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丸山林平「定本古事記」

- 中巻 -

【 景行天皇 】

原 文
於レ是、天皇、聞二│看│定三野國芟之督突大根王之女、名兄比賣・弟比賣二孃子、其容姿麗美一而、虔二其御子大碓命一以喚上。故、其館レ虔大碓命、勿二召上一而、來己自婚二其二孃子、濘求二他女人、詐名二其孃子一而貢上。於レ是、天皇、知二其他女、恆令レ經二長眼、亦勿レ婚而跋也。故、其大碓命、娶二兄比賣一生子、押僂之兄日子王。【此隅三野之宇泥須和氣之督。】亦、娶二弟比賣一生子、押僂弟日子王。【此隅牟宜綾君等之督。】此之御世、定二田部、樸、定二東之淡水門、樸、定二膳之大汽部、樸、定二倭屯家、樸、作二坂手池、來竹植二其堤一也。天皇、詔二小碓命、何汝兄、於二咆夕之大御食一不二參出來。汝泥疑辻覺。【泥疑二字以レ音。下效レ此。】如レ此詔以後、至二于五日、憑不二參出。爾、天皇、問二│賜小碓命、何汝兄久不二參出。若有レ未レ誨乎。答白、蝉爲二泥疑一也。樸、詔二如何泥疑之。答白、咆曙入レ廁之時、待捕樹批而、引二闕其枝、裹レ薦投棄。
読み下し文
ここに、天皇、三野の国造の祖神大根王の女、名は兄比売・弟比売の二嬢子、其の容姿の麗美しきを聞しめし定めたまひて、其の御子大碓命を遣はして喚上げたまふ。故、其の遣はさえたる大碓命、召上げずて、即て己自ら其の二嬢子に婚けて、更に他女人を求ぎて、詐りて其の嬢女の名とまをして貢上りき。ここに、天皇、其の他女なることを知りたまひ、恒に長眼を経しめ、亦婚したまはずて、跋也。故、其の大碓命、兄比売に娶ひて、生みませる子、押黒之兄日子王。【こは、三野の宇泥須和気の祖。】亦、弟比売に娶ひて、生みませる子、押黒弟日子王。【こは、牟宜都君らの祖。】此の御世に、田部を定めたまひ、樸、東の淡水門を定めたまひ、樸、膳の大伴部を定めたまひ、樸、倭の屯家を定めたまひ、樸、坂手の池を作り、即て竹を其の堤に植えたまひき。天皇、小碓命に詔りたまひしく、「何ぞ、汝の兄、朝夕の大御食に参出来ざる。汝泥疑教へ覚せ。」【泥疑の二字、音を以ふ。下これに效ふ。】と、のりたまひき。かく詔りたまひて以後、五日といふ至に、猶参出たまはざりき。爾、天皇、小碓命に問ひ賜ひけらく、「何ぞ汝の兄、久しく参出ざる。若し、未だ誨へずありや。」と問ひたまへば、答へて白しけらく、「既に泥疑つ。」と、まをしたまひき。樸、「如何にか泥疑つる。」と詔りたまへば、答へて白しけらく、「朝曙に廁に入れる時に、待ち捕へ樹み批ぎて、其の枝を引き闕きて、薦に裹みて投げ棄てつ。」と、まをしたまひき。
丸山解説
〔三野〕みの。「みぬ」は非。美濃。真本は「三町」に誤る。〔突大根王〕かむおほねのみこ。諸本「神」の字を脱す。上文に「神大根王」とあり、延本の補ったのに従う。紀には「神骨」とある。〔兄比賣・弟比賣〕えひめ・おとひめ。姉妹の二江。紀は「兄遠子・弟遠子」に作る。〔令レ經二長眼〕ながめをへしむ。「眼」を諸本「肥」「服」などに誤る。いま、延本・底本に従う。「ながめ」は、物思いにふけって、長くじっと一所を見つめること。悲しみうれえること。「へしむ」は、長い間、周囲の臣下に「悲しみ憂えていられるさまを」見しめめる。〔跋〕ものおもふ。真本・延本など「惣」に誤る。底本の「惚」は「跋」の俗字。いま正字に改める。「跋」は上にも述べてあるが、意のようにならず、悲しみ憂える意である。「惚」などとは、音も義も全く異なる。
田中孝顕 注釈

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