- か -
か[鹿] (名)「しか」の古名。万葉、[1-84]「秋さらば今も見るごと妻恋ひに鹿(か)鳴かむ山ぞ高野原の上 長皇子」
か[柯] (名)大きな枝。古事記、序文「柯を連ね穂をあはすの瑞」=大きな枝を連ねた木、または穂の一つに合わさった稲などの吉兆。
か[彼] (代)遠くの人や遠くの物を指す代名詞。他称・遠称の代名詞。かれ。あれ。万葉、[3-337]「憶良らは今はまからむ子泣くらむそのかの母もあを待つらむぞ 山上憶良」
古今集、十三、恋三「思へども人目つつみの高ければかはと見ながらえこそ渡らぬ」(「か」から「川」に言いかける)
(助詞)(1)副助詞。疑問または反語の意を表わす。霞か雲かはた雪か。たれか知るべき。(反語の場合には係り助詞となり、それを受けて結ぶ活用語は連体形である)(2)終助詞。詠嘆の意を表わす。「かも」「かな」に同じ。古今集、一、春上「あさみどり糸よりかけて白露を玉にもぬける春のやなぎか 僧正遍昭」
(節頭)おもに形容詞・動詞に冠して、口調をととのえるのに用いる。下の語の意味には、ほとんど変化を及ぼさない。か細し。か弱し。か黒し。か寄る。
(接尾)(1)「処」の意を表わす。「が」に同じ。ありか。(2)日数を数えるのに用いる。とをか。はつか。みそか。(3)事物を数えるのに用いる。一か所。一か月。三か月。(4)てんびん棒でかつぐ荷を数えるのに用いる。水三か。両掛一か。
が[我] (名)我意(がい)。「我を折る」「我を張る」 
が[賀] (名)祝賀。「紅葉の賀」「賀の歌」 
が[雅] (名)(1)みやびやか。(2)風流。風雅。
が   (助詞)(1)格助詞。主語を示す。平家、七、忠度都落「これは三位殿に申すべきことありて、忠度が参つて候ふ」(2)格助詞。「の」の意を表わす。君がため。梅が枝。(3)格助詞。「にある」の意を表わす。蝦夷が千島。(4)格助詞。「という」 の意を表わす。佐渡が島。鬼界が島。(5)接続助詞。逆態の接続をする。しばし、ためらひしがつひに行けり。(6)終助詞。願望の意を表わす。「がな」「がも」に同じ。「し」「も」の下につく。古今集、二十、東歌「かひがねをさやにも見しがけけれなく横をりふせるさやの中山」万葉、[20-4327]「我が妻も絵にかきとらむ暇(いつま)もが旅行くあれは見つつ偲ばむ 防人の歌」
(接尾)「処」の意を表わす。「か」に同じ。古事記、中「海が行けば腰なづむ」(陸(くが)は国処(くにが)の略)
かい[戒] (名)仏教で、人をいましめて、悪を防ぎ、非をとめるおきて。二戒・三戒・五戒・八戒・十戒などがある。平家、二、教訓「さすが子ながらも、内には五戒を保つて慈悲を先とし、外には五常を乱らず」⇒ごかい。
かい[蓋] (名)蔽うさまをすることにいう語。三蓋の松。
かい[解] (名)文字・文章などの意味をときあかすこと。
がい[我意] (名)わがまま。剛情。我(が)。「我意を通す」
かいうん[開運] (名)運が開けること。幸運に向かうこと。
かいかう…コウ[戒香] (名)戒を持する人の徳名が四方に伝わることの比喩にいう語。栄華、玉の台「忍辱のころも身に着つれば、戒香の匂ひしみかをり」
かいき[開基] (名)寺をはじめて建てること。また、その人。開山。
かいぐる[掻い繰る] (動、四)「かきくる」の音便。たぐる。保元物語、二「その時、義朝、手綱かいぐりうち向かひ」
かいぐらみどき (名)すっかり暗くなった時。日の暮れた時。古今著聞集、十七、変化「かいぐらみどきに、小六条にて 相撲をとらむとて」
かいけつ[開結] (名)お経のはじめの巻とおわりの巻と。古今著聞集、二、釈教「開結の二経は」かいげん[改元](名)天子の代がかわって、改めて元年を立てること。保元物語、一「明くる四月二十七日、改元ありて保元とぞもうしける」
かいけつ[開結] (名)お経のはじめの巻とおわりの巻と。古今著聞集、二、釈教「開結の二経は」かいげん[改元](名)天子の代がかわって、改めて元年を立てること。保元物語、一「明くる四月二十七日、改元ありて保元とぞもうしける」
かいげん[開眼] (名)新調の仏像・位牌・仏画などを供養し本仏の霊を迎えることをいう。もと、仏像・仏画に眼晴を点じて供養したことによる名称。天智紀、十年十月「内裏に於て百仏の眼を開きたてまつる」とあるのが、日本の文献の初出である。
かいこう[戒功] (名)仏の戒律をたもった功。平家、一、二代后の「天子に父母なし。われ十善の戒功に依つて、今万乗の宝位を保つ」
かいこす[掻い越す] (動、四)「かきこす」の音便。後ろの方に垂れている髪を肩越しに前の方へ振り越す。枕草子、九「中納言の君の、紅の張りたるを着て、くびより髪をかいこし給へりしかば」
かいこづむカイコヅム (動、四)「かい」は強めていう接頭語。つまづいて うずくまる。しゃがむ。古今著聞集、十四、遊覧「くぼみたる所に、雪の降り積みたるを知らせ給はで、殿下の御馬をうち入れさせ給ひたりければ、かいこづむところにて」
かいこむ[掻い込む] (動、四)「かきこむ」の音便。かかえこむ。謡曲、景清「一人を留めむことは案の打物、小脇にかいこんで、なにがしは平家の侍、悪七兵衛景清と名のりかけ」
かいさん[開山] (名)(1)「開基」に同じ。増鏡、四、三神山「前の世はいかなる人にてかおはしましけむと、ただ何となく聞こえたりけるに、かの泉涌寺の開山のひじりの名をぞ、たしかに仰せられたりける」(2)一宗・一派の祖師。開祖。(3)始めて業を興した人。
かいしき (名)食物を盛る器物に敷く木の葉。
かいしき (副)全く。全然。一切。かいもく。すべて。ことごとく。一代女、二、分里数女「さかづきさされ、酒はかいしき受けねども、誰気をつけて挨拶する人もなく」
かいしすゐがいましめカイシスイ…[介之推が戒め] (句)天の功をおのれの功となす者は、遂に亡びるという訓戒。神皇正統記、六、「関東の高時……天の功をぬすみて、おのが功と思へり。介之推が戒めも習ひ知る者なきこそ」(介之推は中国の春秋時代の人。■の文公に従って出亡し、各国を歴遊して十九年ののち、文公は国に帰って君となる。介之推も共に帰ったが、あまり優遇されなかった。かれは不満でならない。母と共に緜山に隠れた。文公が捜したが見つからない。文公は緜山を焼いた。介之推は、ついに焼け死んだ。「史記」による)
かいしのぎのたち[櫂鎬の太刀] (名)鎬を櫂のように平たく少し肉のあるように作った太刀。太平記、十九「三尺六寸のかいしのぎの太刀を抜き、かぶとの真向にさしかざし」
かいしのぎのたち[櫂鎬の太刀] (名)鎬を櫂のように平たく少し肉のあるように作った太刀。太平記、十九「三尺六寸のかいしのぎの太刀を抜き、かぶとの真向にさしかざし」
かいしゃく[介錯] (名)(1)世話をすること。また、その人。曾我物語、三「母も今を限りのことなれば、介錯するぞあはれなる」(2)切腹の時、傍にあって、切腹者の首を斬ること。また、その人。
かいしろ[垣代] (名)垣の代わりにする義。(1)とばり。孝徳紀、大化二年三月「その葬らむ時の帷・帳(かいしろ)等には帛布を用ひよ」(2)雅楽の青海波の舞い、または踏歌のときなどに、庭上や舞台上で舞人の装束を改めるのをおおい隠すために、その周囲に立ち並ぶ人人。三、四十人を要する。古今著聞集、十三、祝言「青海波の曲の間に、主上、時時御笛を吹かせ給ひけり。「垣代には、殿上人ども立ちけるに」
かいすます[かい澄ます] (動、四)「かい」は接頭語。清める。宇津保、俊蔭「ただ御手をかいすまして、神仏に平らかに御身身となし給へと申し給へ」(「身身」は「身二つ」で「分娩」のこと)
かいすむ[かい澄む] (動、四)静かになる。しんとする。讃岐典侍日記「院の中の、ひきかへ、かいすみ寂しげなる」
かいぞへ…ゾエ[介添] (名)(1)つきそって世話をする人。介錯。(2)女をとつがせる時に、添えてやる婢。(3)笠懸・犬追物などの時、射手を助ける人。
かいだい[解題] (名)書物の著者・内容・成立年月日・注釈書などの説明をすること。「国書解題」「漢籍解題」
かいだい[開題] (名)仏教で、経の題目の意味を解説して、その経の一部の大綱を提示することをいう。
かいだう…ドウ[海道] (名)(1)舟路。海路。(2)海辺の諸地方に通ずる街道の称。「東海道」「南海道」の類。「山道」の対。(3)「東海道」の略。
かいだうき…ドウ…[海道記] (書名)鎌倉時代の初期、後堀河天皇の貞応二年(1223)四月上旬、出家遁世の姿で京都を立ち東海道を下って鎌倉に到着するまでの紀行文。著者については、鴨長明説や源光行説などがあるが未詳。
かいたて[書立] (名)「かきたて」の音便。「物忌」「忌中」などと書いて、戸口に置くこと。宇治拾遺、五、以長物忌の事「御門のはざまにかいたてなどして」(ここでは「物忌」)
かいたて[掻楯・垣楯] (名)垣根を掻いたように、多くの楯を並べ立てること。また、その楯。義経記、四「磯には三十艘の杉舟に、掻楯をかき」平治物語、二「五条の橋をこぼちよせ、垣楯に掻いて待つところに」
かいだん[戒壇] (名)仏教で、戒めを授ける壇場。大鏡、七、太政大臣道長「この御寺に戒壇建てられて、御受戒あるべきなれば」
かいぢやうゑ…ジヨウエ[戒定慧] (名)仏道修行者の修むべき三徳の称。持戒(身の悪を防ぐ徳),禅定(心の散乱を静める徳)、智慧(惑いを去り真理をさとる徳)。太平記、二、三人僧徒関東下向事「むかし天竺のハラナイ国に、戒定慧の三学を兼備し給へる一人の沙門おはしけり」
かいつくろふカイツクロウ[掻い繕ふ] (動、四)「かい」は接頭語。つくろう。
かいつぶり[鳰] (名)「にほ」に同じ。
かいつらぬ[書い列ぬ] (動、下二)書きつらねる。
かいつらぬ[掻い列ぬ] (動、下二)「かい」は接頭語。連れだつ。
がいてい[愷悌] (名)やわらぎたのしむこと。古事記、序文「牛を放ち、馬を息(いこ)へて、愷悌して華夏に帰り」=戦争のために用いた牛を放ち、馬を休ませて、大喜びで都へ帰られ。
かいでん[皆伝] (名)武道・芸道などを、師匠からすっかり伝授されること。
かいともし[掻燈] (名)「かきともし」の音便。掻き上げる燈火の義。昔、宮中でともした油火のみあかしの称。徒然草、二十三段「夜の御殿のをば、かいともしとうよなどいふ、いとめでたし」=主上の御寝所の燈を命ずるには「かいともし、とうよ」などというが、それもまた、きわめて上品でいいことばだ。(「とうよ」は「とくよ」で、「速くせよ」の意)
かいどり[掻取] (名)(1)小袖の衣と同形に仕立てて、その上に打ち掛けて着る衣。(2)衣の裾を手にかかげ持つこと。掻取を着たかっこうに似ているのでいう。徒然草、百七十五段「引きしろひて逃ぐるかいどり姿のうしろで」(3)「どてら」のこと。古川柳「掻取を搗屋四五十搗いて脱ぎ」(「搗屋」は「こめつき屋」)
かいなづカイナズ[掻い撫づ] (動、下二)「かい」は接頭語。なでる。神代紀、上「おきなとおうなとあり。なかに、ひとりのをとめをすゑて、かいなでて泣く」
かいなで[掻撫] (名)「かきなで」の音便。ただ事物の表面を撫でるだけの義。うわっすべり。通りいっぺん。琴後集、十一、序「いたくも書きけるかな。世のかいなでのたぐひにはあらず」
かいねり[掻練・皆練] (名)(1)練った絹。「生絹」の対。(2)表も裏も共に紅の練絹の衣服。かいねりがさね。宇津保、俊蔭「赤朽葉の花紋繚の小袿、菊の摺裳、綾、掻練ひとかさね」大和物語「それなむ、いと濃き掻練着たりける」
かいねりがさね[掻練襲] (名)前項(2)に同じ。
かいのし[戒の師] (名)仏教で、戒を授ける師をいう。戒和尚。大鏡、七、太政大臣道長「院源法師、戒の師したまふ」
かいはさむ[掻い挾む] (動、四)「かい」は接頭語。「はさむ」に同じ。保元物語、二.]「御曹司は、弓をば胸に掻い挾み、大手を広げて何処まで何処までと追はれけるが」
かいはなつ[掻い放つ] (動、四)「かい」は接頭語。あけ放つ。開く。源氏、玉葛「渡り給ふ方の戸を、右近、かい放てば」
かいはなる[掻い離る] (動、下二)「かい」は接頭語。はなれる。宇津保、国譲、上「かいはなれて、黒き水桶の大きやかな る、四つ五つ重ねて」
かいばみ (名)「かいまみ」の転。のぞき見ること。ちらりと見ること。枕草子、三「女は寝起きたる顔なむいとよきといへば、ある人の局にゆきてかいばみして」
かいばむ (動、四)かいまみる。のぞきみる。栄花、浅緑「物のはざまより、かいばませ奉らばや」
かいひそむ[掻い潜む] (動、四)「かい」は接頭語。ひそむ。かくれる。しずまる。増鏡、四、三神山「かいひそみて群がり居つつ」
かいびやく[開白] (名)(1)法会または修法を始める際に、祈願の内容等を仏に告白すること。(2)法会の初日をいう。
かいびやく[開闢] (名)(1)天地が始めて開けること。(2)山を開くこと。謡曲、白髭「なんぞ、この山を惜しみ申すべき。はや、開闢し給へ」(3)はじめて、物を開くこと。古川柳「寒念仏いつも朝湯を開闢し」(4)「開白」に同じ。
かいぶ[海部・海賦] (名)織物・蒔絵などに海辺の様をあら わした模様。紫式部日記「裳は海部を織りて、大海のすりめにかたどれり」⇒すりめ。
がいぶん[涯分] (名)身の分際。太平記、[6]、正成天王寺未来記披見事「正成、不肖の身として、この一大事を思ひ立つて候ふこと、涯分を計らざるに似たりといへども」
がいぶん[涯分] (副)せいいっぱい。力いっぱい。謡曲、道成寺「あら、うれしや。涯分舞ひを舞ひ候ふべし」
かいほくじやくちゆう[海北若沖] (人名)江戸時代における国学者。大阪の人。僧契沖に師事して国学の研究に精進した。宝暦六年(1756)没、年七十五。主著、和訓類林。
かいまみ[垣間見] (名)垣の間からのぞき見る義。ちらりとみること。かきまみ。かいばみ。
かいまみる[垣間見る] (動、上一)「かきまみる」の音便。垣の間などからのぞき見る。すきみをする。かいまむ。竹取「闇の夜に出でても穴をくじり、かいま見まどひあへり」
かいまむ (動、四)前項に同じ。大和物語「さて、かいまめば我にはよく見えしかど、いと怪しきさまなる衣を着て、大櫛を面櫛(つらぐし)にさしかけてをり」
かいもちひ…モチイ[掻餅] (名)おはぎ。ぼたもち。宇治拾遺、一「僧たち、宵のつれづれに、いざかいもちひせむといひけるを、このちご心よせに聞きけり」(「心よせ」は「耳よりのこと」)
かいもと[垣下] (名)⇒えんが。
かいらうどうけつ…ロウ…[偕老同穴] (名)「偕老」は共に老いること。「同穴」は死して同じ墓穴に入ること。夫婦の契りの固いことをいう。「詩経」にある語。平治物語、一]「さて、紀伊の二位の思ひ浅からず、偕老同穴の契り深かりし入道には後れ給ひぬ」
かいらぎ[鰄・梅華皮] (名)(1)硬い粒状突起のある、さめ類の皮。粒の間が梅の花のように見える。刀剣の鞘・柄などの装飾に用いる。さめかは。かへらぎ。(2)かいらぎで飾った刀。
かいわぐむ (動、四)「かい」は接頭語。わがねる。わがね折る。宇治拾遺、十二「二つながら取りて、かいわぐみて脇に挟み」
かいをしやう…オシヨウ[戒和尚] (名)「かいのし」の同じ。
かうコウ[考] (名)なくなった父。先考。
かうコウ[長官] (名)「かみ」の音便。「かうの君」「かうの殿」
かうコウ[更] (名)一夜を五つに分ける称。初更(午後八時)、二更(午後十時)、三更(午後十二時)、四更(午前二時)、五更(午前四時)。「更たけて」などという。
かうあはせコウアワセ[香合せ] (名)物合せの一。種種の香をたいて、その香をかぎ当てる競技。
かういコウ…[更衣] (名)もと、天皇のころもがえをされる便殿の称。転じて、天皇のころもがえをつかさどる女官の称となり、さらに転じて、この女官が天皇の御寝に侍するに至り、女御の下に立つ妃となった。宇津保、俊蔭「后宮(きさいのみや)より始め奉りて、多くの女御・更衣まうのぼり給へるにも」源氏物語、桐壺「いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひたまひけるなかに」
かうがんコウ…[向顔] (名)面会。
かうかんたりコウ…[浩澣たり] (形動、タリ)(1)広大である。古事記、序文「智海浩澣として、ふかく上古を探り」(2)書物の巻数が多い。大冊である。大部である。
がうきゴウ…[拷器] (名)罪人を拷問する時に用いる具。各種のものがあった。徒然草、二百四段「犯人を笞(しもと)にて打つ時は、拷器によせて結ひつくるなり」
がうきゴウ…[江記] (書名)「江家次第」の別称。
かうぎはコウギワ[髪際] (名)髪の生えぎわ。水鏡、中「鬼、しわびて、かうぎはを放ち落として逃げ去りぬ」
かうけコウ…[高家] (名)(1)武家の豪族中、家柄の高いものの称。平家、九、樋口被レ斬「党も高家も、七条・朱雀・作道・四塚へ馳せ向かふ」(2)徳川幕府の職名。朝廷への使い、城中の諸礼式、伊勢神宮・日光廟代拝などをつかさどる職。鎌倉・室町時代の高家から選ばれた。吉良家・武田家 畠山家など二十六家。折り焚く柴の記、中「このたびは、高家の人人をしてその御使ひとなされたり」
かうけコウ…[高家] (名)(1)武家の豪族中、家柄の高いものの称。平家、九、樋口被レ斬「党も高家も、七条・朱雀・作道・四塚へ馳せ向かふ」(2)徳川幕府の職名。朝廷への使い、城中の諸礼式、伊勢神宮・日光廟代拝などをつかさどる職。鎌倉・室町時代の高家から選ばれた。吉良家・武田家 畠山家など二十六家。折り焚く柴の記、中「このたびは、高家の人人をしてその御使ひとなされたり」
がうけゴウ…[豪家] (名)(1)豪族の家。権勢のある家。落窪物語、三「豪家をわづらはしがりて」(2)他の威を借りること。頼み。源氏、葵「大将殿をば豪家には思ひ聞ゆらむ」
がうけしだいゴウ…[江家次第] (書名)平安時代の学者大江匡房の著。朝廷の年中行事・公事典礼などをしるしたもの。もと二十一巻。うち第十六・第二十一の両巻は早く散佚して伝わらない。江記。
かうけちコウ…[纐纈] (名)染模様の法。今の板締めの類。太平記、六、関東大勢上洛事「纐纈の鎧・直垂に、精好の大口」
かうごコウ…[香壺] (名)香・薫物(たきもの)を入れておく壺。
かうざくコウ…[警策] (名)すぐれていること。抜群。宇津保、俊蔭「かの御饗(みあるじ)のいとになく警策なりつれば」源氏、東屋「御心はいみじくかうざくに、おもおもしくおはしける」⇒けいさく(警策)
かうさつコウ…[高札] (名)武家時代に、法度・掟・禁制等の文句を書いて人目をひく処に掲げた札。たかふだ。制札。
かうしこう…[嚆矢] (名)事のはじめ。昔、戦争を始めるに当たり、まず嚆矢(鏑矢)を射たことに起こる語。
かうじコウ…[柑子] (名)みかん類の総称。
かうじコウ…[勘事] (名)勘当。勅勘。拷問。宇治拾遺、二「身を動かさぬやうにはりつけて、七十度のかうじをへければ、背中は紅の練単衣を水にぬらして着せたるやう」(拷問)
かうじコウ…[講師] (名)(1)歌会また歌合せの時、歌の披講式に歌を読み上げる役。(2)法会の時、説教をする僧。(3)昔、諸国の国分寺にいて、仏教の講読をした僧官。土佐日記「二十四日、講師、うまのはなむけに出でませり」
かうじゆ[絳樹] (人名)昔の中国の美女の名。太平記、一、立后事「毛■・西施もおもてを恥じ、絳樹・青琴も鏡を掩ふほどなれば」
かうしんコウ…[庚申] (名)(1)千支の一。かのえさる。(2)「庚申待」の略。枕草子、五「今は歌のこと、思ひかけ侍らじなどいひてあるところ、庚申せさせ給ひて」
かうしんまちコウシン…[庚申待] (名)庚申の日の行う民俗祭。祭の対象は、猿田彦の神または仏説の青面金剛。庚申。
かうずコウズ[勘ず] (動、サ変)罪状を取り調べる。拷問する。
かうぜいだいなごんコウ…[行成大納言] (人名)平安時代の人。藤原行成。名高い能書家で、小野道風・藤原佐理と相並んで「三蹟」といわれている。徒然草、二十五段「行成大納言の額、兼行が書ける扉、あざやかに見ゆるぞあはれなる」
かうせきコウ…[行跡・行迹] (名)品行。行状。振舞。徒然草、二 百四十二段「名に二種あり。行跡と才芸とのほまれなり」
かうぜちコウ…[講説] (名)講義。かうせつ。源氏、鈴虫「かうぜちの折は大方の鳴りをしづめて、のどかに物の心を聞きわくべきことなれば」
こうせつコウ…[講説] (名)講義。かうぜち。
かうぞめコウ…[香染] (名)黄色に赤みのある染色。平家、二、座主流し「香染の御衣の袖を絞りもあへさせ給はねば」
かうのたてのもりコウ… (地名)(1)山城の国、京都府綴喜郡香達の森。蜻蛉日記「かうたての森に車をとどめて」(2)山城の国、愛宕郡の御蔭山または下鴨の森という。枕草子、六「もりは…かうたてのもり・うきたのもり」
がうだんせうゴウ…シヨウ[江談抄] (書名)三巻。大江匡房の撰。長治―嘉承(1104-1107)のころ成る。大江家の人人の談話を筆録したもので、公事・雑事・仏事などのこと、二百六十条などを収めている。
かうちやうコウチヨウ[綱丁] (名)昔、調庸等の物を運ぶ人夫の長。宇治拾遺、一「この鮭のかうちやう、まさしくわせんじやう取りて懐に引き入れつといふ」⇒わせんじやう。
かうぢやうコウジヨウ[定考] (名)「上皇」の音に似ているのを忌んで、昔から倒さに読む。六位以下の官吏について、その行状・成績等を考えて官爵を賜わる儀式。
かうづかコウズカ[髪束] 「かみづか」の音便。たぶさ。もとどり。古今著聞集、十六、興言利口「片手にてかうづかをとりて死ぬばかり打ちてけり」太平記、三十三、新田左兵衛義興自害事「みづからかうづかをつかみ、おのが首を後ろへ折り」
がうなゴウナ (名)やどかり。寄居蟹。寄居虫。枕草子、十二「日ごろはがうなのやうに人の家に尻をさし入れてなむさぶらふ」方丈記「がうなはちひさき貝を好む」
かうながコウ…[髪長] (名)「かみなが」の音便。女房詞で、「僧」をいう。髪の短いのを反対にいう。
かうなぎコウ…[巫] (名)「かみなぎ」の音便。みこ。かんなぎ。
かうぬしコウ…[神主] (名)「かみぬし」の音便。かんぬし。
がうのそつゴウ…[江師] (人名)大江匡房の別称。がうそち。がうそつ。匡房は大宰権師であったのでいう。。
かうのとのコウ…[頭殿・督殿・守殿] (名)「かう」は「かみ」の 音便。左右馬頭・御門督・兵衛督・国守等の尊称。
がうはつゴウ…[毫髪] (名)髪の毛一筋の義。ごく少し。きわめてわずか。 駿台雑話、一「毫髪の疑ふべきことなき」
かうはんコウ…「浩繁」 (名)非常に多いこと。駿台雑話、五「先秦両漢の書とても、巻帙浩繁にして」
かうひコウ…[考■] (名)なくなった父母。折り焚く柴の記、中「考■に喪するが如くなどいふ事を聞きし事はあれど」
かうふくコウ…[降服] (名)(1)服をといて罪を謝すること。(2)正服を脱いで喪に服すること。
かうふくコウ…[降服] (名)仏教で、仏の通力により、怨敵・悪魔などを伏せしずめること。
かうぶりコウブリ[冠] (名)(1)かんむり。(2)くらい。位階。(3)特に五位に叙せられること。五位相当の冠を賜わるのでいう。竹取「この女、もし奉りたるものならば、翁にかうぶりを、などか賜ばせざらむ」枕草子、一「うへにさぶらう御猫は、かうぶり賜はりて、命婦のおもととて、いとをかしければ」(4)元服。加冠。源氏、桐壺「かうぶりし給ひて、御休み所にまかで給ひ」(5)年祿。栄花、玉村菊「上の御前の、かく后とひとしき位にて、よろづのつかさ・かうぶりを得させ給ひなどして」
かうぶんコウ…[告文] (名)願文。かうもん。神皇正統記、五「土御門の院、阿波の国にて告文を書かせまして、石清水の八幡宮に啓白させ給ひけり」
かうぼりカウ… (名)こうもり。かはほり。無名草子「源氏などうせ給ひて、末の世に、鳥なき島のかうぼりとかやして」
かうみやうコウミヨウ[高名] (名)(1)名高いこと。有名。徒然草、百九段「高名の木のぼりといひし男」更級日記「高名の栗駒山にはあらずや」(2)武功をたてること。平家、九、一二の懸け「保元・平治二箇度のいくさに、さきがけて高名したる武蔵の国の住人、平山の武者所、季重となのって」
かうみやうコウミヨウ[交名] (名)連名。平家、九、六箇度合戦「射手の交名記(しる)いて、福原へこそ参らせられけれ」
かうめいコウ…[高名] (名)かうみやう(1)に同じ。大鏡、五、太政大臣為光「かうめいの弘高がかきたる楽府の御屏風」
かうもんコウ…[衡門] (名)(1)冠木門。謡曲、羅生門「そのたけ衡門の軒にひとしく、両眼月日の如くにて」(2)転じて、隠者の宅。また、貧■の家。
かうもんコウ…[告文] (名)「かうぶん」に同じ。
がうもんゴウ…[拷問] (名)罪人に犯行を告白させるために、肉体に苦痛を与えつつ問いただすこと。
かうやコウ…[高野] (地名)高野山。紀伊の国、和歌山県伊都郡の南部にある。弘法大師の開山、金剛峰寺のある所。枕草子、九「寺は、つぼさか・かさぎ…高野は弘法大師の御すみかなるがあはれなるなり」(ここでは「金剛峰寺」をいう)
かうやコウ…[厠] (名)「かはや」の音便。便所。
かうやうコウヨウ[斯様] (名)「かくやう」の音便。このよう。かよう。土佐日記「元日……芋もあらめも歯固めもなし。かうやうの物なき国なり」源氏、桐壺「かうやうのをりは、御遊びなどさせ給ひしに」蜻蛉日記「かうやうなる程に、かのめでたき所には子産みしより」(この「なる」は助動詞「なり」の連体形で、形容動詞の語尾ではない)
かうやだいしコウ…[高野大師] (人名)弘法大師の別称。徒然草、百七十三段「小野小町がこと、きはめてさだかならず。……その書、清行が書けりといふ説あれど、高野大師の御作の目録に入れり」⇒くうかい。
かうらコウ…[高良] (神社名)石清水八幡宮の摂社。高良明神。高良の社。上下高良に分かれ、上高良は武内社ともいい、本社内殿の西隅にあり、下高良は普通に高良社といい、男山山麓にある。上下高良は一般に武内宿■を祀ると信ぜられているが、一説には藤原連保を祀るという。徒然草、五十二段「仁和寺にある法師……極楽寺・高良など拝みて、かばかりと心得て帰りにけり」(この場合のは「下高良社」)⇒せつしや(摂社)。
かうらいべりコウ…[高麗縁] (名)白地の綾に雲形・菊花などの模様を黒く織り出した畳のへり。貴族の邸宅や社寺などに用いた。枕草子、十「また、高麗縁の畳のむしろ、青うこまかに縁の紋あざやかに、黒う白う見えたる」
かうらうコウロウ[郊労] (名)都城外まで出迎えて来者をねぎらうこと。折り焚く柴の記、中「大阪・京および郊労の御使ひら、みな執政の人人にはあらざりしかば」
かうらんコウ…[高欄] (名)勾欄・拘欄・鉤欄などとも書く。(1)宮殿・堂舎などのまわり、橋・廊下などに両側に設けられたらんかん・てすり。更級日記「あのをのこ、こちよれと召しければ、かしこまりて、勾欄のつらに参りたりければ」(2)椅子の手かけ。(3)とじきみ。
がうりきゴウ…[強力・剛力] (名)(1)力の強いこと。また、その人。(2)修験者などの荷を負うて従う奴僕。謡曲、安宅「あの強力が負ひたる笈を、そと御肩に置かれ」
かうりようのくいコウ…[亢龍の悔] (名)「亢龍」は、天にのぼりつめた龍。のぼりつめた龍は、もう上昇の望みはなく、やがて下降の悲運があるだけである。人も、あまり尊貴を極めると敗亡の悔があるとの意。「易」の乾卦の上九に「亢龍有レ悔」とある。徒然草、八十三段「亢龍の悔ありとかやいふこと侍るなり。月満ちては欠け、物盛りにしては衰ふ」
かうりんコウ…[降臨] (名)神仏などの天降ること。「天孫降臨」
かうれいコウ…[伉儷] (名)「伉」は、つれあい、「儷」は、たぐい。夫婦。配偶。梧窓漫筆、三下「正行の意は燕の幕に倚るが如き身にて、伉儷を求むべきにあらずとて」
かうろほうのゆきコウ…[香炉峰の雪] (句)白楽天の詩「遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聴き、香炉峰の雪は簾をかかげて看る」の中の一句。枕草子、十一「少納言よ、かうろほうの雪はいからむと仰せられければ、みかうしあげさせ、みす高くまきあげたれば、笑わせ給ふ」=(雪の降った朝、皇后が)清少納言よ、香炉峰の雪はどうだろうとおっしゃたので、わたくしは、人に御格子を上げさせて、自分で御簾を高く巻き上げたところが、(皇后は)お笑いになった。⇒ゐあいじのかね。
かおん[加音] (名)国語学用語。複合語を作る時、音の加わること。また、その音。「やか(八日)」「むか(六日)」を「やうか」「むいか」という類。また、その「う」「い」の類。
かかい[加階] (名)位階の昇進すること。宇津保、国譲、下「七日になりて、人人加階したまふ」
かかいせう…シヨウ[河海抄] (書名)「源氏物語」の注釈書。二十巻。吉野時代の国文学者四辻義成の著。貞治年間(1361-1367)足利義詮の命によって撰進したもの。北村季吟の「湖月抄」以前のものとしては最もすぐれたものである。
かかぐる (動、四)「掻き探る」の略転。すがる。たどる。宇治拾遺、十「柱よりかかぐり降るる者あり」(すがって降りる)落窪物語「我は知らじ、ともかくもせよと放ち給ひしかばこそ、典薬も何もかかぐり寄りたりけめ」(すがり寄る)枕草子、九「碁をうつに、さばかりと知らで、ふくつけくは、またこと所にかかぐりありくに「=碁を打つのに、それほどに取られる所があるとも知らず、欲の深い者は、また外の
所をさがしまわるが。
ががくれう…リヨウ[雅楽寮] (名)昔、宮中で舞楽・音曲のことをつかさどる役所。治部省に属する。うたのつかさ。うたづかさ。うたまひのつかさ。所をさがしまわるが。
かがち (名)(1)すりばち。(2)ほおずき。⇒あかかがち。(3)へび。
かがづらふカカズラウ (動、四)(1)かかりあう。竹取「かぐや姫……耳にも聞きいれざりければ、いひかかづらひて帰りぬ」(ことばでかかりあう。ぐずぐず言う)(2)たずさわる。源氏、 帯木「受領といひて、人の国の事にかかづらひいとなみて」(3)つたわる。枕草子、四「雪の山にのぼり、かかづらひありきて」源氏、榊「御帳の中にかかづらひ寄りて」
かがなく[かが鳴く] (動、四)「かが」と鳴く。「かが」は擬声語であろう。万葉、[14-3390]「つくばねにかがなく鷲の音(ね)のみをか鳴き渡りなむ■ふとはなしに」
かがなふカガナウ[僂ふ] (動、下二)折る。指折り数える。俊寛僧都島物語、一「かがなふれば、はや五年(いつとせ)以前」かがなべて (句)前項の語と同系統の「かがなぶ」という下二段活用の動詞があったのであろう。「かがむ」という下二段活用の動詞も同系統で、いずれも「折る」「まげる」などの意がある。従って「かがなべて」は、実は副詞というよりも、「かがなぶ」の連用形に助詞「て」が付いたものと見るべきである。「指折り数えて」の義。「日日並べて」などの説は誤りであろう。古事記、中「かかなべて、よにはここのよ、ひにはとをかを」=指折り数えてみると、夜は九夜、日は十日になりますよ。
かがのちよ[加賀の千代] (人名)江戸時代の女流俳人。加賀の松任の表具師福増屋六兵衛の女。福岡氏に嫁ぐ。俳諧を好み、はじめ支考に、のち盧元坊・乙由に師事。二十五歳で夫を失い、翌年剃髪して法名を素園と号し、俳諧および絵画の道に精進した。「朝顔につるべとられて貰ひ水」の句は人口に膾炙している。安永四年(1775)寂、年七十二。遺著、千代尼句集。
かかのむ (動、四)「かか」は「がぶがぶ」の擬声語。がぶがぶと飲む。祝詞、六月晦大祓「はやあきつ姫といふ神、待ちかかのみてむ。斯くかかのみてば」
かがはかげきカガワ…[香川景樹] (人名)江戸時代末期の歌人。桂園と号した。因幡の人。京都に住む。小沢芦庵の影響をうけ、「古今和歌集」を重んじ、歌の調べを高調した。その流派を「桂園派」と称し、明治初期まで歌壇に大きな勢力を占めた。天保十四年(1843)没、年七十五。主著、桂園一枝・古今和歌集正義・新学異見。
かがひカガイ[■歌・■歌会] (名)「うたがき」東国語。「うたがき」に同じ。万葉、[9-1759][鷲の住む、筑波の山の、もはきづの、その津の上に、率(あとも)ひて、をとめ・をとこのゆきつどひ、かがふかがひに、ひとづまに、われもまじらむ、わが妻に、ひとも言問へ」
かがふカガウ (動、四)「かがひ」を行う。前項参照。
かがふカガウ[闘ふ] (動、四)争う。古事記、下「かく歌ひて、闘(かが)ひ明かしてあらけましぬ」=このように歌って、一晩中争って夜を明かし、おのおの退散した。
かがふり[冠] (名)「かがふる」の連用形から転じた名詞。「かうぶり」に同じ。古事記、上「次に投げ棄(う)つる御かがふりになりませる神の御名は、あきぐひのうしのかみ」
かがふる (動、四)「か」は接頭語。「かぶる」義。(1)頭にいただく。かぶる。万葉、[7-1224]「大葉山霞かがふりさ夜ふけてわが船泊(は)てむ泊まり知らずも」(2)「受ける」の敬語。こうむる。古事記、下「わがおほきみの深きみうつくしみをかがふれば、何の思ふことかあらむとまをし給ひき」
かがみ[白■・羅摩] (名)「ががいも」の呼称。山野に自生するつるくさ。その莢は船の形をしている。古事記、上「大国主神、出雲のみほのみさきにます時に、波の穂より天のかがみの船に乗りて、ひむし(さざき)の皮をうつ剥ぎに剥ぎて衣服(きもの)として、より来る神あり」
かがみ[鏡] (地名)近江の国、滋賀県蒲生郡鏡山村大字鏡の地。旧鎌倉街道の一駅。鏡の宿。十六夜日記、「今宵は鏡といふ所に着くべしと定めつれど、暮れ果てて行き着かず。守 山といふ所にとどまりぬ」
かがみくら[鏡鞍] (名)前後の外面に金・銀または胴を薄く張って鏡のように光って見える鞍。平家、七、倶利伽羅落「やがて、この馬に鏡鞍置いて、白山の社へ神馬に立てらる」
かがみしかう…シコウ[各務支考] (人名)江戸時代の俳人。美濃の人。蕉門十哲の一人。特に、俳論・俳文にすぐれていた。享保十六年(1731)没、年六十六。主著、俳諧十論・笈日記。
かがみなす[鏡なす] (枕詞)「なす」は「のよう」の義。「鏡のよう」に常に見る意から「み」「みつ」に、また、鏡は大切にするものの意から「思ふ」に冠する。万葉、[2-196]「飛ぶ鳥の……鏡なす見れども飽かに」同、[4-509]「たわやめの匣(くしげ)に乗れる鏡なす見津の浜辺に」同、[13-3263]「こもくりの……鏡なす我が思ふ妹」
かがみのいけ[鏡の池] (地名)美濃の国、岐阜県各務郡各務に麻■の池というのがある。これか。枕草子、三「池は……かがみのいけ・さやまの池」
かがみのおほきみ…オオ…[鏡王女] (人名)近江朝時代の女流歌人。藤原鎌足の夫人。「万葉集」に短歌五首を収む。生没年未詳。
かがみのしゆく[鏡の宿] (地名)⇒かがみ(鏡)。
かがみのやま[鏡の山] (地名)歌枕の一。近江の国、滋賀県蒲生郡鏡山村に西境にある山。麓の鏡部落は昔の鏡の宿。古今集、二十、神あそび歌「近江のや鏡の山をたてたればかねてぞ見ゆる君が千とせば 大友黒主」太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「風に露散る篠原や、篠分くる道を過ぎ行けば、鏡の山はありとても、涙にくもりて見え分かず」
かがみやま[鏡山] (地名)(1)前項に同じ。(2)豊前の国、福岡県田川郡香春村の東北にある山。この村の鏡山部落に神功皇后を祀る鏡山神社がある。万葉、[3-311]「梓弓引き豊国の鏡山見ず久(ひさ)ならば恋ほしけむかも」
かがみる[鑑る] (動、上一)「かんがみる」に同じ。かえりみる。ならう。明らかにみる。撰集抄、一「三世の仏たち、わが二つなき心をかがみたまひて」
かがやかし[赫し・耀し] (形、シク)恥ずかしい。きまりがわるい。まばゆい。源氏、帚木「かがやかしからずいらへつつ」
かがやかしげ[赫しげ] (名)恥ずかしそう。きまりわるそう。源氏、橋姫「消えかへり、かがやかしげなるも、かたはらいたけれど」
かがやかしさ[赫しさ] (名)恥ずかしさ。きまりわるさ。琴後集、十、記「おともにさぶらふ人人は、あまりくまなきがかがやかしさに、みじろぎつつましきまでぞ覚えける」
かがよふカガヨウ[赫ふ・耀ふ] (動、四)(1)かがやく。きらめく。万葉、[11-2642]「ともしびのかげにかがよふうつせみの妹がゑまひしおもかげに見ゆ」(2)いばっている。枕草子、二 「にくきもの…わかき男どもの、ものゆかしう思ひたるなど、ひきのせても見よかし。すき影にただ一人かがよひて、心一つにまもりゐたらむよ」=若い男どもの物を見たがっている者などを、一緒に乗せてみるがいいよ。車の簾からの透き影にただ一人でいばっていて、自分の心一つで見つめているだろうよ(にくらしいではないか)。
かからふカカラウ[関らふ・触らふ] (動、四)「かかりあふ」の約。関係する。(2)触れる。
かがらふカガラウ[誂らふ] (動、四)「かかりあふ」の転か。また、「かがふ」の転か。語りあう。いどみあう。万葉、[9-1740]「春の日の……わたつみの神の女に、たまさかに、い漕ぎ 向かひ、あひかがらひ、こと成りしかば、かき結び、常世に至り」(よみかたに異説あり)
かからまし (句)「斯くあらまし」の約。こうであろう。こうでありたい。
かかり (名)(1)よりかかること。頼るところ。十訓抄、上「われに従ひし者ども十が九は滅び失せぬ。城もなし、かかりもなし」「親がかり」(2)つくりかた。かたち。構え。狂言、鐘の音「大門のかかりなどは、誠に今までの寺寺とは、格別なものでござる」(3)攻めること。「車がかりの陣」(4)蹴鞠の場。また、そこに植えてある木。(5)風情。謡曲、鉢の木「枝をため、葉をすかして、かかりあれと植ゑ置きし」(6)能楽で、楽を奏し始める時、緩急気分をととのえること。(7)その他の多くの意味は、現代語の内容とほぼひとしい。
かかり (動、ラ変)「斯くあり」の約。こうである。「とあれば、かかり」
かがり[篝] (名)「かがりび」の略。
かかりば (名)垂髪の額髪が頬の両側に垂れかかっているもの。落窪物語「かしらつき、髪のかかりば、いとをかしげなり」
かがりび[篝火] (名)夜中の警衛または漁などの際、周囲を照らすために焚く火。かがり。
かがりびの[篝火の] (枕詞)篝火の火影から「かげ」に冠する。古今集、十一、恋一「篝火のかげとなる身のわびしきは流れて下にもゆるなりけり」
かがりぶね[篝舟] (名)篝火をたいて漁をする船。
かかりむすび[係結] 文法用語。係り助詞(ぞ・なむ・や・か・こそ)を受けて文を結ぶ場合の法則。「ぞ・なむ・や・か)を受けて文を結ぶ場合の活用語は連体形。「こそ」を受 けて文を結ぶ場合の活用語は已然形。⇒くわつようご。
かかる[懸かる・掛かる] (動、四)(1)たよる。世話になる。養われる。宇津保、俊蔭「荒れたる家に、ただひとり住みて、まろが参らする物にかかりたまへる母」(2)よりかかる。もたれる。源氏、御法「空を歩む心地して、人にかかりてぞおはしましける」(3)(狐などが)つく。(神が)のりうつる。崇神紀、七年二月「この時に、やまとととひももそ姫の命に神かかりて」(4)(心などに)つく。ちらつく。万葉、[5-802]「瓜食めば子ども思ほゆ、栗食めばましてしのばゆ、いづくより来たりしものぞ、まなかひに、もとなかかりて、安寝(やすい)しなさぬ 山上憶良」=(村人たちの持って来てくれる)瓜を食べると(大和に残してある)子どものことが思い出される。栗を食うと、なおさら思い出される。(いったい、子供というものは)どこから縁があって来たものであろうか、目の前に、わけもなく、ちらついて、やすやすと眠ることもできない。(5)まきぞえをくう。連座する。孝徳紀、大化五年三月「甲戌、蘇我山田大臣にかかりて、ころさるる者…すべて十四人」(6)その他多くの意味があるが、現代語の内容とほぼひとしい。
かかる (連体詞)このような。こんな。「かかること」「かかる人」「かかる時」(もと「かかり」の連体形)
かがる[皹る] (動、四)あかぎれがきれる。ひびがきれる。万葉、[14-3459]「稲つけばかがるあが手を今宵もか殿の若子(わくご)が取りて嘆かむ」(女中の作であろう)
かかれど (接続詞)「かくあれど」の約。こうであるが。
かかれば (接続詞)「かくあれば」の約。こうであるから。
かき (接頭)下の語の意味を強める語。かきくらす。かきくもる。かきこもる。かき消す。かき敷く。
がき[餓鬼] (名)仏教で、餓鬼道に住し、常に飢渇に苦しむ亡者をいう。
かきいろ[柿色] (名)柿の実の皮の色。また、渋柿で染めたような赤茶色。たいしゃ色の濃いもの。赤黒い色。
かきかぞふ…カゾウ[かき数ふ] (枕詞)「かき」は接頭語。「数ふ」に同じ。一つ二つと数えることから「二」「三」「四」「五」「六」「七」「八」などに冠する。万葉、[17-4006][かきかぞふ二上山に]以下、例略。
かきがひ…ガイ[牡蠣貝] (名)かき。かきの貝がら。 ⇒あひねのはま。
かきこゆる[垣越ゆる] (枕詞)「犬」に冠する。万葉、[7-1289][垣越ゆる犬呼びこして鳥猟(とがり)する君青山と]
かきすゑやかた…スエ…[■据屋形] (名)小舟の上にとりつけた簡単な屋形。また、その舟。かきすゑやかたぶね。
かきた[垣田] (名)鳥獣などの害を防ぐために、周囲に垣をめぐらした田。神代紀、上「一書に曰く、日神尊、天の垣田を御田となしたまふ」
がきだう…ドウ[餓鬼道] (名)死んで餓鬼に生まれる業因を作った者の行くべき世界。「道」は世界の義。平家、灌頂「これまた、餓鬼道の苦しみとこそ覚えさぶらひしか」⇒がき。
かきつばた (名)あやめに似た植物。紫色の花をつけるのが普通であるが、白いものもある。伊勢物語「その沢にかきばた、いと面白く咲きたり」
かきつばた(枕詞)咲きにおうの意から「にほふ」に、また、その咲いている沼・沢の意から
かきつばた (枕詞)咲きにおうの意から「にほふ」に、また、その咲いている沼・沢の意から「さき沼」「さき沢」に冠する。万葉、[11-2521]「かきつばたにほへる君を」同、[11-2818] 「かきつばたさき沼(ぬ)の菅を」同、[12-3052][かきつばたさき沢に生ふる菅の根の]
かきのころも[柿の衣] (名)柿色の衣。山伏などが着る法衣。
かきのもとのしゆう[柿の本の衆] (名)鎌倉時代の初期に起った語で、優雅に表現する連歌の一派の称。柿本人麻呂にあやかる意。「くりのもとのしゆう」の対。
かきのもとのひとまろ[柿本人麻呂] (人名)万葉第一位の歌人。「歌聖」と呼ばれる本邦第一の歌人。明らかにその作とされるもの、長歌十六首、短歌六十三首。自然を題材としたものもあるが、多くは人事を題材とし、特に長歌は気■・情熱の力強さ、格闘の雄大、修飾の豊麗をもってすぐれている。持統・文武両朝に仕え、奈良■都の少し前に石見の国で没している。生没年不詳。
かきは[堅磐] (名)「堅い岩」の義。永久に変わらぬことを祈る語。祝詞、祈年祭「すめみまの命の御代を、た長の御代と、かきはにときはに斎(いは)ひまつり」
かきほ[垣穂] (名)「ほ」は接尾語。「垣」に同じ。
かきほなす[垣穂なす] (枕詞)「なす」は「のよう」の義。垣のように隔てる意から「人言」「人の横言」に、また、人垣のようなとの意から「人」に冠する。万葉、[4-713]「垣穂なす人言聞きてわがせこが」同、[9-1793]「垣穂なす人の横言繁みかも」同、[11-2405]「垣穂なす人は言へどもこまにしき紐ときあけし君ならなくに」
かきまみる[垣間見る] (動、上一)垣の透き間から見る。かいまみる。のぞく。古事記、上「その言(こと)をあやしと思ほして、そのまさかりにみ子産み給ふかきまみたまへば」
かきむだく[かき抱く] (動、四)「かき」は接頭語。「抱く」に同じ。万葉、[14-3404]「かみつけのあそのまそむらかきむだき寝れど飽かぬを何(あ)どかあがせむ」
かきかぎやうへんかくくわつようカギヨウ…カツヨウ[カ行変格活用] (名)文法用語。カ行において、不規則に活用する活用。動詞「来」の一語だけである。カ変。「こ・き・く・くる・くれ・こよ」と活用する。ただし、平安時代ごろまでは、その命令形は「こ」であった。竹取「みやつこまろ、まうでこ」更級日記「いづら、ねこは。こちゐてこ」
かぎろひカギロイ[陽炎] (名)(1)かげろう。古事記、下「はにふざか、わがたちみれば、かぎろひの、もゆるいへむら、つまがいへのあたり」=自分が埴生坂に立って眺めると、陽炎の燃えあがる一群の部落がある。それは、自分の妻の家あたり(らしい)。(従来「火気」などと解していたが無理である)(2)きらきらする日光。あかつきの日の光。万葉、[1-48]「ひむがし野(の)にかぎろひの立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ 柿本人麻呂」
かぎろひのカギロイ… (枕詞)(1)陽炎は春に立ちのぼるので「春」に、また、燃えるので「もゆ」に冠する。万葉、[6-1047]「かぎろひの春にしなれば」同、[9-1804]「かぎろひの心燃えつつ」(2)蜉蝣の夕べを知らぬ短い命から「夕」に冠する。平賀元義歌集「かぎろひの夕霧はれて」
かく (動、四)結ぶ。結う。武烈紀、仁賢天皇十一年八月「八重の組垣、かかめども」=八重の組垣を結んだにしても。
かく (動、下二)兼ねる。落窪物語「中の君の、御男の左少弁・越前守なども、みなこの殿の家司かけたれば」
かく[斯く] (副)このように。古事記、上「あな、にやし、えをとこをと、かくのりたまひ終えて、みあひして」
かぐ[下愚] (名)至っておろかなこと。暗愚。低脳。徒然草、八十五段「この人は下愚の性移るべからず」=このような人は、いわゆる下愚の性というもので、(いくら修養したからとて、賢人の域に)移るということはできない。(「論語」陽貨篇「上智と下愚とは移らず」に基づくもの)
かぐ[加供] (名)供養に加わること。大鏡、七、太政大臣道長「公家よりはじめ、藤氏の殿ばら、みな加供し給ふ」
がく[楽] (名)(1)音楽。(2)雅楽。源氏、紅葉賀「例の楽の船ども漕ぎまはりて」(3)楽譜。讃岐典侍日記「夜のおとどの壁に、あけくれ慣れて覚えむと、おぼしたりし楽を書きて」
かくごしや[恪勤者] (名)昔、親王・摂関家などに置いた■従。雑役・膳部などに奉仕する者。「さむらひ」とも「こざむらひ」ともいう。のち、幕府にも置く。古今著聞集、十二、博奕「その中に、いとまづしき恪勤者一人あり。」平家、一、鵜川合戦「成景は京の者、宿根賤しき下■なり。こんでい童もしは恪勤者などにてもやありけむ」
かくさふカクサウ[隠さふ]  (動、四)「隠す」の延音。「隠す」に同じ。万葉、[11-2437]「沖つ藻を隠さふ波の五百重波千重しくしくに恋ひわたるかも」
がくし[学士] (名)東宮坊の職員。経書を講説する者。大宝令によると二人置く。宇津保、俊蔭「殿上ゆるされて東宮の学士仕るべき由仰せらるるほどに」
かくしやう…ショウ[鶴氅] (名)鶴の羽で作った衣。謡曲、鉢の木「雪は鵝に似て飛んで散乱し、人は鶴氅を着て立つて徘徊す」(白楽天の詩の句)
がくしやう…ショウ[学生] (名)大学寮および国学の生徒。のち、大きな寺で仏典を修学する僧をもいった。宇津保、俊蔭「学生のをのこども、才あるをのこどもも、手まどひして」
かぐつちのかみ[迦具土の神] (神名)火の神。「かぐ」は「かがやく」、「つ」は「の」、  「ち」は「霊」の義。日本神話によると、いざなみのみことは、この神を産んで、からだを焼かれて死んだ。
かくとだに (句)こうとさえ。後拾遺集、恋一「かくとだにえやはいぶきのさしもぐささしも知らじな燃ゆる思ひを 藤原実方」=自分の思いは、こうこうだとさえ、どうして言うことができようか。言えないために、常に心が燃えているのを、あの人はそうとも知るまいよ。(「えやはいふべき」を「えやはいぶき」にかける)⇒いぶきやま(2)
かくながら (副)このままに。このままで。源氏、桐壺「いと苦しげにたゆげなれば、かくながら、ともかくもならむを御覧じはてむとおぼしめす」
かくなはにカクナワ… (枕詞)「かくなは」は、形の曲がりくねった菓子の名。その形のようにとの意から「思ひ乱る」に冠する。古今集、十九、長歌「ゆくみづの、絶ゆるときなく、かくなはに、おもひみだれて」
がくにん[楽人] (名)音楽を奏する人。伶人。
かくのこのみ[香菓]  (名)柑橘類の果実。みかん・ザボンの類。かくのみ。柑子(かうじ)。古事記、中「天皇、三宅のむらじらの祖、名はたぢまもりを常世の国に遺はして、ときじくのかくのこのみを求めしめたまひき」
かくのみ (名)前項に同じ。
かぐはしカグワシ[芳し・馨し] (形、シク)「香細(かくは)し」の義。(1)においがよい。かんばしい。古事記、中「かぐはし、はなたちばなは」(2)美しい。愛らしい。万葉、[18-4120]「見まく欲り思ひしなべにかづらかけかぐはし君を相見つるかも 大判家持」(古くは、終止形と連体形とが同形であった)
かぐはしむカグワシム[香ぐはしむ] (動、四)においがよいので慕う。神楽歌、採物、榊「さかき葉の香をかぐはしみ、とめくれば、八十氏人ぞまとゐせりける」=榊の葉のにおいがよいので、慕ってたずねて来たら、多くの氏子たちが車座になって群がっていた。
かくもが[斯くもが] (句)「が」は願望の終助詞。こうもあって欲しい。古事記、中「かくもがと、あがみしこに、うたたげだに、むかひをるかも、いそひおるかも」=こうもあれかしと思っていた少女に、楽しくも(今は)むかっていることよ。添うていることよ。
かぐや (名)「鹿児矢」の転。上古、鹿などの狩猟に用いた大きな矢。古事記、上「あめわか彦、天つ神の賜へる天のはじ弓、天のかぐ矢を持ちて、この雉を射殺しつ」
かぐやま[香具山] (地名)「あめのかぐやま」に同じ。
かくよく[鶴翼] (名)(1)つるのつばさ。(2)つるが左右に翼を張ったような形の陣法。太平記、六「一手は住吉の松陰よりかけ出で、鶴翼に立てて開き合はす」⇒ぎよりん。
かぐら[神楽] (名)日本最古の儀式的舞踊。「古語拾遺」によれば、猿女の君すなわち天の鈿女命が岩戸隠れの時岩戸の前で舞ったのが起原とされている。神に奉る舞踊である。
かぐら[神楽] (名)日本最古の儀式的舞踊。「古語拾遺」によれば、猿女の君すなわち天の鈿女命が岩戸隠れの時岩戸の前で舞ったのが起原とされている。神に奉る舞踊である。
かみあそび。宇津保、祭の使「御かぐらの召人、催馬楽仕るべき」
かぐらうた[神楽歌] (名)郢曲の一。神楽にあわせてうたう歌。かみあそびのうた。歌い手は本方と末方とに分かれ、神殿の左右に座してうたう。現存の曲目は十種類あるに過ぎない。
かぐらづき…ズキ[神楽月] (名)陰暦十一月の異称。
かくる[隠る] (動、四)隠れる。古事記、上「あをやまに、ひがかくらば、ぬばたまの、よはいでなむ」=青葉の茂っている山に太陽が隠れたなら、夜分には出て参りましょう。
かくる[隠る] (動、下二)(1)「死ぬ」の敬語。おかくれになる。源氏、賢木「おどろおどろしきさまにもおはしまさで、かくれさせ給ひぬ」(2)官に仕えないで民間にいる。崇神紀、十二年三月「官に廃れたる事なく、下にかくるる民なし」(3)逃げ失せる。逃げて隠れる。(4)物のかげになって見えなくなる。物の中に入る。こもる。
かくれ[隠れ] (名)(1)隠れること。新古今、七、賀「君が代の千歳のかずもかくれなく曇らぬ空の光りにぞ見る」(2)物かげ。和泉式部日記「かの童、かくれの方にけしきばみありければ」(3)尻。神代紀、下「ひとりの神あり。天のやちまたにをり。その鼻の長さ七咫…また、口・かくれ明かり耀(て)れり」
かくれぬ[隠れ沼] (名)水草等に蔽われている沼。大和物語「隠沼の底の下草水隠(みがく)れて知られぬ恋は苦しかりけり」
かくれぬの[隠れ沼の] (枕詞)隠れ沼の水は表面は動かぬように見えるが下の方は流れるので「下」に、また、隠れ沼の底の意から、「そこ」(そなた)に冠する。古今集、十三、恋三「くれなゐの色には出でじかくれぬの下に通ひて恋は死ぬとも 紀友則」拾遺集、十二、恋二「かくれぬのそこの心ぞ恨めしきいかにせよとてつれなかるらむ 一条摂政」
かくれのふち[隠れの淵] (地名)所在不詳。枕草子、一「淵は……いなふち・かくれのふち・のそきのふち・玉淵」
かくれのみや[幽宮] (名)神霊の鎮まります宮。一に「かみみや」とも訓ずる。神代紀、上「ここを以てかくれのみやを淡路のくににつくり、しづかに長く隠れましき」
かぐろし[か黒し] (形、ク)「か」は接頭語。黒い。万葉、[15-3649][鴨じもの浮き寝をすれば蜷(みな)の腸(わた)か黒き髪に露ぞ置きにける]
かくろふカクロウ[隠ろふ] (動、四)隠れる。隠す。伊勢物語「きのふけふ雲のたちまち隠ろふは花の林を憂しとなりけり」
かくろふカクロウ[隠ろふ] (動、下二)意は前項に同じ。源氏、須磨「女のさまにて、かくろへ入り給ふ」
がくわい…カイ[牙儈] (名)仲買人。さいとり。駿台雑話、上「夫人、絹を買ふとて、みづから牙儈と価の高下を議せしを」
かくん[仮訓] (名)漢字本来の意味を全く離れた読み方。「大和」を「やまと」、「春日」を「かすが」と読む類。
かけ[鶏] (名)にわとり。古事記、上「さつのとり、きざしはとよむ、にはつとり、かけは鳴く」
かげ[縵] (名)無地の絹。「記紀」ともに「縵」の字を用いているから、この漢字本来の意に解すべきで、いろいろのこじつけは不可。古事記、中「かげやかげ、ほこやほこを
もちてまゐ来つる間に」垂仁紀、百年三月「ときじくのかくのこのみ、やほこ、やかげ」(「や」は「多くの」の意)
かけい[荷兮] (人名)⇒やまもとかけい。
かけかけし (形、シク)心にかけるさまである。好色めく。源氏、若菜、下「今は北の方も、おとなびはてて、かの昔のかけかけしき筋、思ひはなれ給ふにや」
かけことば[掛詞・懸詞] (名)修辞法の一。同音異義の語によって、一語に両様の意を兼ね含ませるもの。小野小町の「花の色はうつりにけりないたづらに わがみ世にふるながめせしまに」の「ふる」に「古る・降る」を、「ながめ」に「長雨・■望」をかける類。
かけぢ…ジ[懸け路] (名)(1)嶮岨な山道。がけ道。源氏、橋姫「雲のゐる峰のかけぢを」(2)がけにかけた橋。かけはし。うけらが花、五、恋「わがなかは木曾のかけぢにあらなくに ふみみるさへもかしこかりけり」
かけぢから…ジカラ[懸け税] (名)「かけ」は新穀奉献の際、稲を神宮の玉垣に懸けることからきた語。「ちから」は租税。諸国の神戸の民などから神に奉る新稲をいう。祝詞、豊受宮神■祭「かけぢから、ちぢから余りいほぢからを、横山の如く置き足らはして」
かけて (副)(1)少しも。いささかも。かけても。源氏、夕顔「知らず顔にてかけて思ひよらぬさまに」(2)心にかけて。決して。万葉、[16-3878]「はしだての熊木のやらに新羅斧おとし入れわし、かけてかけてな泣かしそね、浮き出づるやと見むわし」(この歌の意は、万葉本文の注に出ている)(3)めがけて。万葉、[6-998]「眉のごと雲居に見ゆる阿波の山かけて漕ぐ舟泊まり知らずも」
かけても (副)前項(1)(2)に同じ。
かけとむ[かけ留む] (動、下二)「かけ」は接頭語。とめる。
かげとも[影面] (名)「かげつおも」の約。「そとも」の対。
(1)日光に面する方。南の面。万葉、[1-52]「やすみしし……名ぐはし、吉野の山は、かげともの大御門ゆ、雲居にぞ遠くありける」(2)山の南面。山陽道。成務紀、五年九月「山のみ
なみをかげともといひ、山のきたをそともといふ」
かけどり[翔け鳥] (名)空を飛んでいる鳥。また、それを射ること。平家、十一、那須与一「かけ鳥など争うて、三つに二つは必ず射落とし候ふと申しければ」
かけながら (句)兼ねながら。「かく」の連用形に、接続助詞「ながら」の付いた句。落窪物語「大将殿は、かけながら大臣になり給ひぬ」(大将を兼ねたまま大臣になった)
かげぬま[影沼] (地名)福島県岩瀬郡の東部、須賀川の附近にあった沼。のち、水田となる。物影をうつす沼という。奥の細道「影沼といふ所を行くに、けふは雲曇りて物影うつらず」
かけはし[懸け橋] (名)(1)断崖などに板などをかけ渡した橋。景行紀、四十年十月「巖さかしくかけはしめぐりて」枕草子、三「はしは……をがみの橋・かけはし・せたの橋」(2)かりに設けた橋。(3)はしご。(4)なかだち。媒介。
かけはしの (枕詞)懸け橋を渡るのは危ないから「あやふし」に冠する。後撰集、十、恋二「人妻に心あやなくかけはしの危きものは恋にぞありける」
かけばん[懸け盤] (名)椀・皿などを載せる盤台。四本足の台の上に、折敷を載せ懸けるようにしたもので、貴人の用いた膳の一種。枕草子、九「人の家につきづきしもの……
かけばん・童女」
かけまくほしき[かけまく欲しき] (句)口にかけて言いたく思われる。万葉、[12-2915]「妹といふは無礼(なめ)しかしこししかすがにかけまくほしき言(こと)にあるかも」
かけまくも (副)ことばにかけていうのも。口に出していうのも。万葉、[3-475]「かけまくも、あやにかしこし、いはまくも、ゆゆしきかも」(大判家持の長歌の一節)
かけもの[懸け物] (名)勝負事に賭ける品物。賞品。源氏、榊「かけ物どもなど、いとになくいどみあへり」徒然草、八十九段「連歌の賭け物取りて、扇・小箱など、ふところに持ちたるも水に入りぬ」
かげもよし[陰もよし] (句)催馬楽、飛鳥井「あすかゐに宿りはすべし、陰もよし、みもひも寒し、み秣(まくさ)もよし」の「宿りはすべし」から「泊まる」の意に用いる。源氏、帚木「懐なりける笛取り出でて吹きならし、かげもよしなどつづしりうたふほどに」(「つづしりうたふ」は「一口ずつ歌う」)
かげゆ[勘解由] (名)次項の略。
かげゆし[勘解由使] (名)昔、解由状(げゆじやう)の事実を考えることをつかさどる官吏。かげゆ。⇒げゆじやう。
かけろ (感)鶏の鳴く声。神楽歌、酒殿「庭つ鳥は、かけろと鳴きぬなり。起きよ、起きよ」(鶏を「かけ」というのも、その鳴き声によるという。「家鶏」の字音からではない)
かけろく[賭け祿] (名)「賭け物」に同じ。
かげろひカゲロイ[陽炎] (名)「かぎろひ」「かげろふ」に同じ。
かげろふカゲロウ[陽炎] (名)(1)春の日。地上からほのおのように立ちのぼる気。かぎろひ。かげろひ。(2)きらきら光ること。寛平御時后宮歌合「夏の月ひかり惜しまず照る時は流るる水にかげろふぞ立つ」(3)光がかげること。新拾遺、夏「雲かかる夕日は空にかげろふの小野の浅茅生風ぞ涼しき」
かげろふカゲロウ[蜉蝣] (名)とんぼに似た小さな羽虫。日本産のものは最短六日、長いのは二十日ぐらい生存するが、古来生命の短いものにたとえられている。徒然草、七段「かげろふの夕べを待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし」
かげろふカゲロウ (動、四)(1)光がほのめく。きらめく。山家集、秋「松の絶え間よりわづかに月のかげろひて見えけるを見て」(2)(影などが)ちらつく。平治物語、一「朝■の方に人音のし櫛形の穴に人影しつるは何者ぞと宣へば、それには右衛門督住み候へば、そのかたざまの女房などぞかげろひ候ふらむと申されければ」(3)日がくもってかげになる。かげる。新古今、三、夏「よられつる野もせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空 西行法師」
かげろふにつきカゲロウ…[蜻蛉日記] (書名)藤原道綱の母の書いた日記。平安時代、村上天皇の天暦八年(954)から円融天皇の天延二年(974)に至る二十一年間の日記。著者の少女時代、藤原兼家との恋愛時代、結婚時代、道綱の出産、兼家との疏隔、道綱の成長を喜ぶ母性時代に至る。「源氏」や「枕」よりも三十年も前のもので、女流日記文学の先駆をなすもの。題名は、同書中に「ものはかなきを思へば、あるかなきかの心地するかげろふの日記」とあるのによる。
かげろふのカゲロウ…[陽炎の] (枕詞)陽炎のほのかに見えることから「あるかなきか」「それかあらぬか」「ほのかに」「ほのめく」等に冠する。後撰集、十六、雑二「あはれともうしともいはじ陽炎のあるかなきかに消ぬる世(身)なれば」古今集、十四、恋四「陽炎のそれかあらぬか春雨のふるひとなれば袖ぞぬれぬる」(「降る日と」と「古る人」とをかけている)以下、例略。
がけんしふらん…シユウ…[雅言集覧] (書名)江戸時代の国学者石川雅望の著。辞書。二十一冊。五十巻。日本の多くの古典から雑言を抜き出して、これをいろは順に排列し、その各語について歌文を引用しつつ説明したもの。文化九年(1812)から嘉永二年(1849)までに「な」までの部を九冊刊行。以下十二冊は後人が補正してその没後に刊行。
かこ[水手・水夫] (名)「かぢこ」の略。ふなこ。ふなのり。船頭。すいふ。万葉、[7-1417]「名児の海を朝漕ぎ来れば海中(わたなか)のかこぞ呼ぶなるあはれそのかこ」
かこ[鹿児] (名)鹿の子。また、鹿。
かご[鈎] (名)「かぎ」の転。石帯の端にあって、帯をしめる時に用いる金属製のかぎ。大鏡、五、太政大臣兼家「かごのうちに、東宮に奉ると、刀のさきして自筆にて書かせ給へるなり」
かご[影] (名)「かげ」の東国方言。万葉、[20-4322]「我が妻は いたく恋ひらし飲む水にかごさへ見えて世に忘られず 防人の歌」
かごなり  (形動、ナリ)ひっそりと囲まれている。もの静かである。源氏、夕顔「あたりは人しげきやうに侍れど、いとかごかに侍り」同、松風「知り伝へたまふ人もなければ、かごなる習ひにて、年頃かくろへ侍りつるなり」
かこがはのしゆく…ガワ…[加古川の宿] (地名)播磨の国、兵庫県加古川市の旧称。旧中国街道の宿。増鏡、十九、久米のさら山「十二日に加古川の宿といふ所におはしますほどに、妙法院宮、讃岐へわたらせ給ふとて」
かこじもの[鹿児じもの] (枕詞)「かこ」は鹿。「じもの」は「のようなもの」。鹿は一度に一仔しか産まないので「ひとり」に冠する。万葉、[9-1790]「秋萩を……かこじものわ
がひとり子の草枕」同、[20-4408]「大君の……かこじものただひとりして朝戸出のかなしき我が子」
かこつ (動、四)(1)わび嘆く。うらみ思う。古今集、序「むなしき名のみ、秋の夜の長きをかこてれば」(2)他の所為として言いのがれる。かこつける。続千載集、雑上「さのみなど涙のとがとかこつらむ露にもぬるる老いの袂を」
かこつく (動、下二)かこつける。
かごと (名)(1)うらみ。ぐち。源氏、桐壺「いとどしく虫のねしげきあさぢふに露おきそふる雲の上人、かごともきこえつべくなむ」(2)他にかこつけていうことば。かこつけごとば。古今六帖、二「山田さへ今はつくるを散る花のかごとは風に負ほせざらなむ」(3)いいわけまでにすること。しるしだけなこと。古今六帖、五「あづま路の道の果てなる常陸帯のかごとばかりも逢ひ見てしがな 紀友則」
かごとがまし (形、シク)かこつさまである。訴えるさまである。不平がましい。徒然草、四十四段「虫のねかごとがましく、やりみづの音のどやかなり」
かこのしま (地名)この「しま」は「島」ではなくて、「陸地」の意。播磨の国、兵庫県加古郡、加古川の河口一帯の地をいうのであろう。万葉、[3-253]「いなび野(の)も行き過ぎがてに思へれば心恋ほしきかこのしま見ゆ 柿本人麻呂」
かごや[鹿児矢] (名)上代、鹿などを射るのに用いた大きな矢。かぐや。あめのかぐや。
かごやかなり (形動、ナリ)「かごかなり」に同じ。源氏、初音「かごやかに局住みにしなして、仏ばかりにところ得させて」
かごゆみ[鹿児弓] (名)上代、鹿などを射るのに用いた弓。
かさ[瘡] (名)(1)おでき。はれもの。上部が「笠」のようになるところからいう。伊勢物語「女、身に瘡一つ二つ出で来にけり」(2)■毒。室町時代の末に、中国・琉球方面から伝わり、唐瘡・琉球瘡とも称した、その略。
かさがけ[笠懸] (名)騎射の一。もと笠を竿にかけて射た。のちには、種種の的を用いた。曾我物語、三「さあらば、犬追物・笠懸をも射習ひなむ」
かさぎ[笠置] (地名)山城の国、京都府相楽郡笠置村。また、その地のある笠置山の略。史蹟が多い。⇒さしてゆく。
かさぎ[笠置] (寺名)前項の笠置山上にある笠置寺の略。元弘元年(1331)後醍醐天皇が賊の難を避けて、この寺にしばらくとどまられた。枕草子、九「寺は、つぼさか・かさぎ」
かざきり[風切] (名)「風切羽」の略。鳥の両翼の翼縁に沿うて一列に並ぶ長大強直な羽毛。鷲の風切羽は矢の羽に用いた。平家、四、鵼「母衣の風切はいだりける矢負はせて」
かささぎのはし[鵲の橋] (名)(1)陰暦七月七日の夕べ、牽牛・織姫の両星が天の川を渡って会いする時、鵲がその翼をひろげて織姫を渡したという想像上の橋。「准南子」の「烏鵲、河をうずめて橋を成し、織姫をわたす」から出た語。枕草子、三「はしは……ほりえの橋・かささぎのはし」⇒ゆきあひのはし。(2)宮中を雲の上の天上に見なして、その庭にある御橋(みはし)をいう。
かさぎのわたせるはし[鵲の渡せる橋] (句)前項(2)に同じ。新古今、六、冬「鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞふけにける 藤原定家」=宮中に宿直して、冬の夜に御庭の御橋(みはし)のあたりに置いた霜の真白いのを見ると、まことに夜のふけたことだ思われるよ。
かささし (句)枕草子、九「かしらおほきになりたる筆にかささしなどしたるこそ心もとなく覚ゆれ」古来、難解な語句とされていたものであるが、「かさ」は「筆のさや」である。すなわち、「頭がばさばさと大きくなった筆に、さやをかぶせなどしたのが面白くないと思われる」との意。
かささのみさき[笠狭の岬] (地名)天孫が降臨後しばらくとどまられた地と伝えられる。薩摩の国、鹿児島県の西南部野間崎の地がそれに当たるといわれている。「古事記」には「笠沙之御前」とあり、「書記」には「笠狭之碕」とある。
かざし[挿頭] (名)飾りとして髪や冠にさすもの。上古は草木の花や枝を、のちには造花を用いた。伊勢物語「その院のさくら、ことにおもしろし。その木の下におりゐて、枝を折りてかざしにさして」
かざしせう…シヨウ[挿頭抄] (書名)江戸時代の文法学者富士谷成章の文法書。三巻。成章は国語を分類して名・挿頭・装・脚結の四種としたが、本書では、その中の挿頭(今の代名詞・副詞・接続詞・感動詞・接頭語に当たる)について説明したものである。明和四年(1767)成る。⇒あゆひせう。
かさしま[笠島] (地名)(1)宮城県名取郡愛島村大字笠島。一条天皇のころ、藤原実方が禁を犯して社前を乗馬のまま通り、神罰を受けて死んだという伝説で名高い笠道祖神(佐倍之神社)のある地。奥の細道「笠島はいづこ五月(さつき)のぬかり道」(2)武蔵野の国、荒井の崎の笠島。今の東京都大田区新井宿の附近、岩井神社のある所という。旧東海道の駅路、鈴が森の辺である。万葉、[12-3192]「草かげのあらゐの崎の笠島を見つつか君が山道越ゆらむ」
かざす[挿頭す] (動、四)(1)飾りとして、草木の花や枝を髪や冠に挿む。のちには、造花を用いた。万葉、[10-1883]「ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここにつどへる」(2)上方に飾りつける。山家集、春「門ごとにたつる小松にかざされて宿てふ宿に春は来
にけり」
かさづけ…ズケ[笠付] (名)「かむりづけ」に同じ。
かさとり[笠取] (地名)京都府宇治郡笠取村の地。名刹岩間寺がある。方丈記「これより峰つづき、すみ山を越え、笠取を過ぎ、或は岩間にまうで、或は石山を拝む」
かさとりやま[笠取山] (地名)前項の地にある山の名。古今集、五、秋下「雨降れば笠取山のもみぢ葉は行きかふ人の袖さへぞ照る 壬生忠岑」枕草子、一「山は……のちせの山・かさとり山」
かさぬひ…ヌイ[笠縫] (地名)(1)大和の国の古地名。奈良県磯城郡多村大字新木の地。崇神紀、六年「かれ、天照大神を以ては豊鍬入姫命をつけまつりて、倭の笠縫むらに祭りたまふ」(2)美濃の国における旧鎌倉街道の一駅。今の大垣市に、その名残をとどめている。十六夜日記「笠縫のうまやといふ所に、暮れ果てねどもとどまりぬ」
かざはやのみほのうら[風早の三穂の浦] (地名)紀伊の国、和歌山県日高郡日御崎の東北にある海浜。万葉、[7-1228]「風早の三穂の浦回を漕ぐ舟の船人さわぐ浪立つらしも」「謡曲、羽衣」では「風早の三保の浦回を漕ぐ舟の浦人さわぐ浪路かな」とつくりかえて、駿河の三保の松原につづけている。(「かざはやの」は、恐らく枕詞であろう)
かざみ[汗衫] (名)字音「かんさむ」の転。「汗」は「あせ」、「衫」は「単の短衣」。(1)古くは汗取の下着。(2)のち、童女の衵の上に着る長い着物。宇津保、俊蔭「内の御たち、うなゐども、襲の裳、唐衣、汗袗ども着て居並みたり」(「枕草子」に、大進生昌が「かざみ」というべきところを「わらはの衵のうはおそひ」と言って笑われたことが書いてある)附図参照。
かざみぐさ (名)「梅」および「柳」の異称。
かさやどり[笠宿り] (名)(1)軒下・木陰などに、しばし雨やどりをすること。(2)自分の居所として身を寄せること。また、その場所。いどころ。
かざりぐし[飾り串] (名)上古、冠の飾りもの。うるし塗りのうすもので作り、形は蝉の羽のようなもので、冠の背後につける。
かざりちまき[飾り粽] (名)端午の節供に用いる粽の、包みを五色の糸で巻いて飾ったもの。伊勢物語「人のもとより飾り粽をおこせたりけるかへりごとに」
かざをりゑぼしカザオリエボシ[風折烏帽子] (名)立烏帽子の頂きのあたりを筋違いに折り伏せた形の烏帽子。風で吹き折られた形の義。右折り・左折りの区別がある。附図参照。
かし[枷] (名)「かせ」に同じ。
かし[■■] (名)船をつなぐくい、または、さお。もやひぐひ。出雲風土記、意宇郡「固め立てしかしは、伯■の国なる大神の岳これなり」万葉、[7-1190]「舟泊(は)てて■■ふり立てて廬せむ名子江の浜辺過ぎがてぬかも」
かし (助詞)終助詞。文の終わりにつけて、念を押し、意を強めるのに用いる語。竹取「国王の仰せごとをそむかば、はや殺したまひてよかし」
かじか[河鹿] (名)「かじかがえる」ともいい、渓流に住んでうつくしい声で鳴く蛙。「河の津」に住むので「かはづ」といい、田に住む「かへる」と区別される。
かしがまし (形、シク)やかましい。うるさい。かまびすし。
かしぎ[炊ぎ] (名)(1)飯をたくこと。(2)飯をたく人。めしたき。炊夫。
かじき (名)「かんじき」に同じ。山家集、冬「あらち山さかしく下る谷もなしかじきの道をつくる白雪」
かしぐ[炊ぐ] (動、四)米・麦・粟などの類を煮て飯にする。
かじく (動、下二)(1)萎え衰える。憔悴する。やつれる。みずぼらしくなる。古事記、下「すでに、ここだくの年を経て、かほ・かたちやさかみかじけてあれば、更にたのみなし」
=(赤猪子が思うには)すでに多くの年がたって、顔や姿が痩せ衰えているのだから、もうお召しに預かる筈がない。
かしこ[彼処] (代)場所を指す遠称代名詞。あそこ。あすこ。
かしこし[畏し・恐し] (形、ク)(1)畏れ多い。もったいない。ありがたい。古事記、上「かしこし、仕へまつらむ」万葉、[5-813]「かけまくも、あやにかしこし」源氏、桐壺「目も見え侍らぬに、かくかしこき仰せごとを光にてなむ」(2)恐ろしい。けわしい。万葉、[4-683]「いふことのかしこき国ぞくれなゐの色にな出でそ思ひ死ぬとも」うけらが花、二、夏「岩が根のかしこかりしも忘られつ足利山の松の下風」
かしこし[賢し] (形、ク)(1)才智がすぐれている。りこうだ。源氏、桐壺「さとう、かしこくおはすれば」(2)すぐれている。まさっている。宇治拾遺、一「乗りたる馬、いとかしこしとも見えざりつれど」(3)よい。結構だ。伊勢物語「男・女いとかしこく思ひかはして」(4)甚だしい。竹取「男はうち(け)きらはず呼びつどへて、いとかしこくあそぶ」
かしこどころ[賢所] (名)「かしこみまつるところ」の義。宮中において、天照大御神の御霊代として模造の神鏡をいつきまつる所。また、その神鏡。内侍所。
かしこふち[かしこ淵] (地名)所在不明。枕草子、一「淵は、かしこ淵、いかなる底の見えて、さる名をつきけむと、いとをかし」
かしこまり (名)(1)かしこまること。恐縮。竹取「かたじけなく、きたなげなる処に、年月を経てものし給ふこと、きわまりたるかしこまり」(2)勘当。謹慎。枕草子、一「さて後、かしこまりかうじゆるされて、もとのやうになりにき」(3)謝罪。謝辞。増鏡、二、新島もり「さばかりの時は、兜をぬぎ弓のつるを切りて、偏へにかしこまりを申してみをまかせ奉るべし」源氏、若紫「かう問はせ給へるかしこまりはこの世ならでも聞えさせむとあり」(4)いいわけ。わびごと。宇津保、吹上、下「久しう対面たまはらずなりにければ、そのかしこまりも聞えむとてなむ」
かしこまる (動、四)(1)恐縮する。おそれいる。竹取「翁、かしこまりて御返事申すやう」(2)謹慎する。枕草子、一「めのとかへてむ、いとうしろべたしと仰せらるれば、かしこまりて御前にも出でず」(3)いいわけをする。わびいる。源氏、柏木「月ごろ心のうちにかしこまり申すことなむ侍りしを」(4)謹んで命を受ける。承知いたします。謡曲、熊野「急いでこなたへと申し候へ。かしこまつて候ふ」
かしぞの[橿園] (人名)江戸時代の国学者・歌人、中島広足の号。この号を冠した「橿園歌集」「橿園集」「橿園随筆」などがある。⇒なかじまひろたり。
かしづきカシズキ[傅・侍] (1)大切に養育すること。愛護。源氏、若菜「猫のかしづきをして、撫で養ひたまふ」(2)うしろみ。もりやく。枕草子、五「宮の五節いださせ給ふに、かしづき十二人」
かしづくカシズク (動、四)(1)大事にする。愛し育てる。養う。宇津保、俊蔭「いかにいつきかしづき養ひ給はましと思ふも悲し」源氏、桐壺「この君をば、わたくしものに思ほし、かしづき給ふこと限りなし」(2)うしろみする。後見する。源氏、東屋「われは命をも譲りてかしづきてむ」
かしのふ (名)橿の林。「ふ」は「芝生」「蓬生」などの「ふ」で、生ずる所。古事記、中「かしのふに、よくすをつくり、よくすに、かみしおほみき、うまらに、きこしもちをせ、まろがち」=橿の林に、横臼を作り、その横臼の中に、まごころをこめて造った御酒でございます。どうかおいしくお召しあがりください。敬愛するわが大君よ。(「まろがち」は「わが父」「わが敬愛する大君」)
かしのみの[橿の実の] (枕詞)橿の実は一毬の中にただ一つあるとの意から「ひとつ」「ひとり」に冠する。万葉、[9-1742]「若草の、つまかあるらむ、かしのみの、ひとりか寝(ぬ)らむ」
かしはぎカシワ…[柏木] (名)柏に木には葉守の神が宿っているという伝説から起り、皇居守衛の任に当たる兵衛、または衛門の官人の異称となる。他の説もある。蜻蛉日記「それはそれとして、かしはぎの木高きわたりより、かくいはせむと思ふことあり」(藤原兼家は、当時「兵衛頭」であった)大和物語「良少将、兵衛佐なりけるころ、監の命婦になむ住みける。女のもとより、柏木の森の下草おいぬとも身をいたづらになさずもあらなむ」
かしはでカシワ…[膳夫] (名)食膳をつかさどる人。上古、柏の葉に食物を盛ったことから起る。「で」は「人」の義。古事記、上「くしやたまの神をかしはでとして、天の御饗(みあへ)たてまつる時に」
かしはでカシワ…[拍手] (名)神を拝する時、両手を拍(う)ち鳴らすこと。(「柏手」の誤りとする説は、誤りであろう)
かしはでのおみカシワ…[膳臣] (名)上古の職業的な部の一。天皇供■の調理をつかさどる部族の長。
かしはばさみカシワ…[柏夾み] (名)非常の時、または急用の御使いの時など、冠の垂纓の端が上になるように、たわめたたみ、それを白木の挟み木で挟みとめること。また、そのとめたもの。「白木」の合字が「柏」であることからいう。増鏡、十二、老のなみ「殿上人ども、柏ばさみして仕うまつりけり」
かしはばらカシワ…[柏原] (地名)近江の国、滋賀県坂田郡の東部の地。旧中山道の一駅。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「番場・醒が井・柏原・不破の関屋は荒れ果てて」
かしはばらのみかどカシワ…「柏原の帝」 (天皇名)桓武天皇。次項参照。宇治拾遺、十「今は昔、柏原の帝の御子の五の御子にて、豊前の大王といふ人ありけり」
かしはばらのみささぎカシワ…[柏原の陵] (地名)桓武天皇の御陵。山城の国、紀伊郡柏原。現在は京都市伏見区桃山町。枕草子、一「みささぎは、うぐひすのみささぎ・かしはばらのみささぎ・あめのみささぎ」
かしはら[橿原] (地名)大和の国、奈良県高市郡白橿村の地。畝傍山の東南麓。神武天皇の皇居のあったところ。万葉[20-4465]「あきつしまの大和の国の、橿原の畝傍の宮に」
かしはらのひじり[橿原の聖] (天皇名)神武天皇。前項参照。万葉、[1-29]「玉だすき、畝火の山の、橿原のひじりの御代ゆ」
かしひのみやカシイ…[香椎の宮] (地名)仲哀天皇の皇宮。福岡県糟屋郡香椎村大字香椎に遺跡がある。古事記、中「かれ、すめらみこと、筑紫のかしひのみやにましまして、くまその国をことむけたまはむとせし時に」
かしふ…カシウ[家集] (名)個人の歌集。
かしま[鹿島] (地名)常陸の国、茨城県鹿島郡。この郡の鹿島町に鹿島神宮がある。祝詞、春日祭「かしこき鹿島にますたけみかづちの命」大鏡、七、太政大臣道長「みかど、奈良におはしましし時に、鹿島遠しとて、大和の国三笠山にふり奉りて、春日明神と名づけ奉りて」(「ふり」は「遷し」)
かしまきかう…キコウ[鹿島紀行] (書名)芭蕉が貞享四年(1687)に門人曾良・宗波らと共に常陸の鹿島に月見に行ったときの紀行文。「奥の細道」の旅行の二年間。
かしまし (形、シク)うるさい。やかましい。かしがまし。かまびすし。
かしまだち[鹿島立] (名)旅だち。かどで。鹿島・香取の二神が、天孫降臨に先だって行き、葦原の中つ国を平定したのに基づくという。また、昔、旅行に際して、途上の安全を鹿島の神に祈って立ったのに基づくという。
かしよね[粿米] (名)水で洗った精米。洗米(せんまい)。多くは、神に供える場合にいう語。
かす(動、四)(1)水にひたす。水につける。(2)水で米を洗う。とぐ。
かすが[春日] (地名)「はるびのかすが」という、その枕詞「はるび」の漢字を当てたもの。大和の国添上郡春日山の西麓一帯の称。今の奈良市の奈良公園の地。興福寺の東、大鳥居の辺から北方は東大寺に至る辺。武烈紀、仁賢天皇十一年八月「はるびのかすがを過ぎ」古今集、九、■旅「天の原ふりさけ見ればかすがなる三笠の山にいでし月かも」⇒あまのはら。
かすが「春日」 (神社名)「春日神社」の略。枕草子、十一「神は……大原野・かもはさらなり。春日いとめでたく覚えさせ給ふ」徒然草、二十四段「ことにをかしきは、伊勢・賀茂・春日」
かすがじんじや[春日神社] (神社名)奈良市春日の地にある藤原氏の氏神。「大鏡」によれば、もと常陸の鹿島にあったが、鹿島が都から遠いので、この地に遷したという。祭神は、たけみかづちの命・いはひぬしの命・あめのこやねの命・ひめ神。⇒かしま。
かずかずに[数数に] (副)(1)いろいろに。多く。(2)ねんごろに。古今集、十四、恋四「かずかずに思ひ思はず訪ひがたみ身を知る雨はふりぞまされる 在原業平」
かすかなり (形動、ナリ)(1)ほのかである。少しである。源氏、榊「火焼屋かすかに光りて、人気(ひとけ)なく、じめじめとして」(2)勢いがない。さびしそうである。源氏、須磨「ただ、いと近う仕うまつりなれたる限り、ななたり・やたりばかり御供にて、いとかすかにて出で立ち給ふ」新拾遺集「かすかなる谷の洞をぞ思ひやる秋風のみや吹きて訪ふらむ 伊勢大輔」
かすがの[春日野] (地名)「春日」に同じ。古今集、一、春上「春日野はけふはな焼きそ若草の妻もこもれりわれもこもれり」枕草子、九「野は……宮城野・春日野・紫野」
かすがのさと[春日の里] (地名)「春日」に同じ。伊勢物語「昔男、初冠(うひかうぶり)して、奈良の京、春日の里に知るよしして狩りにいにけり」
かすがのの[春日野の] (枕詞)奈良の春日野は飛火野(とぶひの)ともいうので、その語呂から「訪ふ日」に冠する。古今六帖、二「忘らるる時しなければ春日野の訪ふひありやと待つぞわびしき」
かすがのやま[春日の山] (地名)次項に同じ。万葉、[10-1844]「ふゆ過ぎて春来たるらし朝日さす春日の山に霞たなびく」
かすがやま[春日山] (地名)奈良市の東方、春日の地の東方にそびえる山。一に、三笠山ともいう。山麓に春日神社がある。北から南へ、若草山・春日山・高円山と並び立っている。万葉、[10-1845]「うぐいすの春になるらし春日山霞たなびく夜目に見れども」
かすげ[糟毛] (名)馬の毛色。赤毛または白毛に、黒毛のまじったもの。
かすけし (形、ク)「かそけし」に同じ。
かずさし[数差し] (名)歌合せその他の勝負事を行う時、勝った度数を計るために、かずとりの串・枝などを数立てに挿み入れること。また、それをする人の称。かずとり。
かずたて[数立て] (名)前項を見よ。
かずへれうカズエリヨウ[主計寮] (名)昔、調・庸・貢献の物を計って一年に国費を支えることをつかさどる役所。民部省に属した。かぞふるつかさ。
かずまふカズマウ[数まふ] (動、下二)(1)数える。並べる。(2)人なみに数え入れる。仲間に数える。源氏、須磨「かくかずまへ給ひて、立ち寄らせ給へることと、よろこび聞え給ふ」
かすみそめづき…ズキ[霞初月] (名)陰暦正月の異称。かすみそめる月。春になる月の義。
かすみのほら[霞の洞] (名)(1)仙人の住む所。(2)上皇の御所。仙洞御所。はこやのやま。増鏡、二、新島もり「霞の洞の御住まひ、幾春を経ても空ゆく月日の限りしらず、のどけくおはしましぬべかりける世を」
かすめいはす…イワス[かすめ言はす] (句)「す」は使役の助動詞。おどかして言わせる。源氏、帚木「さるたよりありて、かすめいはせたりける、のちにこそ聞き侍りしか」
かすゆざけ[糟湯酒] (名)酒のかすを湯に溶いた飲みもの。貧しい人が酒の代わりに飲むもの。
かすを…オ[糟尾](名)(1)黒と白と半まぜくらいの髪の毛。平家、七、実盛最期「義仲が上野へ越したりし時、をさな目に見しかば、白髪の糟尾なつしぞかし」(2)黒地に白い斑点のある矢の羽。霞尾羽。
かせ[枷] (名)かし。(1)刑の具。鉄や木で作り、身体にはめて自由ならしめないもの。首にはめるものを、「首がせ」、手にはめるものを「手がせ」、足にはめるものを「足がせ」という。(2)転じて、係累。ほだし。「子は三界の首枷」
かせ[桛] (名)紡錘(つむ)で取る糸をかけからめる具。両端が撞木の形をしている。
かぜがくれ[風隠れ] (名)風の当たらない所。宇治拾遺、四「しばしは風がくれにさし隠したるかと見るほどに」
かせぎ[鹿柵] (名)鹿の角を上下に並べ置いたように作った木柵。獣などの入らぬようにするためにつくる。
かせぎ[鹿] (名)「鹿」の異称。鹿の角が桛に似ているからとも、また、鹿柵をそのまま鹿の異名にしたともいう。方丈記「峰のかせぎの近くなれたるにつけても、世に遠ざかるほどを知る」
かぜきるひれ[風切る領巾] (名)天のひぼこが持ってきたという玉つ宝の一。風を止め静める領巾。一説、帆をいうと。古事記、中「切レ風比礼」
かせづゑ…ズエ[鹿杖・鹿骨杖] (名)杖の頭が撞木の形をして桛(かせ)に似たもの、末が叉になっているものなどがある。撞木杖。宇治拾遺、八「鹿杖をつきて走りまはりて」謡曲、玉井「わだつみの宮主、姿は老龍の雲にわだかまり、鹿背杖にすがり」
かぜのとの「風の音の」 (枕詞)風の音が遠くから聞えてくることから「遠し」に冠する。万葉、[14-3453]「風の音の遠きわぎもが着せし衣(きぬ)袂のくだりまよひ来にけり」
かせひカセイ[桛] (枕詞)風の音が遠くから聞えてくることから「遠し」に冠する。万葉(名)「かせ」に同じ。祝詞、龍田風神祭「こがねのをけ、こがねのたたり、こがねのかせひ」
かせふぶつカシヨウ…[迦葉仏] (名)梵語Kasyapa-Buddhaの音写。詳しくは迦葉波仏陀という。釈迦の前に出た、過去七仏の一。人寿二万歳の時出世するという。太平記、十八、比叡山開■事「天地すでに分かれて後、第九の滅劫人寿二万歳の時、迦葉仏西天に出世し給ふ」
かぜまちづき…ズキ[風待月] (名)六月の異名。涼風の吹くのを待つ月の義。
かせやま[鹿背山] (地名)山城の国、京都府相楽郡の木津と賀茂との間にある山で、みかのはら盆地の西。万葉、[6-1050]「あきつかみ……山城の鹿背山の際(ま)に、宮柱太敷きまつり」枕草子、一「山は……いりたち山・鹿背山・ひはの山」
かせん[歌仙] (名)すぐれた歌人。六歌仙・三十六歌仙など。
かぞ[家尊] (名)父。八犬伝、四「かぞにいろはの物語」
かぞいろ[父母] (名)「かぞいろは」の略。父と母と。太平記、二十五自ニ伊勢一進ニ宝剣一事「かぞいろはいかに哀れと思ふらむ三年(みとせ)に成りぬ足立たずして」
かぞいろは[父母] 父と母と。応神紀、二十二年三月「このごろ、妾(やつこ)、かぞいろはをおもふ情あり」
かそけし (形、ク)かすかである。かすけし。万葉、[19-4291]「わがやどのいささむらたけ吹く風のかそけきこの夕べかも 大伴家持」=自分に家のささやかな竹林を、さらさらと撫でるように吹く風の音のかすかに聞えるこの夕方は、何ともいえぬさわやかな、しみじみした気分である。(二月二十三日の作)
かそふカソウ[掠ふ] (動、四)(1)かすめる。さらう。盗む。(2)人目をくらます。あざむく。
かぞふカゾウ[数ふ] (動、下二)(1)数を勘定する。計算する。よむ。(2)かぞえあげる。列挙する。源氏、夕顔「御随身どももありし何がしくれがしとかぞへしは」(3)うたう。平家、十、千手「皆これ先世の契りといふ白拍子を、誠に面白う、かぞへたりければ」
かぞへうたカゾエ…[数へ歌] (名)漢詩の六儀にならっていう和歌の六義の一。漢詩の賦に当たるもの。すなわち、他のものにたとえないで、そのもののままを詠じた歌。古今集、序「その六くさの一つにはそへ歌……二つにはかぞへ歌」
かた[形・型] (1)かたち。なり。(2)絵。図。模様。伊勢物語「ほととぎすのかたを書きて」落窪物語「口すぼめたるかたを書きたまひて」(3)しるし。あとかた。枕草子、三「いろいろに乱れ咲きたりし花の、かたもなく散りたるのち」(4)きまり。しきたり。玉かつま、二
「かたのごとく今の世のよみざまなりき」(5)他にも多くの意味があるが、だいたい現代語の内容と同じである。
かだい[夏台] (名)中国の夏(か)の時代の牢獄の名。牢獄の名は、時代によって異なり、夏では夏台、殷では羗里(いうり)、周では圜土(ゑんど)、秦では囹圄(れいご)といった。平家、十、海道下り「殷湯は夏台にとらはれ、文王は羗里にとらはるといふ文あり」(「文」とは「史記の文」をさす)
かたいとの[片糸の] (枕詞)片糸はより合わせるので「よる」に、また、糸の縁から「くる」「あふ」「緒」「ふし」などに冠する。新千載集、十二、「片糸の夜だにやすく寝なましものを」新後撰集、十三「片糸のくる夜まれなる契りなりとも」新千載集、十二「片糸の栗栖の小野の一筋に」以下、例略。
かたいとを…オ[片糸を] (枕詞)前項と同じく「より」に冠する。古今集、十一、恋一「片糸をこなたかなによりかけてあはずば何を玉の緒にせむ」
かたうた[片歌] (名)三句から成る歌をいう。五・七・七のものと五・七・五のものとある。名義については、三句だけのものは歌の片方であるからとも、短歌の一半(かたかた)であるからともいう。古事記、中「はしけやし、わぎへのかたよ、くもゐたちくも。こは片歌なり」=愛らしくも、わが家の方から、雲がわき起って来るよ。これは、片歌というものである。
かたうどカトウド[方人] (名)(1)味方。力になる人。古今著聞集、九、武勇「十余年に及びけれども、かたうど一人もなければ」(2)ひいきの人。自分の組の方の人。枕草子、八「みな方人の男女居分けて」=組の男女をみんな、それぞれの居場所に分けて。
かたえ[片枝] (名)一方の枝。かたえだ。
かたおひ…オイ[片生ひ] (名)形のまだととのわないこと。十分に成長していないこと。源氏、末摘花「紫の君、いとも美しきかたおひにて」
かたおもぶき[片おもぶき] (名)次項に同じ。
かたおもむき[片趣] (名)一方にだけ心を寄せて、他をかえりみないこと。偏執。平家、十一、逆櫓「左様に片趣なるをば猪武者とて、好(よ)きにはせずと申す」
かたおろし[片おろし] (名)上代に行われた歌謡で、本と末との両方に分かれて歌う場合、その一方が音調を下げて歌う歌謡。古事記、下「この歌は、ひなぶりの片おろしなり」
かたかこ[堅香子] (名)「片栗」の古称。万葉、[19-4143]「もののふの八十(やそ)をとめらが挹(く)み乱(まが)ふ寺井の上のかたかこの花」
かたがた[方方] (代)敬称の対称代名詞の複数。あなたがた。
かたかど (名)少しの才能。少しのとりえ。源氏、帚木「おひさきこもれる窓の内なるほどは、ただかたかどを聞き伝へて、心を動かすこともあり」琴後集、十三、書牘「世に聞ゆべからむかたかどだにあらぬを」
かたかんな[片仮名] 「片かな」のこと。
かたき (名)(1)相手。古今著聞集、十六「かれ、弓矢の本末知らず、かたきに能はねばよしなきことなれど」(2)配偶者。特に、男。宇津保、俊蔭「御かたきをば知り奉らじ。いつよりか、御けがれはやみ給ひし」(3)敵。仇。
かたきこほりはしもをふむよりいたる…コオリワ…オ…[堅き氷は霜をふむより至る] 氷も霜がおりる時節を経て、次第に堅くなる、ものごとには順序があるとの意。神皇正統記、六「堅き氷は霜をふむより至る習ひなれば」(「易経」に「霜を履みて堅氷至る」とあるのに基づく)
かたぎぬ[肩衣] (名)室町時代応仁乱後にできた武家の中礼服。素襖の袖を無くしたもので、背と両脇と左右の襟に定紋をつける。肩衣に同じ地色の長袴をつけたものが「かみしも」である。附図参照。折り焚く柴の記、上「夏はすきたる御肩衣に、ひとへの御袴を召されて」(「すきたる」は「絽の」)
かたぎる[かた切る] (動、四)(1)両方に分かれる。古今著聞集、二十、魚虫禽獣「かへる数千集まりて、かたぎりて食ひあひけり」(2)交際を絶つ。一方にだけ寄りつく。壇浦兜軍記、一「平家の一門滅亡の後、景清はかた切つて参りもせず」
かたぐ[傾ぐ] (動、四)かたむく。よろめく。かたよる。
かたぐ[傾ぐ] (動、下二)かたむかせる。かたよらせる。
かたぐ[担ぐ] (動、下二)かつぐ。になふ。ふりあげる。
かたくなし (形、シク)(1)おろかである。固陋である。源氏、空蝉「いづこに這ひまぎれて、かたくなしと思ひ居たらむ」(2)片意地である。頑固である。偏屈である。強情である。源氏、明石「いとどをこにかたくなしき入道の心ばへ」(3)見苦しい。いやしくて劣っている。つたない。源氏、乙女「かたくなしき姿などをも恥なく」
かたくななり (形動、ナリ)(1)おろかである、愚鈍である。物を知らない。源氏、帚木「あやまちして、見む人のかたくななる名をも立てつべきものなりといましむ」(2)強情をはる。心がねじけている。偏屈である。源氏、桐壺「いとど人悪く、かたくなになりはつるも」(3)見苦しい。下品である。徒然草、八十一段「かたくななる筆様して書きたる」
かたくなはしカタクナワシ (形、シク)「かたくななり」に同じ。
かたくろし (形、シク)かたくるしい。
かたけ[片食] (名)(1)朝食または夕食のいずれか一方。一日一度の食事、織留、五「たとへ片食は食はずとも、身を離つことなし」(2)一回の食事の分量。浮世風呂、三「達者な身でも、一かたけお飯をたべねえと、気色が悪くなります」
かたさりやま[方去山] (地名)所在未詳。枕草子、一「山は…かたさり山こそ、誰に所おきけるにかとをかしけれ」=山は……かたさり山というのは、いったい、誰に遠慮して傍へ退いたのかしらと思われて面白い。
かたしき[片敷き] (名)ひとりでさびしく寝ること。自分の衣の片身を敷いて寝る義。源氏、玉葛「かへさむといふにつけても片しきの夜のころもを思ひこそやれ」
かたしく[片敷く] (動、四)前項参照。(男女が逢わないで)さびしくひとりで寝る。万葉、[9-1692]「わが恋ふる妹は逢はさず玉の浦にころも片敷きひとりかも寝む」(「玉の浦」の所在は未詳)
かたじけなむ[忝なむ・辱なむ](動、四)かたじけないと思う。もったいないと思う。ありがたがる。続紀、九、神亀元年の宣命「いかしく、もものつかさのこころも、かたじけなみ」
かたしろ[形代] (名)(1)祭祀の時、神体の代わりとして据える人形。増鏡、二、新島もり「襁褓(むつき)のうちの御ありさまは、ただ形代などを斎(いは)ひたらむやうにて」(2)陰陽師などがみそぎや祈禱の時に用いる人形。紙などで作り、その人形を撫でて、自分の災をそれに移し、水に流してやる。ひとがた。なでもの。源氏、東屋「見し人のかたしろならば身に添へて恋ひしきせぜの撫でものにせむ」(3)あがめられる位置の人。文禄清談「天下の御形代の人なれば」
かたす[鍛す] (動、四)きたえる。ねる。神代紀、下「弟うれへて、すなわちその横刀(たち)を以て新しき鉤(ち)をかたして一箕(ひとみ)に盛りて与へたまふ」
かたす (動、四)(1)処をかえる。移す。(2)かたづける。
かたす[肩す] (動、サ変)江戸時代、かごかきが、肩を休める。寿の門松、中「先へ急ぐは駕籠の足、せめて肩して留めもせず」
かたそ[片岨] (名)山の一方の嶮岨なところ。断崖。
かたそぎ[片殺・片削] (名)片方をそぎ落したこと。またそのもの。(2)神社の屋根の千木の、片方をそいだもの。伊勢神宮では内宮は内側へ、外宮は外側へそぐ定め。新古今、十九、神祗「夜や寒き衣や薄きかたそぎの行きあひの間より霜や置くらむ 住吉明神」新古今、序「住吉の神は片そぎの言の葉を残し」平家、二、卒都婆流し「住吉の明神は、かたそぎの思ひをなし」
かたそば (名)片方の傍。かたはし。一端。一部分。
かたそふカタソウ[片添ふ] (動、下二)一方へ添う。かたよる。増鏡、二、新島もり「海づらよりは少しひき入りて、山かげにかたそへて、大きやかなる巖のそばだてるをたよりにて」
かたたがへ…タガエ[方違] (名)方角をはずすこと。どこかへ行こうとする時、その方角が陰陽道でいう凶である場合に、その前夜に他の方角に当たる処へ行って泊まり、改めてそこから目的地へ出発すること。また、来年、自分の家の方角が凶である場合に、節分の晩に他所に泊まり、立春の日にわが家へ帰ること。枕草子、二「すさまじきもの……かたたがへにゆきたるに、あるじせぬ所。まして節分はすさまじ」(「あるじ」は「饗応」)
かたためやま[かたため山] (地名)枕草子、一「山は……かたため山」とあるが、「片敷山」の誤写であろうといわれている。「敷」と「為」との草体は似ている。所在未詳。
かたち (名)(1)容貌のよいこと。また、その人。大鏡、七、太政大臣道長「血すぢをもたづねで、ただかたちありと聞ゆるを、隣の国までえらびいだして」(2)なりふり。姿。容貌。蜻蛉日記「かたちをかへて、世を思ひ離るやと試みむ」(出家する意)(3)他にも意味があるが、現代語の内容とほぼひとしい。
かたなき[片なき] (名)一人で泣くこと。仁徳紀、二十二年正月「あさづまの、ひかのをさかを、かたなきに、みちゆくものも、たぐひてぞよき」=朝妻のひかの小坂を、ひとりで泣きながら道行く人も、(やはり)つれがあった方がよい。(2)鳥や獣などの、まだ完全に鳴けないこと。新六帖、六「おのづからまだかたなきのひなどりのかまへかたさの世をいかがせむ」
かたには…ニワ[堅庭] (名)堅い地面。古事記、上「弓腹(ゆはら)振り立てて、かたにはは、むかももに踏みなづみ」
かたの[交野] (地名)河内の国、大阪府北河内郡交野村の地。桓武天皇の交野離宮のあった地。また、さくらの名所。枕草子、九「野は、嵯峨野さらなり。いなび野・かた野」太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「落花の雪にふみ迷ふ交野の春のさくらがり」
かだのあづままろ…アズマ…[荷田春満] (人名)江戸時代における国学者。本姓は羽倉。名は信盛。京都伏見稲荷の神官であるが、早く職を弟にゆずって、もっぱら国文学を研究し、深く古典に通じ、復古神道を唱道した。門人から賀茂真淵を出す。元文元年(1736)没、年六十七。主著、万葉集童蒙抄・伊勢物語童子問・神代紀抄。
かだのありまろ[荷田在満] (人名)江戸時代における国学者。本姓は羽倉。通称は東之進。春満の甥であり、かつ、その養子となった人。江戸へ出て家学を唱えた。その著「国歌八論」は歌道革新の大原動力となった。宝暦元年(1751)没、年四十五。主著、国歌八論・大嘗会具釈・羽倉考。
かたののせうしやう…シヨウシヨウ[交野の少将] (人名・書名)「落窪」「源氏」「枕」などに散見する人物。仁和(光孝天皇の御代の年号)のころの左近少将藤原季縄を片野少将と呼んだということが「尊卑分脈」に見えている。女流歌人右近の父であるが、あるいはこの人か。また、全く架空の人物か。とにかく、同名の物語があり、その主人公たる交野の少将は、好色の典型的人物であったらしく、そうした場合の話に、よく引合に出されている。枕草子、九「物語は……交野の少将・梅壷の少将」源氏、帚木「なよびかにをかしきことはなくて、交野の少将には笑はれ給ひむかし」枕草子、十一「げに交野の少将もどきたる落窪の少将などはをかし」
かたは…ワ[片端] (名)(1)ひとなみでないこと。劣っていること。かたほ。枕草子、四「ありがたきもの……つゆの癖・かたはなくて、かたち心ざまもすぐれて」(2)見苦しいこと。不都合なこと。伊勢物語「沓(くつ)はとりて奥になげ入れてのぼりぬ。欺くかたはにしつつ有りわたるに」源氏、帚木「さりぬべき少しは見せむ。かたはなるべきもこそと許し給はねば」
かたは…ワ[不具] (名)前項から転じた語。身体にそなわらないところのあること。また、その人。源氏、玉蔓「いみじきかたはのあれば、人にも見せで尼になして」
かたはらいたし[片腹痛し] (形、ク)次項の誤用。
かたはらいたしカタワラ…[傍痛し] (形、ク)(1)傍で見ていて笑止である。にがにがしい。源氏、帚木「おのがじし、心をやりて、人をばおとしめなど、かたはらいたきこと多かり」(2)はたの見る目も気の毒である。古今著聞集、八、好色「次第に厭ひまさりて、かたはらいたきほどなり」源氏、桐壺「この頃御けしきを見たてまつるうへ人・女房などは、かたはらいたしとききけり」(3)恥ずかしい。きまりがわるい。源氏、葵「大将の君によろづ聞えつけ給ふも、かたはらいたきものから、うれしとおぼす」(4)めいわくである。源氏、帚木「その、うちとけてかたはらいたしとおぼされむこそゆかしけれ」
かたはらめカタワラ…[傍目] (名)(1)傍から見える姿・顔など。そばめ。源氏、榊「殿方を見いだし給へるかたはらめ、いひ知らずなまめかしう見ゆ」紫式部日記「かたはらめ、はなやかに清げなり」(2)「すがめ」に同じ。
かたぶく[傾く] (動、四)「かたむく」の古語。(1)斜に片方へ寄る。横に倒れかかる。古事記、下「おほみやの、をとつはたで、すみかたぶけり」=大宮(皇居)の遠い端の方の隅が傾いている。(2)くつがえる。滅亡する。続紀、慶雲四年七月元明天皇即位の宣命「をす国の法(のり)もかたぶくことなく、動くことなく」(3)頭を傾けて物を思う。不審に思う。あやしむ。竹取「竹取の翁、このたくみらが申すことは何事ぞとかたぶきをり」
かたぶく[傾く] (動、下二)前項の語の他動。(1)斜に片方へ寄るようにする。かたむける。徒然草、百六十七段「わが智を取り出でて人に争ふは、角あるものを角をかたぶけ、牙あるものを牙をかみいだすたぐひなり」(自分の持っている武器を、すぐにふりまわすことをいう)(2)くつがえす。亡ぼす。崇神紀、十年九月「汝、天に逆らひてあぢきなし。みかどをかたぶけまつらむと欲りす」(3)非難する。わるくいう。古今著聞集、二、釈教「我が国は神国なる故をもて、かたぶけ奏し申しければ、仏像を難波の堀江に流し捨てて」(4)他にも意味があるが、現代語の「かたむける」とほぼ同じ内容である。
かたふたがり[方塞がり] (名)行くべき方角が、陰陽道でいう天一神(ながかみ)のいる方に当たり、行くことを忌むこと。
かたふたがる[方塞がる] (動、四)前項参照。「かたふたがり」となる。後撰集、十二、恋四「逢ふことのかたふたがりて君こずば思ふ心のたがふばかりぞ」
かたへカタエ[片方] (名)(1)かたわら。そば。古事記、上「かたへの井のへにゆつかつらあらむ」(2)片方。一方。古今集、三、夏「夏と秋とゆきかふ空のかよひぢはかたへ涼しき風や吹くらむ 凡河内躬恒」(3)一半。一部分。一面。枕草子、六「せばしとて、かたへは御おくりして、皆帰りにけり」(4)同僚。仲間。朋輩。徒然草、百四十二段「ある荒夷の恐ろしげなるが、かたへにあひて、御子はおはすやと問ひしに」(「荒夷」は「田舎武士」「東国のあらくれ武士」)
かたほ (名)かたは(1)に同じ。「まほ」の対。劣っていること。不十分なこと。大鏡、七、太政大臣道長「御心ばへ・人柄どもさへ、いささかかたほにて」
かたま (名)竹の目を密に堅く編んだ籠。まなしかたま。
かたまし (形、シク)心がねじけている。性質がよくない。平家、六、紅葉「かたましき 者、朝にあつて罪を犯す。これ、わが恥にあらずやとぞ仰せける」
かたみ[筐] (名)竹で編んだ籠。かたま。
かたみに (副)たがいに。古事記、上「かたみにさちかへてむ」
かたみのいろ[形見の色] (句)「形見の衣の色」の略。喪服の色。にびいろ。また、喪服。古今著聞集、四、文学「御かたみの色を、一生脱ぎ給はざりけり」
かたみのころも[形見の衣] (句)(1)喪服。栄花、岩蔭「あはれなる御かたみの衣は、ところわかずなむ」(2)亡き人の記念としての衣。万葉、[4-747]「わぎもこが形見の衣下に着て直(ただ)に逢ふまではわれ脱がめやも」(3)唱衣。⇒しやうえ。
かたもひ…モイ[片思ひ] (名)「かたおもひ」の略。一方だけで恋い慕うこと。
かたもひ…モイ[片椀] (名)蓋のない土製の椀。
かたもひの…モイ…[片椀の] (枕詞)片椀の底から「そこ」に冠する。万葉、[4-707]「思ひやるすべの知らねばかたもひの底にぞわれは恋ひなりにける」(底になって思い沈む意)
かたもん[固紋・堅紋] (名)「紋」は「模様」。織物の模様を糸を浮かさずに沈めて固く織ったもの。枕草子、十「青鈍のかたもんの御さしぬき」
かたやく[肩焼く] (動、四)上代の占法の一。鹿の肩の骨を焼き、その亀裂の模様によって、事を判断する。万葉、[15-3694]「わたつみの……壱岐の悔人(あま)の、上手(ほつて)のト筮(うらへ)を、肩やきて、行かむとするに」
かたよる[片寄る] (動、四)(1)片方へだけ寄る。味方する。水鏡、中「守屋にかたよれる人人を殺させ給ひしほどに」(2)傾く。万葉、[14-3565]「彼の児ろと寝ずやなりなむはたすすき裏野の山に月片寄るも」(3)不公平である。偏頗である。
かたらひカタライ[語らひ] (名)(1)話しあい。談合。会談。(2)男女が契りあうこと。約束。(3)他を説きつけて味方にすること。うまく抱き込むこと。十訓抄、中「老僧一人あり。すなはち、からめ捕りて行方を問はる。道摩、堀川の右府のかたらひにて、術を施す由申しけれども、罪をば行はれず」
かたらひとるカタライトル[語らひとる] (動、四)いいくるめて、わがものとする。うまく説き伏せる。増鏡、十三、今日のひかげ「按察使の君といふ人語らひとられけるなめり」
かたらひのをかカタライノオカ[かたらひの岡] (地名)所在未詳。枕草子、十「をかは……かたらひのをか・人見のをか」(何かの誤写であろうと思われる)
かたらふカタラウ[語らふ] (動、四)(1)語りあう。相談する。(2)親しく交わる。交際する。伊勢物語「ねんごろにあひ語らひける友だちのもとに」(3)男女が互いに言いかわす。契る。拾遺集、四、冬「女を語らひ侍りけるが」(4)他を説いて、味方に引き入れる。うまく抱き込む。平家、一、鹿の谷「兵具をととのへ、軍兵を語らひおき」
かたりべ[語部] (名)上古の部民の一で、神話・伝説・歌謡などを記憶していて語ることを職とした部民。かたりのあたひ・かたりのおみ・かたりのむらじ・かたりのすくねなどの語が古書に見えている。そして、かれらの語ったものを「ことのかたりごと」「あまがたりうた」などと称した。一例を示す。出雲風土記、意宇郡「語臣猪麻呂」
かたりもの[語物] (名)節をつけて語るもの。平家・浄瑠璃の類。⇒うたひもの。

かたゐカタイ[乞食・乞丐] (名)(1)こじき。(2)癩病。かったい。(3)他をののしる語。土佐日記「このかぢとりは、日もえ計らはぬかたゐなりけり」(4)自分を卑下する語。伊勢物語「そこにありけるかたゐ翁、板敷の下に這ひありきて、人にみな詠ませ果てて詠める」

かたをか…オカ[片岡・片丘] (名)前が高く、後ろの低い丘。

かたをか…オカ[片岡] (地名)歌枕の一。大和の国、奈良県北葛城郡にある葛城山脈東麓の丘陵。今の王寺村・志都美村・上牧村等の地に亘る。万葉、[7-1099]「片岡のこの向かつ峰(を)に椎蒔かば今年の夏のかげに並みむか」枕草子、十「をかは、ふなをか・かたをか」
かち[徒] (名)(1)歩くこと。徒歩。枕草子、九「笛は、横笛いみじうをかし。……車にてもかちにても馬にても、すべて懐にさし入れてもたるも、何とも見えず」(2)「かちざむらひ」の略。
かち[褐] (名)「かちいろ」に同じ。平家、七、木曾願書「覚明がその日のていたらく、かちの直垂に黒糸縅の鎧着て」
かぢカジ[加持] (名)真言密教で行う仏力の庇護を祈る呪法。源氏、若紫「わらはやみにわづらひ給ひて、よろづにまじなひ、かぢなどせさせ給へど、しるしなくて」
がち[雅致] (名)みやびやかな趣。上品なさま。
がちいろ[褐色] (名)濃い藍色。藍を搗(か)ちて染めるから起った語という。勝色に通ずるので、武人に喜ばれた色。
かぢかうすゐカジコウスイ[加持香水] (名)真言密教で、修法の壇上に供した香水を、陀羅仏を唱えつつ撒布し、行者の心を洗って菩提心を起させる祈祷方式。徒然草、二百三十八段「賢助僧正に供なひて、加持香水を見侍りしに」(宮中の真言院で)
かちかた (名)「大麦」の異称。宇津保、俊蔭「かちかた七斗くれて侍りしを」(「かちしね」とある本もある)
かちかぶり[褐冠] (名)「かちいろ」の冠。随身・馬副(うまぞひ)などの小者の装束に用いる。太平記、十三、藤房卿遁世事「馬副四人、かちかぶりに猪の皮の尻鞘の太刀佩いて左右にそひ」
かちさび[勝ちさび] (名)勝ちに乗じて、勢いのはやること。勝ちほこること。古事記、上「あれ勝ちぬといひて、勝ちさびに、天照大御神のみつくたのあを離ち、その溝を埋め」かちざむらひ…ザムライ[徒侍・徒歩侍・徒士](名)(1)徒歩で供奉行列などの先導をつとめる侍。(2)徳川氏部下の小身の士。江戸下谷の御徒町に住んでいた。
かちしね[搗稲] (名)もみのままの米。玄米。宇津保、俊蔭「かちしね七斗くれて侍りしを」(「かちかた」とある本もある)
かちだち[徒立・歩立] (名)(1)徒歩で出で立つこと。(2)歩いて渡ること。平家、九、宇治川「武蔵の国の住人大串の次郎重親宇治川の歩立の先陣ぞやとぞ名のつたる」(3)馬に乗らない兵士。歩兵。かちいくさ。保元物語、二「八郎は筑紫そだちにて、舟の中にて遠矢を射、徒立などは知らず」
かぢとりカジ…[舵取・楫取] (名)舵すなわち櫓で船の進むべき方向を定めること。また、その人。「かこ」の対。竹取「船に乗りては、かぢとりの申すことをこそ高き山と頼め」
かぢのおとのカジ…[楫の音の] (枕詞)櫓で水を掻く音の擬音から「つばらつばら」に冠する。万葉、[18-4065]「朝びらき入江こぐなる可治能於登乃つばらつばらに吾家(わぎへ)し思ほゆ」(「かぢのとの」ではない)
かぢまくらカジ…[楫枕] (名)楫を枕に寝ることの義。船の旅。陸の旅を「草枕」というのに対する。千載集、八、覆旅「浦づたふ磯の苫屋のかぢまくら聞きもならはぬ波の音かな」
かちむしや[徒武者] (名)かちだち(3)に同じ。
かちより[徒より・徒歩より] (句)「より」は口語の「で」に当たる助詞。徒歩で。歩いて。古事記、下「かれ、大后、この御歌を聞かして、いたく怒りまして、大浦に人を遣はして追ひおろして、かちよりやらひたまひき」徒然草、五十二段「仁和寺にある法師……ただ一人、かちより詣でけり」
かぢをカジオ[楫緒] (名)舟の床から櫓の上端につなぐ網。ろなは。⇒ゆらのと。
かつ[搗つ] (動、四)(米などを)つく。雨月物語、四、蛇性の娞「木伐る老(おぢ)、かつ男ら、恐れ惑ひてうづくまる」
かつ (動、下二)耐える。できる。能ふ。万葉、[2-94]「玉くしげ三室の山のさなかづらさ寝ずは遂にありかつましじ」
かつ[糅つ] (動、下二)まぜる。混ずる。まぜあわせる。万葉、[16-3829]「醤酢(ひしほす)に蒜(ひる)搗きかてて鯛願ふわれにな見せそ水葱(なぎ)のあつもの」
かつ (副)一方では。同時に。方丈記「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくもとどまることなし」
かつ (接続)そのうえ。また。
かつうは (副)一方では。曾我物語、三「義盛、重ねて申し上ぐる条、かつうは畏れ少なからず候へども」
かつかつ (副)やっとのことで。わずかに。辛うじて。増鏡、二、新島もり「かつかつかれを御勘事のよし仰せらるれば」
かつがつ (副)前項に同じ。義経記、三「まづ、かつがつ三百余騎を奉りける」
かつがつと (副)「かつかつ」に同じ。宇治拾遺、六、「物も食はず過しければ、影のやうに痩せさらぼひつつ、かつがつとやうやうにして家に行きつきぬ」
かつがつも (副)不満ではあるが、まあまあ。古事記、中「かつがつも、いやさきだてる、えをしまかむ」=まあまあ、とにかく最も先に立って歩いて行く美人を、自分は求めよう。
かつぎ[被衣・被] (名)次項に同じ。
かづきカズキ[被衣・被] (名)(1)頭にかぶるもの。かぶりもの。(2)昔、高貴の婦人が外出の時に着た着物。きぬかづき。
かづきカズキ[潜] (名)水の中にもぐりこむこと。また、その人。古事記、中「いざあぎ、ふるくまが、いたでおはずは、にほどりの、あふみのうみに、かづきせな、わ」=さあ、君、振熊のために痛手を負わされるよりも、鳰鳥のように近江の湖の中に入ろうよ、われわれは。枕草子、十二「あまのかづきしたるは、うきわざなり」
かづきめカズキ…[潜女] (名)水中にもぐる女。あま。
かづくカズク[潜く] (動、四)(1)水中にもぐり入る。古事記、上「はじめて中つ瀬にお
りかづきて、そそぎたまふ時に」(2)水中にもぐって(魚・貝・藻などを)採る。万葉、[11-279
8]「伊勢のあまの朝な夕なにかづくとふあはびの貝の片思ひして」
かづくカズク[被く] (動、四)(1)かぶる。掩う。大鏡、三、太政大臣実頼「御袖をかづきてぞ驚きさわがせ給ふ」(2)くぐる。枕草子、二「にくきもの……伊予簾(いよす)など懸けたるをうちかづきて、さらさらと鳴らしたるも、いとにくし」(3)祿として衣類をいただく。頂戴物を肩にかける。枕草子、四「雪の降りしきたるに、かづきて参るも、をかしう見ゆ」
かづくカズク[潜く] (動、下二)水中にもぐり入らせる。もぐらせる。万葉、[19-4158]
「毎年(としのは)に鮎し走らばさきた川鵜八つかづけて川瀬たづねむ」(「さきた川」は越中の氷見郡渋谷の附近を流れる小流か)
かづくカズク[被く] (動、下二)(1)かむらせる、(2)衣類などを、祿として与える。土佐日記「をのこあまたに物かづけたり」竹取「御衣脱ぎてかづけたまひつ」
かづけものカズケ…[被物] (名)謝礼・恩賞などの意で人に与えるもの。衣服を肩にかけてやったことから起った語。祿。宇津保、俊蔭「饗応(あるじ)のことすべきに、はや、かづけもののことせさせ給へ」
かつしか[葛飾] (地名)もと、下総の国の郡名。江戸川の流域一帯の地。のち、一部分は武蔵の国に入る。
かつしかのまま[葛飾の真間] (地名)歌枕の一。下総の国、千葉県市川市の国府台の南麓のあたり、江戸川の東岸。万葉、[3-432]「われも見つ人にも告げむ葛飾の真間のてこながおくつきどころ 山部赤人」⇒ままのてこな。
かつしかわせ[葛飾早稲] (名)葛飾の地でとれる早稲。万葉、[14-3386]「にほどりの葛飾早稲を饗(にへ)すともその愛(かな)しきを外(と)に立てめやも」=今宵は、葛飾でとれた早稲を神に供える神聖な夜で、外来者を家に入れない習慣であるが、しかし、いとしい人をどうして戸外に立たせておけようか。(女の詠であろう。「にほどりの」は「葛飾」の枕詞)
かつしき[喝食] (名)「喝」は「唱える」義。禅寺で食時を報じ、その食物の名を唱え、かつ給仕する有髪の童子。ちご。宇津保、国譲、下「女君、御髪(おぐし)、喝食ばかり、いとをかしげにて、ひいな遊びし給ふ」
かつしよく[褐色] (名)茶色。「かちいろ」と漢字は同じであるが、意は全く異なる。
かづすカズス (動、四)さそいだす。かどわかす。東国方言。万葉、[14-3432]「足柄(あしがり)の我をかけやまのかづの木の我をかづさねもかづさかずとも」=私を誘い出してくれ、誘い出しにくくとも。(上三句は序詞。「かづさねも」は「かづす」の未然形「かづさ」に助動詞「ぬ」の命令形「ね」と、感動の終助詞「も」とをつけたもの。「かずとも」は「かたくとも」の東国方言)
かつたゐカツタイ[癩] (名)「かたゐ」の転。かたゐ(2)に同じ。
かつて[嘗て・曾て] (副)(1)全く。すべて。全然。皇極紀、三年三月「紫の菌(たけ)、雪の中よりぬけ出でて生ひたるを見る。……あくる日、往きて見るにかつて無し」(2)かねて。前に。(「かって」と発音するのは誤り)
がつてん[合点] (名)(1)和歌などを批評して点をつけること。古今著聞集、五、和歌「定家朝臣の許へ、点を請ひにやりたりければ、合点して褒美の詞など書きつけ侍る」(2)回状などに、承知したという意をあらわすために、自分の名の肩に点をつけること。(3)承知。承諾。(4)承諾の意を示すために、うなずくこと。
かづのカズ…[葛野] (地名)「かどの」に同じ。山城の国葛野郡・乙訓郡・紀伊郡の地。今、大部分は京都市となる。古事記、中「ちばの、かづのをみれば、ももちだる、やにはもみゆ、くにのほもみゆ 応神天皇」=(宇治野のほとりに立って、遠く)葛野のあたりを眺めると。すべてが満ち足りて、(ゆたかに暮らしている)民家(家庭)も見えるし、国の秀でているところも見える。⇒ちばの。
かづのきのカズ…[穀の木の] (枕詞)「穀」は「梶」の古語。類音から「かづさね(誘い出してくれ)」に冠する。万葉、[14-3432]「足柄(あしがり)の我をかけやまのかづの木の我をかづさねもかづさかずとも」⇒かづす。
かつは (副)「は」は強めの助詞。かつ。かつうは。古今著聞集、八「母をうしなひて何のいさみかあらむ。かつは不孝の身なるべし」⇒かつ(副)。⇒かつうは。
かつまだのいけ[勝間田の池] (地名)歌枕の一。大和の国、奈良県生駒郡都跡村大字六条砂村にある池。薬師寺の北に当たる。万葉、[16-3835]「勝間田の池はわれ知る蓮(はちす)なし然(しか)言ふ君が鬚なきごとし」枕草子、三「池は、かつまだの池・いはれの池」(一説、「かつまたのいけ」)
かつみ[勝見] (名)「まこも」の異称。一説、「あやめ」の異称。古今集、十四、恋四「みちのくの浅香の沼の花がつみかつ見る人に恋ひやわたらむ」奥の細道「かつみ刈る頃もやや近うなれば、いづれの草を花がつみとはいふぞと人人に尋ね侍れども、更に知る人なし」
かつら[桂] (名)中国の伝説で、月の中にあるという常緑木。古今集、四、秋上「ひさかたの月の桂も秋はなほもみぢすればや照りまさるらむ 壬生忠岑」
かづらカズラ[葛・蔓] (名)山野に自生するつるくさの総称。さなかづら。さねかづら。
かづらカズラ[鬘] (名)上古、蔓をもって、髪飾りとしたことに基づく語。(1)髪飾り。古事記、上「あめのうずめの命……天のまさきを鬘として」(2)かもじ。源氏、蓬生「御髪(みぐし)の落ちたりけるを取り集めて、かづらにしたまへるが」(のち、「かつら」といい、俳優などの頭にかむる毛髪の称となる)
かづらかけカズラ…[蘿掛け] (枕詞)「かづら」は「ひかげのかづら」で神事に用いる。類音から「かぐはし」に冠する。あるいは、美しい髪飾りをつけた「かぐはしの君」の意か。そうだとすれば枕詞ではない。万葉、[18-4120]「見まく欲り思ひしなべにかづらかけかぐはし君を相見つるかも 大伴家持」
かつらがは…ガワ[桂川] (地名)京都市の西側を流れる川。上流を保津川といい、嵐山附近では大堰(大井)川と称し、南流して桂の渡し附近から桂川と呼び、賀茂川と合して、淀川に注ぐ。土佐日記「夜になして京には入らむと思へば、急ぎもせぬほどに月出でぬ。桂川月のあかきにぞ渡る」
かつらぎ[葛城] (地名)奈良県の西部、上古の葛城の国。今、南葛城・北葛城の二郡に分かれる。綏靖天皇の皇居の地。綏靖紀、元年正月「神渟名川耳尊、あまつひつぎしろしめす。葛城に都つくりたまふ」新古今、一、春上「葛城や高間のさくら咲きにけり立田の奥にかかる白雲 寂蓮法師」
かつらぎのおほきみ…オオ…[葛城王] (人名)「橘諸兄」の別称。
かつらぎのかみ[葛城の神] (神名)大和の葛城山にまつる一言主の神。この神、役小角に頼まれて、葛城山と金峰山との間に岩橋をかけようとしたが、自分の容貌のみにくいのに恥じて夜間だけ工事をしたので、とうとう架橋が完成しなかったという。「奥儀抄」その他に伝えるところ。この伝説から、事の成就しない例にひかれる。枕草子、八「あまりあかくなりにしかば、葛城の神、今ぞすぢなきとて、わけておはしにしを」=あまり明かるくなったので、(頭中将が)「葛城の神も、こう明かるくなっては仕方がない」と言って、(露)を分けてお帰りになったのを。
かつらぎやま[葛城山] (地名)歌枕の一。奈良県の南北葛城郡と大阪府の南河内郡との分界をなし、金剛山を主峰として南北に走る山脈の称。古今集、二十、大歌所御歌「しもとゆふ葛城山に降る雪のまなく時なく思ほゆるかな」(「しもとゆふ」は「葛城山」の枕詞)枕草子、一「山は……末の松山・葛城山」
かつをカツオ[堅魚] (名)「かつをぎ」に同じ。古事記、下「山の上に登りまして、国見しせれば、堅魚を上げて家(や)を作れる家あり」(雄略天皇が、その僭越を怒られた)
かつをぎカツオ…[堅魚木・鰹木] (名)宮殿または神社の棟木の上に並列する鰹節状の横木。かつを。
かて[糧] (名)食糧。食物。竹取「ある時はかて尽きて、草の根を食物としき」
かてに (副)一方では。かつ。古今集、十一、恋一「あわ雪のたまればかてに砕けつつ我が物思ひのしげきころかな」
がてに (句)(1)動詞の連用形に添うて「難く」の意を含む副詞を構成する。「待ちがてに」「行きがてに」「い寝がてに」(2)名詞に添うて「まじって」の意味を含む副詞を構成する。「雪がてに」
がてぬ (句)前項に同じ。「過ぎがてぬ」「行きがてぬ」
かでのこうぢ…コウジ[勘解由小路] (家名)京都の勘解由小路に邸宅のあったことに起る家名。平安時代の書家藤原行成の子孫の家で、世尊寺家とも称し、代代書道をもって立った家。徒然草、二百三十八段「柳筥(やないばこ)に据うる物は、縦ざま・横ざま、物によるべきにや。……勘解由小路の家の能書の人人は、かりにも縦ざまに置かるることなし」
かでのこうぢのにほんぜんもん…コウジ…[勘解由小路二品禅門] (人名)前項参照。藤原経尹の別称。藤原行成の後裔で、書道の大家。従二位宮内卿となる。「二品」は二位、「禅門」は仏道に入った男子。元亨二年(1322)没、年七十三。徒然草、百六十段「門に額かくるを、うつといふはよからぬにや。勘解由小路二品禅門は、額かくるとのたまひき」
かど[才] (名)才能。才気。はたらき。仁徳紀、応神天皇四十一年二月「先帝、やつがれを立てて太子となしたまへるは、豈よきかどあらむとならむや。ただ、めぐみし給ひてなり」
かど[門] (名)(1)門(もん)。(2)門の外。家の前。万葉、[20-4463]「ほととぎすまづ鳴く朝けいかにせば我がかど過ぎじ語りつぐまで 大伴家持」(3)家。万葉、[2-131]「石見の          海……妹がかど見む、靡けこの山 柿本人麻呂」(4)一族。一門。竹取「この世の人は、男は女にあふことをす。女は男にあふことをす。その後なむかど広くもなり侍る」
かとうえなほ…エナオ[加藤枝直] (人名)江戸時代の歌人。橘氏。伊勢の松阪の人。のち、江戸に住む。千蔭の父。天明五年(1785)没、年九十三。主著、東歌。
かとうげうだい…ギヨウ…[加藤暁台] (人名)江戸時代の俳人。通称は久村呉一。名古屋の人。桑名に住む。俳諧の中興をもって称せられる。寛政四年(1792)没、年六十。
かとうちかげ[加藤千蔭] (人名)江戸時代の国学者・歌人。橘氏。枝直の子。江戸の人。うけらぞの・はぎぞのなどと号した。幕府の与力となる。賀茂真淵の門人。村田春海と共に江戸派の重鎮。文化五年(1808)没、年七十三。主著、万葉集略解・うけらが花。
かどかどし (形、シク)(1)才気がある。かしこい。宇津保、俊蔭「もどかしき所なく、かどかどしく、目も及ばず、すぐれたれば」(2)勝ち気である。負けずぎらいである。源氏、桐壺「弘徽殿には……いとおしたち、かどかどしき所ものし給ふ御方にて」(3)角が多い。ごつごつしている。
かどだ[門田] (名)門のあたり近くにある田。家の前の田。⇒ゆふされば。
かどの[葛野] (地名)「かづの」に同じ。古くは「かづの」と呼んだが、平安時代に入ってから「かどの」と呼ばれるようになり、「延喜式」にも「加止乃」とある。今、その北部の二村を除き、大部分は京都市に編入。平家、五、都遷「当国かどの郡宇多の村を見せらるるに」
かどのをさ…オサ[看督長] (名)牢獄を管し、罪人の追捕をつかさどる官史。検非違使庁に属する。狭衣、一、上「いたう侮り奉らば、看督長などゐて来て、この門(かど)あけさせむなどいひければ」
かどはすカドワス(動、四)かどわかす。
かどび[門火] (名)(1)葬送の時、門前で焚く火。菅原伝授手習鑑、四「菅秀才のなきがらを御供申す。いづれもは、門火門火と、門火を頼み頼まるる」(2)婚礼の時、輿や駕籠の出た後で、門前で焚く火。(3)うら盆の精零会に焚く迎え火と送り火。
かどふカドウ (動、四)(1)誘う。うけらが花、一、春「陽炎の夕日ににほふ花の香をかどはむ春の川風もがな」(2)かどわかす。
かどふカドウ (動、下二)かどわかす。謡曲、志田「人をかどへて売る、辻の藤太が小家に宿借り」
かどめく (動、四)才気があるさまである。「かど」は「才能」の義。増鏡、一、おどろがした「御心ばへは、新院よりも少しかどめいて、あざやかにぞおはしましける」
かとり[縑] (名)「堅織(かたおり)」の義。地を細密にして、薄く堅く織った絹布。宇津保、俊蔭「御急ぎの料にとて、綾・うすもの・かとり・絹など多く奉りたれば」⇒いそぎ。
かとりなひこ[楫取魚彦] (人名)江戸時代の国学者・歌人。本名は伊能茂右衛門。下総の国香取郡佐原(今の佐原市)の人。中年以後賀茂真淵の門に入り、ついに古学および和歌に精通した。天明二年(1782)没、年五十九。主著、万葉千歌・古言梯・雨夜の燈火。
かな[鉋] (名)かんな。大鏡、二、左大臣時平「たくみども、裏板どもをいとうるはしくかなかきてまかり出でつつ」
かな (助詞)感動の意をあらわす終助詞。かも。も。竹取「翁いはく、思ひのごとくも、のたまふものかな」
がな (助詞)(1)願望の意をあらわす終助詞。が。かも。「し」「も」の下に付くのが通例である。竹取「世界のをのこ、あてなるも、いやしきも、いかで、このかぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞きめでまどふ」後拾遺集、十二、恋二「君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな 藤原義孝」(2)副助詞。疑問をあらわす語の下に付けて、漠然とした意を示す。か。狂言、宗論「何とがなして、あの坊を浮かしたいと存じまする」(3)副助詞。事を大概にいう意をあらわす。でも。なりと。狂言、どこんさう「また、酔うてがなござろ」
かなくづれ…クズレ[金崩れ] (名)「金鉱」であろう。一説、金峰山の、金鉱のある難所の称か。宇治拾遺、二「今は昔、七条に箔打あり。御嶽詣でしけり。参りて金崩れを行いて見れば、まことの金のやうにてありけり。嬉しく思ひて、件の金を取りて袖に包みて家に帰りぬ」
かなぐる (動、四)「掻きなぐる」の略。かきむしる。ひきむしる。ひきのける。あらあらしくふるまう。宇津保、蔵開、中「内の上をも、こなたの上をも、かなぐり奉りつつ」落窪物語「腹だちかなぐりて起くれば、帯刀(たちはき)笑ふ」
かなざうし…ゾウシ[仮名草子] (名)江戸時代初期の仮名文の物語や雑文の総称。室町時代の「御伽草子」の系統を引き、のちに起る「浮世草子」その他の文学の萌芽を含む点で、文学史的興味のあるもの。もっぱら婦女童蒙を読者の対称とし、啓蒙的な筆致で、仏教的教訓や中国の故事などをしるしている。代表的な作品は浅井了意の「御伽婢子」、鈴木正三の「二人比丘尼」、如儡子の「可笑記」、山岡元隣の「誰が身の上」など。
かなざはぶんこカナザワ…[金沢文庫] (図書館名)鎌倉時代に北条実時が武蔵の国久良岐郡金沢村(今の横浜市磯子区金沢町)の称名寺内に設けた図書館。実時の子顕時、その子貞顕ともに学を好んだので、この文庫は次第に大きくなったが、北条氏の滅亡と共に衰えた。のち、室町時代に上杉憲実が復興したが、これまた衰え、慶長六年(1601)徳川家康がその蔵書の大半を江戸の文庫に移し、爾来荒廃していたが、明治になって再興され、今日に及んでいる。
かなし (形、シク)(1)かわいい。可憐である。伊勢物語「ひとつ子にさへありければ、いとかなしうし給ひけり」古今集、二十、東歌「みちのくはいづくはあれど塩竈の浦こぐ舟の綱手かなしも」(2)あわれである。いたましい。万葉、[1-29]「たまだすき……ももしきの大宮どころ見ればかなしも 柿本人麻呂」
かなじどう[金磁頭] (名)「かなじんどう」ともいう。鉄でつくり、中をくりぬかない矢の根。太平記、三、笠置軍事「えびらより金磁頭を一つ抜き出し」
かなしび[悲しび] (名)「悲しみ」に同じ。悲しむこと。悲しいこと。(「まみむめも」と「ばびぶべぼ」とは常に相通ずる)
かなしぶ[悲しぶ] (動、四)悲しむ。前項参照。
かなすき[鉄鋤] (名)「すき」のこと。鉄で作ってあるからいう。古事記、下「をとめの、いかくるをかを、かなすきも、いほちもがも、すきはぬるもの」⇒いかくる。
かなた[彼方] (代)方向を指す遠称代名詞。あっち。あちら。竹取「こなた・かなたの目には、李を二つつけたるやうなり」
かなづカナズ[奏づ] (動、下二)(1)舞う。舞を奏する。古事記、下「ここに、その大前・小前の宿禰、手を挙げ、膝を打ちて、儛ひかなで、歌ひまゐ来」(2)音楽を奏する。かなでる。
かなと[金門] (名)「かな」は美称か。門。かど。万葉、[9-1739]「かなとにし人の来立てば夜中にも身はた名知らず出でてぞ逢ひける」(一説、日之門(かのと)の転、日光の入口、すなわち門)
かなとかげ[金門陰] (名)門のかげ。門の内側。古事記、下「おほまへ、をまへすくねが、かなとかげ、かくよりこね、あめたちやめむ」=大前・小前の宿禰は、門の中へ、こう寄って来い。(そうすれば)いま雨が断ちやんだように、矢の雨もやめてやろう。
かなとだ[金門田] (名)門の前の田。家の前の田。万葉、[14-3561]「かなとだを新掻(あらが)きまゆみ日が照(と)れば雨を待(ま)と如(の)す君をを待(ま)とも」=家の前の田を荒がきしたり、細かく耕したりしている時、日でりが続くと、雨を待つように、君の来るのを待っていることである。(すべて東国方言。「まゆみ」は「まがき」の謝りか)
かなとで[金門出] (名)かどで。旅立ち。万葉、[14-3569]「防人に立ちし朝けのかなとでに手放(たばな)れ惜しみ泣きし子らはも 防人の詠」
かなばた[金機] (名)「かな」は光沢を意味する接頭語、「はた」は織物。美しい織物。りっぱな布。仁徳紀、四十年二月「ひさかたの天金機、めとりが織る金機、はやぶさわけのみおすひがね」=女鳥の女王が織っていられる美しい布は、はやぶさわけの皇子の御外套の料にと予定されているのでございます。
かなふカナウ[叶ふ・適ふ] (動、四)(1)よく合う。ふさわしい。あてはまる。相当する。適合する。(2)匹敵する。及ぶ。狂言、双六僧「われはおくれになりしかば、かなはじと思ひて」(3)思いが通る。成る。源氏、紅葉賀「思ひしこと、かなふとおぼす」(4)できる。耐える。宇治拾遺、十二「わが心一つにてはかなはじ、この由を院に申してこそ」(5)やむを得ない。よんどころない。狂言、節分「かなはぬ用の事がござる。平にここを明けて下されい」(6)許す。「目通りかなはず」
かなふカナウ[叶ふ・適ふ] (動、下二)前項の他動。かなうようにする。願いをとげさせる。竹取「願ひをかなふることのうれしさと言ひて」同「願はむことかなへむとのたまふ」
かなふもろひらカノウ…[加納諸平] (人名)江戸時代末期の国学者・歌人。姓は夏目。通称は小太郎。柿園と号した。遠江の人。本居大平に学び、のち紀州藩の国学所総裁となる。安政四年(1857)没、年五十一。主著、柿園詠草・宇津保物語注釈。
かなほんまつ[仮字本末] (書名)「かなのもとすえ」ともいう。江戸時代の国語学者伴信友の著。本文三巻、付録一冊から成る。上巻二冊では平仮名のことを論じ、下巻一冊では片仮名のことを論じ、附録では平田篤胤の「神字日文伝」の説を反駁している。嘉永三年(1850)刊。
かなまり[金椀] (名)金属で作った椀。竹取「天人のよそほひしたる女、山の中より出で来て、しろがねのかなまりを持ちて水を汲みありく」
かなわ (句)できないで。かねて。万葉、[3-385]「あられふりきしみがたけをさかしみと草とりかなわ妹が手を取る」(肥前風土記、杵島郡「あられふるきしまがたけをさかしみと草取りかねて妹が手を取る」とある。「万葉」は誤写か)
がに (助詞)副助詞。ほどに。くらいに。ために。伊勢物語「さくら花散りかひ曇れおいらくの来むといふなる道まがふがに」⇒おいらく。
かにかくに (副)(1)とにかく。万葉、[5-800]「父母を……かにかくに欲しきまにまに、しかにはあらじか」(2)どうのこうと。いろいろと。万葉、[4-737]「かにかくに人はいふとも若狭道(わかさぢ)の後瀬の山の後に会はむ君」(第三・四句は「後」というための序詞)かにはカニワ(名)「白樺」の異称。
かにはざくらカニワ… (名)「白樺」の異称。
かにひ (名)ふじもどき(さつまふじ)の異称か。枕草子、三「草の花は……かにひの花、色は濃からねど、藤の花にいとよく似て、春と秋と咲く。をかしげなり」
かぬ[包ぬ] (動、下二)つつむ。古事記、序文「六合をすべ、天統を得て、八荒をかね」=天下を統一せられ、皇統を得てこれを継ぎ、遠くの国までを(その御徳によって)包まれ。
かぬ[兼ぬ] (動、下二)(1)両方に関係する。兼任する。兼帯する。(2)将来のことを心配する。万葉、[14-3410]「伊香保ろの傍(そひ)の榛原ねもころに奥をな兼ねそまさかし善(よ)かば」(上三句は「奥」というための序詞。「行く末をあまりくよくよと心配するな、今さえよかったら、いいではないか」との意)(3)助動詞的に用いて「不可能だ」「できない」の意をあらわす語。古事記、上「その殿の内にかへり入りませるほど、いと久しくして待ちかねたまひき」
かぬち[鍛冶] (名)「金打ち」の略。「かじ」の古語。古事記、上「天の金山の鉄(まがね)を取りて、かぬち天つまらを招(ま)ぎて」
がね (助詞)副助詞。動詞・助動詞の連体形に付けて、希望の意、すなわち「するように」「できるように」「何何のために」の意をあらわす。万葉、[19-4165]「ますらをは名をし立つべし後の代に聞きつぐ人も語りつぐがね 山上憶良」
がね (接尾)名詞に付けて、やがてそれになるべきものの意をあらわす語。むこがね。みおすひがね。⇒かなばた。
かねおや[金親・銀親] (名)資本を出してくれる人。世間胸算用「月代(さかやき)剃つて正月したことなく、女房どもは銀親の人質になして、手代に機嫌を取らせ」
かねごと[予言] (名)前もって言っておくことば。よげん。枕草子、三「木は……何の心ありて、あすはひのきとつけけむ。あぢきなきかねごとなりや」
かねのみたけ[金の御嶽] (地名)奈良県の金峰山(きんぷせん)の別称。宇津保、菊の宴「いみじき大願を立て、或は山林に交りて、金の御嶽、越の白山、宇佐の宮まで参り給ひつつ」
かのえ[庚] (名)十干の第七位。⇒じつかんじふにし。
かのこまだら[鹿の子斑] (名)鹿の毛のように、茶褐色に白い斑点のあること。伊勢物語「時しらぬ山は富士の嶺(ね)いつとてかかのこまだらに雪の降るらむ」
かのしし (名)(1)「鹿」の古称。(2)鹿の肉。古今著聞集、一「大学寮廟供には、昔はゐのしし・かのししをも供へけるを」
かのと[辛] (名)十干の第八位。⇒じつかんじふにし。
かは (句)副助詞の「か」と副助詞の「は」との連なった語。単語ではない。「やは」と同じく、反語の意をあらわす。「たれかは知るべき」といえば、「だれが知っていようか、だれも知るまい」の意となる。
かはおろしカワ…[川颪] (名)川風。夫木抄、雑一「けさ見れば立田川原のかはおろしさそふ紅葉を波ぞ織りける」
かはがりカワ…[川雁] (名)雁(がん)に同じ。古事記、上「かはがりをさきりもちとし、鷺をははきもちとし」
かばかり (句)(1)これほどに。こんなにして。竹取「かばかり守るところに、天の人にも負けむや」(2)これだけ。これきり。徒然草、五十二段「極楽寺・高良(かうら)など拝みて、かばかりと心得て帰りにけり」
かはぎしのカワ…[川岸の] (枕詞)川岸の崩れやすいことから「くゆ」に、また、川岸の松ということから「まつ」に冠する。万葉、[3-437]「妹もわれも清みの川の川岸の妹が悔ゆべき心は持たじ」後撰集、十三、恋五「来ずやあらむ来やせむとのみ川岸の待つの心を思ひやらなむ」
かはく[河伯] (名)川の神。蜻蛉日記「今ぞ知るかはくと聞けば君がため天照る神の名にこそはあれ」太平記、十四「いかなる河伯・水神なりとも、上をも遊ぎがたく、下をも潜りがたし」
かはぐちのうみカワ… (地名)淀川の河口の海、すなわち難波の海のことか。枕草子、一「海は……かはぐちの海・伊勢の海」
かはくまカワ…[川隈] (名)(1)川のほとり。岸。(2)川の曲がったかど。万葉、[1-79]「おほきみの……わが行く河の、川隈の八十隈(やそくま)おちず、よろづたび、かへりみしつつ」
かはごカワ…[皮籠] (名)皮で張った籠。また、紙で張ったものをもいう。宇治拾遺、一「また、ただの八丈・綿・絹など、かはごどもに入れて取らせ」方丈記「西南に竹の釣棚を構へて、黒きかはご三合を置けり」
かはじりカワ…[川尻] (地名)普通名詞としては、川口・河口であるが、「土佐日記」「大和物語」「平家物語」等に出ているのは、すべて摂津の淀川の川尻を指している。淀川が大阪湾に注ぐところ。
かはだうカワドウ[革堂] (寺名)天台宗の名殺行願寺の別称。京都市上京区寺町通竹屋町にある。数度の火災にあい、天正年間(1573-1591)今の地に移る。大鏡、七、太政大臣道長「革堂にて御ぐしおろさせ給ひて」
かはたけカワ…[川竹] (名)(1)川のほとりに生ずる竹。拾遺愚草「川竹の下行く水の薄氷昼は消えつつ哭(ね)こそ泣かるれ」(上三句は、「消えつつ」というための序詞)(2)遊女の身の上。遊女。「起き伏し定まらず」との意。
かはたけカワ…[苦竹] (名)「まだけ」のこと。「河竹」はあて字。枕草子、六「あはれなるもの……かは竹の風に吹かれたる夕ぐれ・暁に目さましたる」徒然草、二百段「呉竹は葉細く、河竹は葉広し。御溝(みかは)に近きは河竹」
かはたけのカワ…[川竹の] (枕詞)竹の節(よ)の意から「世」に、また、川竹は水に流されるとの意から「流る」に冠する。平家、一、二代の后「うき節に沈みもやらで川竹の世にためしなき名をや流さむ」続後撰、十七、雑中「川竹の流れて来たる言の葉は世にたぐひなきふしとこそ聞け」
かはたけもくあみカワ… (人名)⇒ふるかはもくあみ。
かはだたみカワ…[皮畳] (名)ふだんはたたんでおき、用のある時に敷く皮の敷物。皮の敷物。古事記、中「菅畳八重、皮畳八重、絁畳(きぬだたみ)八重を波の上に敷き」
かはだちカワ…[川立] 「かはそだち」の略。川の近くで生まれ、泳ぐことなどにうまい人。諺「川立は川にて果つる」
かはたれどきカワ…[かはたれ時] (名)朝方。夕方。薄暗くて、「彼はたれ」と疑う時の義という説もあるが、落語じみている。万葉、[20-4384]「暁(あかとき)のかはたれどきに島かげを漕ぎにし船のたづき知らずも」
かはたれぼしカワ…[かはたれ星] (名)「かはたれどき」に出る星の義。明けの明星。宵の明星。
かはづカワズ[河津・蛙] (名)河の津、渓流の津に住む義、(1)かじか。古今集、序「花に鳴くうぐひす、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」(「うぐひす」と並べているところに注意)(2)転じて、かえる。芭蕉の句「古池やかはづ飛び込む水の音」
かはなぐさカワ…[川菜草] (名)淡水に産する藻類の総称。古今集、十、物名「かはなぐさ うば玉の夢になにかはなぐさまむうつつにだにもあかぬ心を 清原深養父」
かはなみのカワ…[川波の] (枕詞)同音を重ねて「なみ」に冠する。万葉、[5-858]「若年魚(わかゆ)釣る松浦(まつら)の川の川波の並みにし思はばわれ恋ひめやも」(普通の思いならの意)
かばね[屍・骨] (名)(1)死骸。しかばね。なきがら。万葉、[18-4094]「あしはらの……海行かば水漬(みづ)くかばね、山行かば草むすかばね、大君の辺にこそ死なめ、かへりみはせじ」(2)骸骨。ほね。古事記、下「土を掘りて、その御かばねを求(ま)ぎて」(3)棺。ひつぎ。神代紀、下「時に天稚彦が妻子(めこ)ども天より降りて、柩(かばね)をもて天に上りゆきて」
かばね[姓] (名)上代の職名。世襲して、その家格および家系の称となる。もと、数が多かったが、第四十代天武天皇の御代に改めて真人・朝臣・宿禰・忌寸・導師・臣・連・稲置の八級とし、氏の名に添えて称せしめ、家柄の種別とせしめた。例えば、柿本朝臣人麻呂の柿本は氏、朝臣は姓、人麻呂は名であり、大伴宿禰家持の大伴は氏、宿禰は姓、家持は名である。ただし、のち、氏をも姓(せい)と称するようになった。
かばのくわんじや…カン…[蒲の冠者] (人名)源頼朝の弟、源義経の兄、源範頼の別称。遠江の国(静岡県)蒲(がま)の御厨で生まれたのでいう。だから、「がまのくわんじや」というべきであろうが、通例「かばのくわんじや」という。ただし、「がまの御曹司」とは呼ぶ。冠者は、六位の欠官。徒然草、二百二十六段「行長入道、平家物語を作りて……蒲の冠者のことは、よく知らざりけるにや、多くのことどもをしるし漏らせり」
かはひそらカワイ…[河合曾良] (人名)江戸時代の俳人。本名は岩波庄右衛門。信濃の人。芭蕉の門人。芭蕉の「鹿島紀行」や「奥の細道」などの旅行の時、随行した。宝永七年(1710)没、年六十一。
かはぶえカワ…[皮笛] (名)脣の皮で吹く笛の義か。口笛。うそ。源氏、紅梅「かはぶえ(うそぶえ)ふつつかに慣れたる声して」琴後集、十三、書牘「翁があやしのかは笛」
かはぶねカワ…[川舟] (名)川や湖に用いる船。出雲風土記、意宇郡「みつよりの網打ちかけて、霜つづらくるやくるやに、かはぶねの もそろもそろに、国来国来と引き来逢へる国は」(「もそろもそろ」は「しずかに、そろそろと」)
かはほりカワホリ[蝙蝠] (名)(1)「こうもり」の異名。「川守」の転。「やもり」「ゐもり」に対し、川岸・橋下などに住むのでいうと。竹取「かばかりして守る所に、かはほり一つだにあらば、まづ射殺して、外にさらさむと思ひ侍り」(2)「扇」の異称。開いた時の形が蝙蝠に似ているところからいう。源氏、紅葉賀「かはほりのえならず絵かきたるを」琴後集、八、五十首「かくばかり残る暑さにかはほりを秋とて誰かうとみしもせむ」
かはやカワ…[厠] (名)便所。古代、川の上に二枚の板を渡し、その透き間から用を足したことから起った名。現在でも山中の部落などに、この習慣のある処がある。古事記、中「そのかはやの下より、その美人(をとめ)のほとを突きたまひき」
かはやぎのカワ…[川柳の] (枕詞)川柳の根ということから「ね」の音に冠する。万葉、[9-1723]「かはづ鳴く六田(むつだ)の川の川柳のねもころ見れど飽かぬ川かも」
かはゆしカワユシ (形、ク)(1)恥ずかしい。おもはゆい。右京大夫集、「おのづから、人のさることやなどいふには、いたく思ふままのことかはゆくおぼえて、少少をぞ書きて見せし」(2)いとおしい。気の毒だ。太平記、二、阿新殿事「山伏これを聞いて、われこの人を助けずば、ただいまのほどに、かはゆき目を見るべしと思ひければ」(3)かわいい。かわいらしい。小さくて美しい。たわいがない。
かはらカワ…[川原] (地名)固有名詞の場合は、京都の賀茂川の川原をいう。宇津保、藤原の君「川原に出で給ひて」
かはらかなりカワラカナリ (形動、ナリ)あっさりしている。さっぱりしている。源氏、帚木「安らかに身をもてなしふるまひたるいとかはらかなりや」紫式部日記「もの清く、かはらかに、人の女(むすめ)とおぼゆるさましたり」
かはらけカワラ…[土器] (名)「瓦笥(かはらけ)」の義。(1)素焼の陶器。特に、素焼のさかずき。伊勢物語「女あるじにかはらけとらせよ。さらずば飲まじ」(2)炭火を入れて運ぶ土製の十能。徒然草、二百十三段「御前の火炉に火をおく時は、火箸してはさむことなし。かはらけよりただちに移すべし」(3)発毛期になっても、まだ毛の生えない婦人の局部の称。
かはらふカワラウ[変らふ] (動、四)だんだんと移り変わる。万葉、[3-478]「かけまくも……いや日日(ひけ)に変らふ見れば」
かはりぎぬカワリ…[代り絹] (名)金銭の代わりに用いる絹。宇治拾遺、七「ただいま、かはりぎぬなどはなきを、この鳥羽の田や米などには代へてむやと言ひければ」
かはわカワ…[川曲] (名)かはくま(2)に同じ。
かはをさカワオサ[川長] (名)渡し守。船頭。源氏、橋姫「さしかへる宇治の川長朝夕のしづくや袖をくたし果つらむ」(「くたし果つ」は「腐らせてしまう」)
かばん[加番] (名)徳川幕府の職名。その本分の職以外に附加して勤める職。
かひカイ[峡] (名)間。谷。古事記、下「こちごちの、やまのかひに」
かひカイ[卵] (名)たまご。かひこ。宇津保、藤原の君「かひのうちに命こめたる雁の子は君が宿にてかへらざらなむ(かへさざらなむ)」
かひカイ[頴] (名)穂のままの稲。穂。祝詞、祈年祭「初穂をば千かひやほかひに奉り置きて」
かひカイ[匙] (名)しゃくし。さじ。もと、貝殻を用いたことから起った名。枕草子、九「心にくきもの……ものまゐるほどにや、はし・かひなどの取りまぜて鳴りたる」(「御飯時であろうか」との意)
かひカイ (接尾)(1)「うちちがい」の意をあらわす。羽がひ。(2)「間」の意をあらわす。まなかひ(両眼の間)。しほかひ(潮の間)。
かひうたカイ…[甲斐歌] (名)風俗歌の一。甲斐の国(山梨県)で歌われた歌謡。土佐日記「西国なれども、かひうたなどうたふ」古今集、二十、東歌「甲斐うた」
かひかうカイコウ[貝香・甲香] (名)香螺(へたなり)という貝の蓋。砕いて粉末とし、練香の主成分とする。徒然草、三十四段「かひかうは、ほら貝のやうなるが、小さくて、口のほどの細長にして、出でたる貝のふたなり」
かひがねカイ…[甲斐が嶺] (地名)甲斐の国(山梨県)にある高い山。富士山とも白根山ともいう。古今集、二十、東歌「かひがねをさやにも見しがけけれなく横折り伏せるさやの中山」
かひこカイコ[卵] (名)たまご。かひ。海道記「翁が家の竹林にうぐひすのかひこ、子の形にかへりて巣の中にあり」
かひこカイコ[殻] (名)から。まゆ。古事記、下「ぬりのみが飼ふ虫、ひとたびは匐ふ虫になり、ひとたびは殻(かひこ)になり、ひとたびは飛ぶ虫になりて、三色(みくさ)に変はるあやしき虫あり」」
かひだゆしカイダユシ (形、ク)「かひな」すなわち「腕」がだるい。
かひだるしカイダルシ (形、ク)前項に同じ。
かひなカイナ[腕] (名)肩とひじの間。また、うで。
かひなカイナ (名)「かひなし」の語幹が名詞となった語。効果のないこと。竹取「あな、かひなのわざや」
かひなしカイナシ[甲斐なし] (形、ク)(1)効果がない。ねうちがない。無駄だ。(2)弱弱しい。未熟である。(3)意気地がない。ふがいない。
かひばらえきけんカイ…[貝原益軒] (人名)江戸時代の儒者・教育家。名は篤信。筑前の福岡藩の人。山崎闇斎・木下順庵らに学び、所信を平易・通俗な文で述べ、当時の民衆教育に力をつくした。正徳四年(1714)没、年八十四。主著、女大学・大和本草・益軒十訓・慎思録。
かひやカイ…[飼屋] (名)蚕を飼う家、魚に餌をやるために水辺にたてた家などの説があって明らかでない。猿蓑集「這ひ出でよかひやが下のひきの声 芭蕉」次項参照。
かびや[鹿火屋・香火屋] (名)田畑を荒らす猪や鹿をおどすために火を焚く仮り屋。また、前項の「かひや」とするなどの説があって明らかでない。万葉、[10-2265]「朝霞かびやが下に鳴くかはづ声だに聞かばわれ恋ひめやも」(上三句は「声」というための序詞)
かひろぐカイログ (動、四)ゆれる。ゆれうごく。枕草子、三「草の花は……昔思ひ出で顔になびきてかひろぎ立てる」=草の花は……(すすきが、頭も白くなったのも知らずに)昔のはなやかであったころを思い出し顔に靡いて、びらしゃらして立っている。
かふコウ[甲] (名)(1)きのえ。十干の第一位。(2)転じて、第一位。(3)よろい。(4)かめ・かになどの背部の堅い殻。(5)手や足の表の方。
かぶ (名)(1)あたま。かぶり。(2)頭を垂れること。天智紀、三年十二月「ひと夜の間に稲生ひて穂出でたり。そのあしたにかぶしてあからめり」
かぶき[冠木] (名)上の方に渡した横木。太平記、三十四、新将軍南方進発事「川の面二町余り引き並べ、柱をゆり立て、もやひを入れて、上にかぶ木を敷き並べたれば」(「冠木門」なども、ここから起った語)
かぶく[傾く] (動、四)「かぶ」は「あたま・かぶり」。(2)頭を傾ける。頭をかしげる。行宗集、「雨降れば門田の稲ぞしどろなる心のままにかぶき渡りて」(2)常道から外れる意に転じて、ふざける。いたずらする。童蒙先習「青侍のかぶきまつはれつつ使はれぬ」
がふくわんゴウカン[合巻] (名)文化以後、江戸で刊行した草子で三冊物・四冊物等を合本とし、彩色した絵表紙をつけたもの。絵入の長編小説。柳亭種彦の「偐紫田舎源氏」などがその一つの代表。
がふしゴウ…[合子] (名)蓋付きの朱塗椀。枕草子、十「いみじくきたなきもの、なめくぢ、えせ板敷の帚、殿上のがふし」(殿上の間の備え付けの合子が古ぼけていることをいう)平家、八、猫間「田舎合子の極めて大きに窪かりけるに、飯うづたかうよそひ」
かぶす[傾す] (動、四)「かぶ」は「あたま・かぶり」。「かぶく」に同じ。⇒うなかぶす。
かぶつちのたち[頭椎の太刀] (名)「かぶ」は「あたま・かぶり」。柄の頭が椎(つち)のような形をしている太刀。くぶつちのたち。かぶつちのつるぎ。
かぶつちのつるぎ[頭椎の剣] (名)前項に同じ。神代紀、下「一書に曰く……頭椎の剣を帯(は)き」
かぶと[冑・兜] (名)武具の一。頭にかぶる鉄製のもの。いただきを覆う部分を「鉢」といい、その下に垂れて頸を覆う部分を「しころ」という。附図参照。
かぶら[鏑] (名)(1)木で作り、蕪(かぶら)の形をして、中空で、表面に数個の穴をあけ、射ると風をきって鳴りひびくようにしたもの。鏑矢のやじりの手前につけるもの。(2)「かぶらや」の略。平家、十一、那須与一「与一、鏑を取つてつがひ、よつ引いてひやうと放つ」
かぶらや[鏑矢] (名)手前に鏑をつけ、その先に雁股を付けた矢。かぶら。附図参照。⇒かうし(嚆矢)。
かぶり[冠・被り] (名)(1)かんむり。(2)官位。かうぶり。(3)かぶること。「ほほかぶり」
かへさカエサ[帰さ] (名)「かへるさ」の略。帰る時。帰りしな。帰路。枕草子、二「物見のかへさに、乗りこぼれ」
かへさふカエサウ[返さふ] (動、四)「返す」の延音。(1)うらがえす。ひっくりかえす。万葉、[18-4129]「針袋取り上げ前に置きかへさへばおのともおのや裏も継ぎたり」(「おのともおのや」は「驚いたことには」の意)(2)重ねてする。くりかえす。琴後集、十一、序「その書なりて後、春海に、なほかへさひ読みて、考えしらべよとて示し給ふ」
かへさまカエ… (名)反対。あべこべ。宇津保、あて宮「冠をしりへざまにし、上の袴をかへさまに着」枕草子、五「ねたきもの……かへさまに逢ひたるも、いとねたし」
かへしカエシ[返し] (名)(1)返答。竹取「かかるよしのかへしを申しければ」(2)「かへしうた」の略。土佐日記「ある人の子の童なる、ひそかにいふ。まろ、この歌のかへしせむ」(3)風・地震などの、一旦やんで再び起ること。蜻蛉日記「昼つ方、かへしうち吹きて」(4)他にも多くの意味があるが、現代語の内容とほとんど同じ。
かへしうたカエシ…[返歌] (名)贈られた歌に対する返答の歌。かへし。へんか。
かへしうたカエシ…[反歌・返歌] (名)(1)長歌に添えた短歌。長歌の意をまとめ、または不足を補うもの。「万葉集」に多く見られる。(2)うたう調子の変わる歌。また、くりかえしてうたう歌。古事記、下「この天皇と大后と御歌はしたる六歌は、しづうたのかへしうたなり」⇒しづうた。
かべしろ[壁代] (名)壁の代用とする張(とばり)。几帳に似たもの。狭衣、二、上「壁代の中に入り立ちて見給へば」雨月物語「壁代の絵なども、皆古代のよき物にて」
かべのなかよりもとめいでたるふみ[壁の中より求め出でたる書] (句)「古文孝経」をいう。弘安国の古文孝経の序に「魯の恭王、人をして夫子の講堂を壊たしめ、壁中の石函より古文孝経二十二章を得たり」とあるのによる。秦の焚書の際、隠したのである。「夫子の講堂」は、孔子の旧宅の講堂。十六夜日記「むかし、壁の中より求め出でたりけむ書の名をば、今の世の人の子は、夢ばかりも身の上のこととは知らざりけりな」
かへまうしカエマウシ[変へま憂し] (形、ク)変えるのがつらい。源氏、桐壺「この君の御わらはすがた、いとかへまうくおぼせど、十二にて元服し給ふ」
かへりあるじカエリ…[還饗] (名)昔、相撲・賭弓などの節会の終った後で、近衛府の長官が人人の労をねぎらう饗宴。宇津保、俊蔭「この殿には相撲のかへりあるじあるべければ」
かへりだちカエリ…[還立] (名)(1)賀茂・石清水等の祭の終った後、奉仕した舞人らが宮中へ帰り、更に天皇の前で舞楽を奏すること。「かへりあそび」ともいう。宇治拾遺、五「賀茂の臨時の祭の還立に御神楽のあるに」(2)「かへりあるじ」に同じ。源氏、竹河「のり弓のかへりだち、相撲のあるじなどには、おはしまししを思ひて」
かへりごとカエリ…[返言] (名)(1)使者が帰って来て報告することば。復奏。古事記、上「やがて大国主の神に媚び付きて、三年になるまで、かへりごとまをさざりき」(2)返答。竹取「翁かしこまりて、御かへりごと申すやう」
かへりだちのあるじカエリ…[還立の饗] (名)「かへりあるじ」に同じ。
かへりのあるじカエリ…[還饗] (名)「かへりあるじ」に同じ。
かへりまうしカエリモウシ[還り申し] (名)(1)使者が帰って来て報告することば。復奏。かへりごと。(2)神仏に祈願して、報謝すること。御礼参り。宇津保、藤原の君「よろづの神たちに、かへりまうしのみてぐら奉らむとて」
かへりみカエリミ[顧み] (名)(1)報恩。竹取「親たちのかへりみを、いささかだに仕うまつらで」(2)後見。恩顧。源氏、少女「身に余るまで御かへりみを賜はりて」(3)ためらうこと。顧慮すること。万葉、[20-4373]「けふよりはかへりみなくて大君の醜(しこ)の御楯と出で立つわれは 防人の歌」(4)うしろをふりむくこと。万葉、[1-47]「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ 柿本人麻呂」(5)過去をふりかえること。追想。追憶。万葉、[2-135]「心を痛み、思ひつつ、かへりみすれど 柿本人麻呂」
かへりみるカエリミル[顧みる] (動、上一)(1)ふりかえって、うしろを見る。(2)思いかえす。反省する。(3)追憶する。回想する。(4)世話をする。(5)あわれむ。いつくしむ。
かへるがへるカエルガエル (副)かえすがえす。後撰集、十二、恋四「みるめもなくめもなき海の浜(磯)に出てかへるがへるもうらみつるかな 紀友則」(緑語を多く用いている)
かへるさカエルサ[帰るさ] (名)帰る時。帰りしな。帰路。かへさ。竹取「かへるさのみゆきものうくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ」
かへるでカエルデ[楓] (名)かえで。もみじの木。葉の形が蛙の手に似ていることから起った名。万葉、[8-1623]「わが宿にもみづかへるで見るごとに妹を懸けつつ恋ひぬ日はなし」
かへるやまカエル…[帰山] (地名)歌枕の一。越前の国、福井県南条郡鹿蒜(かひる)村から敦賀郡の杉津に出る山路。木芽峠の北に当たる。古今集、八、離別「かへるやまありとは聞けど春霞立ち別れなば恋ひしかるべし 紀利貞」枕草子、一「山は…かへるやま・いもせやま」
かへるやまカエル…[帰山] (枕詞)頭音を重ねて「かへるがへる」に冠する。古今集、十七、雑上「白雪の八重降りしけるかへる山かへるがへるも老いにけるかな 在原むねやま」
かへん[カ変] (名)⇒かぎやうへんかくくわつよう。
かほどりカオ…[貌鳥] (名)美しい鳥の総称。かほよどり。万葉、[6-1047]「かほどりは、まなくしば鳴く」
かほばせカオ…[顔ばせ] (名)顔のさま。かんばせ。
かほばなカオ…[貌花・容花] (名)未詳。「ひるがほ」説が通説である。万葉、[8-1630]「高円(たかまと)の野辺のかほばなおもかげに見えつつ妹は忘れかねつも 大伴家持」
かほばなのカオ…[貌花の] (枕詞)前項参照。貌花は昼咲いて夕方眠ったようにしぼむことから「寝(ぬ)」に冠する。万葉、[14-3505]「うち日さつ宮の瀬川のかほばなの恋ひてか寝らむ昨夜(きぞ)も今夜(こよひ)も」
かほよどりカオヨ…[貌佳鳥] (名)「かほどり」に同じ。一説、おしどり・かわせみ・きじのおすなど。
かほよばなカオヨ…[貌佳花] (名)「かほばな」に同じ。
かま (感)「うるさい」「やかましい」などと感じたときに発する声。「かまかまし」「かまし」「かまびすし」などの共通語根。通例、「あな」と続けて「あな、かま」として用いる。更級日記「あな、かま。人に聞かすな。いとをかしげなる猫なり。飼はむ」
かまかまし (形、シク)「かまびすし」に同じ。
かまき[釜木] (名)釜の下で燃やす木。たきぎ。徒然草、百七十六段「みかまきにすすけたれば、黒戸といふとぞ」
かまく (動、下二)口語の「かまける」に当たる語。(1)感心する。感動する。感激する。皇極紀、三年正月「中臣鎌子連、すなはちめぐまるるにかまけて、舎人に語りて曰く」(2)気をとられる。拘泥する。傾城島原蛙合戦「左様のことにかまけて、うろつく蟠楽にあらず」
かまくらじだい[鎌倉時代] (名)源頼朝が鎌倉に幕府を開いた建久三年(1192)から北条高時が鎌倉で滅ぼされる元弘三年(1333)に至る約百四十年の間をいう。
かまくらのうだいしやう…シヨウ[鎌倉の右大将] (人名)「源頼朝」の別称。
かまくらのうだいじん[鎌倉の右大臣] (人名)「源実朝」の別称。
かまくらのちゆうしよわう…オウ[鎌倉の中書王] (人名)後嵯峨天皇の第一皇子。「中書」は「中務省」の唐名。北条氏からの願いで征夷大将軍として鎌倉へ下られた。文永十一年(1274)薨、年三十二。徒然草、百七十七段「鎌倉の中書王にて御鞠ありけるに」(その邸での意)
かまくらやま[鎌倉山] (地名)鎌倉市の鶴岡八幡宮の裏山。万葉、[14-3433]「たきぎこる鎌倉山の木垂る木をまつと汝(な)がいはば恋ひつつやあらむ」(上三句は「まつ」というための序詞)
かまし (形、シク)「かまびすし」に同じ。蜻蛉日記「あな、かまし、つらにくしといふに驚きて」
がまし (接尾)「らしい」「の傾向がある」などの意を添えて上の語と共に形容詞を構成する語。隔てがまし。をこがまし。不平がまし。
かましし (名)「かもしか」の古名。皇極紀、二年十月「岩の上(へ)に小猿米焼く、米だにも、たげて通らせ、かまししのをぢ」(「をぢ」は「小父」。「老翁(おぢ)」ではない)
かまつかのはな[かまつかの花] (名)雁来紅。葉鶏頭。枕草子、三「草の花は……かまつかの花、らうたげなり」
かまど[竈] (名)(1)へっつい。竹取「かまどを三重にしこめて」水鏡、一、仁徳天皇「高き屋にのぼりて見ればけぶりたつ民のかまどはにぎはひにけり」(2)転じて、一軒の家をいう。源氏、玉葛「家・かまどをも捨て、男・女のたのむべき子どもにもひき別れて」
かまどやま[竈山] (地名)福岡県、大宰府にある山。この山に、竈神社や竈の山寺などがある。水鏡、下「伝教大師、筑前におはして……かまどの山寺にて薬師仏四体を造り給ひき」
かまびすし[喧し・囂し] (形、シク)うるさい。やかましい。さわがしい。かしがまし。かしまし。かまかましい。かまし。
かまびすし[喧し・囂し] (形、ク)意は前項に同じ、為忠集「永き日の茂きの枝にかまびすく鳴くひよ鳥のねぶたげもなし」(口調の上から破格を用いたものであろう)
かまふカマウ[構ふ] (動、下二)(1)組み立てて造る。建造する。(2)かねて用意する。用心する。(3)身構える。身支度する。(4)捏造する。十訓抄、中「欲に進み、虚言をかまふるものは、盗みをするたぐひ」(5)起す。まじえる。「兵を構ふ」
かまへカマエ[構へ] (名)(1)結構。構造。規模。徒然草、百六十六段「そのかまへを待ちて、よく安置してむや」=(その堂塔の)結構の完成を待って、よく(雪仏を)据えることができようか。(2)邸宅。(3)城郭。(4)準備。支度。(5)他は現代語とほぼ同じ意味である。かまへてカマエテ[構へて](副)心して。注意して。用心して。
かまめ[鷗] (名)「かもめ」の古称。
かみ[上] (名)(1)上(うえ)の位置。古事記、中「あは、兄なれども、かみとあるべからず。ここをもて、ながみことかみとまして、天の下を知ろしめせ」(2)天子の尊称。「上御一人」(3)高位の人または政府・官庁などの尊称。「おかみ」(4)年上の人。年長者。源氏、若菜、下「七つよりかみは皆殿上せさせ給ふ」(5)その他多くの意味があるが、現代語の内容とほぼ同じ。
かみ[長官] (名)かみ・すけ・じよう・さくわんの四階級の最上級。諸官により、卿・督・頭・伯・正・守などの漢字をあてる。附録参照。
かみ[雷] (名)かみなり。竹取「かみは落ちかかるやうに、ひらめきかかるに、大納言はまどひて」
かみあがり[崩](名)神・天皇の崩ずること。
かみあがる[崩る] (動、四)崩ずる。神代紀、下「久しくましまして、天津彦彦火瓊瓊杵尊かみあがりましぬ」
かみあげ[髪上げ] (名)昔、女子が年頃になった時、下げていた髪を結び上げ、その先を背中に垂らしておくこと。成年の儀式で、通例十二、三歳頃に行う。竹取「よきほどなる人になりぬれば、髪上げなどさう(さだ)して、髪上げさせ、裳着す」(「さうす」は「左右す・手配する」または「奏す・申し上げる」。「さだす」ならば「定める」)
かみあそび[神遊び] (名)神前に舞楽を奏して、神の心をなごめること。かぐら。
かみあそびのうた[神遊びの歌] (名)神楽歌。古今集、二十「神遊びの歌」⇒かぐらうた。
かみいちだんくわつよう…カツ…[上一段活用] (名)文法用語。その語尾が五十音図のイ段の音と、それに「る・れ・よ」の付いたものとでできる変化をいう。「射る」は「い・い・いる・いる・いれ・いよ」「着る」は「き・き・きる・きる・きれ・きよ」と変化する類。この活用は動詞にだけ存する。文語の上一段活用の動詞の語数は十数語しかない。
かみかうぶり…コウブリ[紙冠] (名)紙で作った冠。三蜻蛉角形に切った紙を額に当てるだけで、頂きも後ろもないもの。昔、陰陽師や小児などが用いた。亡者の額につけるのは、この遺風である。枕草子、十二「みぐるしきもの……陰陽師の紙かうぶりして祓へしたる」
かみがかり[神懸り] (名)「かむがかり」に同じ。
かみがき[神垣] (名)(1)神社のまわりの垣。玉垣。(2)転じて、神社または神社の境内。
かみがきの[神垣の] (枕詞)神をまつった所を「みもろ」というので、それに通わせて、大和の「御室の山」に冠する。古今集、二十、神遊びの歌「神垣のみむろの山の榊葉は神のみまへにしげりあひにけり」
かみかぜの[神風の] (枕詞)「かむかぜの」に同じ。「かむかぜの」が古い形。「かみかぜの」は後世の形。
かみかぜや[神風や] (枕詞)「かむかぜや」に同じ。
かみがたり[神語] (名)上古、神によって語られた物語、または歌われた歌謡。それを暗誦して伝えたのは語部(かたりべ)である。古事記、上「これをかみがたりといふ」⇒かたりべ。
かみがら[神柄] (名)「かむがら」に同じ。
かみがら[守柄] (名)国司としての人柄。土佐日記「守がらにやあらむ」
かみくら[上座] (名)「くら」は「すわる場所」上座(じようざ)。かみざ。上席。八犬伝、七「船虫はにこやかに、はやかみくらに着くほどに」
かみこ[紙子] (名)紙製の綿入。「布子」の対。厚い白紙に柿の渋を塗り、数回日に乾かし、もみやわらげて衣服に製し中に綿を入れる。奥の細道「紙子一衣は夜の防ぎ」
かみこ[神子](名)みこ。かむなぎ。
かみごゑ…ゴエ[雷声] (名)かみなりのような高い声。蜻蛉日記「若き男ども、ほどさし放れて並み居て、ささなみや志賀のからさきなど、例のかみ声ふり出したるも」
かみさぶ[神さぶ] (動、上二)(1)神神しく見える。古びて尊く思われる。おごそかである。かむさぶ。万葉、[20-4380]「難波門(なにはど)を漕ぎ出て見ればかみさぶる生駒高嶺に雲ぞたなびく」(2)ふるめかしい。古風である。年が老いる。宇津保、蔵開、中「かみさびたる翁」
かみさる[神去る] (動、四)⇒かむさる。
かみじまおにつら[上島鬼貫] (人名)江戸時代の俳人。摂津の伊丹の人。松江重頼に俳諧を学び、独特の境地を開き、世に「伊丹風」と呼ばれた。「行水の捨てどころなし虫の声」は人口に膾炙している。古川柳「おにつらは夜通したらひ持ちまはし」元文三年(1738)没、年七十七。主著、ひとりごと・仏の兄・犬居士。
かみぢやまカミジ…[神路山] (地名)伊勢神宮の内宮の神苑から東南一帯の山地の称。新古今、十九、神祗「神路山月さやかなる誓ひありて天の下をば照らすなりけり 西行法師」
かみづかさ…ズカサ[神祗官] (名)「じんぎくわん」に同じ。
かみづかさのかみ…ズカサ…[神祗伯] (名)「じんぎはく」に同じ。
かみつけの[上毛努] (地名)群馬県の古称。万葉、[14-3420]「かみつけの佐野の船橋取り放し親は放(さ)くれど我は放かれがへ」(上三句は「放く」というための比喩的序詞。親は男と自分との間を裂こうとしても、自分は裂かれるだろうか、裂かれはしないとの意。なお、「記紀」「万葉」などで「努・弩」などの漢字を用いていても、「能・乃」などの漢字を用いていても、すべて「の」と読む。最近まで「の」が「ぬ」と誤読されていた。
⇒ぬ(野)。
かみなが[髪長] (名)(1)「かうなが」に同じ。(2)婦人。
かみなきくらゐ…クライ[上なき位] (句)最高の位。天皇の位。源氏、桐壺「国の親となりて、帝王のかみなきくらゐにのぼるべき相おはします」
かみなづき…ズキ[神無月] (名)陰暦十月の称。かんな月。「醸み成し月」「雷無し月」などの説があり、俗説では、八百万の神神が、この月に出雲の大社に集まるともいう。
かみなび[神奈備] (名)神社の森。かむなび。かんなび。森は、上代人の信仰で降神の場所と考えられ、中でも、大和の飛鳥の神奈備、龍田の神名備が特に名高い。万葉、[8-1419]「かみなびの岩瀬の森のよぶこ鳥いたくな鳴きそわが恋まさる」(「岩瀬の森」は龍田川の東にある)
かみなびがは…ガワ[神奈備川] (地名)神奈備山の麓を流れる川。かむなびがは。かんなびがは。万葉、[8-1435]「かはづなくかみなび川にかげ見えて今や咲くらむ山吹の花」
かみなびのもり[神奈備の森] (地名)かむなびのもり。かんなびのもり。摂津の国、大阪府三島郡神内(かうない)の森か。枕草子、六「もりは……かみなびの森・うたたねのもり」
かみなびのやま[神奈備の山] (地名)次項に同じ。古今集、五、秋下「かみなびの山を過ぎゆく秋なれば龍田川にぞぬさは手向くる 清原深養父」
かみなびやま[神奈備山] (地名)「三室山」「神岳」「雷岳」ともいう。かむなびやま。かんなびやま。大和の国、奈良県生駒郡龍田町大字神南にある山。龍田川に臨む。万葉、[3-324]「みもろのかみなびやまに五百枝(いほえ)さし、繁(しじ)に生ひたるつがの木の、いやつぎつぎに 山部赤人」
かみなりのぢん…ジン[雷鳴の陣] (名)昔、宮中で、雷があまり高く鳴る時、近衛の将官が弓箭を帯して伺候し守護した所。かんなりのぢん。枕草子、十「ことばなめげなるもの……雷鳴の陣の舎人、相撲」
かみにだんくわつよう…カツ…[上二段活用] [上二段活用](名)文法用語。その語尾が五十音図のイ段・ウ段の二段の音と、それに「る・れ・よ」の付いたものとでできる変化をいう。「起く」は「起き・起き・起く・起くる・起くれ・起きよ」、「老ゆ」は「老い・老い・老ゆ・老ゆる・老ゆれ・老いよ」と変化する類。この活用は文語動詞にだけ存し、その動詞の語数は上一段活用に比しては多い。
かみのく[上の句] (句)三十一音の和歌において、上の五七五の三句の称。下の七七を「下の句」というのに対する。
かみのみさか[神の御坂] (句)けわしい坂。「神のいます恐ろしい坂」の義。万葉、[20-4402]「ちはやぶる神の御坂に幣(ぬさ)奉(まつ)り斎(いは)ふいのちは母(おも)父がため」
かみよ[神代] (名)天地開闢から神武天皇の御代の前までの時代。その年数は全く不明。じんだい。万葉、[1-13]「香具山は畝火ををしと耳梨と相争ひき、神代より斯くなるらし、いにしへも然(しか)なれこそ、うつせみも妻を争ふらしき 中大兄」
かみら (名)韮(にら)の古称。「こにら」の転。古事記、中「あはふには、かみらひともと」=粟畑には、にらが一本。
かみわざ[神業・神事] (名)(1)神のする霊妙不可思議なわざ。(2)神に仕える行事。神事。祭典。神楽。源氏、真木柱「霜月になりぬ。かみわざなどしげく、内侍所にもこと多かる頃にて、女官ども内侍ども参りつつ」
かみをか…オカ[神岳・雷岳] (地名)「かみなびやま」に同じ。
かみをかやま…オカ…[神岳山・雷岳山] (地名)前項に同じ。
かむ[神] (名)神(かみ)。
かむ[醸む] (動、四)「かもす」の古語。もと、米を噛み、唾で醗酵せしめて酒を造ったのに基づく語。古事記、上「いましたち、八塩折りの酒を醸み、また垣を作りもとほし」
かむあがる[崩る] (動、四)崩ずる。かみあがる。古事記、中「かれ、すめらみこと、かむあがりましてのち」
かむがかり[神懸り] (名)神が人にのりうつること。古事記、上「あめのうずめのみこと……かむがかりして、胸乳(むなぢ)をかき出で」
かむかぜの[神風の] (枕詞)諸説があって一定しないが、とにかく「伊勢」に冠する。古事記、中「かむかぜのいせのうみの」万葉、[1-81]「かむかぜの伊勢をとめども」
かむかぜや[神風や] (枕詞)前項から転じて「伊勢」に関係ある神宮その他神事に関する事項に冠する。新古今、十九、神祗「神風や御裳裾川のそのかみに」同「神風や五十鈴の川の宮柱」同「神風や玉串の葉をとりかざし」同「神風や山田の原のさかき葉に」
かむかひ…カイ[神頴・勘養] (名)「かひ」は穂のままの稲。神の食する米。一説、「食向(けむか)ひ」の転で、食膳に向かう義。祝詞、祈年祭「朝御食(あさみけ)・夕御食(ゆうみけ)のかむかひに」出雲風土記、記、島根郡「朝御餼(あさみけ)のかむかひ・夕御餼(ゆうみけ)のかむかひ」
かむがら[神柄] (名)神の故。神の本性。かみがら。万葉、[2-220]「たまもよし、讃岐の国は、国柄か、見れど飽かぬ、かむがらか、ここだたふとき 柿本人麻呂」
かむさる[神去る] (動、四)かみさる。(1)崩ずる。かむあがる。古事記、上「かれ、いざなみの神は、火の神を生みませるによりて、ついにかむさりましぬ」(2)魂が去る。死ぬ。
かむつどひ…ツドイ[神集ひ] (名)神神が集まること。古事記、上「やほよろづの神、天の安の河原に、かむつどひにつどひて」
かむづまるカムズマル[神留まる] (動、四)神がおいでになる。神がひとところに鎮まる。祝詞、祈年祭「高天原にかむづまりますすめらがむつ、かむろぎの命・かむろみの命もて」
かむなびやま[神奈備山] (地名)「かみなびやま」に同じ。
かむほぎ[神寿・神賀・神祝] (名)神事に関する祝い。
かむほぐ[神寿ぐ] (動、四)神が祝う。神事に関して祝う。古事記、中「すくなみかみの、かむほぎ、ほぎくるほし、とよほぎ、ほぎもとほし、まつりこしみきぞ、あさずをせ、ささ」=すくなびこな神が、大いに祝い、祝い狂い、かしこく祝い、祝いまわり、(醸造して)奉ってよこした酒である。残らず召し上がれ。さあさあ。
かむみぞ[神御衣] (名)神の着る御衣。また神に奉る御衣。
かむやらひ…ヤライ[神やらひ] (名)追放したまうこと。御追放。古事記、上「然らばみましは、この国にはな住みそとのりたまひて、すなはち、かむやらひにやらひたまひき」
かむやらひやらふカムヤライヤラウ[神やらひやらふ] (動、四)追放なされる。神代紀、上「その手足の爪を抜きてこれをあがなふ。すでにして、つひにかむやらひやらひき」
かむり[冠] (名)「かんむり」の略。「かんむり」に同じ。
かむりづけ…ズケ[冠付] (名)雑俳の一。五七五の十七音の俳諧において、宗匠が初句の五音を出して、人人に下の七五の二句を付けさせること。「かさづけ」ともいう。
かむわざ[神業] (名)「かみわざ」に同じ。
かめだほうさい[亀田鵬斎] (人名)江戸時代の儒者。名は長与。江戸の人。井上金峨に学び、博識多才、別に一家をたてた。文政九年(1826)没、年七十四。善身堂文集・論語撮解・大学私衡・中庸弁義。
かめのかがみ (名)「亀鑑」の和訓。よい鏡。十六夜日記「さてもなほ、あづまのかめの鏡にうつさば、くもらぬかげもや顕はるると、せめて思ひあまりて」⇒きかん(亀鑑)。
かめやま[亀山] (名)「蓬萊山」の異称。「列子」の湯門篇の故事に基づく。拾遺集、六、別「かめ山にいく薬のみありければとどむる方も泣き別れかな 戒秀法師」
かめやまどの[亀山殿] (名)第八十八代後嵯峨、第九十代亀山の両天皇が上皇となられて、住まわれた御所。すなわち仙洞御所。大堰川の北岸、嵯峨の亀山の麓。今の京都市右京区の天龍寺がその址である。建長年間(1249-1255)、後嵯峨上皇が檀林寺の廃墟に仙洞御所を建ててここに移られ、のち、亀山上皇がこれを承け給い、両上皇ともこの地で崩御。徒然草、五十一段「亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられむとて、大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり」
かめゐのみづカメイノミズ[亀井の水] (名)大阪、四天王寺の金堂内の龍池から流れ出る井水。新古今、釈教「濁りなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな 上東門院」
かも[賀茂] (神社名)「賀茂神社」の略。賀茂神社とは、京都市上京区上賀茂にある上賀茂社と、同市左京区下鴨宮河町にある下賀茂社の総称である。両社の所在地は相当隔たっているが、祭日や行幸の日などは同じである。上賀茂社の祭神は別雷神、下賀茂社の祭神は別雷神の御母玉依姫およびその外祖父賀茂建角身命である。例祭は四月の中の酉の日。この日は勅使以下祭儀に加わる者の衣冠・車簾、社頭などに葵の葉を付けるので「葵祭」とも呼ばれる。例祭のほかに毎年十一月の下の酉の日に臨時祭が行われた。なお石清水の祭を「南祭」というのに対して、賀茂の祭を「北祭」といった。また、単に「まつり」といえば「賀茂のまつり」のことである。現在の例祭は五月十五日。国文学の中には、この神社に関することが、ひんぱんに出て来る。
かも[氈] (名)かもしかなどの皮で作った敷物。拾遺集、九、雑下「能宣に車のかもを請ひに遣はして侍りけるに侍らずといひて侍りければ 鹿(か)をさして馬といふ人ありければかもをもをしと思ふなるべし 藤原仲文」(鳥の「かも」と「をし」とをかける)
かも (助詞)終助詞。(1)軽く疑って、感動の意をあらわす。かな。古今集、九、覇旅「あまの原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも 阿倍仲麻呂」(2)疑問の意をあらわす。万葉、[1-44]「わぎもこをいざみの山を高みかも大和の見えぬ国遠みかも 石上大臣」(3)反語の意味をあらわす。やも。万葉、[14-3559]「大船を舳(へ)ゆも艫(とも)ゆも堅めてし許曾(こそ)の里人顕はさめかも」
がも (動詞)願望の意をあらわす終助詞。通例「も」の下に付く。がな。が。万葉、[3-478]「かけまくも……天地といや遠長に、よろづ代に、斯くしもがもとたのめりし」
かもが[彼もが] (句)「が」は願望の終助詞。ああもあって欲しい。古事記、中「あはししをみな、かもがと、わがみしこら」=その少女に出逢った時から、ああもあって欲しいと、自分の見たその少女。⇒かくもが。
かもかくも (副)ああもこうも。ともかくも。どうとも。かもかも。万葉、[3-399]「妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなばかもかくもせむ」
かもかも (副)前項に同じ。万葉、[6-965]「おほならばかもかもせむをかしこみと振りたき袖を忍びてあるかも」(「おほならば」は「普通だったら」)
かもしし (名)「かもしか」の異称。⇒いはのへにこさるこめやく。
かもちまさずみ[鹿持雅澄] (人名)江戸時代の国学者。土佐の人。その著「万葉集古義」は百五十二巻に及ぶ大部のものであるが、生国土佐を一歩も出ずに完成したものである。山内侯に仕えた。安政五年(1858)没、年六十七。
かもどくしま[鴨どく島] (句)「鴨着く島」の義。はるかなる沖の孤島。古事記、上「おきつとり、かもどくしまに、わがゐねし、いもはわすれじ、よのことごとに」=あの常世の国の海神の宮殿で)わが身にそえて共に寝た妻のことは、永久に忘れることはあるまい。(ひこほほでみのみことが、とよたま姫のみことに贈った歌)⇒あかだま。
かものちやうめい…チヨウ…[鴨長明] (人名)鎌倉時代初期の文学者・歌人。京都の人。代代賀茂神社の神主をしていた鴨氏の家に生まれ、通称を菊太夫と称した。後鳥羽上皇に召されて和歌所寄人となったが、のち出家して蓮胤と号し、大原山に隠れ、さらに日野の外山に方丈の庵を結び、自然を友として世を送った。建保四年(1216)没、年六十三。一説、同元年没。主著、方丈記・発心集・無名抄・鴨長明集。
かものまつり[賀茂の祭] (句)⇒かも(賀茂)。
かものまぶち[賀茂真淵] (人名)江戸時代の国学者。岡部氏、県居(あがたゐ)と号した。遠江の人。京都へ出て荷田春満に学び、のち江戸へ出て田安家に仕えて国学を講じ、さらに多くの門下生に講義して、古典の研究、古道の復興、上代歌調の復活等につとめた。その門から、本居宣長・加藤千蔭・村田春海らの人人を出した。明和六年(1769)没、年七十二。主著、冠辞考・万葉考・県居家集。
かものりんじのまつり[賀茂の臨時の祭] (句)⇒かも(賀茂)。
かものわかみや[賀茂の若宮] (神社)上賀茂社の祭神、別雷神(わけいかづちのかみ)をいう。下賀茂社の若宮である。大鏡、五、太政大臣兼家「その頃、いとかしこき巫侍りき。賀茂の若宮のつかせ給ふとて、伏してのみ物を申ししかば」⇒かも(賀茂)。
かもめじり[鷗尻] (名)太刀を、鷗の尻羽のように上方へそらせて佩くことをいう。義経記、五「四尺二寸ありける黒漆の太刀、かもめじりにぞ佩きなしたる」
かもりづかさ…ズカサ[掃部司] (名)昔、宮中の掃除や御簾や敷物のことなどをつかさどった職員。枕草子、七「なほ世にめでたきもの……清涼殿の御まへの庭に、かもりづかさの、たたみどもを敷きて」
かもんれう…リヨウ[掃部寮] (名)昔、宮中の掃除や舗設などのことをつかさどる役所。かにもりのつかさ。
かやしらを…シラオ[加舎白雄] (人名)江戸時代の俳人。信濃の人。芭蕉の風を慕い、江戸へ出て、春秋庵と号した。寛政三年(1791)没、年五十二。一説に五十七。主著、白雄句集。
かやすし (形、ク)「か」は接頭語。たやすい。手軽である。
かやつ[彼奴] (代)卑しめていう他称代名詞。きゃつ。やつ。
かゆのき[粥の木] (名)昔、正月十五日の粥を煮た木を削って作った杖の名。「かゆ杖」ともいう。この木で子どものない婦人を打つと、子供、ことに男の子が生まれるという。枕草子、一「十五日は、もちかゆのせくまゐる。かゆの木をひきかくして、家のごたち、女房などのうかがふを、打たれじと用意して」
かよちやう…チヨウ[駕輿丁] (名)御輿をかつぐ人。謡曲、鶴亀「官人・駕輿丁、御輿(みこ)をはやめ」
かよふカヨウ[通ふ] (動、四)(1)行く。来る。出る。入る。(2)似る。宇津保、初秋「みかど、そこばくの人を御覧じくらべ給ふに、この御息所にかよひて見え給ふなし」
かよる[か寄る] (動、四)「か」は接頭語。「寄る」に同じ。
かよわし[か弱し] (形、ク)「か」は接頭語。「弱し」に同じ。
から[韓・唐] (名)朝鮮または中国の義。転じて、中国または外国から来たものに冠していう語。から人。から錦。
から (助詞)(1)格助詞。動作・作用の基点を示す。より。ゆ。古今集、十、物名「波の音けさからことに聞ゆるは春のしらべや改まるらむ」(2)接続助詞。原因・理由を示す。徒然草、十二段「さるからさぞ」=そういうわけだから、そうなのだ。
からうす[唐臼] (名)臼の一種。足で杵の一端を踏み、臼の中の穀物を搗く具。宇津保、吹上「いかめしきからうすに男女立ちて踏めり」
からうすのや[唐臼の屋] (名)からうすをすえてある小屋。水鏡、上「この妻(め)の女、米しらぐる女どもに物食はせむとて、からうすのやに入りにき」
からうた[唐歌] (名)「漢詩」のこと。「やまとうた」の対。土佐日記「からうた、声あげていひけり」
からかき[韓垣] (名)韓風の垣。他にも説がある。武烈紀、仁賢天皇十一年八月「臣の子の、八重のからかき、許せとや皇子(みこ)」=臣の子である私の厳重な韓垣を、あなたの越えることを許せとおっしゃるのですか、皇子よ。
からがしたき[枯らが下木] ((句)冬枯れで葉の落ちた下木。古事記、中「ふゆきのす、からがしたきの、さやさや」=(その御刀は)たとえていうと、冬枯れですっかり落ち尽くした下木が(霜や氷に冴えてきらきら光るように)さやさやと、ものすごく光っていますよ。(「冬木のす」)は「冬木なす」で、「冬木のように」の意から「枯る」の枕詞)
からき[枯ら木] (名)「枯れ木」に同じ。
からぎ[背子] (名)「唐衣(からぎ)」の義。婦人の礼服の最も上に着る衣。⇒じふにひとへ。
からくして[辛くして] (副)かろうじて。やっとのことで。土佐日記「都誇りにもやあらむ。からくしてあやしき歌ひねり出せり」
からくにの[韓国の] (枕詞)同音を重ねて「からく」に冠する。万葉、[15-3695]「昔より言ひける言(こと)のからくにの辛くもここに別れするかも」
からくれなゐ…クレナイ[韓紅] (名)昔、韓国から渡って来た「くれなゐ染」の意。あざやかな紅色。⇒ちはやぶる。
からころも[唐衣・韓衣] (名)唐風の衣。転じて、めずらしい美しい着物。万葉、[11-2682]「からころも君にうち着せ見まく欲り恋ひぞ暮らしし雨の降る日を」
からころも (枕詞)「きる・たつ・紐・袖・裾・憤る・懸く・逢ふ・針」等に冠する。伊勢物語「からころも着つつなれにし妻しあればはるばるきぬる旅をぞしも思ふ」万葉、[10-2194]「からころも龍田の山はもみぢそめたり」古今集、十一、恋一「からころも日も夕暮れになるときは」以下、例略。
からごろもきつしう…シユウ[唐衣橘州] (人名)江戸時代の狂歌師。本名は小島源之助。江戸の人。田安家の臣。蜀山人と並んで狂歌の大立者。享和二年(1802)没、年五十九。
からさき[唐崎] (地名)琵琶湖の西岸。大津市の北方約四キロの地。枕草子、十一「崎は、からさき・いかがさき」
からし[辛し] (形、ク)(1)むごい。ひどい。きびしい。(2)あぶない。徒然草、五十三段「からき命まうけて、久しく病みゐたりけり」(3)やっと耐える。土佐日記「船君のからくひねり出して」(4)甚だしい。せつない。催馬楽、石川「帯をとられて、からき悔いする」(5)他は現代語とほぼひとしい。
からに (助詞)原因・理由を示す接続助詞。ので。古今集、五、秋上「吹くからに秋の草木の萎るればむべ山風をあらしといふらむ 文屋康秀」(「山風」を一字にすると「嵐」)
からにしき[唐錦] (枕詞)「唐錦」は「大和錦」の対で、唐風の美しい錦。「からころも」と同じように「裁つ」の意から「たつ」に冠する。古今集、十七、雑上「思ふどちまとゐせる夜は唐錦たたまく惜しきものにぞありける」
からぶみ (名)(1)漢文。(2)漢書。漢籍。
からぼり[空堀] (名)水のない堀。太平記、十七、山門攻「空堀を二丈あまり掘り通して」
からむ (動、下二)(1)からめ捕る。捕縛する。伊勢物語「ぬすびとなりければ、国守(くにのかみ)にからめられけり」(2)牢屋へ入れる。神功紀、四十七年四月「新羅人、やつがれらを捕らへて囹圄(ひとや)にからむ」
からめく (動、四)からからと鳴りひびく。十訓抄、上「山おびただしくからめき騒ぎて」
からめく[唐めく] (動、四)(1)唐風である。外国風である。徒然草、百三十九段「唐めきたる名の聞きにくく」(2)風雅である。源氏、須磨「住まひたまへるさま、言はむかたなくからめきたる所なり」
からめく[枯らめく] (動、四)ひからびたようである。枕草子、三「若き人と稚児(ちご)は肥えたるよし。……あまり痩せからめきたるは、心いられたらむとおしはかる」(「心いられたらむ」は「心がいらいらしているだろう」)
からめて[搦手] (名)(1)からめとる人。捕手。古今著聞集、十二「年ごろ、からめて向かひ候ふこと、その数を知らず候ふ」(2)敵の背面。城の裏門。また、この方面に向かう軍勢。「大手・追手」の対。太平記、一、頼員回忠事「搦手の勢ども乱れ入り、首を取つて六波羅へ馳せ帰る」
からゐしき…イシキ[唐居敷] (名)門のところに敷きつめた唐風の石畳。太平記、二十四、依二山門噭訴一公卿僉議事「門外につながれたる牛、舌を垂れて、よだれを唐居敷に残せるを見給へば、たしかに一首の歌にてぞありける」
からゐせんりうカライセンリユウ[柄井川柳] (人名)川柳の祖。名は正通。江戸の浅草の人。はじめ。前句付の宗匠であったが、一転して、独特の狂句を創始した。この人の名によって、この狂句を「川柳」と呼ぶ。寛政二年(1790)没、年七十二。
からゑ…エ[唐絵] (名)(1)中国の絵。(2)中国画風の題材や様式の絵。枕草子、十「ないがしろなるもの、女官どもの髪上げたる姿、からゑの革の帯のうしろ」(「蒔絵で唐風の絵をかいた革帯の裏」の意)
がらん[伽藍] (名)梵語で、寺院のこと。太平記、十四、坂本御皇居「高祖大師、当山を開基して、百王鎮護の伽藍を建てられ」
がり[許] (名)その人のいるところへ。もとに。万葉、[9-1758]「筑波ねの裾回(すそみ)の田井に秋田刈る妹がり遣らむもみぢ手折らな」徒然草、五十三段「京なるくすしのがりゐて行きけるに」(「がり」の品詞については多少の疑問がある。「の」の下にも来るので接尾語ではない。ひとまず名詞としておく)
かりあを…アオ[狩襖] (名)「かりぎぬ」に同じ。増鏡、六、煙の末末「御船さし、いろいろの狩襖にて八人づつさまざまなり」(「みふねさし」は「みふねを漕ぐ人」)
かりいほ…イオ[仮庵] (名)仮りに造った庵。かりほ。万葉、[1-7]「秋の野のみ草刈り葺き宿れりし菟道(うぢ)の都のかりいほし思ほゆ 額田王」(「みくさ」は「すすき・かや」)
かりうつす[駆り移す] (動、四)(もののけなどを)駆って他にうつす。源氏、葵「人にかりうつし給へるおんもののけ」讃岐典侍日記「今は益(やく)あらじ。ただかりうつせよ」
かりがね[雁が音・雁] (名)(1)雁の鳴き声。万葉、[9-1701]「さ夜中と夜はふけぬらし雁が音の聞ゆる空に月渡る見ゆ」(2)転じて、雁。万葉、[15-3665]「妹を思ひ寝(い)の寝(ね)らえぬに暁の朝霧ごもりかりがねぞ鳴く」
かりぎぬ[狩衣] (名)もと鷹狩の時に用いた服。のち、官服となる。盤領(まるえり)で袖くくりがあり、袴には指貫(さしぬき)を用いる。かりあを。かりごろも。附図参照。
かりくら[狩倉・狩座] (名)(1)狩りをする場所。かりば。(2)特に、鹿狩りの称。(3)狩りくらべをすること。
かりこ[狩子] (名)狩りの時、鳥獣を駆り出す夫卒。せこ。
かりこもの[刈菰の] (枕詞)「かりこも」は刈り取ったまこも。または、それで作ったむしろ。刈ったまこもは乱れるので「みだる」に、また、しおれるので「しの」に冠する。古事記、下「加理許母能みだればみだれ」万葉、[12-3176]「くさまくら旅にしをればかりこもの乱れて妹を恋ひぬ日はなし」万葉、[13-3255]「かりこもの心もしのに、人知れず、もとなぞ恋ふる、いきの緒にして」
かりごろも[狩衣] (枕詞)「かりごろも」は「かりぎぬ」に同じ。ころもの縁から「たつ」「き」「すそ」「ひも」「かく」などに冠する。玉葉集、八「かりごろもたち憂き花のかげに来て」後撰集、十「かりごろもきてはかひなき哭(ね)をのみぞ鳴く」新勅撰集、六「かりごろも裾野も深し」以下、例略。
かりたか[猟高] (地名)大和の国、奈良県添上郡、今の鹿野苑あたりか。万葉、[6-981]「猟高の高円山を高みかも出で来る月のおそくてるらむ 大伴坂上郎女」=猟高の地にある高円山(たかまとやま)が高いせいであろうか、それにさえぎられて出て来る月の照るのが遅いらしい。
かりには…ニワ[狩庭] (名)「庭」は「場所」。狩りをする場所。かりくら。かりば。古事記、下「夜は、すでに明けぬ。かりにはにいでますべしとのりたまひて」
かりね[仮寝] (名)(1)うたたね。(2)たびね。野宿。
かりのこ (句)鳥の卵。かも・あひるなどの卵。また、ひな。万葉、[2-182]「鳥塒(とぐら)立て飼ひしかりのこ巣立ちなば真弓の岡に飛び帰り来(こ)ね」⇒まゆみのをか。
かりのつかひ…ツカイ[狩の使ひ] (句)昔、近衛の官人を諸国へ遣わして鷹狩りをさせた、その官人。伊勢物語「昔、男ありけり。その男、伊勢の国に狩の使ひにいきけるに」
かりのつかひ…ツカイ[雁の使ひ] (句)「手紙・音信」のこと。漢の蘇武の故事に基づく。蘇武が匈奴の地でとらわれ、雁の翼に手紙をつけて放し、それが昭帝の手中に入り、蘇武の消息がわかったという。「漢書」の蘇武伝にある。万葉、[9-1708]「春草を馬昨山(うまくひやま)よ越え来(く)なる雁の使ひは宿り過ぐなり」
かりば[狩場] (名)狩りをする場所。かりくら。かりには。
かりばかま[狩袴] (名)狩衣の下に着る袴。さしぬき。
かりばのとり[狩場の鳥] (名)「きじ」の異称。
かりぶし[仮臥し] (名)うたたね。たびね。野宿。
かりほ[刈穂] (名)刈りとった稲の穂。新六帖、二「秋の田の刈穂の穂くみいたづらに積みあまるまでにぎはひにけり」
かりほ[仮庵] (名)「かりいほ」の約。「かりいほ」に同じ。万葉、[1-11]「わがせこはかりほ作らすかやなくば小松が下のかやを刈らさね」⇒あきのたの。
かりまくら[仮枕] (名)たびね。かりね。野宿。新古今、十、覊旅「ふしわびぬ篠野を笹のかりまくらはかなの露やひとよばかりに 藤原有家」
かりまた[雁股] (名)やじりの一種。両指を開いたような叉をなしているやじり。後世は、鏑の先にこれをつけた。附図参照。古今著聞集、九、武勇「義家、うつぼよりかりまたをぬきて、狐を追ひかけたり」
かりみや[仮宮] (名)(1)仮りに作られた宮居。行宮。(2)神輿渡御の時の御旅所。おかりみや。
かりむしや[駆り武者] (名)諸国からかり集めた武者。平家、五、富士川「国国の駆り武者、馬も人も皆疲れ果て」
かりや[仮屋] (名)仮りに作った家。今日でいうバラック。方丈記「火本(ほもと)は樋口富の小路とかや。病人(やまうど)を宿せる仮屋より出で来たりけるとなむ」
かりようびん[迦陵頻] (名)次項に同じ。古今著聞集、六、管絃歌舞「正教に、篳篥(ひちりき)は迦陵頻の声を学ぶといへることあり」(正教)は「仏教」)
かりようびんが[迦陵頻伽] (名)梵語。Kalavinkaの音写。極楽におり、美しい音を発し、その顔は美女のようだという想像上の霊鳥。略して、迦陵頻。頻伽鳥。源氏、紅葉賀「詠などし給へるは、これや仏の迦陵頻伽の声ならむと聞ゆ」謡曲、羽衣「迦陵頻伽のなれなれし、声今さらにわづかなる」
かりんざつわ[歌林雑話] (書名)江戸時代初期の歌人・俳人たる松永貞徳の著。二巻。主として和歌に関する師伝をしるし、歌学上の注意や雑話をかかげている。またの名を「貞徳載恩記」という。
かりんりやうざいしふ・・・リヨウ・・・シユウ[歌林良材集] (書名)室町時代の国学者・歌人たる一条兼良の著。詠歌上の注意をくわしく述べたもので、上下二巻から成り、上巻には詠歌諸体等百二十七項目を、下巻には由緒ある歌五十七項目にわたってかかげている。永享年間に成り、寛永二十年(1643)刊。
かる[軽] (地名)大和の国、奈良県高市郡畝傍町の南部、大字大軽・和田・石川・五条野の辺。「万葉集」に見える「軽の市」「軽の道」「軽のやしろ」など、みなこの地に関するもの。
かる[借る] (動、四)「貸す」の対。江戸時代の文献などにはよく「貸る」などと誤記したものを見受ける。借りる。口語では上一段の語。古今集、三、夏「声はして涙は見えぬほととぎすわが衣手のひづを借らなむ」
かる[駆る] (動、四)(1)追いたてる。追い払う。枕草子、一「この翁丸うちてうじて犬島へつかはせ、ただいま、と仰せらるれば、集まりて駆りさわぐ」(2)走らせる。「車を駆る」(3)しいてさせる。うながす。「人を駆る」
かる[狩る] (動、四)鳥獣等を駆り出してとらえる。古今集、九、覊旅「狩り暮らしたなばたつめに宿からむ天の川原にわれは来にけり」⇒あまのがは(天野川)
かる[離る] (動、下二)(1)はなれる。遠ざかる。古今集、十五、恋五「思ふともかれなむ人をいかがせむあかず散りぬる花とこそ見め 素性法師」(2)絶える。源氏、椎本「われなくて草の庵は荒るるともこの一言(ひとこと)はかれじとぞ思ふ」
かる[枯る] (動、下二)(1)(虫や魚などが)死んで干からびる。枕草子、三「木は・・・・・・花もいとものはかなげにて、虫などの枯れたるやうにてをかし」(2)植物が生気尽きて死ぬ。
枯死する。(3)人の気力が衰える。百日曾我「枯れたる魂をさぐり」
かる[涸る] (動、下二)(1)水分がなくなる。干あがる。(2)技芸が老熟する。円熟する。「涸れたる腕」
かる[嗄る] (動、下二)音声がしわがれる。音声が出なくなる。万葉、[10-1951]「うれたきや醜(しこ)ほととぎす今こそは声の嗄るがに来鳴き響(とよ)まめ」
かる[着る] (動)活用未詳。「着る」の東国方言。万葉、[20-4431]「小竹(ささ)が葉のさやぐ霜夜に七重かる衣に益(ま)せる子ろが膚かも 防人の歌」⇒ろ。
がる (接尾)(1)形容詞の語幹や名詞などに付いて「と思う」「と感ずる」の意を示す動詞を構成する。うれしがる。あはれがる。(2)名詞に付いて「ぶる」「ふりをする」などの意を示す動詞を構成する。才がる。道心がる。
かるかや[刈萱] (名)「をみなへし」の、花の白いものの称。をとこへし。をとこめし。徒然草、百三十九段「秋の草は、をぎ・すすき・きちかう・はぎ・をみなへし・ふぢばかま・しをに・われもかう・かるかや・りんだう・きく」
かるかや[刈る萱] (句)刈り取る萱。刈り取った萱。万葉、[14-3499]「岡に寄せ我が刈るかやのさねがやのまこと柔(なごや)は寝ろとへなかも」
かるかやの[刈る萱の] (枕詞)刈り取ったかやは乱れるから「乱る」に、かやの穂から「ほ」に、また、かやを束ねるから「つか」に冠する。万葉、[12-3065]「刈るかやの思ひ乱れて」古今六帖、六「刈るかやのほに出てものをいはねども」万葉、[2-110]「刈るかやの束の間(あひだ)もわれ忘れめや」
かるかやのせき[刈萱の関] (地名)筑前の国、福岡県筑紫郡水城村の北に設けた関所。新古今、十八、雑下「刈萱の関守にのみ見えつるは人もゆるさぬ道べなりけり」
かるがゆゑに・・・ユエニ (接続詞)「かかるがゆゑに」の略。それだから。それ故に。
かるの[軽野] (地名)常陸の国、茨城県鹿島郡軽野村の地。利根川河口の左岸。万葉、[9-1780-右]「鹿島郡苅野の橋にて大伴卿に別るる歌」
かるのみこ[軽皇子] (人名)(1)孝徳天皇の御通称。(2)文武天皇の御幼名。(3)允恭天皇の皇太子。きなしのかるのみこ。
かるも[枯草] (名)枯れた草。
かるも[刈る藻] (句)刈り取る藻。刈り取った藻。続古今、覊旅「あまの住む磯の苫屋の旅寝にはかるもぞ草の枕なりける」
かるもかく[枯草掻く] (枕詞)猪が寝床にするために枯れ草を掻き集めるということから「猪」に冠する。続古今、覊旅「かるもかく猪名野の原の仮り枕さても寝られぬ月を見るかな」
かれ[彼] (代)他称代名詞および事物を差す遠称代名詞。あのひと。あれ。万葉、[10-2240]
「誰(た)そかれとわれをな問ひそながつきの露にぬれつつ君待つわれを」枕草子、八「すびつのけぶりの立ちければ、かれは何のけぶりぞ、見てこと仰せられければ」
かれ[故] (接続)故に。だから。そこで。
かれいひ・・・イイ[餉] (名)旅行などに携帯するために、かちかちに乾した飯。伊勢物語「その沢のほとりの木のかげにおりゐて、かれいひ食ひけり」
かれがれに[離れ離れに] (副)うとうとしく。遠ざかって。源氏、帚木「かれがれにのみ見せ侍る程に」古今著聞集、五、和歌「和泉式部、男のかれがれになりけるころ、貴船に詣でたるに、ほたるのとぶを見て」
かれちぼ (名)「枯れ落穂」の略。みのらずに枯れて落ちる稲穂。神楽歌、木綿志天「いなの穂の、もろ穂に垂(し)でよ、かれち穂もなく」
かればむ[嗄ればむ] (動、四)声がしわがれて聞える。声がかれたようである。「ばむ」は「黄ばむ」「汗ばむ」などの「ばむ」とひとしく接尾語で、「そのようだ」の意。枕草子、一「あやしうかればみたるものの声にて」
かれひカレイ[餉] (名)「かれいひ」の約。「かれいひ」に同じ。古事記、中「足柄の坂本に到りまして、御かれひきこしめすところに」
かれふ[枯れ生] (名)枯れ草の地。「ふ」は「芝生」等の「ふ」。
かろび[軽び] (名)軽いこと。軽み。枕草子、三「虫は・・・・・・ありは、にくけれど、かろびいみじうて、水の上などを、ただ歩みありくこそをかしけれ」
かろぶ[軽ぶ] (動。上二)軽薄である。軽率である。かるがるしいと思う。源氏、帚木「末の世にも聞き伝へて、かろびたる名をや流さむと」
かろむ[軽む] (動、四)軽くなる。源氏、若菜、下「この罪かろむばかりのわざをせさせ給へ」
かろむ[軽む] (動、下二)前項の他動。軽くする。かろんず。大鏡、七、太政大臣道長「おとどかろむる人のよきやうなしとぞのたまはせける」=大臣を軽んずるよう人の行く末はよいことがないとおっしゃった。
かろらかなり[軽らかなり] (形動、ナリ)(1)(目方が)軽い。源氏、夕顔「かろらかにうち載せ給へれば」(2)安っぽい。源氏、常夏「御覚えのほど、いとかろらかなりや」(3)かるがるしい。軽率である。源氏、明石「さやうにかろらかに語らふわざをもすなれ」(4)容易である。源氏、夕顔「人の心を合はせたらむことだに、かろらかにえしも紛れたまふまじきを」
かをるカオル[薫る] (動、四)(1)よいにおいがする。(2)たなびく。かすむ。神代紀、上「一書に曰く・・・・・・伊弉諾尊曰く、我が生める国、ただ朝霧(さぎり)のみありて、薫り満てるかも」
かん[神] (名)「かみ」の音便。「かみ」に同じ。
かん[雷] (名)「かみ」の音便。かみなり。伊勢物語「かんさへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ」
かん[漢] (名)中国の朝名であるが、中国に関する事物に冠して用いる語。漢文。漢字。漢語。漢籍。漢詩。
がん[雁] (名)かり。
がん[龕] (名)仏像の廚子。
かんおん[漢音] (名)漢字音の一。中国地方の漢(今の陝西省西安府地方)から伝来した漢字の音。呉音の次に伝来したもので、椎古朝から平安時代初期までに伝わり、標準的漢字音のようになっている。「京」を「ケイ」、「清」を「セイ」、「平」を「ヘイ」とよむ類。これらを呉音では「キョウ」「ショウ」「ヒョウ」などとよむ。「呉音」「唐音」「支那音」などの対。
かんがふカンガウ[考ふ] (動、下二)(1)考える。(2)糺してあきらかにする。吟味する。古事記、序文「古をかんがへて以て風■を既にすたれるにただし」(3) 糺明して罰する。しかる。勘当する。拾遺集、九、雑下「郡のつかさに頭白き翁の侍りけるを召しかんがへむとし侍りける時、翁のよみ侍りける」
かんがみる[鑑みる] (動、上一)かえりみる。手本にあわせて比べみる。かんがむ。古今著聞集、十五、「昔今をかんがみて、その淵底をあなぐらせ給ふに」
かんがむ[鑑む] (動、上二)意は前項に同じ。
かんき[勘気] (名)主君などから、とがめを受けること。
かんくわ・・・カ[干戈] (名)「干」は「たて」、「戈」は「ほこ」。武器。転じて、たたかい。「干戈をまじふ」
がんくわい・・・カイ[顔回] (人名)中国、周代の魯の人。字は子淵。孔子の高弟で、世に亜聖と称せられる。すこぶる貧しかったが、その楽しみを改めなかった。年三十一(または四十)で没す。孔子、慟哭したという。徒然草、百二十九段「顔回は志、人に労を施さじとなり」=顔回は、平生の心構えとして、他人に苦労をかけまいということなのである。
かんこ[巫] (名)「神子(かみこ)」の義。みこ。かんなぎ。
かんこどり[閑古鳥] (名)郭公の異称。「かっこうどり」の転。猿蓑集「憂きわれをさびしがらせよ閑古鳥 芭蕉」(閑古鳥の声は、さびしいとされている)
がんざん[雁山] (地名)中国、山西省の北部にある雁門山の別称。和漢朗詠集「前途程遠し、思ひを雁山の暮れの雲に馳せ、後会、期はるかなり、纓を鴻臚の暁の涙にうるほす 大江朝綱」⇒こうろくわん。
かんし[干支] (名)えと。⇒じつかんじふにし。
かんじ[勘事] (名)その罪を考えしらべて罰すること。勘当。宇津保、嵯峨院「その日、勘事ゆるさせ給ふ」
かんじさんおんかう・・・コウ[漢字三音考] (書名)本居宣長の著。一巻。漢字の呉音・漢音・唐音の三種を論じ、国語の音が最も正しいと断定した珍書。天明五年(1785)刊。
かんしやう・・・シヤウ[干将] (人名)中国、春秋時代、呉の有名な刀鍛冶。奥の細道「干将、莫耶の音をしたふ」
かんしん[甘心] (名)心にうましとすること。満足し同感すること。徒然草、八十三段「洞院の左大臣殿、このことを甘心し給ひて相国の望みおはせざりけり」
かんだう・・・ドウ[勘当] (名)(1)その罪を考えしらべて罰すること。(2)叱ること。譴責。竹取「玉の取りがたかりしことを知り給へればなむ、勘当あらじとて参りつると申す」(3)主君や親などの意にそむくために、縁を絶って追放すること。
かんだち[神館] (名)伊勢・賀茂などの大社の傍に設け、神事を行う神官らの参籠する殿舎。増鏡、十六、秋のみ山「明くる日は祭なれば神館のかた、うち続き花やかに面白く」
かんだちべ[上達部] (名)公卿。⇒くぎやう。
かんだちべ[上達部] (名)前項の転。公卿。竹取「御子だち・かんだちめ聞きて」
かんたんのかりまくら[邯鄲の仮枕] (句)「邯鄲」は中国の河北省南部の地。唐の廬生という少年が、邯鄲で道士の枕を借りてうたたねをしている間に、一生の栄華を夢みたという故事。かんたんのゆめ。かんたんいつすゐのゆめ。謡曲、鉢の木「その邯鄲のかりまくら、一睡の夢のさめしも、粟飯かしぐほどぞかし」
かんでんかうひつ・・・コウ・・・[閑田耕筆] (書名)江戸時代の国学者たる伴蒿蹊の随筆集。四巻。寛政十一年(1799)刊。巻一は天の部、巻二は人の部、巻三は物の部、巻四は事の部とし、著者の見聞・感想をつづったもの。「閑田」は蒿蹊の号。
かんどうし[感動詞] (名)文法用語。独立語のうち、感動・誘い・呼びかけ・応答などの意をあらわす語をいう。「あな」「いざ」「やよ」「いな」などの類。
かんどり[楫取] (名)「かぢとり」に同じ。
かんな[仮名] (名)「かな」に同じ。
かんながら[神ながら] (名)神慮のままで、人為を加えないこと。祝詞、遷却崇神祭「高天原に始めし事を、神ながらも知ろしめして」
かんなぎ[巫] (名)巫覡・巫女・巫祝などとも書く。神の側に近く奉仕し、神を祀り、神楽を奏し、神おろしなどを行う人。多くは婦人。かんこ。みこ。伊勢物語「かんなぎ呼びて、恋せじといふ祓の具してなむいきける」
かんなづき・・・ズキ[神無月] (名)陰暦十月の異称。⇒かみなづき。
かんなびやま[神奈備山] (地名)「かみなびやま」に同じ。
かんなほび・・・ナオビ[神直日] (名)⇒なほび。
かんなめまつり[神嘗祭] (名)天皇が、その年の新穀を、伊勢の神宮に奉る祭。かんなめのまつり。
かんなり[雷鳴] (名)(1)かみなり。(2)「かんなりのつぼ」の略。宇津保、楼上、下「かんなりにて、大将・中納言の弾きし琴(きん)の声なむ、あまたある心地せしを」
かんなりのじん[雷鳴の陣] (名)⇒かみなりのぢん。
かんなりのつぼ[雷鳴の壺] (名)内裏五舎の一。内裏の西北隅、凝華舎の北にある。襲芳舎(しつぽうしや)。かんなり。古今集、四、秋上「かんなりのつぼに人人集まりて、秋の夜惜しむ歌よみけるついでによめる 凡河内躬恒」
かんのきみ[長官の君] (名)「かん」は「かみ」の音便で。「長官」の義。内侍の長官たる尚侍、職(しき)の長官たる大夫などは、特に「かんのきみ」と呼ばれている。源氏、竹河「卯月に女宮生まれ給ひぬ。・・・・・・かんの君、つと抱きもて、うつくしみ給ふに」(尚侍)宇治拾遺、三「左京の大夫の許にいきてみれば、かんの君、出居に客人(まらうど)二、三人ばかり来て」(大夫)
かんのとの[長官の殿] (名)「かん」は「かみ」の音便で、「長官」の義。「との」は貴人の尊称。左馬のかみ、右馬のかみ、衛門のかみ、兵衛のかみ、国のかみなど、すべて「かんのとの」と呼ばれる。その文の前後の関係で決定される。
かんばかりに (副)「かくばかりに」の音便。これほどに。平家八、瀬尾最期「案のごとく、小太郎宗康は、足かんばかりに腫れて伏せり居たるところへ」
かんはかりはかる[神議り議る] (句)神神が相談する。祝詞、六月晦大祓「やほよろづの神たちを、神つどへつどへたまひ、かんはかりはかりたまひて」
かんばせ[顔] (名)かお。たはれぐさ、中「かんばせを犯して諫む」=怒られることを顧みずに諫める。
かんばら[蒲原] (地名)駿河の国、静岡県庵原郡の東南端にある地。富士川の河口の右岸に位する。旧東海道の宿場。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「向かひはいづこ三保が崎、奥津・蒲原うち過ぎて、富士の高ねを見給へば」
かんびやう・・・ビヨウ[看病] (名)(1)療養。義経記、四「路次より風の心地にて候ふ間、少し看病仕りて罷り出でむと存じ候ふ」(2)僧侶が、説法・呪法などをして病人をなおすこと。(3)病人を看護すること。みとり。介抱。
かんべ[神部] (名)「神戸」とも書く。昔、神社に奉仕した部民の称。かむとものを。かむとも。祝詞、新嘗祭「三つのあがた、国国、ところどころ、寄せ奉れる神戸の人ら」推古紀、十年二月「もろもろの神部および国造・伴造たち」
かんほつ[勘発] (名)罪を責めること。譴責。勘当。古今著聞集、二、釈教「木をこり、水を汲み、或は勘発のことばを聞き、或は杖木をかうぶる、これ地獄の苦を償ふなり」
かんむり[冠] (名)束帯・衣冠の時などに頭にかむるもの。各部分の名称は、附図参照。かうぶり。かうむり。かむり。
かんやうきゆう・・・ヨウ・・・[咸陽宮] (名)中国、秦の始皇帝が咸陽の地に造った宮殿。周囲三百里という。のち、項羽の兵災にかかり、火を発してから三か月余にして、始めて焼失したという。平家、七、聖主臨幸「暴秦すでに衰へて、咸陽宮の煙睥睨を隠しけむも、かくやとぞ覚えける」
かんゐん・・・イン[閑院] (名)京都、二条の南、西洞院の西にあった邸。もと藤原冬嗣の建てた邸宅であったが、第八十代高倉天皇から第八十九代後深草天皇に至る九十一年間、皇居となった。古今著聞集、十一、画図「閑院に大内をうつされてのち、よせ馬の障子並びに李将軍・養由が障子など沙汰なかりけるを」
かんゐんどの・・・イン・・・[閑院殿] (名)前項に同じ。徒然草、三十三段「閑院殿の櫛形の穴は、まろく、縁もなくてぞありし」
がんゑん・・・エン[顔淵] (人名)「顔回」に同じ。平家、灌頂、大原御幸「瓢箪しばしば空し。草、顔淵がちまたにしげし」

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