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丸山林平「定本古事記」

- 上巻 -

【 神代の物語 】

原 文
爾、芫須佐之男命、詔二其老夫、是汝之女隅、奉レ於レ吾哉。答白、恐亦不レ覺二御名一爾、答詔、吾隅天照大御突之伊呂勢隅也。【自伊下三字以音】故、今自レ天降坐也。爾、足名椎・手名椎突白、然坐隅恐。立奉。爾、芫須佐之男命、乃於二湯│津│爪│櫛│取│成其童女一而、刺二御美豆良、告二其足名椎・手名椎突、汝等、釀二找鹽折之酒、且作二│迴垣、於二其垣一作二找門、譌レ門結二找佐受岐、【此三字、以音】譌二其佐受岐、置二酒船一高、譌レ船盛二其找鹽折酒一而待。故、隨レ告而、如レ此設備待之時、其找俣蘚呂智、信如レ言來。乃譌レ焙垂二│入己頭、飮二其酒。於レ是、飮醉皆伏寢。爾、芫須佐之男命、拔下其館二御佩一之十拳劔上、切二│散其蛇一隅、肥河變レ血而流。故、切二其中尾一時、御刀之刀筑毀。爾、思レ怪、以二御刀之電一刺割而見隅、在二綾牟刈之大刀。故、取二此大刀、思二異物一而、白二│上於天照大御突一也。是隅草那藝之大刀也。【那藝二字以音。】
読み下し文
爾、速須佐之男命、其の老夫に詔りたまひしく、「これ汝の女ならば、吾に奉らむや。」とのりたまへば、答へて白しけらく、「恐しけれど亦御名を覚らず。」とまをしければ、答へて詔りたまひしく、「吾は天照大御神の伊呂勢なり。【伊より下の三字。音を以ふ。】故、今天より降り坐しつ。」と、のりたまひき。爾に、足名椎・手名椎の神、白しけらく、「然坐さば恐し。立奉らむ。」と、まをしき。爾、速須佐之男命、乃ち其の童女を湯津爪櫛に取り成して、御美豆良に刺して、其の足名椎・手名椎の神に告りたまひしく、「汝等、找塩折の酒を醸み、且垣を作り回し、其の垣に找門を作り、門毎に找佐受岐を結ひ、【この三字、音を以ふ。】其の佐受岐毎に酒船を置きて、船毎に其の找塩折の酒を盛りて待て。」と、のりたまひき。故、告りたまへる随にして、かく設け備へて待つ時に、其の找俣遠呂智、信に言ひしが如来つ。乃ち船毎に己頭を垂入て其の酒を飲みき。ここに、飲み酔ひて皆伏し寝たり。爾、速須佐之男命、其の御佩かせる十拳の剣を抜きて、其の蛇を切り散りたまひしかば、肥の河、血に変りて流れき。故、其の中の尾を切りたまへる時に、御刀の刃毀けぬ。怪しと思ほして、御刀の前を以ちて刺し割きて見たまひしかば、都牟刈の大刀あり。故、此の大刀を取らして、異しき物と思ほして、天照大御神に白し上げたまひき。こは草那芸の大刀なり。【那芸の二字、音を以ふ。】
丸山解説
〔伊呂勢〕ここでは「弟」の意。〔湯津爪櫛〕ゆつつまくじ。「ゆつ」は「五百箇」の約。多くの歯のある櫛。〔取成〕とりなし。変化せしめ。〔找鹽折之酒〕やしほをりのさけ。「找入折の酒」の意。「やしほ」は、幾度も。「をり」は、折り返し、くりかえしの意。よく、ていねいにつくった酒。〔釀〕かみ。酒をかもしつくり。「かむ」は「噛む」で、もと米を噛み、つばで醗酵させて酒をつくったことに起る語。「かもす」は、ここに起る語。大隅風土記に、米を噛んで、つはで醗酵させて酒をつくった記事が見える。奥山などで、今も発見される猿酒も、猿が果実類を噛んでつくった酒。記伝の説は非。〔找門〕やかど。記伝の訓「やつのかど」は非。多くの門。〔找佐受岐〕やさずき。多くの仮抃・桟敷。「さずき」は仮りに構えた棚。「やつのさずき」は非。〔酒焙〕さかぶね。酒槽。酒を湛えておく器。桶様のもの。〔設備〕まけそなへ。設け備え。〔己〕おのもおのも。おのおの。〔皆〕みな。諸本「死由」の二字に作り、真本は「死田」の一字に作る。この「死田」を「留」と見る向きもあるが、「皆」の誤写であろう。「とどまり伏し」は、おちつかぬ。よって、底本に従い「皆」と訓ずる。〔切散〕きりはふり。切りはなし。記伝は、下巻、允恭天皇の段の歌謡「おほきみを島に波夫良ば云々」の「波夫良」を「ハブラ」と訓じているが誤りである。「ハフラ」である。「夫」は「フ」「ブ」 の仮名。〔變レ血流〕ちになりてながれき。これ、肥の河の「ひ」が「赤」の意であり、砂鉄によって水が赤いことの比喩である。〔綾牟刈之大刀〕つむがりのたち。「がり」と濁るべきである。先がとがり、刀身のずんぐりした形の太刀。菖蒲の葉のよう形の太刀。記伝は「利刀」の意とするが、ただ一瞥しただけで、切れ味がよいかどうか分かるものではない。まず形が目にうつったのだから、上述の意に解する方が可。ただし、まだ研究の余地はある。〔草那藝之大刀〕くさなぎのたち。この称は、後に日本武尊が駿河の賊徒に野に囲まれて火を放たれた時、草を薙いで火難を免れたことによるもので、もとの称は「天の叢雲の剣」という。紀の一事に「本名、天叢雲剣。蓋大蛇所レ居之上、常有二雲気。故、以名歟。」とある。三種の神器の一とされ、熱田神宮にまつられている。
田中孝顕 注釈

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