山の性の解釈に相違を生ずる)
うねべ[采女・婇] (名)後宮の下級女官の称。天皇・中宮の陪膳・髪上げ・御手水・飯
饌等に仕えた。うねめ。古事記、下「とよのあかりきこしめす時に、伊勢の国の三重のうねべ大御さかづきを捧げてたてまつりき」大和物語「昔、奈良のみかどにつかうまつるうねべありけり」⇒ならのみかど。
うねめ[采女] (名)前項の転。「うねべ」に同じ。
うねめのかみ[采女正] (名)うねめのつかさの長官。
うねめのしやう…シヨウ[采女正] (名)うねめのつかさの長官。
うねめのつかさ[采女の司] (名)諸国から奉仕のために献ずる采女を支配する役所。宮
内省の管轄に属した。
うねを…オ[畝尾] (名)山の峰つづきの高いところ。尾根。古事記、上「泣き給ふ時に、御涙に成りませる神は、かぐ山のうねをの木(こ)の本にます御名はなきさはめの神」
うのはな[卯の花] (名)(1)うつぎの木の花。千載集、三、夏「見で過ぐる人しなければ卯の花の咲ける垣根や白河の関 藤原季通」奥の細道「卯の花の白妙に、茨の花の咲きそひて、雪にも越ゆる心地ぞする」(2)襲(かさね)の色目の名。表は白、裏は青。四月に用いる。うのはながさね。琴後集、二、夏「さくら色の袖ぬぎかへて卯の花に重ぬる衣(きぬ)もめづらしきかな」
うのはながさね (名)前項の(2)に同じ。枕草子、五「ただうのはながさねを、ここにか
けたるやうにぞ見えける」
うのはなくたし (名)卯の花をくさらせるという意味で、五月雨をいう。万葉、[10-1899]「春されば卯の花くたしわが越えし妹が垣間は荒れにけるかも」
うのはなづきよ…ズキヨ[卯の花月夜] (名)卯の花の白く咲いたのを、月の光にたとえていう語。一説、卯の花に月が白く照っていること。
うのはなづくよ…ズクヨ[卯の花月夜] (名)卯の花の白く咲いたのを、月の光にたとえていう語。一説、卯の花に月が白く照っていること。万葉、[10-1953]「さつき山うのはなづくよほととぎす聞けども飽かずまた鳴かぬかも」
うのはなの[卯の花の] (枕詞)頭音のひびきから「う」に冠する。万葉、[10-1988]
「うぐひすの通ふ垣根の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ」(上三句は「うき」というための序詞)
うのはなやま[卯の花山] (名)卯の花の咲いている山。地名ではない。万葉、[10-1963]「かくばかり雨の降らくにほととぎす卯の花山になほか鳴くらむ」(こんなに雨が降っているのに)
うのはなをかざしに…オ…[卯の花をかざしに] (句)奥の細道「卯の花をかざしに関の晴れ着かな 曾良」=白河の関は、能因の歌などで名高いところである。古人も衣冠を正してこの関を通ったというが、自分には改むべき衣もない。せめて、卯の花でも折ってかざし、これを晴れ着にかえて、この関を越そう。(「袋草子」という歌書に、武田太夫国行という人が、白河の関にさしかかった時、能因が名歌を詠んだ地を無関心では通れないといって、特に衣冠を改めて通過したという話が載っている)
うのはなをどし…オドシ[卯の花縅] (名)鎧の縅の名。卯の花が白く、葉が萌黄であるのにかたどり、白と萌黄とで段段に縅したもの。また、上または下の一方を白、他方を萌黄に縅したもの。また、一説に、全部を白く縅したもの。
うばい[優婆夷] (名)梵語。Upasikaの音写。優婆私柯・優婆斬などとも書く。在家の
女子で仏法に帰依し、五戒を授けられた者をいう。「優婆塞」の対。
うはぐむウワグム (動、四)あきれる。大鏡、六、内大臣道隆「今の民部御殿はうはぐみて、人人の御顔とかく見給ひつつ」
うはざしウワ…[上差] (名)弓術用語。「上矢」のこと。箙に矢を入れ、その左の方に差し添える二本の矢をいう。
うはざしウワ…[上刺] (名)(1)布などを、やや太い糸で碁盤の目のように刺し縫うこと。また、その縫われているもの。さしこ。増鏡、七、おりゐる雲「上には、うはざしの組あり」(2)狩衣・直垂などの袖ぐくり、または袴の紐などに、平組緒または丸組緒などで一筋上差したもの。今鏡、上、白河の花の宴「うはざしは、玉をつらぬきて飾られ侍りけり」
うばそく[優婆塞] (名)梵語。Upasakaの音写。優婆裟柯・優婆索迦などとも書く。在
家の男子で仏法に帰依し、五戒を授けられた者をいう。「優婆夷」の対。
うばたまの[鳥羽玉の] (枕詞)鳥羽玉は「ひあふぎ」の実でその色の黒いところから  
「黒」「夜」に、転じて「夢」などに冠する。ぬばたまの。古今集、十、物名「うばたまの我が黒髪や変はるらむ鏡のかげに降れる白雪 紀貫之」同、十二、恋二「いとせめて恋ひしき時はうばたまの夜の衣をかへしてぞ着る 小野小町」同、十、物名「うばたまの夢になにかはなぐさめむうつつにだにもあかぬ心を 清原深養父」
うばたまり (名)「姥専女(うばたうめ)」の転という。老女。老婦。催馬楽、此殿奥
「うばたまり、われを、恋ふらし」
うはつくにウワツ…[上国・上津国] (名)「つ」は「の」の意。黄泉国・海神国等から見た現国土の称。古事記、上「今、天つ彦の御子、空つ彦、うはつくにに出でまさむとす」
うはなりウワナリ (名)(1)本妻に対して次妻をいう。古事記、中「うはなりがなこはさば」=次妻が食物を請うなら。(2)後妻。のちぞひ。(3)嫉妬。りんき。(4)人の怨霊。
うはなりうちウワナリ…[後妻打] (名)前妻が後妻を嫉妬して、自分で後妻を打ち、または人をして後妻の家を襲わしめること。
うはなりねたみウワナリ…[嫉妬] (名)(1)嫡妻(こなみ)が次妻(うはなり)をねたむこと。古事記、上「その神の嫡后(おほきさき)すせりひめの命、いたくうはなりねたみしたまひき」(2)ねたむこと。嫉妬。りんき。舒明紀、元年前「是に於てひとりの尼、うはなりねたみして」
うばら[茨・棘・荊] (名)いばら。のいばら。うまら。
うばらをとめ…オトメ[莵原処女] (人名)「うなひをとめ」に同じ。
うひウイ[初] (接頭)名詞に冠して「最初の」「はじめての」という意味を添える語。うひ孫。うひ学び。うひ陣。
うひうひしウイウイシ (形、シク)(1)はじめてらしい。ものなれないようすである。こどもらしい。紫式部日記「いと物清げにうひうひしく、中高き顔して」(2)浮気らしい。「浮き浮きし」の訛か。和泉式部日記「かかるありきの、常にうひうひしく覚ゆるを」
うひかうぶり(ウイコウブリ)〔初冠〕 (名)うひかむり。(1)はじめて冠を着ける儀式。
元服。伊勢物語、冒頭「むかし、男、うひかうぶりして」(2)はじめて位に着けられること。初位。
うひかむりウイ…[初冠] (名)うひかむり。(1)はじめて冠を着ける儀式。
うひだちウイダチ[初立] (名)人・鳥などが、はじめて外へ出ること。源氏、葵「うちなどにも、あまり久しく参り侍らねば、いぶせさに、けふなむうひだちし侍るを」
うひだつウイダツ[初立つ] (動、四)(人が)はじめて出で立つ。(鳥が)はじめて巣を立つ。(霞が)はじめてたなびく。
うひぢにのかみウヒジニ…[宇比地邇神] (神名)神代七世の一神。「すひぢにのかみ」の対。「泥土の神」を意味する。古事記、上「次に成りませる神のみ名は、うひぢにのかみ、次に妹すひぢにの神」曾我物語、一、冒頭「宇比地邇・須比智邇、男神・女神とあらはれ」
うひやうゑのかみウヒヨウエ…[右兵衛の督] (名)右兵衛府の長官。
うひやうゑのぢん(ウヒヨウエノジン)[右兵衛の陣] (名)陰明門(おんめいもん)の
 外にある、右兵衛府の詰所。また、陰明門の異称。
うひやうゑふ(ウヒヨウエフ)[右兵衛府] (名)⇒ひやうゑふ。
うふ[右府] (名)「右大臣」の唐名。。
うぶすな[産土・生土] (名)(1)その人の生まれた土地。平治物語、三「越鳥南枝に巣
をかけ、胡馬北風にいばえけるも、うぶすなを思ふ故ぞかし」(2)「うぶすなのかみ」の略。
うぶすなのかみ[産土の神] (名)各人の生まれた土地の守護神。鎮守の神。うぶすな。
うぶめ[産女] (名)お産をした女。産婦。
うぶめ[産女鳥] (名)産婦が死後、鳥または幽霊となり、夜中に飛行し、小児を害する
というもの。その鳴く声は、小児のようだという。古代中国の伝説に名高い想像上の鳥。
うへウエ[上] (名)(1)みかど。天皇。源氏、桐壺「さぶらふ人人の泣きまどひ、うへも御涙のひまなく流れおはしますを、あやしと見たてまつり給へるを」(2)禁中。殿上の間。枕草子、一「うへにさぶらふ御ねこは」(3)貴人の御座に近い所。宇津保、藤原の君「かうぶり得て、兵衛のすけになりぬ。春宮にもうへ許されて琵琶つかうまつる」(4)将軍・公方などの僣称。(5)貴人の夫人。竹取「これを聞きて、離れ給ひしもとのうへは、腹をきりて笑い給ふ」(6)その他多くの意味があるが、現代語とほとんど同一の内容である。
うべ (副)なるほど。もっとも。むべ。竹取「うべ、かぐや姫の好もしがりたまふにこそありけれ」
うべうべし (形、シク)まことにそうであろう。もっともらしい。篤実らしい。増鏡、十七、春のわかれ「年もたけたる上、このごろは天の下にいさぎよく、うべうべしき人に思はれたるころなれば」源氏、帚木「いと清げに、せうそこぶみにも、かんなといふものを書きまぜず、うべうべしくいひまはし侍るに」
うへうらウエ…[表裏] (名)表裏(ひょうり)。琴後集、十一「学びの道はおほやけなるものとこそ聞け。かく心にうへうらを置くべしや」
うべし (副)「し」は強めの助詞。「うべ」に同じ。
うべしかも (副)「し」は強めの助詞。「かも」は感動の終助詞。うべなるかな。もっともであるよ。
うべしこそ (副)「し」は強めの助詞。「こそ」は強く指定する係り助詞。げにこそ。
まことにまあ。

うへだあきなりウエダ…[上田秋成] (人名)江戸時代の国学者・歌人・小説家。通称は東作。もと、大阪の娼家に生まれた孤児。上田家に養われ、儒を都賀庭鐘に、国学を加藤宇万伎に学ぶ。京都に住み、医を業としたが、すこぶる博覧強記で、たいていの書は一読して暗誦したという。本居宣長と相対抗した大学者。晩年失明。文化六年(1809)没、年七十五。主著、雨月物語・春雨物語・霊語通。
うへのつぼねウエ…[上局] (名)中宮・女御・更衣等が、常に住む局のほかに、主上の御座所すなわち清涼殿の近くに賜わる部屋。源氏、桐壺「清涼殿にもとより侍ひ給ふ更衣の曹司を、ほかに移させ給ひて、うへつぼねに賜はす」。
うべなうべな (副)うべなるかな、うべなるかな。もっともである、もっともである。古
事記、中「あらたまの、としがきふれば、あらたまの、つきはきへゆく、うべなうべな、
きみまちがてに、わがけせる、おすひのすそに、つきたたなむは」=年がたてば、月も当然過ぎて行きます。君を待ちわびている間に、どんどん月がたって行きました。そのように、私の着ているおすひの裾につき(経水)がたっているのも、まことにもっともなことではございませんか。
うへなしウエナシ[上なし] (形、ク)これより上はない。無上である。新古今、十二、恋二「富士の嶺の煙もなほぞ立ちのぼるうへなきものは思ひなりけり 藤原家隆」(「煙」と「思ひ」の「ひ」とは縁語)太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「富士の高嶺を見給へば、雪の中より立つ煙、上なき思ひにくらべつつ」(「太平記」の文は「古今集」の歌に基づくもの)
うべなふウベナウ[諾ふ] (動、四)「うべ」を活用した語。(1)もっともだと思う。承諾する。うべなむ。(2)服従する。まつろふ。(3)謝罪する。あやまる。
うべなむ[諾む] (動、四)前項に同じ。
うべなり[宣なり] (形動、ナリ)もっともである。道理である。綏靖紀、元年前「うべ
なるかな、汝の天つひつぎをしろしめし、以て皇祖の業を承けむこと」宇津保、楼上、下「うべなりけり、時もちは、いと清げに侍りしものなれば」
うへのきぬウエノ…[表衣] (名)「袍」に同じ。伊勢物語「いと清らなる禄衫(ろくざう)のうへのきぬを見いでてやるとて」
うへのはかまウエノ…[表袴] (名)束帯の時、大口袴に重ねて、その上にはく袴。口が狭く、ひだのあるもの。落窪物語「むこの少将の君のうへのはかま縫はせておこせ給ふとて」(2)童女の袴の称。枕草子、五「をかしげなる童女のうへのはかまなど」
うへのみやうぶウエノミヨウブ[上の命婦] (名)主上の御側近く奉仕する命婦。源氏、桐壺「御祿のもの、うへの命婦とりて賜ふ」
うへびとウエ…[上人] (名)「殿上人」に同じ。源氏、桐壺「上達部・うへびとなども、あいなく目をそばめつつ」
うへぶしウエ…[上臥] (名)宮中に宿直すること。「うはぶし」ともいう。平家、六、紅葉「うへぶししたる殿上人」
うべも (副)げにも。道理にも。万葉、[8-1452]「やみならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや」
うま (名)すごろくの賽。枕草子、七「つれづれなるもの、ところさりたるものいみ、うまおりぬすぐろく」=たいくつなもの、深くつつしむべき時に家を去って外でものいみをすること、すごろくの賽の目が思うように出て来ないこと。
うま[午] (名)十二支の第7位。時では正午。方角では真南。
うまい[熟寝] (名)よく眠ること。熟睡。万葉、[11-2369]「人のねるうまいは寝ず
てはしきやし君が目すらを欲りて嘆くも」=人のように安眠することもできないで、愛する君に逢うことのみを思って嘆いていますよ。
うまいかだ[馬筏] (名)川などを渡るために、幾匹かの馬をつなぎあわせて筏のように
すること。宇治拾遺、十五「馬筏を作りて泳がせけるに、徒人(かちびと)はそれに取りつきて渡りけるなるべし」
うまいだし[馬出だし] (名)馬場における馬の出発点。宇津保、祭の使「廊より南に、
御前に向きて、馬いだしより馬とどめまで隙なく、褐の衣着たる男ども伴したり」
うまかひ…カイ[馬飼] (名)(1)馬を飼うこと。また、その人。古事記、下「その国人、名はしじむが家に入りまして、身を隠して、うまかひ・うしかひにぞ使はえいましける」(2)徳川幕府の厩方役人中の下級職員の称。
うまくすし[馬医] (名)馬の病気をなおす医者。
うまご[孫] (名)孫。また、子孫。
うまごり (枕詞)「うまく織り」の約として「綾」の意とする説と、「こり」は朝鮮語で「綾」の意とする説とあるが、とにかく「あや」に冠する。万葉、[6-913]「うまごりあやに羨(とも)しく、鳴る神の、音のみ聞きし、み吉野の」
うまざけ[味酒] (枕詞)「味酒」は「上酒」。「酒瓶」を古語で「みわ」というので
「三輪の山」「三室の山」に冠する。この二つは同一の山。万葉、[1-17]「うまざけ三輪の山、あをによし奈良の山の」万葉、[7-1094]「うまざけ三室の山はもみぢせりけり」

うまざけの[味酒の] (枕詞)「味酒」は「上酒」。「酒瓶」を古語で「みわ」というので
「三輪の山」「三室の山」に冠する。

うまざけの[味酒の] (枕詞)「味酒」は「上酒」。「酒瓶」を古語で「みわ」というので
「三輪の山」「三室の山」に冠する。

うまざけを[味酒を] (枕詞)「三輪の山」「三室の山」と同一の山「かむなび山」に冠
する。万葉、[13-3266]「うまざけをかむなび山の帯にせる、あすかの川の」(「うまざけをかむ」意から)


うまし (形、ク)美しい。りっぱである。よい。うまい。結構だ。古事記、上「ややしましいでませ。うましみちあらむ」万葉、[1-2]「うまし国ぞ、あきつしま、やまとの国は」(上代では、このように、終止形のまま体言につづけている)万葉、[16-3857]「飯(いひ)はめどうまくもあらず、行きゆけど、安くもあらず」



うまし (形、シク)よい。たのしい。竹取「なでふ心地すれば、かく物を思ひたるさまにて月を見給ふぞ、うましき世に」




うましもの (枕詞)「うまいもの」の意から食物の名に冠する。万葉、[11-2750]「わぎもこに逢はず久しもうましものあべたちばなのこけむすまでに」(「あべたちばな」は、はっきりしないが、とにかく、みかんの類である)





うまじもの (枕詞)「馬のように」の意である。「縄取りつけ」「つまづく」などに冠する。万葉、[6-1019]「いそのかみ、ふるのみことは、たわやめの、惑ひによりて、うまじもの、縄取りつけ」同、[13-3276]「ももたらず…うまじもの、立ちてつまづき、せむすべの、たづきも知らず」





うまじるし[馬印] (名)昔の戦陣で、大将の傍に立てて、その所在のめじるしとしたも
の。豊臣氏の「せんなりべうたん」の類。





うまずめ[石女] (名)子を産まない女。
うまたはけ…タワケ[馬婚] (名)馬を姦すること。上代の罪の一。古事記、中「馬婚・牛婚・鶏婚・犬婚の罪のたぐひ」



うまつぎ[馬継・馬次] (名)駅馬を仕立てること。また、その場所。すなわち宿場。駅。
うまや。
うまとどめ[馬留め] (名)(1)馬場において、馬をとどめておくところ。「うまいだし」の対。(2)馬を下りて、その馬をとどめておくところ。
うまのかみ[右馬頭] (名)右馬寮の長官。伊勢物語「うまのかみなりける人を、常にゐ
ておはしましけり」
うまのつかさ[馬寮] (名)「めれう」に同じ。
うまのつめ[馬の爪] (枕詞)馬は爪をついて歩くということから「つく」に冠する。万
葉、[18-4122]「すめろぎの、敷きます国の、天の下、四方の道には、馬のつめ、い尽くすきはみ」同、[20-4372]「あしがらの……馬のつめ、つくしの崎に」
うまのないし[馬内侍] (人名)平安時代の女流歌人。梨壷の五歌仙の一人。一条天皇の
皇后の女房。生没年は未詳。主著、馬内侍集。
うまのはなむけ (名)「馬の鼻向け」で、旅行の方向を意味するが、転じて旅立つ人に送
る品の義となる。はなむけ。せんべつ。土佐日記「これぞ正しきやうにてうまのはなむけしたる」
うまびと[馬人] (名)「うまかひ」に同じ。
うまびと[貴人] (名)身分の高い人。あてびと。また、徳の高い人。一説、「うま」は
「佳美」の義で「おも(重)」と語原を等しくし、重立った人すなわち「長老」という。崇神紀、七年二月「この夜、夢にひとりの貴人(うまびと)あり」仁徳紀、二十二年正月「うまびとのたつることだて」
うまふウマウ (動、四)「産む」の延音。「産む」に同じ。万葉、[16-3840]「寺寺の女餓鬼(めがき)申さく大神(おほみわ)の男餓鬼(をがき)賜ばりてその子うまはむ」
うまふせぎ[馬防ぎ] (名)(1)垣。柵。(2)楯。
うまふね[馬槽] (名)(1)馬の飼い葉を入れる器。かひば桶。古事記、下「そのみ身を
切りて、うまぶねに入れて、土とひとしく埋みき」(2)大きな桶。うまだらい。
うまや[駅] (名)「駅(えき)」に同じ。古今六帖、二「東路のうまやうまやと数へつ
つ近江の近くなるがうれしさ」大鏡、二、左大臣時平「播磨の国におはしまし着きて、明石のうまやといふ所に御やどりせしめ給ひて」
うまやぢ…ジ[駅路] (名)駅のある街道。駅路(えきろ)。はゆまぢ。
うまやどのとよとみみのみこと[厩戸豊聰耳命] (人名)「聖徳太子」の御名。うまやどのみこ。うまやどのわうじ。
うまやのをさ…オサ[駅長] (名)駅の長。駅の長者。宿の長者。大鏡、二、左大臣時平「うまやのをさのいみじう思へる気色を御覧じて、作らせ給へる詩、いとかなし」
うまら[茨・棘・荊] (名)うばら。いばら。東国方言。万葉、[20-4352]「道の辺の
うまらの末(うれ)にはほ豆のからまる君を離(はか)れか行かむ 防人の歌」=道ばたのいばらの上に這いからまっている豆のつるのように、自分と別れを惜しむそなたと別れて行くことよ。
うまらに (副)うまそうに。古事記、中「うまらに、きこしもちをせ」=うまそうに、召し上がれ。
うまれう…リヨウ[右馬寮] (名)⇒めれう。
うみが[海処] (名)「が」は「国処(くが)」すなわち「陸(くが)」のように「処」
を意味する古語。うみべ。うみ。古事記、中「うみがゆけば、こしなづむ」=海面をわたって行くと、(波で)腰が支えられる。
うみさち[海幸] (名)海で得る幸福。魚や貝などの獲物。古事記、上「山幸もおのがさちさち、海幸もおのがさちさち」=山で得る幸福も、海で得る幸福も、元来各自に定まっている幸福である。
うみさちひこ[海幸彦] (神名)天孫の子「ほでりのみこと」の異名。魚漁に霊能を有す
る男性神の意、「山幸彦」の対。古事記、上「かれ、ほでりのみことは、海幸彦として」
うみつぢ…ジ[海つ道] (名)「つ」は「の」の意、「ぢ」は「みち」の意。海の道。海路。航路。古事記、上「あれ常はうみつぢを通して通はむとこそ思ひしを」万葉、[9-1781]「海つ路のなぎなむ時も渡らなむ斯く立つ波に船出すべしや」
うみをなす…オ…[積麻なす] (枕詞)積んだ苧(を)のように長いということから「なが」に冠する。万葉、[6-928]「おしてる……うみをなすながらの宮に、真木柱、ふと高敷きて」同、[13-3243]「をとめらが麻笥(をけ)に垂れたるうみをなすながとの浦に」
うむ[有無] (名)(1)有ることと無いことと。「有無相通ず」(2)否と諾と。「有無を言はせず」うむかし(形、シク)好ましい。おもしろい。うれしい。喜ばしい。続紀、十、天平元年「その人のうむかしきこと」
うむかしむ (動、四)好ましく思う。おもしろいと思う。うれしいと思う。喜ばしいと思う。続紀、十七、天平勝宝元年十月「いそしみ、うむかしみ、忘れ給はずとしてなむ」琴後集、雑「いにしへも今も、高きもみじかきも、月と花とをうむかしみ思へることひとしく」
うむぎ (名)「はまぐり」の古名というのが一般的な説である。神名ではあるが、「古事記、上巻」では「蛤貝比売」を「うむぎひめ」と訓じている。
うめく[呻く] (動、四)(1)嘆く。嘆息する。源氏、帚木「ものものたまはず、いたく
うめきて、うしとおぼしたり」(2)苦しんで詩歌を詠みだす。ひねりだす。苦吟する。枕草子、四「をかしう詠み出でて、人にも語り伝へさせむとうめき誦(ず)んじつる歌も」(3)うなる。わめく。古今著聞集、二十「家にかけひる牛、夜ごとに必ずうめくこと侍りけり。そのうめき声ただにあらで」

うめごよみ[梅暦] (名)山中で、梅の開花によって、春の季節を知ることをいう。俳諧
歳時記栞草「梅暦。梅はこれ山家の暦。山中には梅の咲くを見て、春を知るといふ心にて暦といふなり」
うめごよみ[梅暦] (書名)くわしくは「春色梅児誉美」というが、一般には「梅暦」と
呼ばれている。江戸時代の戯作者為永春水の人情本。十二巻の長編で、唐琴丹次郎と江戸深川の芸伎仇吉との関係を中心として、遊里の風俗を描く。
うめごろも[梅衣] (名)表が白、裏が蘇枋色の衣。謡曲、弱法師「受くる施行のいろいろ
に、匂ひ来にけり、梅衣の春なれや」
うめつぼ[梅壷] (名)禁中の殿舎の名。五舎の一。中庭に梅の木が植えてあったのでい
う。凝華舎。うべつぼ。伊勢物語「昔、男、梅壷より雨に濡れて人のまかり出づるを見て」
うめつぼのせうしやう…シヨウシヨウ[梅壷の少将] (書名)平安時代の小説。十一世紀ごろまでは存在していたようであるが、その後は見ることができなかった。作者も年代も内容も不明。枕草子、九「ものがたりは………交野の少将・梅壷の少将・人め」
うめなり[宜なり] (形動、ナリ)「うべなり」に同じ。神武紀、元年前戌午年「諾、此
二宇毎那利一」=諾という漢字は、これをうめなりと読む。
うめのみや[梅の宮] (神社名)京都市右京区にある神社。徒然草、二十四段「ことにを
かしきは伊勢…大原野・松の尾・梅の宮」
うめはつづき…ズキ[梅初月] (名)梅の咲きそめる月の意で、陰暦十二月の異称。蔵玉集「花はまだつぼむ枝かとほの見えて梅はつ月の心いろめく」
うめみづき…ズキ[梅見月] (名)梅の花を見る月の意で、陰暦二月の異称。蔵玉集「訪ふ人もなきふるさとの梅見月風のなさけと袖に知るかな」
うめれう…リヨウ[右馬寮] (名)⇒めれう。
うめわかまる[梅若丸] (人名)室町時代の一伝説の主人公の名。京都北白河吉田少将の子。幼にして父を失い、七歳の時、叡山の月林寺に入ったが、東門寺の稚児松若丸との才学の争いから両寺の反目となり、それを悲しんで、ひそかに山を下ったが、途中で人買いの信夫藤太にかどわかされ、ついに武蔵の隅田川のほとりで死んだという。この伝説は、謡曲・浄瑠璃・歌舞伎・長唄その他の材料とされている。
うも[芋・薯] (名)「いも」に同じ。さといも。豊後風土記、総説「更にうも数千許株
(ちもとまり)になれり」万葉、[16-3826]「はちす葉は斯くこそあるものおきまろが家なるものはうもの葉にあらし」=蓮の葉は、こういうものである。おきまろの家にあるのは、あれは芋の葉であるらしい。
うもる[埋もる] (動、下二)(1)うずまる。うまる。(2)ふさぎこむ。ひっこみ思案にな
る。ひっこんでいる。狭衣、一、下「あまりうもれ給へる気色」栄花、月の宴「よろづにおぼしうもれたれば」
うもれいたし[埋れいたし] (形、ク)「いたくうもる」の意。あまりひっこみ思案だ。
遠慮すぎる。源氏、蓬生「こころばへなど、はた、うもれいたきまで、よくおはする御ありさまに」狭衣、二、上「あまりうもれいたき心地して」
うもれぎ[埋れ木] (名)(1)樹木が地変などのために地中に久しく埋まって、黒檀のような質に変じたもの。(2)不遇の境涯の身にたとえること。平家、四、宮御最期「埋れ木の花咲くこともなかりしにみのなる果てぞ悲しかりける 源頼政」=埋れ木のように一生を不遇ですごし、ただの一度も、はなやかな境遇に出会ったことのない上に、また、身の成り行く果ても悲惨なものである。(源三位頼政が宇治の平等院で自刃の際に詠んだ辞世の歌)
うもれぎの[埋れ木の] (枕詞)埋れ木は地下にあるので「下」に、また「あらはるまじ」「知れぬ」などに冠する。万葉、[11-2723]「埋れ木の下ゆぞ恋ふる」同、[7-1385]「埋れ木のあらはるまじきことにあらなくに」古今集、序「埋れ木の人知れぬこととなりて」
うや[礼] (名)礼(ゐや)に同じ。⇒うやなし。
うやうやしきけ (名)「うやうやし」の連体形に、接尾語「け」をつけた語。うやうやしいさま。恭敬の状。水鏡、下「みかど、ことにふれて、うやうやしきけさらになし」
うやなし[礼無し] (形、ク)「ゐやなし」に同じ。礼を欠いている。無礼である。景行
紀、五十一年八月「ここに、神宮にたてまつれるところの蝦夷(えぞ)ら、昼夜なりとよぎて、出入うやなし」(「なりとよぎて」は「やかましく騒いで」)
うら[占・ト] (名)吉凶を判断する法。うらない。万葉、[2-109]「大船の津守のうらに宣(の)らむとはまさしに知りて我がふたり寝し 大津皇子」=私とそなた(石川郎女)と二人が寝たということを津守連通(つもりのむらじとほる)が的確に占なって言おうとは、さてさて恐ろしいことではないか。(「大船の」は「津」の枕詞)
うら[浦] (名)入江。湾。海浜。⇒みるめなき。
うら[末] (名)(1)末。端。上端。(2)草木の末。梢。万葉、[10-2095]「夕されば野辺の秋萩うら若み露に枯れつつ秋待ちがたし」
うら (名)心。思い。後撰集、十、恋二「わたつみと頼めしことも(の)あせぬれば我ぞ我が身のうらは恨むる 伊勢の御」
うら (接頭)「心」の意を冠する語。うら悲し。うら恋ひし。
うらうへ…ウエ[裏表] (名)(1)裏と表と。うらおもて。源氏、末摘花「直衣のうらうへひとしうこまやかなる」(2)左右または前後。宇治拾遺、一、鬼にこぶ取らるる事「うらうへに、二列(ふたならび)に居並みたる鬼、数を知らず」平家、十二、六代「両人(ふたり)をうらうへに置いてこそ慰みしに、今は早、一人はあれども一人はなし」(3)裏が表に、表が裏になること。反対。うらはら。栄花、殿上花見「祭の日はうらうへの色なり」八犬伝「利には親しく、義にはうとく、口とおこなひとはうらうへにて」
うらうらと(副)のどかに。うららかに。
うらかく[裏掻く] (動、四)鎧の裏まで貫通する。平家、四、橋合戦「裏掻く矢五所、されども痛手ならねば」
うらがくる[浦隠る] (動、四)海辺に隠れる。万葉、[6-945]「風吹けば波か立たむとさもらひにつたの細江にうらがくり居り 山部赤人」=風が吹くので、さぞ波が高かろうと、吹きやむのを待つために、つたの細江の海辺に隠れている。⇒つたのほそえ。
うらがくる[浦隠る] (動、下二)前項に同じ。蜻蛉日記「浦隠れ見ることかたきあとな
らば潮干を待たむからきわざかな」
うらがす (動、四)心を浮きたたせる。楽しませる。慰める。出雲風土記、仁多郡「その時、みおやのみこと、御子を船に乗せて、八十島をゐてめぐりつつうらがし給へども、なほ泣きますことやまず」
うらかた (名)(1)占形。うらないのおもてに現われた形。敏達紀、十四年二月「大臣すなはち、やからを遣はして、そのうらかたを奏す」(2)うらないをする人。占者。陰陽師。謡曲、大江山「大江山の鬼神のこと、うらかたのことばにまかせつつ、頼光・保昌に仰せつけらる」
うらがなし[うら悲し] (形、シク)何となく悲しい。心のうちで悲しく思う。万葉、[19-4290]「春の野に霞たなみきうらがなしこの夕かげにうぐひす鳴くも 大伴家持」(「夕かげ」は「夕日の光」)うらぐ(動、下二)心が浮きたつ。酒に酔って愉快になる。古事記、下「とよのあかりせす時に、おほみきにうらげて、おほみねましき」=御宴会をなされた時に、酒に酔われておやすみになった。
うらぐはしウラグワシ (形、シク)「うら」は「心」の意の接頭語、「くはし」は「美妙である」。うるわしい。きもちがよい。雄略紀、六年二月「こもりくの、初瀬の山は、あやにうらぐはし、あやにうらぐはし」
うらごと[占事・ト事] (名)うらないごと。占ない。うら。祝詞、龍田風神祭「もものものしり人たちのうらごとに出でむ神の御心は、この神と申せと仰せたまひき」
うらこひしウラコイシ[うら恋ひし] (形、シク)なんとなく恋いしい。心に恋いしく思う。万葉、[17-4010]「うら恋ひし我が背の君はなでしこの花にもがもな朝な朝な見む」(形容詞の終止形を連体形と同様に用いた例は多い)
うらこふウラコウ[うら恋ふ] (動、上二)「うら」は「心」を意味する接頭語。心に恋いしく思う。恋い慕う。古今六帖、二「いもに我がうら恋ひをればあしびきの山下とよみ鹿ぞ鳴くなる 柿本人麻呂」
うらこほしウラコオシ[うら恋ほし] (形、シク)「うらこひし」に同じ。⇒おふを。
うらさだめ[占定め] (名)うらないによって吉凶を判定すること。
うらさびし[うら寂し] (形、シク)なんとなく寂しい。心細い。古今集、十六、哀傷
「君まさで煙たえにし塩竈のうらさびしくも見えわたるかな 紀貫之」(「塩竈の浦」から「うら寂し」に言いかけている)
うらじ[連] (名)「むらじ」に同じ。
うらしまでんせつ[浦島伝説] (名)仙境淹留説話(The story of super-natural lapes
of time in fairy-land)のことで、世界大拡布説話の一。「雄略紀」二十二年七月のところなどにある「浦島の子」の伝説から、日本では、こう呼ぶ。⇒せんきやうえんりうせつわ。
うらしまのこ[浦島の子] (人名)前項の伝説の主人公。一説、浦の島子。万葉、[9-
1740]「春の日の…水の江の、浦島の子が、かつを釣り、鯛釣りほこり」
うらす[浦洲] (名)海の水面から浅くあらわれた土地。古事記、上「わが心、うらすの
鳥ぞ」=わたくしの胸は、浦洲の千鳥のようにさわいでいますよ。
うらと[浦戸] (地名)土佐の国、高知県吾川郡の東部、土佐湾に突出し、浦戸湾をひか
える地。土佐日記「二十七日、大津より浦戸をさして漕ぎ出づ」同「二十八日、浦戸より漕ぎ出でて大湊を追ふ」
うらなし (形、ク)隔てがない。うちとける。遠慮しない。徒然草、十二段「をかしきことも、世のはかなきことも、うらなくいひ慰まむこそ、うれしかるべきに」
うらのつかさ[陰陽寮] (名)「おんやうれう」に同じ。
うらはづかしウラハズカシ[うら恥づかし] (形、シク)「うら」は「心」の意の接頭語。心の中で恥ずかしく思うさま。恥ずかしい。古事記、上「ここに、とよたまひめのみこと、そのかきまみたまひしことを、うらはづかしとおもほして」
うらはみ[占食み] (名)亀トにおける縦横の割れ目。縦を吉とし、横を凶とする。
うらびと[浦人] (名)海辺に住む人。漁師・海女など。
うらふウラウ[占ふ・トふ] (動、下二)うらなう。祝詞、龍田風神祭「これを、ものしり人たちのうらごとをもちてうらへども」
うらぶる (動、下二)「うら」は「心」を意味する接頭語。「ぶる」は「触れる」。心にふれて思いを起す。心憂く思う。わびしく思う。悲しむ。万葉、[5-877]「人みなのうらぶれをるに立田山御馬(みま)近づかば忘らしなむか」
うらへウラエ[占・ト] (名)うらなうこと。うらない。
うらべ[ト部] (名)うらないのことをつかさどる職・部民。
うらま[浦回] (名)「うらわ」に同じ。
うらみ[浦回] (名)「うらわ」に同じ。
うらみわぶ[恨み佗ぶ] (動、上二)うらめしく悲しい。うらめしく味気ない。後拾遺集、
十四、恋四「恨みわびほさぬ袖だにあるものを恋にくちなむ名こそ惜しけれ」=あの人のつれなさを恨めしく悲しく思い、涙に濡れる袖のかわくひまがないだけでも、わびしく思われるのに、さらに恋の浮名まで立てられて、そのために一生すたれものになってしまうかも知れない自分の名が惜しくてならない。(女流歌人相模の詠)
うらむらさき[うら紫] (名)「うら」は「末」または「裏」の意。うすむらさき。平家、
灌頂、大原御幸「中島の松にかかれる藤波の、うら紫に咲ける色、青葉まじりのおそざくら」
うらめし[怨めし・恨めし] (形、シク)うらめしい。続後撰、雑中「人もをし人も恨め
し味気なく世を思ふ故に物思ふ身は 後鳥羽院」⇒あぢきなし。
うらもとなし (形、ク)なさけない。ひどい。万葉、[14-3495]「いはほろのそひの若
松限りとや君が来まさぬうらもとなくも」(「いはほ」は「いかほ」の誤りかという)
うらもなし (形、ク)「うらなし」に同じ。蜻蛉日記「いと心やすく、夜もうらもなう臥して寝たり」
うらやすに [うら安に](副)「うら」は「心」の意。心安らかに。安泰に。万葉、[14-3504]「春べ咲く藤の末葉(うらば)のうらやすにさ寝る夜ぞなき子ろをし思へば」(上二句は「うらやすに」というための序詞)
うらやすのくに[浦安の国] (地名)「日本国」の異称。「うら」は「心」の意。「心の
安らかな国」の義。神武紀、三十一年四月「昔、いざなぎのみこと、この国をなづけてのたまはく、日本は浦安の国・くはしほこちたるの国」
うららに (形動、ナリ、連用形)うららかに。源氏、胡蝶「春の日のうららにさしてゆく舟のさをのしづくも花ぞ散りける」(この形容動詞は、連用形以外の使用例を見ないから、「副詞」と考えてもよかろうが、次項と同型の語であるから、やはり形容動詞と見るべきであろう)
うららかなり[麗かなり] (形動、ナリ)ほがらかである。のどかである。さわやかであ
る。宇津保、俊蔭「日いとうららかに照りて」源氏、胡蝶「うぐひすのうららかなるねに」浜松中納言、四「へだてなううららかにうちとけ給へば」
うららけし[麗けし] (形、ク)うららかである。のどかである
うらわ[浦回] (名)浦の彎曲したところ。海岸のまわり。古くは「うらま」「うらみ」
と言った。
うらわかし[うら若し] (形、ク)わかい。わかわかしい。
うりたつ[瓜断つ] (動、四)漢語の「破瓜」を直訳した語。瓜の字を二分した八八すな
わち十六歳の女子の意から転じて少女が成長して一人前の女になる。はじめて男子とまじわる。催馬楽、山城、三段「いかにせむ、なりやしぬらし、瓜たつまでに、ヤライシナヤ、サイシナヤ、瓜たつま、瓜たつまでに」(片かなの部分は、はやしことば)
うりつくり[瓜作り] (枕詞)瓜がかなたこなたに生る意から「となりかくなり」に冠す
る。拾遺集、九、雑下「音にきくこまの渡りの瓜作りとなりかくなりなる心かな 大納言朝光」
うりん[羽林] (名)「近衛武官」の唐名。羽翼の疾く撃ち、林の木の盛んに茂る義とい
う。曾我物語、一「これ偏へに羽林の威風、前代にも越えて」(ここでは「源頼朝」をいう)
うりんゐん…イン[雲林院] (寺名)京都市上京区紫野、大徳寺の南にあった寺。天台宗に属す。今は観音堂だけが残っている。枕草子、三「まつりのかへさ見るとて、うりんゐん・知足院などの前に車をたてたれば」大鏡、一、冒頭「さいつころ雲林院の菩提講にまうで侍りしかば」(雲林院の菩提講は三月二十一日、法華・金光明の二経を講ずる法会)
うるける (動、下二)間がぬける。愚鈍である。ふやける。琴後集、十三「たとへうるけたるしれ人をばあざむくとも」
うるさし (形、ク)(1)うるさい。(2)うるわしい。枕草子、十「すべて花のにほひなど咲きたるにおとらず。いかにうるさかりけむ」
うるしね[粳・粳稲] (名)うるち。「もちごめ」の対。
うるせし (形、ク)うるわしい。りっぱである。かしこい。宇津保、俊蔭「みかど、いとうるせかりしものの帰りまうで来たれることと喜び給ひて」源氏、若菜「宮の琴の音は、いとうるせくなりにけりな」宇治拾遺、二「この童も心得てけり。いとうるせきやつぞかし」同、十四「北面(きたおもて)の曹司にうるせき女ありけり」
うるち[粳・粳米] (名)「うるしね」の略転。うるごめ。
うるはしウルワシ (形、シク)(1)美しい。(2)かわいい。(3)仲がよい。親しい。古事記、上「あは、うるはしき友なれこそ、とぶらひ来つれ」宇津保、藤原の君「うるはしく語らひ聞えてあるを」(4)よい。端正である。まじめである。古事記、上「あがなせの命ののぼり来ますゆゑは、かならずうるはしき心ならじ」狭衣、三、下「若き殿上人などは、いとまばゆげに思ひて、いとうるはしうて帰るもあり」うるはしみすウルワシミス(動、サ変)名詞「うるはしみ」と動詞「す」との結合した語。愛する。うるはしむ。伊勢物語「わがせしがごとうるはしみせよ」=わたしがそなたを愛したようにそなたもそなたの新しい愛人を愛せよ。
うるはしむウルワシム (動、四)愛する。うるはしみす。古事記、中「みちのしり、こはだをとめは、あらそはず、ねしくをしぞも、うるはしみおもふ」
うるひウルイ〔閏〕 (名)次項に同じ。古今六帖、一「うるひさへありて行くべき年だにも春に必ず逢ふよしもがな 紀貫之」
うるふウルウ〔閏〕 (名)陰暦では一年を十三か月とする、その相重なる後の月。増鏡、二十、月草の花「今年は正慶二年といふ、閏きさらぎあり。後のきさらぎの初めつ方より」
うるふウルウ[潤ふ] (動、四)「うるほふ」に同じ。
うるふウルウ[潤ふ] (動、下二)「うるほす」に同じ。古今著聞集、十七「そこにも、のんどうるへ給へといへば」
うるほすウルオス[潤す] (動、四)(1)ぬらす。しめらせる。(2)恩沢を受けさせる。
うるほふウルオウ[潤ふ] (動、四)(1)ぬれる。しめる。(2)富む。利益を得る。ゆたかになる。(3)恩沢をこうむる。
うるまのしま[うるまの島] (地名)琉球。一説、琉球と台湾と。狭衣、一、下「こは、いかにとよ。うるまの島の人とも覚え侍るかな」(ことばや心の通じないことをいう)
うれ[末] (名)こずえ。うら。土佐日記「見渡せば松のうれごとにすむ鶴は千代のどちとぞ思ふべらなる」

うれしぶ[嬉しぶ] (動、四)嬉しく思う。宇津保、梅花笠「かくなむときこしめさば、
いかにうれしびのたまはむ」
うれしむ[嬉しむ] (動、四)うれしく思う。うれしぶ。祝詞、遣唐使時奉幣「船すゑつ
くり給へれば、よろこびうれしみ」
うれたし (形、ク)「心痛(うらいた)し」の義。なげかわしい。うらめしい。にくい。
いとわしい。古事記、上「うれたくも鳴くなる鳥か」宇津保、忠こそ「うれたき人かな。
わが請ひしには、子出で来なば取らせむといひしを」
うれたむ (動、四)「心痛(うれいた)む」の義。なげく。悲しむ。なげき、いきどおる。古事記、中「ここに、その兄、弟の婚(え)つることをうれたみて」
うれづく(ウレズク) (名)約束した賭け物。古事記、中「ここに、その兄、弟の婚(え)つることをうれたみて、かのうれづくの物をつぐのはず」
うれはしウレワシ[憂はし] (形、シク)なげかわしい。悲しい。残念に思う。源氏、若柴「なにがし、この寺にこもり侍ることは知ろしめしながら、忍びさせ給へるを、うれはしく思ひ給へてなむ」=わたくしが、この寺にこもっていますことをご存じでありながら(わたくしにもお知らせにならず)こっそりおでましになったことを、残念に存じます。
うれふウレウ[憂ふ] (動、上二)次項に同じ。古事記、上「ここに、大国主の神うれひまして」土佐日記「とかくいひいひて、波の立つなることと、憂ひいひて詠める歌」
うれふウレウ[憂ふ] (動、下二)(1)なげく。悲しむ。土佐日記「二十日、昨日のやうなれば舟いださず。みな人人うれへ嘆く」(2)嘆き訴える。不平を告げる。源氏、藤裏葉「とのゐどころゆづり給ひてむやと、中将にうれへ給ふ」(3)病む。わずらう。
うれへウレエ[憂へ] (名)前項の連用形が名詞に転じた語。(1)なげき。悲しみ。心配。不安。害患。徒然草、二段「いにしへのひじりの御代のまつりごとをも忘れ、民のうれへ、国のそこなはるるをも知らず」(2)うったえ。愁訴。訴訟。竹取「かのうれへせしたくみをば、かぐや姫呼びすゑて」(3)やまい。病気。皇徳紀、二年三月「和徳史(わとくのふひと)がうれへある時に、国のみやつこにいひ、官物(つかさもの)を送らしむ」(4)服喪中。忌中。天武紀、七年十月「公けの事により使ひに出でむ日、そのまことの病ひおよび親のうれへにあらずして、すなはちいささかごとによりて辞(さ)れる者は」。
うれへぶみウレエ…[憂文・愁文] (名)訴状。嘆願書。
うろ[有漏] (名)仏教で世俗の凡夫、煩悩の人の称。「無漏」の対。太平記、十八、高野興二根来一不和事「即身成仏と談じながら、なほ有漏の身を替へざることを嘆きて」
うろくづウロクズ[鱗] (名)(1)うろこ。(2)魚。
うろんなり[胡乱なり] (形動、ナリ)(1)だらしがない。狂言、文蔵「汝がやうな胡乱な奴は」(2)怪しい。疑わしい。国姓爺合戦、三「証拠なくしてうろんなり」
うわうさわうウオウサオウ[右往左往] (名)あるいは右へゆき、あるいは左へゆくように、乱れてざわめく状態。平治物語、一「兵ども右往左往に馳せちがひ」
うゐてんぺんウイ…[有為転変] (名)仏教で、世の中の事物の変化してやまないことをいう。太平記、三十六、相模守子息元服事「有為転変の世の習ひ、今に始めぬことなれど」
うゐらうウイロウ[外郎] (名)「外郎」の宋音。(1)「外郎薬」の略。漢法薬「透頂香(とうちんかう)」の別称。応安年間に元の人、礼部員外郎の陳宗敬が来朝して伝えた袪痰薬。(2)「外郎餅」の略。その形や色が「外郎薬」に似ている蒸菓子。
うゑぐさウエグサ (名)川の中に生えている水草であろうが、実体は何を指すか明らかでない。一説、藺蓆の材料となる「おほゐ」であろうと。古事記、中「うみがゆけば、こしなづむおほかはらの、うゑぐさ、うみがはいさよふ」=(白鳥を追うて)海面を行くと、波に腰が支えられる。大川原に生えている草が、水にゆられてゆらゆらするように、からだがゆらゆらゆれて、行きなやむ。
うゑもんのぢんウエモンノジン[右衛門の陣] (名)内裏の外郭「宜秋門」の別称。
うゑもんふウエ…[右衛門府] (名)⇒ゑもんふ。
うん[蘊] (名)蘊奥。奥義。学問などのおくそこ。駿台雑話、五、作文は読書にあり「文辞の法にくらくしては、その蘊に通ぜざるのみならず、その義を誤ることもあるべく候ふ」
うんあうウンノウ[蘊奥] (名)奥義。学問などのおくそこ。
うんかく[雲客] (名)「てんじやうびと」に同じ。
うんげん[繧繝] (名)同じ色を次第に濃くしたもの。衣住の彩色として、奈良時代に最もさかんに行われた。
うんげんさいしき[繧繝彩色] (名)白地に群青・緑青・朱などの色を用い、色と色との間をぼかした彩色法。奈良時代に起り、平安時代の中期に全盛をきわめた。
うんごぜんじ[雲居禅師] (人名)江戸時代初期の禅僧。土佐の人。はじめ、摂津の勝尾寺(かちをでら)にいたが、寛永十三年(一六三六)伊達侯が迎えて松島の瑞巖寺の住職とした。すこぶる奇行に富む。奥の細道「雄島が磯は地つづきて海に出でたる島なり。雲居禅師の別室の跡、坐禅石などあり」(「別室」を「把不住軒」と号した)
うんざ[運座] (名)多人数集まって一定の題または各人各題で俳句をつくり、互選する会合。文政年間に起る。
うんしつ[温疾] (名)急性熱病の総称。保元物語、三「温疾大切の間、古き湯屋を借りて常に下湯(おりゆ)をぞしける」(「下湯」は「入浴」)
うんじやう…ジヨウ[雲上] (名)くものうへ。(1)雲の上の方。雲表。(2)禁裏。朝廷。ここのへ。
うんじやう…ジヨウ[運上] (1)武家時代、公物を運送・上納すること。(2)武家時代の営業税。また、運送税。
うんず[倦んず] (動、サ変)名詞「倦み」と動詞「す」とが結合して音便となった語。
あきる。うんざりする。いとう。いやになる。竹取「御子たち・上達部、聞きて…うんじて皆帰りぬ」伊勢物語「あてなる女の尼になりて、世の中を思ひうんじて」
うんすゐ…スイ[雲水] (名)(1)雲と水と。(2)雲や水のゆくえ定まらぬように、諸所をめぐりあるく僧。行脚僧。
うんたんにつちふる[雲端に土降る] (句)風に巻きあげられた土砂が天から降る。奥の細道「雲端に土降る心地して、篠の中踏み分け踏み分け」(杜甫の詩「すでに風磴に入れば、雲端に土降る」に基づくもの)

うんちう…チユウ[運籌] (名)はかりごとをめぐらすこと。駿台雑話、四、渡辺番「材力弱ければ、将率は運籌決勝の略なく、士卒は先登陥陣の勇なし」

うんぴやうざつしウンピヨウ…[雲萍雑志] (書名)柳沢淇園の随筆集の名。四巻。天保十四年(1843)刊。著者の平生見聞したところを録したもので、文章は江戸時代の随筆としては、かなりすぐれている。
うんぽいろはしふ…シユウ[運歩色葉集] (書名)辞書。四巻。編者未詳。和語・漢語の普通のものを選び、これをいろは順に排列している。天文十七年(1548)成る。
うんめいでん[温明殿] (名)禁中殿舎の一。紫宸殿の東北、綾綺殿の東にある。この殿舎の中には、神鏡安置の室があり、それを「内侍所」または「賢所」という。

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