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ち[父] (名)ちち。欽明紀、即位前「秦の大津のち」
ち[道] (名)みち。道路。古事記、上「いつのちわきちわきて天の浮橋にうきじまり」
ち[鉤] (名)つりばり。古事記、上「おぼち・すすち」
ち[風] (名)かぜ。複合語にだけ用いる。やはち。こち。
ち[霊・主] (名)「たま・ぬし」の義。古事記、中「うまらに、きこしもちをせ、まろがち」=おいしくお召しあがりくださいませ、われらの主君よ。
ち[治] (名)よくおさまること。太平。「治にゐて乱を忘れず」
ち[乳] (名)(1)乳房から出る白い汁。ちしる。ちち。万葉、十八の四一二二「みどりごのち乞ふがごとく」(2)乳房。方丈記「母の命つきたるをも知らずして、いとけなき子のなほちを吸ひつつ伏せるなどもありけり」(3)その形が乳首に似ているものの称。幟・旗・幕・帆・羽織・わらじなどの縁に付いている小さな環のようなもの。梵鐘の外面のいぼなど。
ち[笞] (名)むち。しもと。「笞罪」
ち[千] (数)(1)百の十倍。せん。(2)数の多いこと。「千代」
(接尾)(1)「つ」に同じ。はたち。いほち。(2)場所・方向などをあらわす。こち。をち。いづち。
ぢジ[路] (名)道。道路。「近江ぢ」「越ぢ」
ぢジ[地] (名)謡曲で、地謡いで歌う部分の称。
ぢジ[持] (名)勝負で、勝敗のないこと。蜻蛉日記「賭け物と定めしかたの、この矢鞆にかかりてなむ、持になりぬる」
ぢジ (接尾)「つ」の転の「ち」の連濁。みそぢ。いそぢ。
ちあえただる[血あえ爛る] (句)血がしたたってただれる。古事記、上「その腹を見れば、ことごとに、いつも血あえただれたり」(「あゆ」は「流れ出る」「したたる」)
ちいん[知音] (名)よく心を知りあっている親友。知友。知己。太平記、十三、兵部卿宮薨御事「父干将がいにしへの知音なりける甑山人来たつて」
ちうチユウ[紂] (人名)中国、殷の天子の名。暴虐無道で、周の武王に亡ぼされた人。夏の桀王と並称して桀紂という。徒然草、百二十段「生(しやう)を苦しめて目を喜ばしむるは桀・紂が心なり」(「生」は「いきもの」)
ちうせいチユウセイ (形、ク、連体形)「ちひさき」の音便、または訛音。ちいさい。枕草子、一「ちうせいをしき、ちうせい高つきにてこそよくさぶらはめ」(「中背」は「ちゆうせい」であるから、この語には当たらない)
ちおも[乳母] (名)「おも」は「母」の義。うば。神代紀、下「一に云く……彦火火出見の尊、他婦人(あだしをむな)を取りて、ちおも・ゆおも、およびいひがみ・ゆゑびととなしたまふ」
ちかい[智海] (名)知識が海のようであること。知識の広いこと。古事記、序文「智海浩瀚としてふかく上古を探り」
ぢかいジ…[持戒] (名)仏教の戒律を守ること。
ちかおとり[近劣り] (名)遠くで見るよりは、近くで見る方が劣っていること。和泉式部日記「近劣りいかにせむと思ふこそ苦しけれとのたまはすれば」
ちかごと[誓言] (名)「ちかひごと」の略。誓いを立てて言うことば。誓詞。水鏡、下「御使ひちかごとを立てて、若し偽れる事を申さば、二つの目ぬけおち侍るべしと申ししかば」
ちかぢかしチカジカシ[近近し] (形、シク)むつまじい。仲がよい。
ちかつあすか[近飛鳥] (地名)河内の国、大阪府南河内郡駒が谷村大字近飛鳥。「遠飛鳥」の対。古事記、下「かれ、そこを近飛鳥となづく」
ちかつあふみ……オウミ[近淡海] (地名)「近江」のこと。都に近い淡海(琵琶湖)のある国の義。「遠淡海」の対。古事記、序文「境を定め、邦を開きて、近淡海に制し給ひ」(成務天皇の御治蹟をいう)
ちかながら[近ながら] (副)近くありながら。後撰集、四、夏「ほとぎす来居る垣根はちかながら待ちどほにのみ声のきこえぬ」
ちかのしほがま…シオ…[千賀の塩竈] (句)千賀の浦、すなわち、宮城県塩竈市の海岸で塩を焼く竈。近いが逢うことのできない意などに用いる。続後撰集、恋二「みちのくの千賀の塩竈近ながらからきは人に逢はぬなりけり」平家、六、小督「思ひかね心は空にみちのくのちかの塩竈近きかひなし」枕草子、十一「院の御棧敷より、ちかのしほがまなどいふ御消息、をかしき物などもて参り通ひたるなどもめでたし」
ちかふチカウ[誓ふ] (動、四)堅く約束する。決心する。拾遺集、十四、恋四「忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな 右近」=私はあなたに忘れられる身であることはもうよく知っています。ただ、神かけて誓ったあなたが神罰をうけて命を失われるのではないかと、それが惜しく思われてなりません。
ちがふチガウ[交ふ] (動、四)互に行きあわない。入りまじる。行きかふ。枕草子、一「夏は、よる。月の頃は、さらなり。闇もなほ、ほたる飛びちがひたる」「すれちがふ」
ちがふチガウ[交ふ] (動、下二)(1)交叉する。かわす。夫木抄、雑九「かささぎのちがふる橋の間遠にて隔つる中に霜やおくらむ」「刺しちがふ」(2)はずす。「矢をちがふ」
ちかまさり[近まさり] (名)近よれば近よるほど、すぐれて見えること。「近劣り」の対。宇津保、蔵開、中「見る目よりも近まさりする人にぞありける」
ちかまつはんじ[近松半二] (人名)江戸時代の浄瑠璃作者。本姓は穂積氏。大阪の人。竹田出雲の門に入り、宝暦以後、竹本座の座付作者となる。天明三年(一七八三)没、年五十八。代表作、奥州安達原・関取千両幟・本朝二十四孝。
ちかまつもんざゑもん……エ…[近松門左衛門] (人名)江戸時代の浄瑠璃作者。本名は杉森信盛。巣林子と号す。山城の淀の人か。上方文学の大立者。浄瑠璃では竹本座の竹本義太夫と提携し、歌舞伎では坂田藤十郎と結び、浄瑠璃百数十曲、歌舞伎脚本二十数編を作った。醜悪な世相を名文によって浄化し、義理と人情との葛藤を描いて不朽の名作をのこした。享保九年(一七二四)没、年七十一。主作、曾根崎心中・心中天網島・国姓爺合戦・曾我会稽山。
ちかやかなり[近やかなり] (形動、ナリ)近い。近く寄っている。源氏、初音「今は、あながちにちかやかなる御ありさまも」同、胡蝶「近やかに臥し給へば」
ちから[税] (名)「田力」または「民力」の義という。民から奉るみつぎもの。租・庸・調の総称。ぜい。ねんぐ。
ちからぐるま[力車] (名)人の力で運ぶ車。荷車。万葉、四の六九四「恋草をちからぐるまに七くるま積みて恋ふらくわが心から 広河女王」
ちからしろ[税代] (名)夫役の代わりに納める物。続紀、元明天皇、和銅元年正月「武蔵の国の今年の庸当(ちからしろ)、その郡の調を免じ給ふとのり給ふ」(武蔵の国から銅を献じたので)
ちからのつかさ[主税寮](名)次項に同じ。
ちかられう……リヨウ[主税寮] (名)昔、民部省に属し、租税のことおよび倉廩出納、諸国田租春米のことなどをつかさどる役所。ちからのつかさ。
ちぎ[千木] (名)「ひぎ」ともいう。上代の建築において、切棟の左右の端に用いる長い木を棟で交叉せしめ、その先を長く空中に突き出させているもの。今日の神社に見ることができる。祝詞、祈年祭「高天原に千木高しりて」
ちぎ[地祇] (名)国つ神。地の神。「天神」の対。
ちぎり[契り] (名)(1)互に言いかわすこと。契約。約束。特に男女間にいう。宇津保、嵯峨院「みかどの、年ごろの御契りをおぼし出でつつおはするに」(2)前世からの約束。宿縁。竹取「昔のちぎりありけるによりてなむ、この世界にはまうで来たりける」(3)ゆかり。縁。新古今、十、覊旅「誰となき宿の夕べをちぎりにてかはるあるじと幾夜とふらむ」
ちぎりき[ちぎり木] (名)棒のような形をした杖。棒ちぎり。諺「いさかひ過ぎてのちぎりき」
ちぎる[契る] (動、四)互に固く約束する。契約する。千載集、十六、雑上「契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり 藤原基俊」=あなたがあれほど約束してくださった「ただ頼めしめぢが原のさしも草われ世の中にあらむ限りは」のおことばを露のようなお恵みとして命をつないでまいりましたが、ああ、今年の秋も、このまま過ぎて行くようです。(藤原基俊が自分の子僧都光覚を維摩会の講師にしてくれと藤原忠通に願ったら、忠通が清水観音の歌として伝えられる前述の歌を示して約束したのに、またまたその選に漏れたので、この歌をよんで忠通をうらんだのである)
ちくえふ…ヨウ[竹葉] (名)(1)竹の葉。(2)「酒」の異名。ささ。(3)転じて、「弁当」をいう。太平記、二十六、四条繩手合戦事「えびらにさしたる竹葉取り出して、心しづかに兵粮つかひ」
ちくしやうだう…シヨウドウ[畜生道] (名)仏教で、六道の一。悪業を作った衆生が、死後、畜生に生まれかわって呵責をうける処。畜生界。
ぢぐちジ…[地口] (名)江戸時代に行われた雑俳の一。諺や俗間の成語などに語呂を合わせて言う洒落。「蕎麦がいいを「側がいい」に通わせる類。ごろあわせ。くちあわせ。
ちくはく[竹帛] (名)「書物」の異称。また、歴史。中国の古代では、文字を竹簡や帛にしるしたのでいう。「名を竹帛に垂る」
ちくぶしま[竹生島] (地名)琵琶湖の北部にある、周囲二キロばかりの小島。更級日記「湖の面(おもて)はるばるとして、なでしま・竹生島などいふ所の見えたる、いとおもしろし」
ちくふじん[竹婦人・竹夫人] (名)竹や籐を編んで造った細長い籠。夏日これを抱き、または足を載せて涼をとる。蕉村句「天にあらば比翼の籠や竹婦人」
ちくまがは…ガワ[千曲川] (地名)長野県の東北部を流れる川。新潟県に入って信濃川となる。一茶の句「蝉鳴くや天にひつつくちくま川」
ちくらおきくら[千座置座] (名)次項に同じ。
ちくらおきど[千座置戸] (名)多くの祓い物を載せ置く台。上代、犯罪者に科して、その罪をあがなわせた、おびただしい祓い物。古事記、上「はやすさのをのみことに、ちくらおきどをおほせ、また鬚と手足の爪とを切り祓へしめて、かむやらひやらひき」
ちくりんのしちけん[竹林の七賢] (名)中国、晉の初め、竹林に俗塵を避けて清談を事とした七人の賢人。ななのさかしき人ども。■康・阮籍・阮咸・向秀・劉伶・山濤・王戒。
ちくりんゐんのにふだう…イン…ニユウドウ[竹林院の入道] (人名)西園寺公衡(きんひら)の別称。応長元年(一三一一)出家。正和四年(一三一五)寂、年五十一。兼好とほぼ同時代の人。徒然草、八十三段「竹林院の入道左大臣殿、太政大臣にあがり給はむに」
ちくわう…オウ[竹王] (名)中国、漢の武帝の時、大竹の中から生まれたという夷狄の王。竹取式の伝説の主人公。枕草子、九「人の家につきづきしきもの……ちくわうゑがきたる火をけ」(「ちひろ」「ちくあう」などとある異本もある)
ちくゑん…エン[竹園] (名)親王。たけのそのふ。
ぢげジ…[地下] (名)(1)五位以下で、まだ昇殿を許されない官人の称。(2)転じて、禁中に仕えない人の称。
ちご[児] (名)「乳子」の義。(1)乳を飲むほどの幼児。赤子。(2)わらは。子供。(3)寺院などで召し使う児童の称。
ちごおひ…オイ[児生ひ] (名)小児の成長。
ちざい[笞罪] (名)昔の五刑の一。最も軽い刑。笞で身体をうつ。罪により、十から五十に至る五段階に分かつ。
ちさとのはま[千里の浜] (地名)紀伊の国、和歌山県日高郡岩代村の海浜の称。熊野街道に当たる。伊勢物語「三条の大行幸(おほみゆき)せし時、紀の国の千里の浜にありけるいとおもしろき石奉れりき」枕草子、九「はまは……千里の浜こそ広う思ひやらるれ」
ちしほ…シホ[千入] (名)「しほ」は浸して染める度数をいう接尾語。幾度も幾度も染めること。
ぢずりジ…[地摺り] (名)白地の絹に、はなだ色の模様を摺り出したもの。枕草子、八「むかしおぼえてふようなるもの……ぢずりの裳の花かへりたる」(「花かへりたる」は花田色のあせたのがいやだとの意)
ちそくゐん…イン[知足院] ちそくゐん…イン[知足院](人名)同名の人が多いが、次の例は、藤原師通の子忠実。古今著聞集、一、神祇「知足院殿、内覧の宣旨をとどめられさせ給ひたることありけり」
ちそばへ……ソバエ[血そばへ] (名)血を見て、いよいよ勇むこと。
ちぢくチジク[縮く] (動、下二)ちぢける。「髪ちぢく」
ちぢにチジ…[千千に] (副)さまざまに。古今集、四、秋上「月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど 大江千里」
ちちのみの (枕詞)「ちちのみ」はいちじくの実、犬枇杷の実、または銀杏の実という。未詳。音の上から「父」に冠する。
ちぢむチジム (動、四)とめる。とどめる。琴後集、一、春「青柳は糸垂れにけり藻刈人その舟ちぢめ春の川づら」
ちちよちちよ (感)母を呼ぶ声で「乳よ乳よ」である。「父よ父よ」ではない。みのむしの子を人の幼児に擬したもの。その鳴き声からいう。枕草子、三「虫は……ちちよちちよと、はかなげになく。いみじうあはれなり」
ちつまん[秩満] (名)国司などの任期の満ちること。
ぢとうジ…[地頭] (名)(1)源頼朝の時から、諸国の荘園に置いた職。(2)のち、一区の地の領主の称。諺「泣く子と地頭には勝たれぬ」(横暴であると意)
ちとすうぜう……ジヨウ[雉兎芻蕘] (句)「雉兎」は、きじやうさぎをとるもの。猟師。「芻蕘」は、きこり・くさかりの類。奥の細道「人跡稀に、雉兎芻蕘の行きかふ道、そこともわかず」(「芻」は俗字)
ちとせのこゑ…コエ[千歳の声] (句)千秋楽・万歳楽と祝う声。また、世・齢の長久を祈る声。
ちどり[千鳥] (名)(1)多くの鳥。ももどり。ももちどり。万葉、十六の三八七二「わが門の榎(え)の実もりはむももちどりちどりは来れど君ぞ来まさぬ」(2)河海湖沼に住むちどり科の渉禽の総称。群棲するのでいう。古事記、上「わがこころ、うらすのとりぞ、いまこそは、ちどりにあらめ」
ちどりなく[千鳥鳴く] (枕詞)渉禽の千鳥の名所である大和の「佐保川」「吉野川」に冠する。万葉、四の五二八「千鳥なく佐保の河門の瀬を広み」同、六の九一五「千鳥鳴くみ吉野川の川音のやむ時なしに思ほゆる君」
ちぬし[乳主] (名)乳母の産んだ子。めのとご。源氏、若菜、上「常にこの小侍従といふ御乳主をもいひはげまして」
ちのり[千入り] (名)「のり」は「はいる」こと。(矢の)千本も入ること。古事記、上「そびらには千入りの靫(ゆぎ)を負ひ」
ちのわ[茅の輪] (名)疫病を払う祓の具。茅または藁を紙で包んで束ね、輪のようにして、これをくぐるもの。一茶の句「母の分(ぶん)も一つくぐる茅の輪かな」
ちはつ[薙髪] (名)(1)頭髪を剃って仏門に入ること。剃髪。(2)もとどりを切ること。
ちはふチワウ[幸ふ] (動、四)「さちはふ」「さきはふ」に同じ。幸福を与える。祝福する。万葉、九の一七五三「男(を)の神も許したまひ、女(め)の神もちはひたまひて」
ちはやびと (枕詞)「ちはや」は「稜威速(いちはや)」の義で、「うぢはや」と同義語であるから「うぢ」に冠する。古事記、中「ちはやびとうぢのわたりに」万葉、七の一一三九「ちはやびと宇治川浪を清みかも旅ゆく人の立ちがてにする」
ちはやぶる (枕詞)「稜威速(いちはや)ぶる」の義で、「神」「人」に、また、その同義語「うぢはやし」から「うぢ」に冠する。一説、「あらみたま」の意で、あらぶる神や気性のはげしい人または流れの危険な宇治川にいうので、枕詞ではないと。万葉、二の一九九「ちはやぶる人を和(やは)せと、まつろはぬ国を治めと」同十三の三二四〇「ちはやぶる宇治の渡りのたぎつ瀬を」古今集、五、秋下「ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは 在原業平」=(この屏風の龍田川の絵は)紅葉が一面に美しく赤く、流れに浮かんでいて、水に絞り模様を作っているが、こんな美しい光景は神代にもあったと聞いたことがない。(宮中で、龍田川の絵をかいた屏風を見て詠んだもの)
ちびきいは…イワ[千引石] (名)千人がかりで引くような大きな石。ちびきのいは。古事記、上「すなはち千引石を、そのよもつひら坂に引き塞(さ)へて」
ちひさきはあへなむチイサキワアエナン (句)幼少な者はさしつかえなかろう。大鏡、二、左大臣時平「ちひさきはあへなむと朝廷(おほやけ)もゆるさしめ給ひしかば」
ちひろ[千尋] (数)せんひろ。極めて長く、また深いこと。(一尋は約六尺。両の手を左右に伸ばした時の一方の手の中指の先端から他方の手の中指の先端までの長さ)
ちひろあるたけ[千尋ある竹] (句)中国、崑崙山の北に生えるという、極めて丈の高い竹。伊勢物語「わが門にちひろある竹を植ゑつれば夏冬たれか隠れざるべき 在原業平」(兄行平の女が親王を産み奉ったのを祝うた歌。親王を竹に比することは、「たけのそのふ」を見よ)
ちぶ[禿ぶ] (動、上二)すれて減る。すれて切れる。太平記、十一、書写山行幸事「歯ちびて僅かに残れる杉の屐(あした)あり」
ちぶくろ[乳袋] (名)「ちぶさ」のこと。
ちぶしやう……シヨウ[治部省] (名)昔の八省の一。吉凶の儀礼、雅楽・僧尼・陵墓の事等をつかさどる。をさむるつかさ。
ぢぶつジ…[持仏] (名)(1)朝夕礼拝する個人専有の仏像。また、仏壇。源氏、若紫「ただ、このにしおもてにしも、ぢぶつすゑたてまつりておこなふ尼なりけり」八犬伝、三、一「法師は家(ぢぶつ)にうちむかひ、木魚たたきて」(2)次項の略。
ぢぶつだうジブツドウ[持仏堂] (名)持仏または位牌などを安置しておく堂または室。持仏。
ちぶりのかみ[道触りの神](神名)「道触り」は、海陸の旅行において、その道に行き触れる所の神に手向けして、旅行の安全を祈る義。行路のほとりの神。土佐日記「わたつみのちぶりの神に手向けするぬさの追ひ風やまず吹かなむ」
ちへ…エ[千重] (名)多く重なっていること。万葉、五の八六六「はろばろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は」
ちまき[茅巻・粽] (名)昔、茅の葉で巻いたのでいう。もち米またはその粉を笹の葉などで巻いて蒸した食品。
ちまきのほこ[茅巻の矛] (名)柄を茅で巻いた矛。太古の武器。神代紀、上「天の鈿女の命、すなはち手にちまきのほこを持ち、天の岩屋戸の前に立たして巧みにわざをぎす」
ちまた (名)(1)「道股」の義。道の分岐するところ。⇒やちまた。(2)巷。町通り。世間。(3)ところ。場所。
ちまたのかみ[ちまたの神] (神名)(1)道祖神。(2)さるだひこの神。天孫降臨の際、あめのやちまたにいたのでいう。
ちみ[魑魅] (名)山林の異気から生じて、人を害する怪物。すだま。「魑魅魍魎」
ぢもくジ…[除目] (名)官に除し、目録にしるす義。昔、諸臣任官の公事。ただし、大臣の外。正月十一日から十三日まで「あがためしの除目」または「春の除目」があり、諸国司の国司任官の式があり、秋には「つかさめしの除目」または「秋の除目」があり、在京諸司の官人を任命する。枕草子、一「除目のほどなど、内わたりは、いとをかし」(ここは、あがためしの除目)
ちやうチヨウ[帳] (名)床の上に張り垂れて周囲の隔てとする布。垂れぎぬ。とばり。これを台の上に立てたものが「几帳」である。竹取「帳の内よりも出さず、いつき養ふ」
ちやうチヨウ[庁] (名)(1)役所。つかさ。(2)特に、検非違使の庁をいう。使庁
ぢやうジヨウ[定] (名)きまり。必定であること。その通りであること。確かなこと。古今著聞集、十六、興言利口「若し取り得ぬものならば、友正そのぢやうにきらめくべし」=もし私が(その犬を)つかまえることができなかったら、私友正はそのきまりの通り、きらめくような立派な引出物を出しましょう。
ちやうかチヨウ……[長歌] (名)和歌の一体。五音七音の句を三回またはそれ以上くりかえし、終末に七音一句を置いておちつかせるもの。五七、五七、五七、七が、その最も短い形式。ながうた。「短歌」の対。
ぢやうがくジヨウ……[定額] (名)一定数。定められた人数。徒然草、百九十七段「諸寺の僧のみにもあらず、定額の女嬬といふこと、延喜式に見えたり」(「女嬬」は「下級の女官」)
ちやうこんがチヨウ……[長恨歌] (名)中国、唐の詩人白楽天の詩。唐の玄宗皇帝が楊貴妃を失った悲嘆の情を歌ったもの。全編七言百二十句から成る。源氏、桐壺「この頃、あけくれ御覧ずる長恨歌の御絵」更級日記「世の中に、長恨歌といふふみを物語に書きてある所あんなりと聞くに」
ぢやうざいジヨウ……[杖罪](名)昔の五刑の一。笞罪より重く、徒罪より軽い。杖でうつ。六十から百までの五段階がある。
ぢやうさうジヨウソウ[丈草] (人名)⇒ないとうぢやうさう。
ちやうじチヨウ……[停止] (名)さしとめること。禁止。また、特に「鳴物停止」の略。
ちやうしうきゆうチヨウシユウ…[長秋宮] (名)(1)中国、漢代、皇后の居た宮殿の名。転じて、皇后の御殿。平家、灌頂、大原入御「長秋宮に月を詠ぜし夕べには」(2)転じて、皇后の御称。
ちやうじやチヨウ……[長者] (名)(1)年上、目上、身分の高い人、徳の高い人、おだやかな人などの称。ちやうしや。(2)富貴の人。かねもち。竹取「長者のあたりにとぶらひ求めむに」(3)氏の上。氏の長(をさ)。(4)うまやのをさ。駅長。(5)娼家または遊女。(6)京都の東寺の上首。
ぢやうちようそうづジヨウ…ズ[定澄僧都] (人名)長保二年(一〇〇〇)に奈良の興福寺の別当となった人。極めて背が高かったという。清少納言と同時代の人。長和四年(一〇一五)寂。生年未詳。枕草子、一「もとより打ちきりて、定澄僧都の枝扇にせさせばや」(この記事により、「枕草子」が長保二年以降に成ることが推定される)
ぢやうふジヨウ……[丈夫] (名)(1)一人前の男子。(2)すぐれた男。(3)男子。「丈夫涙なきにあらず、離別の間にそそがず」=男子たるもの、決して涙がないわけではない。ただ、離別というような小事に当たっては決して涙を流すことはしない。(中国、陸亀蒙の「離別の詩」にある句)
ちやうもんチヨウ……[聴問] (名)聞きとること。また、仏法の説教を聞くこと。教法を聞きわけること。
ちやうりチヨウ……[長吏] (名)(1)地方官の頭立った者の称。平家、一、禿童「京師の長吏、これがために目をそばむと見えたり」(2)勧修寺や園城寺や延暦寺の横川などで、寺務を統べる役僧。沙石集、一、上「三井寺の長吏、公顕僧都」
ぢやうろくジヨウ……[丈六] (名)(1)たけ一丈六尺。仏像にいう。徒然草、二十五段「丈六の仏九体、いと尊くて並びおはします」(2)丈六の仏像があぐらに居ることから、あぐらをかくことをいう。
ちやくこチヤツ……[着袴] (名)(1)袴をはくこと。(2)「はかまぎ」に同じ。
ちやくだ[着■] (名)「ちやくだい」と読むべきであろうが、「■」を「駄」と混同したものか、こう読む。「足枷」のこと。
ちやくたう…トウ[着到] (名)(1)昔、出勤した官吏が自分の氏名を記入する帳簿。古今著聞集、十六、興言利口「弁、着到をとりよせて」(2)出陣などの時、馳せ参じた軍勢の氏名をしるす目録。謡曲、鉢の木「痩せたりともあの馬に乗り、一番に馳せ参じ、着到につき」(着到目録に記入され)
ちやくだのまつりごと[着■の政] (名)前前項参照。昔、五月に行った公事。囚人に擬した者を鞍馬村から召し、検非違使をして、その者を打つまねをさせること。軽罪の決断を済ます意という。古今著聞集、三、政道忠臣「光方、廷尉佐にて、着■の政につきたりけるに、雨の降りたりけるに」
ちゆういん[中陰] (名)(1)仏教で、人の死後四十九日の間をいう。徒然草、三十段「中陰のほど、山里などに移ろひて」(2)次項に同じ。
ちゆうう[中有] (名)人の死んで、まだ未来の生を受けない間。現世と来世との中間にいる義。中陰。謡曲、春栄「黄泉中有の旅の空、長闇冥の巷までも」
ちゆうぐう[中宮] (名)(1)昔、皇后の御所の称。(2)のち、皇后の称。(3)さらにのち、皇后の他に設けられた妃(きさき)の位の称。皇后と並び置かれた。
ちゆうぐうしき[中宮職] (名)皇后・皇太后・太皇太后の三宮職の総称。三宮の雑務一切をつかさどる。のち、皇后・中宮の並び置かれるに及んで、皇后職・中宮職が並び置かれた。中務省に属する。なかみやのつかさ。
ちゆうげん[中間] (名)(1)どちらともつかぬ中ほど。枕草子、一「ちゆうげんなる折に、大進もの聞えむとありと、人の告ぐるを」(「ちうげん」とある本は仮名遣の誤り)(2)昔、大名・公家・寺院などで、召し使われた男の称。侍と小者との間。武家では下僕の頭だった者の称。中間男。
ちゆうげんほふし……ホウシ[中間法師] (名)大僧に使われる妻帯の僧。雑役に仕える下位の法師。平家、八、法住寺合戦「三位の兄越前法橋性意が中間法師のありけるが」
ちゆうこ[中古] (名)上古と近古との間の時代。だいたい、平安時代を指す。なかむかし。(あいまいな語である)
ちゆうじ[仲尼] (人名)孔子の字。神皇正統記、六「昔、仲尼は獲麟に筆を絶つとあれば、ここにてとどまりたく侍れど」
ちゆうしゆう……シユウ[中秋] (名)陰暦八月十五日の称。
ちゆうしう……シユウ[仲秋] (名)陰暦八月の称。なかの秋。また、前項の意にもいう。
ちゆうしよ[中書] (名)「中務省」の唐名。
ちゆうしん[注進] (名)(1)起った事件を注(しる)して申し上げること。(2)事の意を報告すること。
ちゆうせんせかい[中千世界] (名)仏教で、小千世界を一千集めたものの称。
ちゆうそん[中尊] (名)仏教で、中央に位する尊像。三尊における阿弥陀如来、五仏とにおける大日如来、五大明王における不動明王などをいう。
ちゆうだう…ドウ[中堂] (名)(1)中央の堂。(2)宰相の政を行う処。転じて、宰相の称。(3)天台宗の寺の本堂。また、根本中堂の略。更級日記「うちまどろみたる夢に、中堂より御香たまはりぬ」(ここは「本堂」)
ちゆうでん[中殿] (名)(1)中央の御殿。(2)清涼殿の異称。増鏡、十八、むら時雨「中殿にて和歌の披講あり」太平記、四十、中殿御会事「故に中殿の御会は累世の規模なり」
ちゆうなごん[中納言] (名)太政官の官。その職は大納言に近く、機密に関することをつかさどる。正と権とある。なかのものまうすつかさ。
ちゆうのばん[中の盤] (句)中くらいの皿、または盆、または台。枕草子、九「人の家につきづきしきもの……中のばん」
ぢゆうふくジユウ……[重服] (名)父母の忌服。ちようふく。
ちゆうべん[中弁] (名)太政官の判官の一。大弁の次位。左と右とある。なかのおほともひ。
ちゆうほん[中本] (名)江戸時代の「滑稽本」「人情本」の称。形の上からいう。
ちゆうもん[中門] (名)(1)寝殿造で、表門と寝殿との間にある門。附図参照。(2)社寺の楼門と拝殿との間にある門。
ちゆうらう…ロウ[中老] (名)武家で、奥向きの女の役目。老女の次位
ちゆうらふ…ロウ[中臈] (名)(1)内侍でない女官の称。上臈の下位、下臈の上位。(2)僧侶の位次の一。上臈の次位、下臈の上位。
ちゆうゐん…イン[中院] (名)上皇が三人あられる時、本院の次、新院の前のお方の称。
ちよ[千代](人名)⇒かがのちよ。
ちようず[懲ず] (動、サ変)こらす。こりさせる。(ちなみにいう。「竹取物語」に「血の流るるまでちようぜさせ給ふ」の語があり、「枕草子、一」に「この翁丸うちてうじて犬島につかはせ」の語がある。「打つ」なら「ちやうず」でなければならぬ。写本の仮名遣は、あてにならぬから、いずれか不明)
ちようそ[重祚] (名)退位せられた天子が、再び位に即かれること。
ちようふく[重服] (名)「ぢゆうふく」に同じ。
ちようやう…ヨウ[重陽] (名)九月九日の菊の節供をいう。
ちよく[勅] (名)(1)天子のおことば。天子の御命令。「勅なれば、いともかしこし」(2)種種の語の上に添えて、天子の親しくなされる意を示す語。勅勘。勅許。勅願。勅宣。
ちよくかんチヨツ……[勅勘] (名)天子のおとがめ。平家、七、忠度都落「その身勅勘の人なれば、名字をばあらはされず」
ちよくかんチヨツ……[直諌] (名)うちつけに諌めること。
ちよくぐわん…ガン[勅願] (名)天子の祈願。
ぢよくせぢんどジヨク…ジン…[濁世塵土] (名)仏教の語。濁った世、塵のような汚れた土地。すなわち、この世。奥の細道「いかなる仏の濁世塵土に示現して、かかる桑門の乞食順礼ごとき人をたすけ給ふにや」
ちよくせんわかしふ……シユウ[勅撰和歌集] (名)天皇・上皇の勅命・院宣によって撰進された歌集。「古今和歌集」から「新続古今和歌集」に至る二十一代集がある。各書名参照。
ちよくぢやう……ジヨウ[勅諚] (名)勅命。みことのり。
ちよくん[儲君] (名)太子。まうけのきみ。儲弐。
ちよぢよ…ジヨ[千代女] (人名)⇒かがのちよ。
ちよに[千代尼] (人名)⇒かがのちよ。
ちりかふチリカウ[散り交ふ] (動、四)かなたこなたへ飛びちがう。散り乱れる。古今集、七、賀「さくら花散り交ひ曇れ老いらくの来むといふなる道まがふがに 在原業平」
ちりづか…ズカ[塵塚] (名)ごみため。はきだめ。徒然草、七十二段「多くて見苦しからぬは、文庫の文、塵塚の塵」
ちりばむ[塵ばむ] (動、四)塵に染む。ほこりによごれる。源氏、須磨「台盤なども傍ちりばみて」
ちりばむ[鏤む] (動、下二)彫って金銀珠玉などをはめる。刻みつける。彫りこむ。
ちりひぢ…ヒジ[塵泥] (名)塵と泥と。転じて、数にもあらぬつまらないもの、とるに足らぬもの。万葉、十五の三七二七「ちりひぢの数にもあらぬ我故に思ひわぶらむ妹が悲しさ」
ちりぼふチリボウ[散りぼふ] (動、四)(1)散らばる。散り乱れる。枕草子、二「みちのく紙のたたう紙の細やかなるが、花かくれなゐか、少しにほひうつりたるも、几帳のもとに散りぼひたる」(2)離散する。流浪する。源氏、真木柱「おひさき遠くて、さすがに散りぼひ給はむ有様など、もの悲しうもあべいかな」
ちわく[道分く] (動、四)進路を分け開く。古事記、上「天の八重たな雲を押し分けて、いつのちわきちわきて」
ちん[朕] (代)天子の自称代名詞。ただし、昔でも文章の上にだけ用いられた。
ぢん[沈] (名)「沈香(1)」の略。「沈の枕」「沈の櫛」
ぢん[陣] (名)(1)戦争で、軍勢をつらねること。「長蛇の陣」(2)軍勢の屯する所。陣屋。陣所。「陣を取る」(3)近衛・衛門等の武衛の官人の詰所。「左近の陣」「右衛門の陣」(4)「陣の座」の略。徒然草、二十二段「陣に夜の設けせよといふこそいみじけれ。……上卿の陣にて事行へるさまは更なり」
ぢんかうジンコウ[沈香] (名)(1)熱帯地方に産する香木の名。「もちのき」に似た木。その材は重くて水に沈むのでいうと。沈水。伽羅(きやら)。ぢん。(2)沈香またはその同属の材質中に生ずる黒色芳香性の脂膏。火にくべると、芳香を発する。薫香料に用いる。沈水香。「ちんかう」ともいう。
ちんこんさい[鎮魂祭] (名)「たましづめのまつり」に同じ。
ちんじゆふ[鎮守府] (名)昔、陸奥・出羽両国の蝦夷を鎮撫するために、陸奥の国に置かれた官府。国司と並んで事を行う。奈良時代、天平十一年(七三九)に、はじめてこの名が見えている。はじめは多賀城(今の宮城県)に置かれ、のちに膽沢城(今の岩手県)に、更にのち平泉に移る。その長官を鎮守府将軍といい、三位以上の人が任ぜられると鎮守府大将軍という。
ちんぜい[鎮西] (地名)昔「九州」の別称。奈良時代に、太宰府を改めて鎮西府と称し、一か年余で太宰府の名称に復したが、この名が残って九州を称したものであろう。保元物語、一、新院御所各門門固めの事「為朝久しく鎮西に居住仕つて」
ちんぜいふ[鎮西府] (名)(1)奈良時代、天平十四年(七四二)太宰府を廃し、翌年鎮西府を置いたが、翌天平十六年に、また旧の太宰府に復す。(2)「太宰府」の別称。
ぢんぢジンジ[沈地] (名)沈香の木を木地とした物。「沈地の机」など。
ちんどく[鴆毒・酖毒] (名)「ちん」という鳥の羽を酒に浸した毒。太平記、二十八、慧源禅■南方合体事「ただ願はくは我が首を刎ねて市朝に曝さるるか、然らずば鴆毒を賜うて死を早くせむと請ひければ」
ぢんのざジン…[陣の座] (名)禁中で、節会・神事・叙任等の公事の時、事に当たる上卿(しやうけい)の着く座。左近衛の陣の座は日華門の中にあり、右近衛の陣の座は月華門の中にあった。略して「陣」ともいう。大鏡、三、太政大臣忠平「宣旨うけたまはらせ給ひて、おこなひに陣の座ざまにおはします道に」
ぢんやジン…[陣屋] (名)(1)武士の詰めている所。陣。番所。詰所。(2)宿衛の人の詰所。また、そこに詰めている人。枕草子、一「北の門より、女房の車ども、陣屋のゐねば入りなむやと思ひて」(陣屋に宿衛の人がいないのでの意)

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