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丸山林平「定本古事記」

- 上巻 -

【 神代の物語 】

原 文
爾、芫須佐之男命、白二于天照大御突、我心厳明故、我館レ生子、得二手洒女。因レ此言隅、自我勝云而、於二勝佐備一【此二字以音】離二天照大御突之營田之阿、【此阿字以音】埋二其溝、亦其於下聞二看大嘗一之殿上屎揺理【此二字以音】散。故、雖二然爲、天照大御突隅、登賀米受而告、如レ屎、醉而吐散登許曾。【此三字以音】我那勢之命爲レ如レ此。樸、離二田之阿、埋レ溝隅、地矣阿多良斯登許曾【自阿以下七字以音】我那勢之命爲レ如レ此登【此一字以音】詔雖レ直、憑其惡態不レ止而轉。天照大御突、坐二忌服屋一而、令レ織二突御衣一之時、穿二其服屋之頂、膸二搭天斑馬一搭而、館二墮入一時、天衣織女見驚而、於レ梭衝二陰上一而死。【訓陰上云富登】
読み下し文
爾に、速須佐之男命、天照大御神に白したまひしく、「我が心清く明きが故に、我が生める子、手弱女を得つ。此に因りて言さば、自ら我勝ちぬ。」と云して、勝佐備に【この二字、音を以ふ。】天照大御神の営田の阿を離ち、【この阿の字、音を以ふ。】其の溝を埋め、亦大嘗聞し看す殿に屎麻理【この二字、音を以ふ。】散しき。故、然為れども、天照大御神は、登賀米ずて告りたまひしく、「屎如すは、酔ひて吐き放らす登許曽。【この三字、音を以ふ。】我が那勢の命、かく為つらめ。又、田の阿離ち、溝を埋むるは、地を阿多良斯登許曽。【阿より以下の七字、音を以ふ。】我が那勢の命、かく為つらめ。」登【この一字、音を以ふ。】詔り直したまへども、猶其の悪しき態止まずて転ありき。天照大御神、忌服屋に坐しまして、神御衣を織らしめたまひし時に、其の服屋の頂を穿ちて、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて、堕し入るる時に、天の衣織女、見驚きて、梭に陰上を衡きて死せにき。【陰上を訓みてホトと云ふ。】
丸山解説
〔手洒女〕たわやめ。「た」は接頭語。「わや」は「よわ」に通ずる。弱い女。たをやめ。〔勝佐備〕かちさび。勝ちに乗じて、気の逸ること。勝ちほこること。「さび」は接尾語「さぶ」の名詞形。「さぶ」は「神さぶ」「翁さぶ」などの「さぶ」で、それらしくなる意。〔營田〕みつくだ。「み」は敬語。「つくだ」は「作り田」の中略。耕作する田。〔阿〕あ。あぜ。くろ。和名抄に「畔。和名久路。一云レ阿。」とある。「あぜ」は「畔背」の義である。〔大嘗〕おほにへ。「おほ」は敬称。「にへ」は記伝の言うごとく「新稲を以て饗へすること」である。そのために特に建てた殿が、「大嘗きこしめす殿」である。〔屎揺理散〕くそまりちらしき。「まり」は「まる」の連用。「まる」は、大小便をする意。転じて「ばる」ともいう。便器に「おまる」の語があり、小便を「ばり」というのは「ばる」の名詞形である。〔登賀米受而〕とかめずて。とがめないで。非難しないで。怒らないで。〔地〕ところ。田地。〔阿多良斯〕惜しい。因みに「新し」は後世の訛で、上代語では「新し」と言った。いま「新た」の語に、その名残が見られる。〔轉〕うたてありき。「うたて」を副詞と見て、それに「あり」を付けて読んだ記伝の説が可。「転てし」と形容詞に見て、「うたてかりき」と読んでいる人もあるが、従いかねる。「いよいよますます甚だしくなった」意。〔忌服屋〕いみはたや。斎み清めた機屋。神御衣を織る殿。いみはたどの。紀には「斎服殿」とある。〔突御衣〕かむみそ。神に奉る御衣。「そ」は衣。きもの。「衣手」を「そで」というのも、これである。字類抄に「衣、ソ。」とある。〔頂〕むね。棟。〔天斑馬〕あめのぶちごま。「あめの」は美称。斑点のある馬。「こま」は必ずしも「子馬」の意ではなく、ここでは「馬」の義。〔膸搭〕さかはぎ。尾の万から逆さに剥ぐこと。または、いやがるのを、逆らって剥ぐこと。〔天衣織女〕あめのみそおりめ。「あめの」は美称。神衣を織る女。真本その他に「衣」を「服」に作る本があるが、それならば「あめのはたおりめ」と読む。しかし、上に「神御衣」の語もあり、いま、底本・延本その他の多本に従う。〔梭〕ひ。「杼」にも作る。機を織る際、経糸の中に緯糸をくぐらせるに用いる具。〔陰上〕ほと。女子の陰部。上に出ている。〔死〕うせにき。死んだ。底本は「みうせき」と訓じているが、敬語を用いるまでもあるまい。
田中孝顕 注釈

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