- と -
と[外] (名)そと。ほか。古事記、上「鼠来ていひけるは、内はほらほら、とはすぶすぶ」竹取「そのあたりの垣にも、家のとにもをる人だに、たはやすく見るまじきものを」
と[門] (名)(1)出入するところ。かど。もん。入口。戸口。(2)海に出入りする口。瀬戸。「由良のと」
と[徒] (名)ともがら。なかま。「不逞の徒」
(助詞)第一類。格助詞。(1)指し定める事物を示す。「某といふ人」「これと定む」(2)「のように」の意を示す。「花と散り、雪と飛ぶ」(3)「として」の意を示す。古今集、一、春上「けふ来ずばあすは雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや 在原業平」(4)「ともに」の意を示す。「友と語る」(5)比較の対象を示す。「に」同じ。源氏、夕顔「かたちなどは、かの昔の夕顔と劣らじや」(6)用言を重ねて、意を強める用をする。「世にありとある人」「知りと知りたる人」(7)同趣の語句を並立せしめる用をする。「万葉と古今とを読む」
(助詞)第二類。接続助詞。(1)「とも」に同じ。「絵にかくと筆も及ばじ」「人は見る
と我は見じ」(2)「とて」に同じ。うけらが花、一、春歌「咲くを待ち散るを惜しむと大方の春の心は花にぞありける」(3)条件を示す。狂言、吃「私の留守になると、酒ばかり飲うで」(4)他は、現代語の意味とほとんど同じである。
(助詞)第二類。接続助詞。「ども」に同じ。逆態の接続。活用語の巳然形に付く。「問へど答へず」「戸外は寒けれど室内は暖かし」「性、善良なれどやや小心なり」「いまだ学ばざれどわれこれを知る」
とありかかり (句)ああであり、こうである。枕草子、九「これは、とあり、かれは、かかりなどのたまはするに」
とありて (句)「とばかりありて」の義。しばらくして。枕草子、四「しばしや。など、さ夜をすてて急ぎ給ふ。とありて、などいへど」=「お待ちなさい。なぜそんなに、面白いこの夜を見捨てて、お急ぎになるのですか。もう少したってからお帰りなさい」などというが。
とありともかかりとも (句)どんなであっても。どうであろうとも。竹取「天下のことは、とありともかかりとも、御命のあやふさこそ大きなるさはりなれば」
とある (連体詞)「ある」に同じ。太平記、五、大塔宮熊野落事「宮をばとある辻堂のうちに置き奉りて」
とあればかかり (句)ああなれば、こうなる。一方がああであれば、一方がこうである。とかく思う通りにならぬ意。源氏、帚木「とあればかかり、あふさきるさにて」
とい[刀伊・刀夷] (名)女真の一族。後一条天皇の寛仁三年(一〇一九)、高麗を先導に立てて、壱岐・対馬・筑前に入宼したことがある。大鏡、六、内大臣道隆「刀伊の国のもの、俄かにこの国をうちとらむとや思ひけむ、越え来たりけるに」
といま[戸伊麻] (地名)「とよま」のこと。陸前の国、宮城県登米(とよま)郡の南部にある登米町。北上川の右岸。奥の細道「心細き長沼にそうて、戸伊麻といふ所に一宿して平泉に至る。その間二十余里ほどとおぼゆ」
とう[頭] (名)「蔵人頭(くらうどのかみ)」の略称。この職は殿上を管理する長官であるので、特に音で呼ぶという。大鏡、八「宰相も思ひかけず頭になり給ふとこそ承りしかと言へば」
とう[疾] (形、ク、連用形)「疾し」の連用形「疾く」の音便。速く。急に。すみやかに。竹取「あゆみ疾うする馬をもちて、走らせ迎へさせ給ふ時に」(この語は副詞ではない)
どう[筒] (名)(1)すごろくなどで、さいを入れて振る筒(つつ)。古今著聞集、十二、博奕「我はいまだ一度もしり候はねば、どうをば人にゆづり申し候はむ」(2)博奕の座席を貸して、その出来高の歩合を取る人。筒元。筒取。筒親。
どう[■・輻] (名)車の名どころ。輻の集まるところ。こしき。大鏡、八「おとどふたりは、左右の御車のどううちおさへて立たせ給へり」
とういうき…ユウ…[東遊記] (書名)紀行文。前編五冊、後編五冊。橘南谿の著。寛政七年(一七九五)から刊行。著者が天明四年(一七八四)の秋から、東海・東山・北陸などの各地を遍歴した時の見聞・感想などを録したもの。⇒たちばななんけい。
どうえう…ヨウ[童謡] (名)(1)「わざうた」に同じ。民間において、時の為政者に対する予言的または風刺的な意を寓した歌謡の義。また、神が人間の口をかりて、為政者に警告を与える歌謡の義。左伝、僖公五年「童謡に曰く、丙の晨、龍尾辰を伏すと」(2)転じて、子供の歌う歌。自然に各地にあったもの、または新作されたもの。「讃岐典侍日記」にしるされている鳥羽天皇の五歳の時に口誦されたという「ふれふれ、こゆき」の類。
とうおん[唐音] (名)漢字音の一。「宋音」に同じ。わが国へは、呉音・漢音に次いで、鎌倉時代に宋から僧侶らによって伝えられたもので、唐時代の音の意味ではなく、唐土から来た音の意。「行燈」を「アンドン」と読む類。⇒そうおん。
とうか[登遐] (名)「遐」は、遥かに遠い義。天に登る、登仙する義から、天皇の崩御をいう。
とうが[東雅] (書名)辞書。二十巻。新井白石の著。享保二年(一七一七)成る。「和名抄」に見えた物名その他につき、その語源を説いたものであるが、その説には信じがたいものが多い。
とうかいだうちゆうひざくりげ……ドウ……[東海道中膝栗毛] (書名)滑稽本。八編、十八冊。十返舎一九の著。享和二年(一八〇二)から順次刊行。江戸町人の野暮を代表する二人の男。神田八丁堀に住む栃面屋弥次郎兵衛とその居候喜多八とが伊勢参宮と京阪見物とを志し、東海道の旅に出て、行くさきざきで滑稽な失敗を演ずるさまを描いた滑稽な紀行的小説。
とうかいだうめいしよき……ドウ……[東海道名所記] (書名)六巻。浅井了意の著。著者および年代をしるしていないが、浅井了意の著で、寛文年間(一六六一-一六七二)に成るという。江戸から京都・宇治に至る順路の名所や風景を、狂歌まじりに通俗的に滑稽的にしるしたもの。一九の「膝栗毛」は、この本を粉本としたものといわれている。
とうがくじふぢ……ジユウジ[等覚十地] (名)「等覚」は仏または菩薩の極位の称。諸仏のさとりは平等であるとの意。「十地」は菩薩修行の五十二階次の中、第四十一位から第五十位に至る十段階の位地。無明の惑いを断じて、真如を証する位地。すなわち「等覚十地」で「釈尊菩薩」の意。平家、十、維盛入水「等覚十地、猶生死の掟にしたがふ」-釈尊でも菩薩でも、やはり人間の定まった生死の運命に従う。
とうかん[等間・等閑] (名)なおざり。「等閑に附す」
どうぎやう…ギヨウ[童形] (名)(1)こどものかたち。幼児の姿。謡曲、大江山「御身は客僧、我は童形の身なれば、などかあはれみ給はざらむ」(2)昔、貴人の元服以前の称。平家、七、経正都落「皇后宮亮経正は、幼少の時より、仁和寺御堂の御所に童形にて候はれしかば」
とうきよく[登極] (名)「極」は北極の意。天子の御即位をいう。太平記、三、主上御没二落笠置一事「同十三日に、新帝登極の由にて、長講堂より内裏へ入らせ給ふ」
とうぐう[東宮・春宮] (名)太子の住まれる御殿の義。転じて、皇太子の敬称。はるのみや。四時で「東」を「春」とし、春は万物の生長する時であるので、この二字を通わせて用いる。
とうぐうばう……ボウ[東宮坊・春宮坊] (名)前項参照。東宮のことをつかさどる職。みこのみやのつかさ。春坊。坊官。坊庁。
とうくわう…コウ[■纊] (名)みみあて。駿台雑話、四、燈台もと暗し「古の聖王、冕旒目を蔽ひ、■纊耳を塞ぐも、聡明の刃はやきをきらうて、晦きをもちひて養はむとなり」
とうくわでん…カ…[登花殿] (名)内裏、弘徽殿の北、貞観殿の西にある殿舎。女御の局に当てられた。大鏡、七、太政大臣道長「また、次の女君は…東宮の女御にてさぶらはせ給ふ。登花殿にぞおはしましし」
とうくわばう…カボウ[東花坊] (人名)⇒かがみしかう。
とうくわんきかう…カン…コウ[東関紀行] (書名)紀行文。一巻。著者を鴨長明・源親行・源光行などとする説もあるが未詳。仁治三年(一二四二)の秋、京都を立って鎌倉に至るまでの旅行記。文章は和漢混淆体で、和漢仏書の故事や和歌や漢詩を自在に引用し、文飾として対句を多く用いている。
どうけつ[同穴] (名)死んで同じ墓の穴に葬られること。「偕老同穴」
どうざ[動座] (名)(1)座席を離れて礼をすること。(2)貴人の座所を他へ移すこと。(3)神木・神輿などの渡御すること。
どうざ[銅座] (名)江戸時代、銅の精錬および売買に関することを管理した所。また、銅貨を鋳造した所。折り焚く柴の記、下、長崎の御沙汰「十四年辛巳に至り、銀座の輩に銅座の事を兼ねしめられ、諸国より産する銅を買ひ得て」
とうざい[東西] (名)身体を自由に動かすこと。みうごき。枕草子、四「ただ、袖をとらへて東西をさせず」
とうざい[東西] (感)芝居・相撲などで、東西四方の見物人の鳴りをしずめるために発する語。
とうざいいうき……ユウ…[東西遊記] (書名)紀行文。二十巻。橘南谿の著。「東遊記」「西遊記」の合本。東西遊記十巻は寛政七年(一七九五)刊。東遊記続編五巻は同九年刊。西遊記続編五巻は同十年刊。
とうさく[東作] (名)耕作。農業。たづくり。「東」は「春」の義で、春は農事の始まる時なのでいう。平家、十、大嘗会沙汰「春は東作の思ひを忘れ、秋は西収の営みにも及ばず」
とうさんでう……ジヨウ[東三条] (名)「東三条院」の略。藤原良房の邸宅。子孫の忠平・兼家などこの邸に住む。京都、二条南町の西にあった。枕草子、一「いへは…とう三条・小六条」
とうじ[刀自](名)「とじ」の延音。⇒とじ(刀自)。
とうじ[刀自] (名)「とじ」の延音。⇒とじ(刀自)。
とうじ (名)昔、競馬(くらべうま)の神事のことをつかさどる人のことか。どんな漢字を当てるか不明。「党使」と当ててある頭注の本もあるが、それなら「たうじ」であるべきである。宇津保、祭の使「とうじの蔵人を階(はし)にすゑて、おりて舞踏して」
とうじ[東寺] (寺名)京都市下京区九条町にある金光明教王護国寺の俗称。桓武天皇の御創立。弘法大師の開山。京都の鎮護として羅生門の東に建てたのでいう。徒然草、百五十四段「この人、東寺の門に雨宿りせられたりけるに」
どうし[動詞] (名)文法用語。用言のうち、事物の動作・作用・存在・状態をあらわす語をいう。人、歩く(動作)。日、照る(作用)。山、あり(存在)。足、冷ゆ(状態)。文語においては、その活用に九種類ある。附録「文語動詞活用表」参照。
どうし[同士] (名)「どち」の転「どし」の加音である。なかま。つれ。接尾語的に用いることが多い。「いとこどうし」「女どうし」「男どうし」
どうし[同志] (名)志を同じくすること。また、その人。
どうじ[童子] (名)(1)こども。わらべ。児童。(2)仏道に入るために寺を入り、まだ得度しないで、もっぱら仏典などを学習し、雑用などに仕えるこども。その年齢または修行の期間などによって、大童子・中童子・小童子の別がある。
とうしうさいしやらく…シユウ……[東洲斎写楽] (人名)江戸時代の浮世絵師・能役者。通称は斎藤十郎兵衛。徳島藩の能役者であり、絵をよくし、俳優の似顔に妙を得た。生没年未詳。
とうしのしけ[藤氏の四家] (名)藤原不比等の子四人が、おのおの一家をなした称。南家(武智麻呂)、北家(房前)、式家(宇合)、京家(麻呂)の四家。このうち、北家が最も栄えた。大鏡、太政大臣道長「これを藤氏の四家とは名づけられたるなりけり」
とうしみ (名)「燈心(とうしん)」の転。栄花、駒競「七日がうちに、やがて万燈会せさせ給ふべければ、油・とうしみまでもてのぼらせ給ふ」
とうしみ (名)「味噌」のこと。春波楼随筆記「豆醤の能、煙草の毒を解(け)す」
どうしん[同心](名)(1)心を同じくすること。同意。また、その人。(2)鎌倉・室町時代にはその家に属した徒士・卒の称。江戸時代には幕府の諸奉行などの配下に属し、与力の下で罪人逮捕などに従った者。折り焚く柴の記、中、道中御沙汰「奉行の人人望み請ふごとくに、寄騎(よりき)・同心等の者共つけられき」
とうす[東司・登司] (名)厠(かはや)の守護神。転じて、便所。
とうすみ (名)「とうしみ」の転。燈心。
とうぜん[東漸] (名)宗教・文学などの、東方へ次第に進み移ること。太平記、十八、比叡山開闢の事「然れども、この地、大日遍照の本国として、仏法東漸の霊地たるべければ」
とうそ[登祚] (名)天子の位に登ること。登極。即位。
とうたい[凍餒] (名)こごえ飢えること。梧窓漫筆、上「小民をして凍餒に及ばしめむも、仁人・君子の忍ばざる所なれば」
とうだいじ[東大寺] (寺名)奈良七大寺の随一。有名な大仏のある寺。奈良市雑司町にある。聖武天皇の勅願により、良弁開基。大和の国分寺。全国国分寺の総本山。別号、大華厳寺・恒説華厳寺・城大寺・東寺。正倉院・金堂・大仏殿・戒壇院・二月堂・法華堂その他多数の国宝がある。徒然草、百九十六段「東大寺の神輿、東寺の若宮より帰座の時」蕪村の句「虫干や甥の僧訪ふ東大寺」
とうたり (句)滝の水の流れ落ちる音をいう。「とうとうと落ちたり」の意か。謡曲、安宅「鳴るは滝の水、日は照るとも、絶えず、とうたり、とくとく立てや手束弓の心ゆるすな関守の人人」
とうぢゐん…ジイン[等持院] (寺名・人名)京都十刹の一。足利尊氏の創建。京都市上京区等持院北町にある。また、足利尊氏の別称。折り焚く柴の記、下、正徳年号の弁「等持院殿よりこのかた」(これは、足利尊氏)
とうつねより[東常縁] (人名)室町時代の歌人。美濃の郡上城主。足利氏に仕えた。和歌を正徹に学び、「古今集」の秘伝をきわめ、これを宗祇に伝えた。これが「古今伝授」のはじめという。明応三年(一四九四)没、年九十三。主著、古今伝授切紙口訣・常縁集。
とうで (動)「取り出づ」の連用形「取り出で」の転。源氏、帚木「いづくよりとうでたまふ言の葉にかあらむ」
どうてい[洞庭] (地名)中国、湖南省の北部にある大湖の名。洞庭湖。湘江・沅江・澧水等の諸流を入れて揚子江に排水する。奥の細道「松島は扶桑第一の好風にして、凡そ洞庭・西湖を恥ぢず」
とうでうぎもん…ジヨウ……[東条義門] (人名)江戸時代の国語学者。若狭の妙玄寺の住職。藤井高尚および本居大平の門人。その研究は、今日においても権威を有する。天保十四年(一八四三)寂、年五十七。主著、活語指南・活語雑話・活語余論。
とうてんこう[東天紅] (感)暁に鳴く鶏の声。東の空が赤くなる意の漢字と鶏の声とをとって、日本人の発明した語。
とうと (副)(1)全く。すっかり。ぴったり。狂言、那須与「浪風とうと静まつて扇も射よげにこそ見えにけれ」(2)ちょうど。ちゃんと。ぴたりと。狂言、居枕「けふの卦体が、とうとこれに当たつて居りまする」
とうとうたらり (句)語原について、チベット語説その他があるが未詳。(1)笛・鼓の譜。(2)三番叟の唱える語。一種のはやしことば、謡曲、翁「とうとうたらりたらりら、ちりやたらりたらりら、たらりあがりららりたう、鳴るは滝の水、日は照るとも、絶えずとうたり、ありうとうとうとう」
どうなんくわぢよ……カジヨ[童男丱女] (名)少年少女。十五、六歳の男女。平家、七、竹生島詣「かの秦皇・漢武、あるひは童男丱女をつかはし、あるひは方士をして不死の薬を求めしめ、蓬萊を見ずは竟(いな)や還らじと言ひて」
とうのちゆうじやう……ジヨウ[頭の中将] (名)近衛の中将で、蔵人の頭を兼ねた人。竹取「壷の薬をそへて、頭の中将呼び寄せて奉らす」
とうのべん[頭の弁] (名)太政官の弁官で、蔵人の頭を兼ねた人。⇒べん。枕草子、一「三月三日(やよひみか)に、頭の弁、柳のかづらをせさせ、桃の花かざしにささせ、桜、腰にささせなどして、ありかせ給ひしをり、かかる目見むとは思ひかけけむやと、あはれがる」(この頭の弁は藤原行成)
どうばうごゑん…ボウ…エン[洞房語園] (書名)随筆。二巻。庄司勝富の著。享保五年(一七二〇)成る。著者は江戸吉原の名主で、その家に代代伝わっている記録を資料として、遊女・白拍子の起原から、京都・江戸の遊女のこと、吉原・新吉原のことなどをしるしたもの。吉原研究の重要な資料。(「洞房」とは「閨房」の意から転じて「妓楼」「女郎屋」のこと)
とうばうさく…ボウ…[東方朔] (人名)中国、漢の武帝に仕えた人。滑稽諧謔をよくし、武帝の寵を受けた。また、仙人西王母と並んで方士として名高い。平家、十、横笛「東方朔と聞きし者も名をのみ聞きて目には見ず」
とうふう[東風] (名)ひがしかぜ。春風。こち。
とうべう…ビヨウ[投錨] (名)いかりをおろすこと。船舶の碇泊すること。
どうまる[胴丸] (名)簡略な鎧。胴だけを丸くかこむもので、腹当・腹巻に類し、草摺の八枚あるもの。
どうもう[童蒙] (名)こども。児童。幼少で物事の理に蒙(くら)いことからいう。
どうもなくて[動もなくて] (句)動じないで。おちついて。源氏、帚木「心もさわぎてしたひきたれど、どうもなくて、おくなるおましに入り給ひぬ」
どうよく[胴欲] (名)「貧欲」の転であろう。(1)極めて欲の深いこと。(2)むごいこと。非道であること。
とうらくゐせん……イ…[東洛渭川] (地名)「洛東の渭川」の義。京都の東を流れる鴨川。太平記、九、足利殿着二御篠村一事「都近き所なれば、東洛渭川の行宮、さまで御心をいためしめらるべきにはあらざれども」
とうりやう…リヨウ[棟梁] (名)(1)棟(むね)と梁(はり)と。(2)転じて、国家の重職にあって国政に任ずる人。水鏡、上、成務天皇「もとは棟梁の臣と申しき。これも、ただ大臣と同じことなり」(3)すぐれた才能・技術。源平盛衰記、二十八、経正竹生島詣「弓箭の棟梁としては、威を東南に振るひ給へり」(4)大工のかしら。工匠の長。
どうれ (感)「だれ」の延転。昔、訪問客が門口で「たのまう」というと、家人がそれに答えた声。どうれい。
とうれい[東嶺] (地名)京都の「東山」の別称。太平記、二十九、将軍親子御退失事「将軍は昨日都を東嶺の暁に霞と共に立ち隔たり」
とうわうふ…オウ…[東王父] (人名)中国、伝説上の仙人。「西王母」に対するもの。東王公。東父。漢代の人に信じられていた。祝詞、東文忌寸部献横刀時呪「左は東王父、右は西王母」
とうゐ…イ[東闈] (名)東宮の門。転じて、東宮。皇太子。古今著聞集、二、釈教「推古天皇の御宇、厩戸豊耳皇子、東闈の位にそなはり」
とうゐん…イン[洞院] (名)仙洞御所。上皇の御所。枕草子、一「家は…朱雀院・とう院」大鏡、三、太政大臣忠平「宗像明神おはしませば、洞院のうしろの辻よりおりさせ給ひしに」(これらの洞院は、京都左京区西の洞院にあった宇多上皇の亭子院を指すのであろう)
とうゐんのうだいじん…イン……[洞院の右大臣] (人名)次項の誤記であろう。徒然草、百二段「尹大納言光忠入道、追儺の上卿をつとめられけるに、洞院右大臣殿に次第を申し請けられければ」
とうゐんのさだいじん…イン……[洞院の左大臣] (人名)西園寺実泰。本姓は藤原。吉田兼好と同時代の人。嘉暦二年(一三二七)没、年五十八。徒然草、八十三段「洞院の左大臣殿、このことに甘心し給ひて、相国の望みおはせざりけり」(「甘心」は「心にうまし」とすること。満足し同感すること)
どえん[度縁] (名)昔、僧侶になる時、官から賜わった許可の証状。平家、二、座主流し「僧を罪する習ひとて、度縁を召し返し、還俗せさせ奉り」
とが[咎・科] (名)(1)とがむべき点。きず。非難。源氏、帚木「おほ方の世につけて見るにはとがなきも」(2)罪。罪科。源氏、須磨「咎重きわざ」
とかき (名)「とかげ」の訛。炭太祇の句「飛石にとかきの光る暑さかな」
とかく (副)(1)かれこれ。いろいろに。徒然草、五十一段「大方めぐらざりければ、とかくなほしけれども」(2)とにかく。何にせよ。狂言、茶盃拝「とかく此の方の機嫌さへよければ」(3)ややもすれば、どうかすると。大蔵流狂言、抜殻「とかく人といふものは」
とがしひろかげ[富樫広蔭] (人名)江戸時代末期の国語学者。号は言幸舎・塊老・鬼島。和歌山の人。本居春庭の協力者。明治六年(一八七三)没、年六十九。主著、詞の玉橋。
とがのをしやうにん…オ…シヨウ…[栂の尾の上人] (人名)鎌倉時代初期の高僧。明恵とも高弁ともいう。俗姓は伊藤。紀伊の人。文覚上人について学徳を修め、のち京都の栂の尾(右京区)に高山寺を建て、華厳宗中興の祖と仰がれた。貞永元年(一二三二)寂、年五十九。徒然草、百四十四段「栂の尾の上人、道を過ぎ給ひけるに、川にて馬洗ふ男、あしあしといひければ」
とがま[利鎌] (名)よく切れる、鋭利な鎌。古事記、中「ひさかたの、あめのかぐやま、とがまに、さわたるくひ」(利鎌のような「月」を呼び出す伏線的な語)祝詞、六月晦大祓「をちかたの繁木が本を、焼き鎌のとがまもて、打ち掃ふことのごとく」
とがり[鳥狩] (名)鳥を狩ること。万葉、十一の二六三八「梓弓末の腹野にとがりする君が弓弦(ゆづる)の絶えむと思へや」
とがりや[尖り矢・鋒矢] (名)先のするどく尖ったやじりに、四つ立ての羽をつけた矢。平家、四、鵼「山鳥の尾を以て作(は)いだりけるとがりや二筋、滋籐の弓に取り添へて」
とき[時] (名)(1)時間。(2)時刻。附図参照。(3)年代。時代。世。(4)折。頃。(5)期限。時期。(6)季節。(7)機会。時機。(8)世のなりゆき。時勢。世運。(9)時めく頃。さかえる折。さかりの時分。伊勢物語「三代のみかどに仕うまつりて、時にあひけれど」(10)時刻の知らせ。山家集、上「ひると見る月にあくるを知らましや時つくかねの音なかりせば」(11)文法用語。助動詞における「過去」「完了」「継続」。
とき[斎] (名)僧家で、午前の食事の称。午後の食事は「非時」という。また、僧の食事。おとき。枕草子、十「騒がしきもの…板屋のうへにて、鳥の斎のさば食ふ」⇒さば。
とき[鬨・鯨波] (名)(1)昔、戦いのはじめに、両軍の相互に発する合図の声。大将が「えいえい」と叫び、部下一同が「おう」と叫び、これを三回つづける。平家、四、橋合戦「敵平等院にと見てければ、ときをつくること三か度なり」(2)多人数で一時に声をあげること。
とぎ[伽] (名)(1)つれづれな折など、傍に侍して話の相手などをして慰めること。おとぎ。増鏡、はしがき「ありつる人の帰り来むほど、お伽せむはいかがなど言へば」(2)転じて、寝所に添え寝すること。また、その人。(3)病人を看護すること。看病。(4)豊臣氏・徳川氏の職名。君側または世子の側に侍する少年。
ときかはさず…カワサズ[時交はさず] (副詞句)時を移さず。すぐに。枕草子、五「ねたきもの…時かはさず縫ひて参らせよ」
ときかはすトキカワス[解き交はす] (動、四)互に解き合う。万葉、十の二〇九〇「高麗錦紐解き交はしあめびとの妻問ふ夕(よひ)ぞわれも偲ばむ」(七夕を詠んだもの)
ときかふトキカウ[解き交ふ] (動、下二)前項に同じ。万葉、三の四三一「しづはたの帯解き交へて、ふせや立て、妻問ひしけむ」
ときぎぬの[解き衣の] (枕詞)ほどいた着物の布片は乱れやすいので「みだる」に冠する。万葉、十の二〇九二「ときぎぬの思ひ乱れて」同、十一の二五〇四「ときぎぬの恋ひみだれつつ」
ときじ[時じ] (形、ク)その時でない。その時節でない。万葉、一の二六「み芳野の、耳我(みみが)の山に、時じくぞ雪は降るとふ…その雪の、時じきがごと」
ときじくのかくのこのみ[非時の香菓] (名)「橘の実」の古称。前項参照。柑橘類の実は、時ならぬ冬でも、かぐわしい香気を発するのでいう。古事記、中「たぢまもりを、常世の国に遣はして、ときじくのかくのこのみを求めしめたまひき」
ときじみ[時じみ] (副詞)時候に合わないので。時節はずれなので。万葉、一の六「山越しの風をときじみ寝る夜おちず家なる妹をかけてしのびつ」
ときつかさ[時司] (名)「ときづかさ」ともいう。昔、宮中で漏刻すなわち水時計によって、毎時鐘鼓を鳴らす職。陰陽寮の職員。漏刻博士。枕草子、八「時つかさなどは、ただ、かたはらにて、鐘の音も例には似ず聞ゆるをゆかしがりて」
ときつかぜ[時つ風] (名)「つ」は「の」に同じ。(1)時節にかなった風。五風十雨、時をたがえない風。謡曲、高砂「四海波静かにて、国も治まる時つ風」(2)潮のさして来る時に吹く風。潮時の風。万葉、六の九五八「時つ風吹くべくなりぬ香椎潟潮干の浦に玉藻苅りてな」
ときつかぜ[時津風] (枕詞)前項参照。潮時の風が吹くことから「ふく」に冠する。万葉、十二の三二〇一「時津風吹飯(ふけひ)の浜に出でゐつつ贖(あが)ふ命は妹がためこそ」⇒ふけひのはま。
ときなか[時半] (名)昔の時刻の半時。大鏡、四、右大臣師輔「さて、時なかばかりありてぞ、御すだれあげさせ給ひて」
ときのくひ……クイ[時の杙] (名)昔、宮中で時刻を示すために、十二時の時ごとに清涼殿の殿上の間の小庭にさした杙。枕草子、十一「時の杙さす音など、いみじうをかし」
ときは…ワ[常磐] (名)「とこいは」の約転。(1)永久に状態の変わらぬこと。かきは。祝詞、祈年祭「すめみまのみことの御代を、たながの御代と、かきはにときはにいはひまつり」(2)木の葉の四時色をかえぬこと。常緑。松・杉・檜などの類。
ときはのもりトキワ……[常磐の森] (地名)歌枕の一。京都市右京区常磐谷にあった森。枕草子、六「もりは…ときはのもり」新古今、六、冬「時雨の雨染めかねけりて山城のときはのもりの槙の下葉は 能因法師」
ときはのやまトキワ……[常磐の山] (地名)歌枕の一。京都市右京区常磐谷にあった丘。大和物語「忘らるるときはの山のねをぞなく秋野の虫のこゑのみだれて」(「とき」は、懸詞)
ときはゐのしやうこくトキワイノシヨウ…[常磐井の相国] (人名)太政大臣西園寺実氏。後深草・亀山二帝の外祖父。「常磐井」は京都の京極にあった邸の名、「相国」は太政大臣の唐名。文永六年(一二六九)没、年七十五。徒然草、九十四段「常磐井の相国出仕し給ひけるに、勅書をもちたりける北面にあひ奉りて、馬より下りたるを」(馬から下りたのは、北面)
ときひじ[斎非時] (名)僧家で、午後の食事をいう。「とき」の項参照。古今著聞集、十六、興言利口「この尼、正月七日は別時して持仏堂に候ひて、斎ひじの折ばかりぞ出でむずるとて」
ときべ[解部] (名)昔、罪人を糺問して白状を作り判事に申告する職。また、争訟を解決することをもつかさどった。刑部省に属する。大同三年廃止。持統紀、四年正月「丁酉、解部一百人を以て、刑部省(うたへのつかさ)に拝(め)す」
ときまうす…モウス[時申す] (句)「時奏す」ともいう。昔、禁中宿直の左右近衛の官人が、亥の刻から寅の刻まで、毎時刻に時刻を告げることをいう。大和物語「夜やふけぬらむと思ふほどに、時申す音のしければ、聞くに、丑三つと申しけるを聞きて」
ときめかす[時めかす] (動、四)時めくようにする。寵愛する。大鏡、七、太政大臣道長
「この鎌足の大臣(おとど)を、この天智天皇いとかしこく時めかしおぼして、わが女御一人をこの大臣にゆづらしめ給ひつ」
ときめき (名)(胸が)どきどきすること。枕草子、一「ひと夜のことや言はむと、心ときめきしつれど」
ときめく[時めく] (動、四)時に遇って栄える。時を得て、もてはやされる。源氏、桐壷「いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり」
ときもり[時守] (名)漏刻すなわち水時計の時刻を見守って、その時刻時刻の鐘鼓を打つ人。守辰丁。陰陽寮の属官。万葉、十一の二六四一「時守の打ち鳴(な)す鼓よみみれば時にはなりぬ逢はなくも恠(あや)し」(「よむ」は「数える」)
ときよ[時世] (名)(1)時と世と。時代。年代。伊勢物語「時世経て久しくなりにければ、おぼえ衰へぬれば」(2)その時代の風俗。栄花、初花「これは、なほ、いとこよなう御覧ぜらるるに、時世に従ふ目移りにや」⇒めうつり。
とぎよ[渡御] (名)主上・貴人または神輿の出御せられること。いでまし。
ときれう…リヨウ[斎料] (名)僧の斎(とき)にあてる料金。善男・善女が、食料として僧に布施する金銭。
ときれう…リヨウ[時料] (名)四季折折の費用にあてる料金。
ときん[兜巾・頭巾] (名)修験者のかむる布製の頭巾。十二のひだがあり、紐をあごのところで結ぶ。十二のひだは十二因縁にかたどるという。謡曲、安宅「兜巾といつぱ五智の宝冠なり」
とく[徳] (名)(1)道徳。(2)名望。威徳。(3)働き。功徳。(4)おかげ。(5)恵み。恩徳。(6)富。福分。
とく[得] (名)利益。「損」の対。
とく[疾く] (形、ク、連用形)「疾し」の連用形。はやく。すみやかに。急に。古事記、上「いざなみのみこと、まをしたまはく、くやしきかも、とく来まさで、あは、よもつへぐひしつ」(この語を副詞と見るのは誤り)
どく[着く] (動、四)「つく」の古語。古事記、上「おきつとり、かもどくしまに、わがゐねし、いもはわすれじ、よのことごとに」=あの鴨の着く島に、共に寝た妻のことは、永久に忘れはしないであろう。(「沖つ鳥」は「鴨」の枕詞)
とくい[得意] (名)(1)親友。源氏、明石「入道は、かのくにのとくいにて、としごろ語らひ侍りつれど」(2)ひいきにすること。また、その人、枕草子、四「御得意ななり。更に、よも語らひとらじ」(3)その他の意は、現代語と同じである。
とくがはじだい…ガワ……[徳川時代] (名)「江戸時代」に同じ。
とくがはみつくに…ガワ……[徳川光国] (人名)水戸藩主。梅里と号す。家康の孫。頼房の子。儒学を奨励し、彰考館を開き、硯学を招いて、「大日本史」を撰した。義公とおくり名された。元禄十三年(一七〇〇)没、年七十二。
どくぎん[独吟] (名)(1)ひとりで詩歌を吟ずること。(2)連歌や俳諧を、ひとりで詠むこと。また、その連歌や俳諧。「両吟」「三吟」などに対する。「独吟百韻」「独吟千句」
どくこドツコ[独鈷] (名)(1)金剛杵(天竺の兵器)の両端がおのおの一つのもの。今、もっぱら仏具とし、法を説き、疑いを断つ用をするという。銅で作る。(2)僧家の隠語。「堅魚節」をいう。
とくしよろん[読史余論] (書名)史論。十二巻。新井白石の著。享保八年(一七二三)成る。将軍家宣のために古今の歴史を講じた時の原稿を整理したもの。天下の大勢九変して武家の世となったことから説き起して、豊臣秀吉に至るまでを論じたもの。「神皇正統記」に負うところが多く、また、頼山陽の「日本外史」は、この書に負うところが多いという。
とくじん[徳人] (名)(1)徳の高い人。(2)富んでいる人。
とくせい[徳政] (名)(1)仁徳の政治。(2)足利義勝・義政のころ、令を出して、一定の期間、人民の課役を免除し、または私人間の貸借関係をも無効ならしめた政治。
とくせん[得選] (名)御厨子所の女官。采女の中から選ばれたのでいう。増鏡、十三、今日のひかげ「得選、櫑子(らいし)をもてまゐる」⇒らいし。
とくたい[得替・得代] (名)昔、国司や領主などの交代すること。曽我物語、一、伊東次郎と祐経が争論の事「まさる狼藉ひき出し、両方得替の身となりぬべし」(両方とも所領を失う身となるであろうとの意)
とくだいじ[徳大寺] (人名)藤の四家なる北家の実能が山城の葛野郡に徳大寺を建立してから、北家の称となる。その中で、平安朝末期の歌人として有名な左大臣実定(さねさだ)が、よく古典に出て来る。この人が「後徳大寺」とも呼ばれるのは、その祖父実能が徳大寺を建てたからである。この人は、建久二年(一一九一)没、年五十二。古今著聞集、十五、宿執「西行法師、出家より前は、徳大寺左大臣の家人(けにん)にて侍り」平家、灌頂、大原御幸「供奉の人人には、徳大寺・花山の院・土御門以下、公卿六人、殿上人八人、北面少少候ひけり」徒然草、十段「徳大寺にも、いかなる故か侍りけむ」
とくだいじのおほきおとど……オオキ……[徳大寺の太政大臣] (人名)「徒然草」にあるのは、藤原公孝。太政大臣実基の子。建長五年に太政大臣となる。兼好と同時代。嘉元三年(一三〇五)没、年五十二。徒然草、二十三段「内侍所の御鈴の音は、めでたく優なりとぞ。徳大寺のおほきおとどは仰せられける」
とくだう…ドウ[得道] (名)仏道を悟ること。悟道。また、得心すること。納得すること。
とくだつ[得脱] (名)仏教で、生死の苦患を脱すること。成仏。解説。
とくちやうじゆゐん…チヨウ…イン[得長寿院] (寺名)京都の蓮華王院の南にあったと伝えられる寺。長承元年(一一三二)鳥羽上皇の御創建。平家、十二、大地震「同じき七月七日の日の午の刻ばかり、大地おびただしう動いてやや久し。……得長寿院の三十三間の御堂も十七間まで揺り倒す」
とくど[得度] (名)出家して仏道に入ること。
どくとく[独得] (名)ひとりみずから会得すること。転じて、他と全く異なること。特殊。(「独特」と書く典拠は見当たらない)
とくにつく[徳につく・得につく] (句)利益のある方につく。大鏡、五、太政大臣兼通「徳につき給へるとぞ世人申しし」
とくにん[徳人] (名)(1)徳のある人。(2)富んでいる人。
とぐら (名)鳥の夜寝る所。とや。ねぐら。
どくろ[髑髏] (名)されこうべ。
とけい[土圭] (名)(1)中国古代の度器。玉で作った尺度で、日の影の長さをはかり、季節などを定めるに用いた。(2)転じて、我が国では「時計」の義。一代男、五「花を活けかへ、土圭を仕かけなほし」
とけい[徒刑] (名)「徒罪(づざい)」に同じ。その項を見よ。
とけん[杜鵑] (名)(1)ほととぎす。都氏聞見録「天津橋上を散歩して、杜鵑の声を聞く」(2)「つつじ」の一種。さつき。杜鵑花。ほととぎすの鳴くころ咲くのでいう。また、鳴いて血を吐くほととぎすの血の色のようであるからいう。閩書「杜鵑、一名躑躅」
とこ[独鈷] (名)「独鈷(どくこ)」に同じ。源氏、若紫「ひじり御まもりにとこ奉る」枕草子、十二「いと細うにほやかなるとこをとらせて、ををと目うちひさきてよむだらにも、いとたふとし」
とこしなへにトコシナエニ (副)「とこしへに」に同じ。長秋詠藻、上「岩たたむ山のかたその苔むしろとこしなへにも物思ふかな」
とこしばり[床縛・■] (名)牛車の具。車箱と軸とを結びつける縄。落窪物語「一の車の■をふつふつと切りてければ」
とこしへにトコシエニ (副)永久に。とこしなへに。とことはに。
とこじもの[床し物] (枕詞)「床のように」の意。「打ち臥す」に冠する。万葉、五の八八六「紫取り敷きて、とこじものうち臥伏(こいふ)して思ひつつ、嘆き臥(ふ)せらく、国にあらば、父とり見まし」(別訓、とけじもの)
とことはにトコトワニ (副)「とこしへに」同じ。万葉、二の一八三「わが御門(みかど)千代とことはに栄えむと思ひてありしわれし悲しも」
とこなつ[常夏] (名)(1)いつも夏であること。後撰集、四、夏「常夏に鳴きても経なむほととぎす繁き深山(みやま)になに帰るらむ」(2)野生の「なでしこ」の異称。春から秋にかけて、いつも夏のように咲いているのでいう。源氏、帚木「咲きまじる花はいづれとわかねどもなほとこなつにしくものぞなき。大和なでしこをばさしおきて、まづ塵をだになど、親の心をとる」(古今集、三、夏「塵をだにすゑじとぞ思ふ植ゑしより妹とわが寝るとこなつ花 凡河内躬恒」を思って詠んだ歌)
とこなつかし (形、シク)常になつかしい。源氏、常夏「なでしこのとこなつかしき色を見ばもとの垣根を人やたづねむ」
とこのやま[鳥籠の山] (地名)歌枕の一。近江の国、滋賀県犬上郡にある山。万葉、十一の二七一〇「犬上のとこのやまなるいさや川いさとを聞こせ我が名告らすな」枕草子、一「山は…とこのやま、わが名もらすなとみかどのよませ給ひけむ、いとをかし」
とこはつはな[常初花] (名)いつも変わらずに、初花のように珍しいこと。万葉、十七の三九七八「相見れば、常初花に、こころぐし眼ぐしもなしに、愛(は)しけやし」=お互に逢えば、いつも変わらぬ初花のように、心苦しいことも見苦しいこともなく、いとしいのである。
とこはな[常花] (名)いつまでも変わらずに咲いている花。万葉、十七の三九〇九「橘は常花にもがほととぎす住むと来鳴かば聞かぬ日なけむ」
とこはなる[床離る] (動、下二)(1)寝床から起き出る。(2)男女が互に得心の上で離縁する。伊勢物語「年ごろあひなれたる妻(め)やうやう床はなれて、遂に尼になりて」
とこひトコイ[詛ひ] (名)呪うこと。呪い。呪詛。古事記、中「とこひ言はしめけらく」
とこひどトコイ…[詛ひ戸] (名)呪いのために置く品物。古事記、中「その兄、うれひ泣きて、その御祖(みおや)に請へば、即ちその詛ひ戸を返さしめき」
とこふトコウ[詛ふ] (動、四)呪う。呪詛する。古事記、上「かくとこひて、かまどの上に置かしめき」
とこめづらしトコメズラシ[常めづらし](形、シク)水久にかわいい。「めづらし」は「愛づらし」の意で、今日いう「珍しい」の意ではない。万葉、十一の二六五一「難破人葦火焚く屋の煤(す)してあれど己(おの)が妻こそとこめずらしき」
とこやみ[常闇・常夜] (名)永久に闇であること。神代紀、上「天の石窟(いはや)に入りまして、磐戸を閉(さ)してこもりましぬ。かれ、六合(くに)の内とこやみにして、昼夜の相代はるわきも知らず」古事記、上「高天原みな暗く、葦原の中つ国ことごとに闇し。これによりて常夜(とこやみ)往く」(「古訓古事記」以外は、みな「常夜」を「トコヤミ」と訓じている)万葉、二の一九九「天雲を、日の目も見せず、とこやみに覆ひ給ひて、柿本人麻呂」
とこよ[常世] (名)(1)永久に変わらぬこと。古事記、下「あぐらゐの、かみのみてもち、ひくことに、まひするをみな、とこよにもかも」=上座にいます現つ神(天皇)の御手でひかれる琴にあわせて舞いをする淑女は、とこしえに変わらないであれよかし。(2)「とこよのくに」に同じ。万葉、九の一七四〇「かき結び、常世に至り、わたつみの神の宮の、内のへの、妙なる殿にたづさはり、ふたり入りゐて、老いもせず、死にもせずして、永き世にありけるものを」
とこよのかみ[常世の神] (名)常世の国の神で、富と長寿とをもたらす神。古代日本民族の信仰。皇極紀、三年七月「こは常世の神なり。この神を祭る者は富と寿(いのち)とを致さむ…常世の神を祭る者は、貧しき人は富を致し、老人(おきな)はかへつて少(わか)ゆ」
とこよのくに[常世の国] (名)古代日本民族の理想郷または仙境。はるか南方の海洋中にあり、年中、花咲き鳥歌い、かぐわしい果実が実のり、食物も豊富で、不老不死である国。常世。本居宣長が「常夜」と「常世」とを同一視し、「常世」に黄泉の意があると説いたことは誤りであろう。垂仁紀、九十年二月「天皇、田道間守に命じて、常世の国に遺はして、ときじくのかくのこのみを求めしめ給ふ」万葉、四の六五〇「わぎもこは常世の国に住みけらし昔見しよりをちましにけり」⇒をつ。常陸風土記「古人の常世の国といへるは、蓋し疑ふらくは、この地ならむ」(このような、よい地のことであろうとの意)
とこよのながなきどり[常世の長鳴鳥] (名)「鶏」の異称。常世の国から渡来した、声長く鳴く鳥の義。古事記、上「常世の長鳴鳥をつどへて鳴かしめて」
とこよのむし[常世の虫] (名)「とこよむし」ともいう。常世の国から渡って来た神変不可思議な力を持つと信ぜられ、常世の神の御正体と信ぜられた虫。実体は、揚羽の蝶の幼虫であろうという。皇極紀、三年七月「都・鄙の人、常世の虫を取りてしきゐに置く。歌ひ舞ひて、福(さきはひ)をいのり、珍財(たから)を捨つ。かつて益(まさ)る所なし。損(おと)り費(つひゆ)るを極めて甚だし」
とこよもの[常世物] (名)「常世の国から伝来した物」の義。橘。万葉、十八の四〇六三「常世物この橘のいや照りに我大皇(わごおほきみ)は今も見るごと 大伴家持」
ところ[野老] (名)「山のいも」の一種。その鬚根を老人の鬚に見たて、山野に生ずるので「野老」と書く。宇津保、俊蔭「薯蕷(いも)・野老を掘り、木の実、かづらの根を掘りて養ふ」
ところう[所得] (動、下二)得意になる。ほこる。枕草子、八「人ばへするもの…親の来たるに所えて、ゆかしかりける物を、あれ見せよや母、など引きゆるがすに」=母親の来たのに力を得て得意になり、見たかった物を、「あれを見せてくれよ、おかあさん」などと言って、母を引きゆるがすのに。
ところえがほ……ガオ[所得顔] (名)得意顔。源氏、橋姫「草あをやかに茂り、軒のしのぶぞ所えがほに青みわたれる」
ところおく[所おく] (動、四)(1)遠慮する。はばかる。枕草子、一「山は…かたさり山こそ、誰に所おきけるにかと、をかしけれ」(2)転じて、尊敬する。宇治拾遺、十一、則光盗人をきる事「兵家にはあらねども、人に所おかれ、力などもいみじう強かりける」
ところせし[所狭し] (形、ク)(1)場所が狭い。いっぱいだ。更級日記「わが身一つならば安からましを、ところせう引き具して」徒然草、百二十段「もろこし船のたやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、ところせく渡しもて来る、いとおろかなり」(2)きづまりだ。きゅうくつだ。枕草子、一「こうして、うちねぶれば、ねぶりなどのみしてと、とがむるも、いと所せく」(3)あたり狭しと、おごり高ぶる。徒然草、二段「よろづに清らをつくして、いみじと思ひ、所せきさましたる人こそ、うたて、思ふところなく見ゆれ」(4)扱いにくい。厄介だ。骨が折れる。困る。源氏、紅葉賀「箏の琴は中の細緒の堪へがたきこそ所せけれとて」狭衣、四、下「常よりもあつさ所せき年にて、御前にもなやましくおぼさるるに」
ところづら……ズラ[野老葛] (名)野老(ところ)のつる。古事記、中「いながらに、はひもとほろふ、ところづら」=稲の茎に、這いからみつく、ところのつる。
ところづら……ズラ[野老葛] (枕詞)頭音をくりかえして「とこ」に、また、そのつるの這って行くようにの意で「尋め行く」に冠する。万葉、七の一一三三「ところづらいや常重(とこし)くに」同、九の一八〇九「ところづら尋(と)め行きければ」
ところのしゆう[所の衆] (名)「蔵人所の衆」の略。蔵人所に属して、雑務に仕える者。衆。所のす。枕草子、四「所の衆みたり、よたり参りたる」
ところのす[所の衆] (名)前項に同じ。落窪物語、下「八月、嵯峨野に、所のすども前栽掘りに」
とさにつき[土佐日記] (書名)紀行。一巻。紀貫之の著。著者が延長八年(九三〇)土佐の守となり、六年の後、承平五年(九三五)任満ちて土佐から京都へ帰るまでの五十余日間の船路の旅行記。女子の筆に仮託して仮名で書き、ところどころに主人公および一行の和歌を挿入している。
とざま[外方] (名)そとの方。ほかのかた。
とざま[外様] (名)(1)武家の一族または譜代でなくて、臣礼をとる者の称。(2)関が原の役で、始めて徳川氏に属した大名。また、同役後、新たに徳川幕府に属した大名。外様大名。「譜代大名」の対。
とさまかうさまに……コウ…… (副)あれやこれやと。あれこれと。雄略紀、三年四月「つねに闇の夜にとさまかうさまにもとめしめたまふ」
とさんかうさん……コウ… (副)前項の転。あちらこちらと。催馬楽、わがかどを「わがかどを、とさんかうさん練る男」
とし[疾し] (形、ク)速い。すみやかである。宇津保、俊蔭「とき足を出して、こはき力をはげみて」竹取「あゆみ疾うする馬をもちて、走らせ給ふ時に」
とし[利し] (形、ク)するどい。切れ味がよい。万葉、十一の二四九八「つるぎ太刀諸刃(もろは)の利きに足踏みて死ににし死なむ君に依りては」
とし[敏し] (形、ク)(1)敏捷である。すばしこい。(2)さとい。かしこい。鋭敏である。
とじ[刀自] (名)「戸主(とじ)」の義で、家事を司る者の義。「じ」は「主」で、「むらじ」「あるじ」などの「じ」に同じ。(1)老若を問わず「婦人」の称。女あるじ。主婦。とうじ。万葉、十六の三八八〇「母に奉(まつ)りつや、めづ児の刀自」(2)他家に仕えて、家事をつかさどる女。栄花、若枝「宮宮のとじ・をさめにても、この御子をだに産みたらば」(3)下臈の女房。台盤所などの雑役に仕えるもの。枕草子、七「台盤所の刀自といふ者の供なりけるを」
とじき[屯食] (名)「とんじき」の略。⇒とんじき。
とじきみ[戸閾] (名)(1)「しきみ」のことで、門の両柱の間にわたしてある横木の称。枕草子、一「中の御門(みかど)のとじきみひき入るるほど、頭どもひところにまろびあひて、さし櫛も落ち」(2)車の前方の「かまち」の称。軾。枕草子、十一「指貫の片つかたは、とじきみの外にふみ出されたるなど、道に人の逢ひたらば、をかしと見つべし」
としぎり[年ぎり] (名)「としぎれ」ともいう。木が、年によって花を開きながら、実を結ばないこと。「としぎらひ」の約。転じて、人の不遇なことをいう。大和物語「いかでかくとしぎりもせぬ種もがな荒れ行く庭のかげとたのまむ」
としごひのまつり…ゴイ……[祈年祭] (名)毎年二月四日、神祇官および国司の庁で、大神宮以下諸神を祭り、風雨の災害なく、米の豊かにとれるようにと祈る儀式。「年」は「稲」の義。としごひ。きねんさい。
としたてん[都史多天] (名)梵語Tushitaの音写。「とそつてん」ともいう。仏教で、欲界六天の一。須弥山の頂上十二万由旬の処にあり、内外二院に分かれ、内院は弥勒(みろく)菩薩の浄土、外院は天衆の遊楽所。平家、四、三井寺炎上「生身の弥勒(みろく)と聞え給ひし教持和尚…都史多天上摩尼宝殿より天降り」
としのうち[年のうち] (句)(1)一年の間。一年中。拾遺集、一、春「年のうちは皆春ながら暮れななむ花見てだにも憂き世過ぐさむ」(2)その年の内。年内。古今集、一、春上「年の内に春は来にけりひととせを去年(こそ)とやいはむ今年とやいはむ 在原元方」(十二月中に立春になった日を詠んだもの)
としのつもり[年の積もり] (句)多くの年を経たこと。年齢の多くなったこと。水鏡、上「年のつもりにや、いたく苦しう覚えて」
としのはごとに[年のはごとに] (副)毎年毎年。としのはに。
としのはに[年のはに] (副)毎年毎年。としのはごとに。万葉、十の一八五七「としのはに梅は咲けどもうつせみの世の人君し春なかりけり」
としのを……オ[年の緒] (名)年の長く続くことを緒にたとえていう語。「年」に同じ。万葉、三の四六〇「あらたまの年の緒長く、住まひつつ、いまししものを」
としば[鳥柴] (名)鷹の捕った鳥を人に贈る時、その鳥を結びつける木。もと柴につけたが、のち、梅・松・桜などの枝につけるようになった。新続古今、冬「雪の朝、としばに雉をつけて」(詞書)
としぶんしふ……シユウ[都氏文集] (書名)現存三巻。平安時代の学者、都良香(みやこのよしか)の家集。良香の没した翌年、元慶四年(八八〇)に撰せられたもの。賦・論・省試詩判など七十編を収む。
としまがいそ[富島が磯] (地名)今の兵庫県津名郡富島町の海岸。新古今、六、冬「風さゆるとしまがいそのむらちどり立ち居は波の心なりけり」
としみ (名)「落し忌み」の約であろう。精進の期間が終って、はじめて肉食をすること。精進明け。精進落ち。宇津保、嵯峨院「まづ御としみのことをせさせ給ひて」蜻蛉日記「としみの設けありければ、とかうものするほど」
どしやかぢ……カジ[土砂加持] (名)真言宗の行事の一。洗い清めた土砂を本尊に供え、護摩を修して行う加持。その土砂を墓の上に散ずれば、死者が極楽に行けるという。源平盛衰記、三十八、平家公達最期「土砂加持の功徳なほ無間の苦を免るといへり。いはんや即身に受け持てらむにおいてをや」
とすれば (副)ともすれば。ややもすると。新千載集、恋四「つらからぬ身の習はしとなりにけりとすればつもる中の年月」
とすればかかり (句)ともすると、こうなる。古今集、十九、俳諧歌「そへにとてとすればかかりかくすればあないひ知らずあふさきるさに」⇒そへに。⇒あふさきるさ。
とせ[年・歳](接尾)「とし」の転。一説に、「年経」の約。年を数えるに用いる語。「名詞」として用いることはない。ひととせ。ももとせ。ちとせ。
とすればかかり (句)ともすると、こうなる。古今集、十九、俳諧歌「そへにとてとすればかかりかくすればあないひ知らずあふさきるさに」⇒そへに。⇒あふさきるさ。
とせ[年・歳](接尾)「とし」の転。一説に、「年経」の約。年を数えるに用いる語。「名詞」として用いることはない。ひととせ。ももとせ。ちとせ。
とぜん[徒然] (名)することもなくて、たいくつなこと。無聊。つれづれ。曽我物語、一、頼朝伊東の館にまします事「流人として徒然にましますらむ」
とそう[抖擻] (名)(1)「づだ」に同じ。僧侶が食を請いつつ行脚すること。太平記、三十五、北野通夜物語事「貞時、抖擻のついでに、かの胡宮の有様を見給ひて」謡曲、朝長「抖
擻行脚に身をやつし」(2)転じて、僧侶。
とそつてん[兜率天] (名)「としたてん」に同じ。宇津保、俊蔭「我は昔、とそつてんの内院の集生なり」大鏡、七、太政大臣道長「大安寺は、とそつてんの一院を天竺の祇園精舎にうつしつくり……この国のみかどは大安寺にうつさしめ給へるなり」
とだち[鳥立] (名)(1)狩場で、鳥が驚いて飛び立つこと。(2)狩場の水草の地などに、鳥の集まるようにして置く処。堀河院百首「やかた尾の真白の鷹をひきすゑて宇多のとだちを狩りくらしつる 藤原仲実」新古今、六、冬「御狩すととだちの原をあさりつつ交野(かたの)の野辺に今日も暮らしつ 藤原道長」
とだもすゐ…モスイ[戸田茂睡] (人名)江戸時代初期の歌学者・歌人。通称、茂右衛門。別に梨本・老茂などと号す。駿河の人。岡崎藩に仕え、のち、江戸浅草に住んで、歌道の革新を唱え、用語の自由を主張した。宝永三年(一七〇六)没、年七十七。主著、紫の一本・梨本集・鳥の迹。
とだるあまのみす (句)「とだる」は「富み足る」の義、「あまのみす」は「吹煙を出すために屋根にあけた穴」の義。すなわち、吹煙がさかんに立つことは富み足ることになるわけである。古事記、上「ただ僕(あ)がすみかをば、天つ神の御子の、天つひつぎ知ろしめさむとだるあまのみす如(な)して、底つ石根に宮柱ふとしり」(自分の霊の住む所を立派に造ってくれるならということ)
どち (名)なかま。つれ。同士。万葉、五の八二〇「梅の花いま盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり」源氏、桐壷「うへも限りなき御思ひどちにて」同、夕顔「いづれも、いづれも、若きどちにて」(「思ひどち」は「思ひ子」「思ひづま」などとひとしく、連用形から体言につづけた例)
どち (代)方向を指す不定称代名詞。いづち。いづかた。どちら。どっち。
とちぐるふトチグルウ[とち狂ふ] (動、四)「とち」は「どち」の意の接頭語であろう。戯れ合う。ふざけ合う。浮世風呂、三、上「黄色な声を上げて、きいきいといって、とちぐるふ」
とぢむトジム[綴ぢむ] (動、下二)事をなし終える。果たす。しとげる。源氏、榊「しはすの二十日のほとなれば、大方の世の中とぢむる空のけしき」
とぢめトジメ[綴ぢめ] (名)(1)終結。しまい。おわり。とどめ。頼政集、秋「こがらしの風のたつまでほころびぬ菊こそ花のとぢめなりけれ」(2)死にぎわ。臨終。最期。源氏、橋姫「いまはのとぢめになり給ひて」
とちやう…チヨウ[斗帳] (名)帳台の上または神仏の像を安置した厨子などに垂れる小さなとばり。その形が、斗(ます)のようであるのでいう。太平記、三十四、新将軍南方進発事「つはもの、次第に疲れければ、神社仏閣に乱れ入りて斗帳をおろし、神宝を奪ひ合ひ、狼藉手に余つて」
とつおいつ (副)「取りつ置きつ」の義。かれこれと思案に暮れて。ためらって。「とつおいつ案じ煩ふ」
とつか[取柄] (名)弓や鞭などの、手に握り持つ所。そこには特に細工を施す。
とつかつるぎ[十拳剣] (名)十握りある長さの剣。幾握りもある長い剣。古事記、上「いざなぎのみこと、御佩かせる十拳剣を抜きて、その御子かぐつちの神の御頸を斬り給ふ」
とつがは…ガワ[十津川] (地名)奈良県吉野郡の大峰連山の山上岳の附近に発源する川。上流は「天の川」と称し、和歌山県に入って「熊野川」となる。この渓谷の部落を「十津川郷」という。太平記、五、大塔宮熊野落事「これより十津川の方へ御渡り候うて、時の至らむを御待ち候へかし」
とづくトズク[届く] (動、四)とどく。到る。達する。持統紀、四年十月「唐人の計らふ所をまをさむと思へども、衣(きぬ)・粮(をしもの)無きによりて、とづくこと能はざることを憂ふ」
とづくトズク[届く] (動、下二)前項の他動。届ける。到らしめる。達せしめる。通ぜしめる。栄花、音楽「あやぶみあらば、薬師如来八大菩薩をそへて極楽におくりとづけ給ふなりなどおぼしあはせ給ふ」
とつくに[外国] (名)「つ」は「の」の義。外の国。(1)畿内以外の、日本の諸国の称。景行紀、五十一年八月「かの神山の傍に置きし蝦夷は、これ本よりあやしき心ありて中つ国に住ましめがたし。かれ、そのねがひのままに、とつくにに班(あか)ちつかはせ。これ今、播磨・讃岐・伊予・安芸・阿波、すべて五国の佐伯部(さへきべ)の祖なり」(2)日本以外の国。
とつみや[外宮] (名)「つ」は「の」の義。外の宮。(1)離宮。(2)外宮(げくう)。豊受大神宮。古事記、上「次に、とようけの神、にはとつみやのわたらひにます神なり」
とて (句)(1)第一類の格助詞「と」と第二類の接続助詞「て」との間に存する活用語を省略した語。「と思ひて」「と言ひて」などの略。更級日記「疋布(ひきぬの)を千むら万むら織らせ、さらさせけるが家のあととて、深き川を舟にて渡る」(2)「とても」「といへども」の意に用いる。伊勢物語「そむくとて雲には乗らぬものなれど世のうきごとぞよそになるてふ」
とても (副)何としても。到底。下に否定の語が来る。「とてものがれ給ふべき御身ならず」
とても (句)と言うにつけても。源氏、葵「心ぼそき夕べに侍れとても、また泣い給ふ」
とてもかくても (句)どんなにしても。所詮。結局。新古今、十八、雑下「世の中はとてもかくても同じこと宮もわらやもはてしなければ 蝉丸」
とてもさらば (句)副詞の「とても」と接続詞の「さらば」との合した句。とにかく、それでは。謡曲、羽衣「このよろこびに、とてもさらば、人間の御遊のかたみの舞ひ、月宮をめぐらす舞曲あり。只今ここにて奏しつつ、世のうき人に伝ふべし」
とてものことに (句)いっそのことに。むしろ。謡曲、安宅「とてものことに、先達ひとさし御舞ひ候へ」
とてやかくてやと (句)ああしようか、こうしようかと。とやかくと。源氏、東屋「とてやかくてやとよろづによからむあらましごとを思ひつづくるに、いとかたし」
とどと (副)どんどんと。とんとんと。擬声語である。万葉、十一の二六五三「馬の音のとどともすれば松かげに出でてぞ見つる蓋し君かと」同、十四の三四六七「奥山の真木の板戸をとどとして我が開かむに入り来て寝(な)さぬ」
ととのふトトノウ[整ふ・調ふ・斉ふ] (動、四)(1)揃う。一つになる。まとまる。舒明紀、九年三月「散卒(あられけるいくさびと)更にあつまり、また、いくさととのふ」(2)調子が合う。律にかなう。宇津保、俊蔭「琴…七つながら同じ声にはいかでととのひつるぞ」(3)妻問ふ。よばふ。万葉、十の二一四二「さを鹿の妻ととのふと鳴く声の至らむ極みなびけ萩原」(4)おさまる。(5)成る。成就する。成功する。
ととのふトトノウ[整ふ・調ふ・斉ふ] (動、下二)前項の他動。(1)ととのえる。調整する。古事記、序文「二気の正しきに乗じて五行の序をととのへたまふ」=陰陽二気の正しい善政により、木火土金水の運行を調整された。(2)治める。整頓する。揃える。集める。神功紀、四十九年三月「久氏らと共に兵をととのへてわたる」万葉、三の二三八「大宮の内まで聞ゆ網引(あびき)すと網子(あご)ととのふる海人の呼び声」(3)調子を合わせる。律に合わせる。枕草子、五「まだ音もひきととのへぬ琴を」(4)妻問ひを定める。婚嫁のことを決定する。宇津保、藤原の君「娘…そのつぎつぎ悉くととのへたなり」
ととのほるトトノオル (動、四)調整する。揃う。ととのう。平家、三、法師問答「近年朝廷静かならずして、人の心もととのほらず」讃岐典侍日記「さくらの花の咲きととのほりたらむここちす」
とどめく(動、四)がやがや騒ぐ。宇治拾遺、一、鬼に瘤取らるる事「遥かより人の声多くして、とどめき来る音す」
ととろがけ[ととろ駈け] (名)どんどんと駈けること。義経記、三、「百騎が十騎にならむまでも、打てや者ども、あとをかへりみるべからずとて、ととろがけにて歩ませける」
とどろきのたき[轟の滝] (地名)方方にあるが「枕草子」にあるのは、陸前の国、宮城県宮城郡今市にある滝をいう。枕草子、三「たきは…とどろきの滝は、いかにかしましくおそろしからむ」
とどろきのはし[轟の橋] (地名)所在未詳。近江の国にあるものと奈良東大寺の西にあるものなどが名高い。堀河院百首「我が妹にあふみなりせばさりとわがふみもみてまし轟の橋」枕草子、三「はしは…とどろきのはし」(この方は大和か)
とどろこす (動、四)とどろかす。古事記、上「天の石屋戸にうけ伏せて、踏みとどろこし」(「うけ」は「桶」または「盥」)
とどろと (副)音高く轟くように。どんどんと。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「駒もとどろと踏み鳴らす、勢田の長橋うち渡り、行き交ふ人に近江路や」
とどろに (副)前項に同じ。万葉、四の六〇〇「伊勢の海の磯もとどろに寄する波かしこき人に恋ひわたるかも」
とどろめく (動、四)音高く響く。とどろく。宇治拾遺、八「火をうち消つごとくにて光もうせぬ。谷へとどろめきて逃げゆく音す」
となか[門中] (名)「と」は「港」または「海峡」。港湾の中。海峡の中。古事記、下「ゆらのとの、となかの」
となせ[戸無瀬] (地名)大堰川の急淵である「となせの滝」の略。謡曲、嵐山「影ゆく雲の嵐山、戸無瀬に落つる白波も、散るかと見ゆる花の滝」
となせがは……ガワ[戸無瀬川] (地名)「大堰川」の別称。歌枕の一。玉葉集「となせ川流す錦は大井川筏に積める木の葉なりけり」
となふトナウ[調ふ] (動、下二)ととのえる。合わせる。栄花、玉飾「この宮の御悩みの由、かへすがへすも心をとなへ祈り申し給ふ」
となへとふトナエトウ[歴へ問ふ] (動、四)みんなにたずね問う。雄略紀、二年十月「群臣にとなへ問ふに、能くこたへまうすことなし」
となみ[門波] (名)港湾や海峡に立つ波。万葉、七の一二〇七「粟島に漕ぎ渡らむと思へども明石の門浪いまだ騒げり」
となみ[鳥網] (名)鳥を取るために張る網。とりあみ。万葉、十七の四〇一一「あしびきの彼面此面(をてもこのも)に、となみ張り」
となみのせき[礪波の関] (地名)富山県と石川県との境の礪波山に置かれた関所。その位置は未詳。万葉、十八の四〇八五「焼刀(やきだち)を礪波の関に明日よりは守部やり副へ君をとどめむ 大伴家持」(「やきだちを」は「と」の枕詞)
となみはる[鳥網張る] (枕詞)鳥網は坂などに張るので「坂」に冠する。万葉、十三の三二三〇「鳥網張る坂手を過ぎ、石走るかむなび山に」(「坂手」は奈良県磯城郡川東村の地)
となみやま[礪波山] (地名)石川県河北郡と富山県西礪波郡との境にある山。この山の山路を「くりから峠」という。源平の古戦場。万葉、十七の四〇〇八「礪波山たむけの神に幣(ぬさ)奉(まつ)り、我が乞ひ祈(の)まく」
となむ[歴む] (動、下二)(1)まわる。めぐる。わたる。(2)「となへとふ」に同じ。欽明紀、四年十一月「諸臣にとなめて曰く」
となめ[臀呫] 「後嘗(あとなめ)」の義。とんぼの雌雄が、互に尾を銜んで輪となって飛びまたは止まること。神武紀、三十一年四月「なほ蜻蛉(あつき)のとなめのごとくもあるか。是によりて始めてあきつしまの号(な)あり」
とにかくに (副)とかく。あれやこれやと。いろいろのことに。源氏、帚木「とにかくにつけて、ものまめやかにうしろみ、露にても心にたがふことはなくもがな」
とにもかくにも (副)とにかく。何といっても。徒然草、七十三段「とにもかくにも虚言(そらごと)多き世なり」
とね[刀禰・刀根] (名)(1)朝廷に仕える官人の総称。(2)転じて、公事にたずさわる者の総称。祝詞、広瀬大忌祭「やまとのくにの六つの御あがたのとね」(3)伊勢神宮・賀茂神社などの神職の一。(4)川舟の船頭。一説、旅人の宿所。庭訓往来「淀河尻の刀根」
とねがは…ガワ[利根川] (地名)群馬県利根郡の利根岳に発源し、関東平野の中央を流れて、千葉県銚子で太平洋に注ぐ大河。万葉、十四の三四一三「利根河の河瀬も知らずただ渉り浪に遇ふ如(の)す逢へる君かも」
とねり[舎人] (名)「刀禰入り」または「殿入り」の約という。(1)昔、天皇・皇族などに近侍して雑務に仕えた者。また、摂政その他の人臣にも賜わることがある。後世の「近習」「小姓」などに当たる。とねりこ。とねりをとこ。古事記、序文「時に舎人あり。姓は稗田、名は阿礼」徒然草、一段「ただうども舎人など賜はるきはは、ゆゆしと見ゆ」⇒ただうど。(2)牛車の牛飼、乗馬の口取などの称。とねりこ。とねりをとこ。枕草子、一「舎人の弓ども取りて、馬ども驚かして笑ふを、はつかに見入れたれば」
とねりこ (名)前項に同じ。
とねりしんわう……ノウ[舎人親王] (人名)天武天皇の第三皇子。博学聡明で、勅を受けて、太安万侶・紀清人らと「日本書紀」を編す。天平七年(七三五)薨、御生年未詳。
とねりのみこ[舎人親王] (人名)前項に同じ。
とねりをとこ……オトコ[舎人男] (名)「とねり」に同じ。
との[殿] (名)(1)貴人の住む宏壮な邸宅の称。あらか。みあらか。やかた。古事記、上「殿のあげ戸より出でむかへます時に」(2)転じて、貴人または主君の称。代名詞のようにも用いる。源氏、東屋「若やかなる御前ども、殿こそあざやかなれと、笑ひあへるを」源平盛衰記、二十、石橋合戦「殿を見すてて、家安が生き残りては何にかせむ」(3)摂政・関白などの尊称。「殿下」などの語に似ている。海人藻芥、下「内裏において、殿と申すは、執柄家の外はこれあるべからず」(4)妻から、その夫を呼ぶ語。宇治拾遺、六「殿は同じ心にもおぼさぬやとて、さめざめと泣く」(5)一般の男子をうやまって呼ぶ語。とのご。とのがた。
とのうつり[殿移り] (名)貴人が他の邸宅に移転すること。わたまし。
とのうつり[殿移り] (書名)「宇津保物語」の中の一巻。また、平安時代に、別のこの名の物語草子があったのかも知れぬ。枕草子、九「ものがたりは…殿うつり・月まつ女・交野の少将」
とのぐもり (動、連用形)次項の連用形。どんよりと曇り。万葉、十三の三二六八「とのぐもり雨は降り来ぬ」同、十二の三〇一二「とのぐもり雨ふる河のさざれ波」
とのぐもる[との曇る] (動、四)どんよりと曇る。たなぐもる。「との」は「たな」に同じく、「一面に」の意。万葉、三の三七〇「雨降らずとのぐもる夜のうるほへど恋ひつつ居りき君待ちがてに」
とのごもる[殿ごもる] (動、四)(1)「寝室に入りこもる」義。「寝る」の敬語。おほとのごもる。(2)「殯宮にこもる」義。崩じ給う。崩御される。万葉、十三の三三二六「大殿を仕へまつりて、とのごもりこもりいませば」
とのづくり…ズクリ[殿造り] (名)御殿を造ること。催馬楽、このとのは「このとのは、うべも富みけり、さき草の、三つば四つばに、とのづくりせりや」
とののわくご[殿の稚子] (句)「わくご」は若い人。若様。万葉、十四の三四五九「稲春(つ)けば皹(かが)る我(あ)が手を今宵もか殿の稚子が取りて嘆かむ」=米をついて、あかぎれになった私の手を、今夜もまた若様がおとりになって、お嘆きになることであろう。
とのばら[殿ばら] (名)「ばら」は複数。男子を敬い呼ぶ語。とのがた。枕草子、一「殿ばらなどは、いとさしもあらずやあらむ。それも、ある限りはさぞあらむ」=殿がたなどは、そんなにいろいろの人と顔をあわせることはないであろう。しかし、殿方でも宮中に勤めている限りは(女官同様)いろいろの人と顔をあわせることもあるであろう。
とのびと[殿人] (名)貴人の家人。また、貴人の家に出入りする人。源氏、須磨「国の守(かみ)も、親しきとのびとなれば」
とのへ…エ[外重] (名)宮城の外郭。また、その門を守る職。左右衛門がこれに当たる。古今集、十九、長歌「とのへ守(も)る身の、みかきもり」
とのもづかさ……ズカサ[殿司・主殿司] (名)「とのもりのつかさ」に同じ。
とのもづかさ……ズカサ[主殿寮] (名)「とのもれう」に同じ。
とのもりのつかさ[殿司・主殿司] (名)とのもづかさ。主殿寮とほとんど同じ職掌。また、その職員の称。
とのもりのつかさ[主殿寮] (名)「とのもれう」に同じ。
とのもりのとものみやつこ[主殿の伴の御奴] (名)主殿寮の下司。禁庭の掃除などをつかさどる人。とものみやつこ。
とのもれう…リヨウ[主殿寮] (名)昔、宮内省被管の役所。供御・輿輦等のこと、および禁庭の掃除・燈燭・庭繚などのことをつかさどる。とのもづかさ。とのもりのつかさ。
とのゐ…イ[宿直] (名)「殿居」の義。昼仕えるを「直」といい、夜仕えるを「宿」という。(1)禁中・官庁などに宿泊して、勤めを守り、または警備などの任に当たること。(2)皇后・女御などのなされる御添臥。源氏、桐壷「御方方の御とのゐなども絶えてしたまはず」
とのゐぎぬトノイ…[宿直衣] (名)宿直の時に着る衣服。直衣・衣冠の称。とのゐさうぞく。
とのゐさうぞくトノイソウゾク[宿直装束] (名)前項に同じ。
とのゐすがたトノイ……[宿直姿] (名)宿直衣をつけた姿。源氏、若菜、下「うつくしきとのゐすがたにて」
とのゐまうしトノイモウシ[宿直奏・宿申] (名)昔、禁中の宿直の者が、夜中、定刻にその姓名を奏上すること。源氏、桐壷「右近のつかさのとのゐ申しの声きこゆるは、丑になりぬるなるべし」
とのゐものトノイ…[宿直物] (名)宿直に必要な衣服・夜具の類。
とのゑ…エ[外衛] (名)「とのへ(外重)」の誤記。
とば[鳥羽] (地名)平安京の南郊の地名。古くは鳥羽郷といい、のち、上鳥羽・下鳥羽の二村に分かれ、今は京都市伏見区の町名となる。方丈記「もし、日うららかなれば、峰によぢのぼりて、遥かにふるさとの空をのぞみ、木幡山・伏見の里・鳥羽・はつかしを見る」
とばかり (副)しばしの間。ちょっとの間。源氏、帚木「らうのすのこだつ物に尻かけて、とばかり月を見る」
とばかり (句)格助詞「と」副助詞「ばかり」との合した句。前句のきれるのを受けて、「と、そればかり」の意をあらわす。後拾遺、十三、恋三「今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな 左京大夫道雅」=今はただただ、あなたを思いきろうと死ぬほどの思いです。せめて、そのことだけでも、伝言でなく、直接に申し上げる方法がないものかと願っています。
とばた[鳥羽田] (地名)平安京の南郊にあった鳥羽附近の田。新古今、五、秋下「大江山傾く月のかげさえて鳥羽田の面に落つるかりがね 大僧正慈円」
とばたのうら[飛幡の浦] (地名)今の福岡県戸畑市の近く、洞海(くきのうみ)の湾口の称。万葉、十二の三一六五「ほととぎす飛幡の浦にしく波のしばしば君を見むよしもがな」(上三句は、「しばしば」というための序詞)
とはにトワニ (副)永久に。とこしへに。とことはに。
とばのあふみ……オウミ[鳥羽の淡海] (地名)常陸の国、茨城県真壁郡下妻市の北、騰波江の辺にあった大沼。万葉、九の一七五七「新治の鳥羽の淡海も、秋風に白波立ちぬ」
とばのきたどの[鳥羽の北殿] (名)「鳥羽殿」ともいう。京都の南郊鳥羽にあった離宮。白河天皇の時の建設。今は廃絶した。鳥羽離宮。城南離宮。平家、二、教訓「法皇をば鳥羽の北殿へ移し参らするか、然らずんば、これへまれ御幸をなし参らせむと思ふはいかに」
とばり[帳] (名)昔、室内に垂れ下げて仕切りとした布。とばり帳
とびうめ[飛び梅] (名)大宰府の安楽寺の庭にある梅の木。菅原道真が大宰府へ左遷される時に「こち吹かば」と詠んだ梅が配所へ飛んで来たという伝説による。謡曲、老松「聞き及びたる飛び梅とは、いづれの木を申し候ふぞ」
とひのかふち……コウチ[土肥の河内] (地名)相模と伊豆の国境の川。今の湯河原の渓谷。「河内」は水流をはさんだ両岸をいう。万葉、十四の三三六八「足柄の土肥の河内に出づる湯の」
とびのを……オ[とびの尾] (1)牛車の後方にさし出ている二本の短い棒。とみのを。とみを。古今著聞集、九、武勇「女、桟敷のしとみをあげて、簾を持ちあげけるその時、とびの尾より越え入りにけり」(2)建物の棟の端につける飾り。義経記、五、忠信吉野山の合戦の事「天井にのぼりて見ければ、東のとびのをは、未だ焼けざりけり」
とふ[十編] (名)編み目を十筋に編んだ物の称。奥の細道「今も年年、とふの菅菰をみつぎて国守に献ずといへり」袖中抄、十四「みちのくのとふの菅薦七ふには君を寝させて三ふにわれ寝む」
とふトウ (句)「と言ふ」の略。「と」は格助詞。古事記、下「そらみつやまとのくにを、あきつしまとふ」
とぶさ[鳥総] (名)諸説があるが、杣人が木を伐り倒し、その枝を切り落して、株に立てて、山神を祭ったものであろう。転じて、「梢」をいう。堀河院百首、夏「卯の花も神のひもろぎときてけりとぶさもたゆにゆふかけて見ゆ」謡曲、東北「そも、この花に住むぞとは、とぶさに散るか花鳥の」
とぶさたて[鳥総立て] (句)前項参照。とぶさを立てて、山神を祭り。万葉、三の三九一「とぶさたて足柄山に船木伐り樹に伐り行きつあたら船材(ふなき)を 沙弥満誓」
とぶたづの…タズ…[飛ぶ田鶴の] (枕詞)類音をくりかえして「たづたづし」に冠する。たづたづし」は「心細い」「おぼつかない」。万葉、十一の二四九〇「天雲にはねうちつけて飛ぶたづのたづたづしかも君いまさねば」
とぶとりの[飛ぶ鳥の] (枕詞)語義未詳。飛ぶ鳥の脚の軽いことから「あしかる」の転「あすか」に冠することも、「いすか」の古称「あすか」に冠するとも、その他諸説がある。また、飛ぶ鳥は速いので「はやく」に冠する。因みに、地名「あすか」は、その枕詞の文字をとって「飛鳥」と書くに至った。万葉、一の七八「飛ぶ鳥の明日香(あすか)の里を置きて去(い)なば君があたりは見えずかもあらむ」⇒あすか。同、六の九七一「冬ごもり春さり行かば、飛ぶ鳥のはやく来まさね」
とふのすげ[十符の菅] (地名)陸前のか国、宮城県宮城郡利府村。岩切に近い地。この地から名高い「十編の菅薦」を産出したので、ついに地名となったものであろう。奥の細道「奥の細道の山際に十符の菅あり」⇒とふ(十編)。
とふのまつりごと[都府の政] (句)「都府楼の政」のことで、大宰府の政務。古今著聞集、二十、魚虫禽獣「午の刻よりかみには、都府のまつりごとにしたがひ」
とぶひ[飛ぶ火] (名)古代の「のろし」。袖中抄、八「いかにせむ飛ぶ火も今は立てわびぬ声も通はぬ淡路島山」
とぶひの[飛火野] (地名)歌枕の一。「春日野」の別名であろう。「枕草子」には、別別にあげてあるが、作者の思いちがいか。奈良市の東部、春日山麓の野。和胴五年に、この地に「飛ぶ火」すなわち「のろし」をあげる場所を設けたことに基づく地名。枕草子、九「野は…飛火野…春日野」古今集、一、春上「かすが野のとぶひの野守いでて見よ今幾日(いくか)ありて若菜つみてむ」
とぶらひトブライ[訪ひ] (名)おとずれ。みまい。竹取「これを、かぐや姫聞きて、とぶらひにやる歌」
とぶらふトブラウ(動、四)(1)おとずれる。みまう。(2)とむらう。くやみを述べる。(3)追善供養をいとなむ。
とふろう[都府楼] (名)大宰府の庁舎の名。和漢朗詠集、閑居「都府楼わづかに瓦の色をみる、観音寺はただ鐘の声を聞く 菅原道真」=この配所へ来てからは、一歩も門を出ないので、大宰府の庁舎はわずかにその屋根の瓦を見るだけであり、観音寺はただその鐘の音を聞くだけである。
とほかがみトオ……[遠鏡] (書名)「古今集遠鏡」の略。六巻。本居宣長の著。文化十三年(一八一六)刊。「古今和歌集」の歌を平易に訳したもの。
とほざとをのトオ…オ…[遠里小野] (地名)摂津の住吉の南方にあった野。今、大阪市住吉区に遠里小野(おりおの)の町名が残っている。万葉、七の一一五六「すみのえの遠里小野の真榛(まはり)もち摺れる衣のさかり過ぎぬる」
とほざむらひトオザムライ[遠侍] (名)昔、武家の邸で、中門の傍にある廊下のような所。ここに、宿直の武士が詰めていた。寝殿のそば近くにある「さむらひ」に対していう。太平記、二、阿新殿事「とのゐする郎等共も、皆遠侍に臥しければ」
とほしろしトオシロシ (形、ク)雄大である。偉大である。気高くて鮮やかである。「遠くて白い」とする説は非。万葉、三の三二四「あすかの、ふるきみやこは、山高み河とほしろし」今鏡、七、武蔵野の草「大納言の御車の紋こそ、きららかにとほしろく侍りけれ」
とぼそ[柩] (名)「戸臍(とぼそ)の義。(1)楣(まぐさ)と閾(けはなし)とに穿った穴。この穴に戸牡(とまら)をさしこみ、戸を回転させる用をするもの。(2)転じて、戸または扉の称。源氏、若紫「奥山の松のとぼそをまれにあけてまだ見ぬ花の顔を見るかな」
とほちのさとトオチ…… (地名)恐らく「十市の里」であろう。この地は、「和名抄」には「止布知」とあり、仮名遣が一定しない。「十市」は「とをち」である。今、奈良県磯城郡耳成村大字十市に、その名を残している。枕草子、三「里は…とほちのさと」大鏡、五、太政大臣伊尹「春日の使ひにおはしまして、かへるさに女のもとにつかはしける。暮ればとく行きて語らむ逢ふことはとほちの里の住みうかりしも。御かへし、逢ふことはとほちの里にほど経しも吉野の山と思ふなりけむ」(いずれにせよ、大和の地名である)
とほつあすかトオツ……[遠飛鳥] (地名)大和の国。奈良県高市郡飛鳥村。「ちかつあすか」に対する名。この地は允恭天皇の皇居となり、その宮を「あすかのみや」と称した。古事記、下「かれ、そこをとほつあすかとなづけき」(この記事は、允恭天皇の前の履仲天皇の条にある)
とほつあふみトオツオウミ[遠淡海・遠江] (地名)遠江(とほたふみ)の古称。「ちかつあふみ」すなわち「近江」に対する名。都に遠く、浜名湖の淡海(今は鹹水湖)があるのでいう。枕草子、十二「誓へ君とほつあふみのかみかけてむげに浜名のはし見ざりきや」=親の遠江守を証人として神かけてお誓いなさい。まるで片はしも見ないことでしょうか。いやいや、しかと見届けて申したことなのです。
とほつおやトオツ…[遠つ祖] (名)祖先。先祖。遠い先祖。また、高祖父。かみおほぢ。
とほつくにトオツ…[遠つ国] (名)遠い国。また、よみのくに。黄泉。
とほつひとトオツ…[遠つ人] (枕詞)遠方にいる人を待つという意から「まつ」に、また、遠い人からの雁の便りという故事から「かり」に冠する。万葉、五の八五七「遠つ人松浦の河に」同、十二の三〇八九「遠つ人猟道(かりぢ)の池に」同、十七の三九四七「遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも」
とほとトオ…[遠音] (名)「とほおと」の略。遠く聞える物音。万葉、十九の四二一四「あづさ弓、つる打つ夜音(よと)のとほとにも、聞けば悲しみ 大伴家持」
とほどほしトオドオシ[遠遠し] (形、シク)(1)非常に遠い。古事記、上「とほどほし、こしのくにに、さかしめを、ありときかして」(2)非常に疎遠である。源氏、総角「うたて、とほどほしくのみ、もてなさせたまへば」
とほのみかどトオ……[遠の朝廷] (名)(1)遠くにある官府。(2)特に大宰府。(3)また、三韓。万葉、十五の三六八八「すめろぎの遠のみかどと、韓国(からくに)に、渡る我が背は」
とほみけトオ…[遠御食] (名)⇒ながみけのとほみけ。
とほやまずりトオヤマ…[遠山摺] (名)遠山の模様を摺り出したもの。後撰集、十、恋二「逢ふことは遠山ずりのかりごろもきてはかひなき音をのみぞ鳴く 元良のみこ」
とまり[泊まり] (名)(1)港。津。船着き場。万葉、二の一二二「大船の泊(は)つる泊まりのたゆたひに物思ひ痩せぬ人の児ゆゑに」(2)宿ること。また、宿屋。(3)とのゐ。宿直。
とまり[泊まり] (名)(1)果て。終局。(2)最後まで連れ添うこと。また、その人。本妻。源氏、帚木「この人をとまりにとも思ひとどめ侍らず。よるべとは思ひながら、さうざうしくて」
とまる[泊まる] (動、四)(1)碇泊する。(2)宿る。(3)とのゐする。宿直する。
とまる[止まる] (動、四)(1)動かない。停止している。(2)逗留する。滞在する。(3)生き残る。生存する。源氏、桐壷「今までとまり侍るがいとうきを、かかる御つかひの、よもぎふの露わけ入り給ふにつけても、はづかしうなむ」(4)自分の家に留まる。竹取「帰るさのみゆきものうくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ」(5)中止する。やめになる。源氏、鈴虫「月の宴あるべかりつるを、とまりてさうざうしかりつるを」(6)知られる。感ずる。「耳にとまる」「目にとまる」(7)つかまる。すがっている。芭蕉の句「枯れ枝に鳥のとまりけり秋の暮れ」(8)終る。やむ。
とまれかくまれ (副)「ともあれかくもあれ」の約。どうであろうと。とにかく。竹取「とまれかくまれ申さむ」
とみ[疾み] (名)「疾し」の語幹「と」に接尾語「み」のついた名詞。急。にわか。いそぎ。危機。古事記、中「もし、とみのことあらば、このふくろの口を解きたまへ」
とみ[富み] (名)(1)富むこと。多額の財産。(2)「とみくじ」の略。東海道中膝栗毛、八、上「この時分は、座摩の宮に富みのありし時節にて」
とみかうみ…コウ…[と見かう見] (句)あちらを見、こちらを見。いろいろにながめ。伊勢物語「門で出でて、とみかうみ見けれど、いづこをはかりとを覚えざりければ」
とみかうみ…コウ…[と見かう見] (句)あちらを見、こちらを見。いろいろにながめ。伊勢物語「門で出でて、とみかうみ見けれど、いづこをはかりとを覚えざりければ」
とみくさ[富草] (名)「稲」の異称。神楽歌、閑野「天(あめ)なるひばり、降り来やひばり、とみくさ、とみくさもちて」謡曲、淡路「国土もゆたかに、千里(ちさと)栄ゆる富草の、村早稲の秋になるならば、種を収めむ神徳」
とみくじ[富籤] (名)まず多くの人から金銭その他の有価物を出させておいて、抽籤を行い、その当籤者に多額の金銭または有価物を給与する方法。とみ。宝くじ。
とみに[疾みに] (副)急に。にわかに。すみやかに。
とみのこうぢどの……コウジ…[富小路殿] (名)(1)「二条富小路内裏」に同じ。増鏡、十、あすか川「正月二十日、本院のおはします富小路殿にて、今上の若宮御五十日きこしめす」(2)第八十九代、後深草天皇の御別称。二条富小路内裏で御践祚になったので申す。⇒にでうとみこうぢのだいり。
とみのこうぢのみやすどころ……コウジ……[富小路の御息所] (人名)第五十九代、宇多天皇の御息所。藤原時平の女褒子。大鏡、八「富小路のみやす所の御腹の御子」
とみのこと[疾みの事] (句)にわかに起った事。至急を要する事。危い場合。⇒とみ(疾み)。
とみのを……オ[とみの尾] (名)「とびのを(1)」に同じ。蜻蛉日記「ながえ・とみのをの中に入りこみて」枕草子、十「人の車のとみの尾に、半臂の緒ひきかけつばかりにて居たりしを」
とみやま[鳥見山] (地名)神武天皇が御即位の後、霊時(まつりのには)を立てて、皇祖天神をお祀りになった地。今の奈良県磯城郡成島村大字外山(とみやま)であろうという。神武紀、四年二月「まつりのにはを鳥見山の中に立つ」
とむ[求む] (動、下二)もとめる。琴後集、二、夏歌「夕川の涼しさとめてこぐ舟は水の心のゆくにまかせむ」
とむ[尋む] (動、下二)たずねる。古今集、一、春上「たれしかもとめて折りつる春がすみ立ちかくすらむ山の桜を 紀貫之」神楽歌、採物、榊「さかきばの、香をかぐはしみ、とめくれば、八十氏人ぞ、まとゐせりける」
とむ[擦む] (動、下二)なする。なぞる。などる。古今著聞集、七、能書「もとの文字の上をとめて、あざやかになさむは何の難かあらむ」
とめ[利目] (名)するどい目。さとい目。古事記、中「あめつつ、ちどりましとと、などさけるとめ いすけより姫」=胡鸞(あめ)や鶺領(つつ)や千鳥や真鵐(ましとと)の目のように、あなたの目はどうして、そのように裂けて鋭いのでしょう。
とめ[姥] (名)老女。おうな。たうめ。「古事記、上巻」や「神代紀、上巻」にある「いしこりとめのみこと」の「とめ」などは、この語に当たる。
とも[伴・侶・徒] (名)(1)ともがら。なかま。連中。部隊。古事記、中「うかひがとも、いますけにこね」=鵜養の部隊よ、今すぐ助けに来てくれ。万葉、二十の四四六五「祖(おや)の名断つな、大伴の氏と名に負へる、ますらをのとも 大伴家持」(「大伴」も「大部隊」の意から起った氏)(2)みちづれ。同行。伊勢物語「あづまのかたに住むべき国求めにとて、いきけり。もとよりともとする人、ひとりふたりしていきけり」(3)同類。同属。
とも[友] (名)(1)友人。朋友。ともだち。(2)志を同じくする人。同志。
とも[供] (名)つき従って行くもの。従者。ずさ。おとも。
とも[鞆] (名)上古、弓を射る時に、左の臂に結びつけた具。革製の円形のもので、巴の模様を描き、革紐で結ぶ。それに弦が触れて立てる音によって、敵をおどすために用いるもの。古事記、上「臂(ただむき)には、いつのたかともを佩(お)ばして」(「たかとも」は「高い音を発する鞆」)万葉、一の七六「ますらをの鞆の音すなりもののふのおほまへつぎみ楯立つらしも」
とも[艫] (名)船尾。「舳(へ)」の対。
とも (助詞)第二類、接続助詞。口語の「ても」に当たる。逆態の接続。動詞・形容動詞および動詞型の助動詞には終止形に付き、形容詞および形容詞型の助動詞には未然形に付く。「死すとも悔いじ」「波静かなりとも油断すな」「人に笑はるとも意に介せず」「貧しくともよし」「見たくとも見るなかれ」
ども (助詞)第二類、接続助詞。「ど」に同じ。逆態の接続。活用語の巳然形に付く。「問へども答へず」「戸外は寒けれども室内は暖かし」「性善良なれどもやや小心なり」「いまだ学ばざれどもわれこれを知る」
ども (接尾)(1)体言の下に添えて、多数であることを示す。古文では、その用法が広い。。馬ども。木ども。花ども。矢ども。(2)自称の語の下に添えて、謙譲の意を示す。身ども。拙者ども。
ともかがみ[共鏡] (名)(1)双方を照らし合わせて見ること。対照。貫之集「黒髪と雪との中の憂き見ればともかがみをもつらしとぞ思ふ」(2)合わせ鏡。
ともがき[友垣] (名)ともだち。朋友。
ともがら[輩] (名)やから。なかま。古事記、上「あれ、その上を踏みて走りつつ読みわたらむ。ここに、あがともがらといづれ多きといふことを知らむ」(「読む」は「数える」)
ともし (名)(1)ともしび。(2)猟師が山中の木かげで篝火をたき、または松明をともし、鹿の近寄って来るのを待って射殺すること。また、その火。千載集、三、夏「ともしする火串(ほぐし)を妻と思へばやあひ見て鹿の身をこがすらむ」
ともし[乏し] (形、シク)(1)とぼしい。足りない。少ない。宇津保、俊蔭「われともしく貧しき身なり」(2)珍しい。慕わしい。なつかしい。万葉、十二の三一二二「心なき雨にもあるか人目守(も)りともしき妹に今日だに逢はむを」(3)うらやましい。古事記、下「くさかえの、いりえのはちす、はなばちす、みのさかりびと、ともしきろかも 赤猪子」=日下(くさか)の入江の蓮、その花蓮のような、はなやかな盛りの身の人は、羨ましいことでございますよ。
ともじ[十文字] (名)十の字の形に、縦横に交叉するさまをいう。土佐日記「ありとある上下、童まで酔ひしれて、一文字をも知らぬものしが、足はともじにふみて遊ぶ」
ともしづま……ズマ[乏妻] (名)「ともし」の項参照。最愛の妻。多くは織女をいう。うけらが花、三、秋歌「かささぎのつばさ重ねて安の河やすらにわたせそのともしづま」
ともしびの[燈火の] (枕詞)燈火の明かしということから「明石」に冠する。万葉、三の二五四「ともしびの明石大門(おほと)に入らむ日や漕ぎ別れなむ家のあたり見ず 柿本人麻呂」
とものうら[鞆の浦] (地名)備後の国、広島県沼隈郡、今の鞆町の海浜。万葉、七の一一八二「あま小船帆かも張れると見るまでに鞆の浦みに浪立てる見ゆ」太平記、二十二、鞆軍事「宮方の士卒これに機を挙げて、大可島を詰城にこしらへ、鞆の浦に充満して」
とものみやつこ[伴の造・品部] (名)上古、諸部の長として、その部を統轄した世襲の職。垂仁紀、三十九年十月「あはせて、十箇のとものみやつこもて五十瓊敷皇子に賜ふ」
とものみやつこ[伴の御奴] (名)「とのもりのとものみやつこ」の略。
とものを……オ[伴の緒] (名)上古、氏族の長をいう。古事記、上「あはせて五伴の緒をくまり加へて、あまくだりまさしめたまひき」
ともろ[艫艪] (名)船の艫で使う艪。山家集、下、雑「潮路ゆくかこみのともろ心せよまたうづはやき瀬門渡るなり」
ともゑトモエ[巴] (人名)信濃の人。中原兼遠の女。今井兼平の妹。美貌で武技をよくし、木曾義仲に寵せられた。のち和田義盛に嫁し、朝比奈三郎義秀を産んだが、義秀が和田合戦で討たれてから尼になったという。一説、義盛に嫁したのは誤りで、義仲の死後、二十八歳で尼となり、越後の友松に住んだという。平家、九、木曾最期「木曾は信濃を出でしより、巴・やまぶきとて、二人の美女を具せられたり」
ともをか…オカ[鞆岡] (地名)山城の国、京都府乙訓郡の旧郷名。今の新神足・海印寺二村の辺。今、新神足(しんこうたり)村に大字友岡の名がのこっている。神楽家、ささ「このささは、いづこの笹ぞ、とねりらが、腰にさがれる鞆岡のささ」枕草子、十「岡は…鞆岡は、笹の生ひたるがをかしきなり」
とやま[外山] (名)平地の方へ最も近い山。はやま。後拾遺、一、春上「高砂の尾上のさくら咲きにけり外山のかすみただずもあらなむ 大江匡房」
とやま[外山] (地名)山城の「音羽山」の別称か。方丈記「林の木近ければ、爪木を拾ふにともしからず。名を外山といふ」(一本に「名を、とは山といふ」とある。「端山」すなわち「外山」の意か、または「おとは山」の誤写か)
とよ[豊] (名)(1)物が十分に足りて、ゆたかなこと。また、すぐれていること。接頭語のように用いることが多い。「とよの宮人」「とよみき」「とよ秋津島」(2)五殻の多くみのること。「とよのとし」「とよとし」
とよあしはらのちあきのながいほあきのみづほのくに……イオ……ミズ……[豊葦原の千秋の長五百秋の瑞穂の国] (地名)「日本国」の古称。葦の多く生えている。永久に栄えつづく、みずみずしい稲穂の茂る国の義。「古事記、上巻」にある語。
とよあしはらのちいほあきのみづほのくに……イオ……ミズ……[豊葦原の千五百秋の瑞穂の国] (地名)「日本国」の古称。「神代紀、上巻」にある語。
とよあしはらのみづほのくに……ミズ……[豊葦原の瑞穂の国] (地名)「日本国」の古称。「神武紀、即位前」にある語。
とようけひめのかみ[豊受姫の神] (神名)食物をつかさどる女神。「豊」は「ゆたか」を意味する美称。「うけ」は「食」の義。伊勢の外宮にまつる。「古事記、上巻」にある語。
とよぐ (動、四)鳴りひびく。騒ぎたてる。とよむ。景行紀。五十一年八月「神宮に献れる蝦夷ら、昼夜なりとよぎて」
とよさかのぼる[豊栄昇る] (動、四)うるわしくのぼる。朝日の昇るのにいう。金葉集、五、賀「くもりなくとよさかのぼる朝日には君ぞつかへむよろづよまでに 源俊頼」
とよのあかり[豊明] (名)「豊」は「ゆたか」を意味する美称、「あかり」は「赤らむ」義。(1)酒を飲んで、顔の赤らむこと。中臣寿詞「汁にも実にも赤丹(あかに)のほにも聞こしめして、とよのあかりにあかりましまして」(2)転じて、宴会。宇津保、藤原の君「七日七夜、とよのあかりし、うちあげ遊ぶ」(3)新嘗祭の翌日、すなわち陰暦十一月中の辰の日に天皇が新穀をめしあがり、群臣にも賜う節会。豊明の節会。源氏、幻「宮人はとよのあかりに急ぐ今日日かげも知らで暮らしつるかな」
とよのあかりのせちゑ……セチエ[豊明の節会] とよのあかりのせちゑ……セチエ[豊明の節会]
とよほぎ[豊寿] (名)「豊」は「ゆたか」を意味する美称。「寿ぎ祝うこと」の美称。「かむほぎ」の対。
とよほぐ[豊寿ぐ](動、四)前項参照。ことほぎ祝う。
とよみ (名)鳴り響くこと。どっと騒ぐこと。どよみ。古今著聞集、八、好色「人人とよみにて、法皇は堪へかねさせ給ひて、逃げ入らせ給ひけるとなむ」
どよみ (名)前項に同じ。東海道名所記「この山伏、腹を立てて、どよみになりつつ去りにけり」
とよみあふトヨミアウ(動、四)騒ぎあう。泣きあう。増鏡、十四、つげの小櫛「御車さし寄せて御棺乗せ奉るほど、うちとよみあひたる、いとことわりに、心をさむる人もなし」
とよあしはらのなかつくに[豊葦原の中つ国] (地名)「日本国」の古称。「なかつくに」は自国を誇っている語。「神代紀、上巻」にある語。
とよみき[豊御酒] (名)「豊」は「すぐれている」意味の美称。御酒をことほぎ祝っていう語。おほみき。古事記、上「とよみき、たてまつらせ」
とよむ (動、四)(1)鳴り響く。古事記、上「山川ことごとにとよみ、国土(くにつち)みな震(ゆ)りき」(2)声をあげて騒ぐ。騒ぎたてる。源氏、明石「この御身一つをすくひ奉らむと、とよみてもろ声に仏神を念じ奉る」
とよむ (動、下二)前項の他動。鳴り響かせる。とよもす。万葉、十八の四〇六六「卯の花の咲く月たちぬほととぎす来鳴きとよめよ含(ふふ)みたりとも」
どよむ (動、四)(1)とどろきひびく。鳴りわたる。さわぐ。どよめく。とよむ。(2)転じて、ずきずき痛む。ひどく痛む。
どよめく (動、四)「とよむ」(四段)に同じ。
とよもす (動、四)「とよむ」(下二)に同じ。鳴り響かせる。万葉、八の一四七二「ほととぎす来鳴きとよもす卯の花の共に来しと問はましものを」
とよらのしま[豊良の島] (地名)長門の国、山口県豊浦郡長府の海にある小島。枕草子、九「島は…とよらの島」古今六帖「よそに見し豊良の島のふた心ありとし聞けば更に頼まず」
とよのてら[豊良の寺] (寺名)「とゆらでら」ともいう。大和の国、奈良県高市郡飛鳥村に建立した、我が国最初の寺院。催馬楽、葛城「かつらぎの寺の前なるや、豊良の寺の西なるや」源氏、若紫「弁の君、扇はかなううちならして、とよらの寺のにしなるやとうたふ」
とよる[外寄る] (動、四)外の方へ寄る。「奥よる」の対。源氏、梅が枝「妙にをかしきことは、とよりてこそ書き出づる人人ありけれど」
とよる[と寄る] (動、四)ちょっと立ち寄る。立ち寄る。後拾遺、二十、雑六「白波の立ちながらだに長門なる豊良の里のとよられよかし 能因法師」(「豊良の里」は、今の山口県長府)
とら[寅] (名)十二支の第三位。(1)時刻の名。午前四時ごろ。(2)方角の名。北東。
とらく[盪く・蕩く](動、下二)「とろく」に同じ。
とらす[取らす] (動下、二)受けて収めさせる。与える。「盃を取らす」
とらす[取らす] (句)「取る」の敬語。お取りになる。古事記、下「はしたての倉椅山(くらはしやま)を嶮(さが)しみと岩掻きかねて我が手とらすも」⇒す(助動)。
とらのかしら[虎の頭] (名)虎の頭に擬して作った物。昔、貴人の家などで男子が出生して産湯をつかわせる時、この物のかげを湯にうつし、邪気を払った。後世の「いぬはりこ」はこれに倣ったものという。紫式部日記「宮は、殿いだき奉り給ひて、御はかし小少将の君、虎の頭宮の内侍とりて御前にまゐる」
とらのををふむ……オオ…[虎の尾を履む] (句)「極めて危いこと」の比喩。謡曲、安宅「虎の尾を履み、毒蛇の口を遁れたる心地して、陸奥の国へと下りける」
とり[酉] (名)十二支の第十位。(1)時の名。午後六時ごろ。(2)方角の名。西。
とりあはせ…アワセ[鶏合せ] (名)おんどりをたたかわせる戯れ。けあひ。昔、三月三日の節物として行った。義経記、七、平泉御見物の事「かたはらには、とりあはせまた管弦・酒盛と打ちみえて、酒に酔ひたる所もあり」
とりかぢ…カジ[取舵・取梶] (名)船首を左へ向けようとする時の舵のとりかた、「おもかぢ」の対。太平記、七、先帝船上山臨幸事「取梶・面梶取り合はせて、片帆にかけてぞ馳せたりける」
とりがなく[鶏が鳴く] (枕詞)諸説があるが、鶏の鳴くころ東の空が明かるくなるので、「あづま」に冠するという説が最も妥当であろう。万葉、三の三八二「鶏が鳴くあづまの国に、高山はさはにあれども」⇒あづま。
とりかへばやものがたり…カエ……[とりかへばや物語] (書名)作者未詳。平安時代にこの名の物語があったが、散逸して、現存のものは鎌倉時代の改作と見られている。権大納言に兄妹の二人の子があったが、性格が正反対だったので、男女の姿に変えて育てた。兄(実は妹)は侍従を経て右大臣となり、妹(実は兄)は宣耀殿の尚侍となった。のち、実相があらわれて、もとの男女に復し、兄は右大臣の四の君と、妹は中納言と、それぞれ結婚して、めでたく栄える。
とりかみ[鳥上] (地名)出雲の国、島根県仁多郡の鳥上山の西北麓にある鳥上村。古事記、上「かれ、やらはえて、出雲の国の肥の河上なるとりかみのところに降りましき」
とりかよふ…カヨウ[鳥通ふ] (枕詞)鳥が通うには羽を用いるので「羽」に冠する。履仲紀、五年九月「とりかよふ羽田(はた)の汝妹(なにも)は、羽狭(はざ)に葬り往ぬ」
とりくびる (動、四)握りしめる。宇津保、蔵開、上「正頼が男どもは、例よりも装束うるはしくして、笏とりくびりてぞ練り出でにたりし」
とりこ[取り子] (名)貰い子。養子。枕草子、四「あぢきなきもの…とりこの顔にくさげなる」
とりさた[取沙汰] (名)(1)取扱。とりさばき。処理。太平記、十七、山門牒送二南都一事「軍勢の兵粮已下(いか)のこと取沙汰しける」(2)世間のうわさ。世の評判。
とりさふトリサウ[取支ふ] (動、下二)人の争いの間に入って鎮めなだめる。仲裁する。宇治拾遺、十「伴大納言の出納の家の幼き子と舎人が小童といさかひをして泣きののしれば、出でてとりさへむとするに」
とりしづトリシズ[取垂づ] (動、下二)「とり」は接頭語。「垂づ」に同じ。懸ける。垂らす。古事記、上「下枝に、白にぎて・青にぎてを取垂でて」
とりじもの[鳥じもの] (枕詞)「鳥のように」の意から「海に浮き」「朝立ち」「なづさひ」に冠する。「なづさふ」は「海に漂う」。万葉、七の一一八四「鳥じもの海に浮きゐて」同、二の二一〇「鳥じもの朝立ちいまして」同、四の五〇九「鳥じものなづさひ行けば」
とりたはけ…タワケ[鶏婚] (名)国つ罪の一。人が家禽を姦すること。古事記、中「鶏婚・犬婚の罪のたぶひ」
とりで[砦・寨] (名)小規模な城。
とりなす[取成す] (動、四)(1)変化させる。古事記、上「そのをとめを、ゆつつま櫛に取成し」(2)となおして身構える。宇治拾遺、十一「太刀を矛のやうにとりなして」(3)とりつくろう。つくろいととのえる。(4)仲裁する。
とりのあそび[鳥の遊び] (名)鳥を狩ること。古事記、上「鳥の遊び・すなどりしに、みほのさきに往きて、未だ還り来ず」
とりのあと[鳥の跡] (名)「文字」あるいは「手蹟」のこと。中国、黄帝の史官、蒼頡という人が、鳥の跡を見て文字を発明したという故事に基づく。古今集、序「鳥の跡ひさしくとどまれらば、歌のさまをも知り」荷田春満の歌「ふみわけよ大和にはあらぬからとりのあとをみるのみ人の道かは」(「からとりのあと」は漢字のこと)
とりのこ[鳥の子] (名)(1)ひなどり。(2)鶏卵。かひ。かひこ。神代紀、上「古、あめつち未だわかれず、陰陽(めを)わかれずあるとき、まろがれたることとりのこの如く、くくもりてきざしを含めり」(「まろがる」は「混沌としている」)
とりのまひ……マイ[鳥の舞ひ] (名)迦陵瀕鳥に擬し、天冠羽衣を着た四人の舞人の舞うもの。「迦陵瀕の舞ひ」ともいう。枕草子、九「まひは…鳥のまひ」
とりばかま[取り袴] (名)袴の股立(ももだち)を取ること。袴の裾をからげること。古今著聞集、五、和歌「国基(くにもと)あきれ惑ひて、申すべきことも申さで、とりばかまして逃げにけり」
とりばみ (名)「取り食み」の義。一説、「鳥食み」の義と。御馳走の余り物を庭に投げて下衆どもに拾わせること。また、その下衆。枕草子、七「とりばみといふもの、男などのせむだにうたてあるを、御前に女ぞ出でて取りける」
とりべの[鳥部野] (地名)「とりべやま」に同じ。京都市東山区の東山の西腹にある地。古く、火葬場・墓地のあった処。徒然草、百三十七段「都のうちに多き人、死なざる日はあるべからず。…鳥部野・舟岡、さらぬ野山にも、送る数多かる日はあれど、送らぬ日はなし」
とりべやま[鳥部山] (地名)前項に同じ。源氏、須磨「とりべ山もえし煙もまがふやとあまの塩焼くうらみにぞゆく」徒然草、七段「あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ち去らでのみ住みはつるならひならば、いかにもののあはれもなからむ」(人間が死なずに、永久に生きているということであっては、何の情趣もなかろう)
とりまうすトリモウス[執り申す] (動、四)(1)執奏する。(2)申し上げる。(3)とりはからい申す。
とりまはし…マワシ[取り回し] (名)とりなし。処置。
とりまはすトリマワス[取り回す] (動、四)(1)適当に処置する。とりなす。(2)とりまく。とりかこむ。
とりもつかひぞ……ツカイ…[鳥も使ひぞ] (句)鳥も使者の用をするものであるぞ。古事記、下「あまとぶ、とりもつかひぞ、たづがねの、きこえむときは、わがなとはさね」=空を飛ぶ鳥も使いであるぞ。鶴の鳴く音が聞える時は、私の名を呼び給え。
とりよろふトリヨロウ (動、四)「とり」は接頭語。完全に足りそなわる。ととのいそなわっている。万葉、一の二「大和には、群山(むらやま)あれど、とりよろふ、天の香具山、登り立ち、国見をすれば、国原は煙立ち立つ」
とりれ (動)「取り入る」の連用形「取り入れ」の略。神楽歌、或説「したらが真人(まうと)の、ひとへの狩衣、なとりれそ、いと妬し
とりわき (副)とりわけ。ことに。別して。
とりわきて (副)前項に同じ。
とりわけ (副)ことに。別して。とりわき。とりわきて。
とりわけて (副)前項に同じ。
とりゐがらし…イ……[鳥居枯らし] (句)鳥が止まっていて枝を枯らし。古事記、中「ほつえは、とりゐがらし、しづえは、ひととりがらし」=上の枝は、鳥が止まって枯らし、下の枝は人が折って枯らし。
どろかた[泥形] (名)「泥にまみれて付いた形」の義。泥まみれ。古今著聞集、二十、魚虫禽獣「道あしくて、あしげなる馬、どろかたになりたりけるを見て」
とろく[盪く・蕩く] (動、下二)とろける。とける。淫奔になる。
とろち (名)「鳥黐(とりもち)」の約。鳥を捕るために用いるもち。神楽歌、湊田「みなと田に、くぐひ八つ居りや、とろちなや」
とろろく[盪く・蕩く] (動、四)「とろく」に同じ。とろけて、ぐじゃぐじゃになる。古事記、上「一つ火ともして入り見ます時に、蛆たかれとろろきて」
とわたる[門渡る] (動、四)瀬戸を渡る。「門」は海の狭ばまった所、瀬戸。万葉、十七の三八九四「淡路島門渡る船の楫間(かぢま)にもわれは忘れず家をしぞ思ふ」
とわたる[と渡る] (動、四)「と」は「疾く」「飛び」などの意を含む接頭語。急いで、川や橋などを渡る。新古今、四、秋上「この夕べ降り来る雨は彦星のとわたる舟のかいのしづくか 山部赤人」拾遺愚草、下「天つ風初雪しかささぎのとわたる橋の有明の空」
どゐ…イ[土居] (名)城の周囲の土の垣。つちゐ。
とをだんごトオ……[十団子] (名)昔から、駿河の国、静岡県の宇津の谷峠で売っていた名物団子。黄・白・赤などに染めた団子を、十ずつ麻糸で貫ぬいたもの。東海道名所記、三「宇津の山…家毎に十団子を売る」
とをちトオ…[十市] (地名)大和の国、奈良県の旧郡名。「和名抄」には「止布知」とあり、「枕草子」などには「とほち」とあるが、同一の地であろう。今の磯城郡耳成村の大字に十市の名が残っている。⇒とほち。竹取「大和の国、十市の郡にある山寺」
とをつらトオ…[十列] (名)昔、賀茂の祭の時、十人の舞人がそれぞれ馬にのり、つらなって馬場を競争すること。また、その人。源氏、澪標「楽人・十列など装束をととのへ」大鏡、六、右大臣道兼「十つらの馬ならねども君乗れば車も的に見ゆるものかな」
とをよるトオヨル[撓寄る] (動、四)しなやかにたわみ寄る。なびき寄る。万葉、三の四二〇「なゆ竹のとをよる皇子(みこ)」同、七の一二九九「あぢ群(むら)のとを寄る海に船浮けて」
とをらふトオロウ (動)未詳。「通らふ」または「たゆたふ」などの誤りかという。万葉、九の一七四〇「春の日の霞める時に、すみのえの岸に出でゐて、釣船のとをらふ見れば」
とををとををにトオオトオオニ (副)次項の語を重ねていう語。ひどくたわむまでに。古事記、上「拆竹(さきたけ)のとををとををに」
とををにトオオニ (副)たわむまでに。たわわに。伊勢物語「くれなゐに匂ふはいづらしら雪の枝もとををに降るかとも見ゆ」(「しら」に「知らず」と「白」とをかけている)
とんあ[頓阿] (人名)吉野時代の歌僧。俗名は二階堂貞宗。京都の人。和歌を藤原為世に学び、二条家歌学の正系に属する人。当時、兼好・浄弁・慶運と並んで和歌の四天王と呼ばれた。文中元年(一三七二)寂、年八十三。主著、井蛙抄・草庵集・愚問賢注。徒然草、八十二段「頓阿が、うすものは、上下はづれ、螺鈿の軸は貝落ちて後こそいみじけれと申し侍りしこそ、心まさりて覚えしか」
どんじき[鈍色] (名)(1)にび色。(2)「どんじきえ」「どんじきのころも」の略。薄鼠色の僧服。増鏡、五、内野の雪「鈍色一具、包み物は絹十疋、錦一包み、関白殿取りて奉り給ふ」
どんじき[屯食] (名)(1)平安時代、禁中または貴人の邸宅などの饗宴の時、庭上に並べて賜わった饗饌。多くは下級の人に賜わったもの。「とじき」ともいう。強飯を丸く握り固めたものなのであったらしい。源氏、桐壷「屯食、禄の韓櫃(からびつ)どもなど、所せきまで、春宮の御元服のをりにも数まされり」(2)のち、「握り飯」の称。
とんしゆ[頓首] (名)首を、地に至るまで垂れて行う礼。また、書簡文・上書文などの末尾に、敬意を表して用いる語。古事記、序文「臣安万侶、誠惶誠恐頓首頓首」
とんしようぼだい[頓証菩提] (名)すみやかに菩提の道に入ること。「頓証仏果」「速証菩提」などともいう。平家、灌頂、大原入御「一門亡魂、頓証菩提と祈り申させ給ひけり」
とんせい[遁世] (名)世をのがれ隠れること。また、世俗を去って仏門に入ること。
どんたく (名)オランダ語Zon-dagの訛。日曜日。休日。転じて、のらくらと怠けている日。

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