〜 雑歌 〜

1

[題詞]

泊瀬朝倉宮御宇天皇代 [<大>泊瀬稚武天皇] / 天皇御製歌

[原文]

篭毛與 美篭母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家[告奈] 名告[紗]根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師[吉]名倍手 吾己曽座 我許背齒告目 家呼毛名雄母

[訓読]

篭もよ み篭持ち 堀串もよ み堀串持ち この岡に 菜摘ます子 家聞かな 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我れこそ居れ しきなべて 我れこそ座せ 我(わ)にこそは告らめ 家をも名をも

[仮名]

こもよ みこもち ふくしもよ みぶくしもち このをかに なつますこ いへきかな のらさね そらみつ やまとのくには おしなべて われこそをれ しきなべて われこそませ われこそば のらめ いへをもなをも

[注釈]

本注釈はタミル語に拠っている。タミル語にアレルギーのある人もいるはずなので、その場合は当該部分を読み飛ばすのも一考かと…。

「篭(こ)」はa/o対応でタミル語kA…入れ物(receptacle)胡椒科のキンマや花などを入れる篭(basket, as for betel or flowers)と対応する。
「串」はkuccu…破片(splinter)小片(plug)棒や柄の小片(any bit of stick, stalk);ヘアピン(hairpin)と対応する(-cc-/-s-対応)。
「ふくし」は「ほりくし」の縮まったもので、「掘る」はpoL-i…1.のみで
削る(to chisel)摘み取る(pick); 2.(石のように)割る(to split, as a stone); 3.掘る(to dig); 4.穴を作る(to make holes);と対応する。

「み篭持ち」「み堀串持ち」といったように、大王が一般庶民に「み」という敬称を付けるのはおかしい。「み」は主に神・大王そのもの、あるいはそれに所属するものに接辞し、御・神・霊などの文字があてがわれるが、美空という場合は、単に「高い空」を表わす。これは以下のタミル語と一致する。

タミル語mi…1.上(top),surface(表面);2.高(height)気高さ(elevation),卓越(eminence)非常に高いこと(loftiness);3.空(sky)天(heavens);4.偉大(greatness),尊厳(dignity)

したがって、この菜採須兒は、大王の采女になることが予定されていると言って良い。ゆえに自敬表現を使ったものである。

「岡」は以下のタミル語と対応する。
*岡(をか)・陸(をか)
●タ pOkk-u 小高いとか砂地とか言った陸の特徴(character of land, as hilly, sandy)。
○日 woka 岡(をか)。陸。


比較言語学の通説では、日本語「摘む」は「爪」と同源とされる。しかしこれはタミル語からすると間違いである。

*爪(つめ)
●タ tup-ai    尖った先(pinnacle);
○日 tum-e   爪(つめ)。日本語の爪は指の先端という意味である。p/f対応。f/m交替。実際にはp/m対応したようにみえる。

「摘む」は以下のタミル語と対応する。

*摘む
●タ tum-i 1. 切り離す(to cut off); 2.切り取る(to saw);
○日 tum-u 摘(つ)む。はさみなどで先を刈る。髪や植木などを刈る。齧(つ)む。前歯でかむ。かじる。 


「押しなべて]の「おす」はタミル語occ-u…治める(to govern);統治する(to wield);支配する(to sway)と対応する。
○日 wos-u    食(をす)国の「ヲス」。
○日 wos-amu   治(をさ)む。 

「食」には「養う」という意味があり(大漢和v12-p371)、これを充てはめた可能性もあるが、むしろタミル語ac-i(食べる)が日本語wos-uと対応する(食べ物を「袁志物(ヲシモノ)」という例が日本書紀にある)ところから、食べることを「ヲス」といい、これに「食」の漢字を充て、そのまま同音のocc-uにも「食」の漢字を充てたものとするのが至当である。したがって、「天皇の乎須久尓なれば」(万葉集4006)は、「天皇の統治する国なれば」という意味になる。

タミル語occuが日本語ではwosuとなるのは上代仮名遣いの問題でもある。母音連続を嫌ったやまと言葉では、前置される語が常に母音終わりの開口音なので、w-を加えて、母音連続を避けたともいえる。

「なべて」の「なぶ」は以下のタミル語nem-arの古形*nam-arから「なむ」が有声化し、「なぶ」となったと考えられる。

*伸(の)ぶ・延(の)ぶ
●タ nem-ar   1. 伸ばす( to spread)広げる(extend); 2.満ちる (to be full);
○日 nob-u    伸(の)ぶ。延(の)ぶ。金銭がふえる。「なぶ」からo/a交替したもの。

以上から、「おしなべて」は「統治を広げて→一帯を統治して(いる)」という意味となる。しかし今日の「おしなべて」の意味は「すべて・だいたい」であるから、この「おす」は「押す」の可能性が高い。そうするとこれはタミル語aTar「押す(to press down)」のa/o、t/s対応形os-uとなり「押し広げて」という意味となる。

「敷なべて」も同意語反復で、このsikiはタミル語cek-u[征服する(to conquer)]と対応し、 「征服を広げた→各地を征服した」という意味であろう。mem-arの場合は-e-が日本語では-a-として現われ、cek-uの場合は-i-として現われるのは、前者は古形*nab-uからの交替、後者はcek-uのまま日本語sik-uと対応したことによると説明できる。これは系統論では到底解き得ず、クレオール語としてのみ可能となる解釈である。

なお、「布団を敷く」「線路を敷く」などの意味は、タミル語iku[一面に広げる(to spread out)の古形*cik-uからの対応である。

「居る」「坐す」は以下のタミル語と対応する。

*居(を)る
●タ ur-u   to be(ある), exist(在る・居る);to dwell(居住する), reside(住む)。
○日 or-u をる。頭母音がタミル語uに対してwoなのは、前置する語 が必ず母音終わりなので、重母音を避けるため、w-を介音させたため。

なお「坐(ま)す」は以下である。

*坐(ま)す
●タ vaz    1. to be(ある), exist(居る); 2. to live(住む)。
○日 mas-u   坐(ま)す。「ある」「いる」の尊敬語。いらっしゃる。「行く」「来る」の 尊敬語。おでましになる。おいでになる。いらっしゃる。他の動詞の連用形 に付いて、補助動詞「ある」「いる」の尊敬語。また、その動詞に尊敬の意を 添える。…ていらっしゃる。ここでは自敬表現。v/w交替。t/s交替。vazの場 合、z/s交替。

*宣(の)る
●タ  nEr    to say(言う); to speak(話す)。
○日 nor-u   宣(の)る[4段]。告(の)る。本来、神・天皇が神意・聖意を表明する。
         みだりに口にしてはならないことをはっきりと表明する。
         言う。告げる。

nErには似る(to resemble), 等しい(equal)という意味もある。こちらの方はe/i対応で日本語「似る」と対応する。noruはnErの古形*nArからa/o対応したものである。



[注解]

雑歌 [元][紀] <> / 太 大 [紀][冷][文] / 吉 [玉小琴](塙)(楓) 告 /沙 紗 [元][類][冷] / 告 吉 [玉小琴] / 許者 許 [元][類][古]

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雑歌 作者:雄略天皇 朝倉宮 野遊び 演劇 妻問い 予祝 枕詞 地名 奈良

2

[題詞]

高市岡本宮御宇天皇代 [息長足日廣額天皇] / 天皇登香具山望國之時御製歌

[原文]

山常庭 村山有等 取與呂布 天乃香具山 騰立 國見乎為者 國原波 煙立龍 海原波 加萬目立多都 怜□(りっしん扁+可旁)國曽 蜻嶋 八間跡能國者

[訓読]

大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ うまし国ぞ 蜻蛉島 大和の国は

[仮名]

やまとには むらやまあれど とりよろふ あめのかぐやま のぼりたち くにみをすれば くにはらは けぶりたちたつ うなはらは かまめたちたつ うましくにぞ あきづしま やまとのくには

[注釈]

「やまと」の「と」は乙類である。
日本国語大辞典によれば以下の語源説がある。

①天地が分かれてまだ泥が乾かなかった頃、人は山に住み、往来してその跡が多く見られたところから、山跡の義〔和歌童蒙抄・日本紀私記・塵袋・一時随筆・類聚名物考〕。ヤマアト(山跡)の義〔紫門和語類集〕。山上の義。止は居住の意の古語〔日本紀私記・一時随筆〕。
②トは処の義〔和訓栞〕。
③トは上代語で、山の間・山のふもとの意〔大和朝廷=上田正昭〕。
④生駒山の外にあるところから、ヤマト(山外)の義〔日本釈名・類聚名物考〕。
⑤昔は人が皆山に住んだところから、山戸の義か〔名語記〕。
⑥イヤマトコロ(彌真所)の義〔日本語原学=林甕臣〕。
⑦山にかこまれ、皆山門から出入するところから、ヤマト(山門)の義か〔万葉考別記・類聚名物考〕。
⑧ヤモト(陽根)の転〔和語私臆鈔〕。
⑨ヱンハト(蜻蛉所)の義、またヤンマト(野馬所)の義〔言元梯〕。
⑩蜻蛉はヤマ(野馬)であるところから、秋津洲をヤマトという〔天保佳話〕。
⑪ヤママト(山間処)の約か〔大言海〕。

しかしながらいずれも俗解の域を出ない。タミル語によれば、「やまと」は「日本」と同じ意味となる。即ち、「や」はタミル語

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雑歌 作者:舒明天皇 飛鳥 国見 予祝 枕詞 地名 動物 奈良 土地讃美 寿歌

3

[題詞]

天皇遊猟内野之時中皇命使間人連老獻歌

[原文]

八隅知之 我大王乃 朝庭 取撫賜 夕庭 伊縁立之 御執乃 梓弓之 奈加弭乃 音為奈利 朝猟尓 今立須良思 暮猟尓 今他田渚良之 御執<能> <梓>弓之 奈加弭乃 音為奈里

[訓読]

やすみしし 我が大君の 朝には 取り撫でたまひ 夕には い寄り立たしし み執らしの 梓の弓の 中弭の 音すなり 朝猟に 今立たすらし 夕猟に 今立たすらし み執らしの 梓の弓の 中弭の 音すなり

[仮名]

やすみしし わがおほきみの あしたには とりなでたまひ ゆふへには いよりたたしし みとらしの あづさのゆみの なかはずの おとすなり あさがりに いまたたすらし ゆふがりに いまたたすらし みとらしの あづさのゆみの なかはずの おとすなり

[注解]

梓能→能梓

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雑歌 作者:中皇命:間人老 五条市 代作 弓讃め 狩猟 宴席 地名 枕詞 寿歌

4

[題詞]

(天皇遊猟内野之時中皇命使間人連老獻歌)反歌

[原文]

玉尅春 内乃大野尓 馬數而 朝布麻須等六 其草深野

[訓読]

たまきはる宇智の大野に馬並めて朝踏ますらむその草深野

[仮名]

たまきはる うちのおほのに うまなめて あさふますらむ そのくさふかの

[注解]

尅 (塙)(楓) 剋

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雑歌 作者:中皇命:間人老 五条市 代作 弓讃め 狩猟 宴席 地名

5

[題詞]

幸讃岐國安益郡之時軍王見山作歌

[原文]

霞立 長春日乃 晩家流 和豆肝之良受 村肝乃 心乎痛見 奴要子鳥 卜歎居者 珠手次 懸乃宜久 遠神 吾大王乃 行幸能 山越風乃 獨<座> 吾衣手尓 朝夕尓 還比奴礼婆 大夫登 念有我母 草枕 客尓之有者 思遣 鶴寸乎白土 網能浦之 海處女等之 焼塩乃 念曽所焼 吾下情

[訓読]

霞立つ 長き春日の 暮れにける わづきも知らず むらきもの 心を痛み ぬえこ鳥 うら泣け居れば 玉たすき 懸けのよろしく 遠つ神 我が大君の 行幸の 山越す風の ひとり居る 我が衣手に 朝夕に 返らひぬれば 大夫と 思へる我れも 草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに 網の浦の 海人娘子らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 我が下心

[仮名]

かすみたつ ながきはるひの くれにける わづきもしらず むらきもの こころをいたみ ぬえこどり うらなけをれば たまたすき かけのよろしく とほつかみ わがおほきみの いでましの やまこすかぜの ひとりをる わがころもでに あさよひに かへらひぬれば ますらをと おもへるわれも くさまくら たびにしあれば おもひやる たづきをしらに あみのうらの あまをとめらが やくしほの おもひぞやくる わがしたごころ

[注解]

懸 [元][類][紀] 縣 / 居→座 [元][類][古]

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雑歌 作者:軍王 望郷 香川 行幸 羈旅 大夫 枕詞 地名

6

[題詞]

(讃岐國安益郡之時軍王見山作歌)反歌

[原文]

山越乃 風乎時自見 寐<夜>不落 家在妹乎 懸而小竹櫃

[訓読]

山越しの風を時じみ寝る夜おちず家なる妹を懸けて偲ひつ

[仮名]

やまごしの かぜをときじみ ぬるよおちず いへなるいもを かけてしのひつ

[注解]

]<>→ 夜 [西(右書)][元][類][冷] / 豫→ 与 [元][類][古] / 書云→ 書 [元][類][紀] / 乃 [元][紀] 仍

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雑歌 作者:軍王 望郷 香川 行幸 羈旅 大夫 地名

7

[題詞]

明日香川原宮御宇天皇代 [天豊財重日足姫天皇] / 額田王歌 [未詳]

[原文]

金野乃 美草苅葺 屋杼礼里之 兎道乃宮子能 借五百礒所念

[訓読]

秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の宮処の仮廬し思ほゆ

[仮名]

あきののの みくさかりふき やどれりし うぢのみやこの かりいほしおもほゆ

[注解]

辰 [元][冷] 辰ム

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雑歌 作者:額田王 京都 回想 羈旅 地名

8

[題詞]

後岡本宮御宇天皇代 [天豊財重日足姫天皇位後即位後岡本宮] / 額田王歌

[原文]

熟田津尓 船乗世武登 月待者 潮毛可奈比沼 今者許藝乞菜

[訓読]

熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな

[仮名]

にぎたつに ふなのりせむと つきまてば しほもかなひぬ いまはこぎいでな

[注解]

即位 [元][冷][紀](塙) 即 / 酋→ 酉 [元][冷][紀] / 丙 → 壬 [西(右書)][紀]

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雑歌 作者:額田王 道後温泉 愛媛 舟遊び 熟田津 代作 地名

9

[題詞]

幸于紀温泉之時額田王作歌

[原文]

莫囂圓隣之大相七兄爪謁氣 吾瀬子之 射立為兼 五可新何本

[訓読]

莫囂円隣之大相七兄爪謁気我が背子がい立たせりけむ厳橿が本

[仮名]

***** ******* わがせこが いたたせりけむ いつかしがもと

[注解]

謁 [元][類][紀] 湯

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雑歌 作者:額田王 紀州 和歌山 難訓 厳橿 斎橿 植物

10

[題詞]

中皇命徃于紀温泉之時御歌

[原文]

君之齒母 吾代毛所知哉 磐代乃 岡之草根乎 去来結手名

[訓読]

君が代も我が代も知るや岩代の岡の草根をいざ結びてな

[仮名]

きみがよも わがよもしるや いはしろの をかのくさねを いざむすびてな

[注解]

磐 [元][冷][古] 盤

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雑歌 作者:中皇命:間人皇女 紀州 和歌山 羈旅 異伝 手向け 植物

11

[題詞]

中皇命徃于紀温泉之時御歌

[原文]

吾勢子波 借廬作良須 草無者 小松下乃 草乎苅核

[訓読]

我が背子は仮廬作らす草なくは小松が下の草を刈らさね

[仮名]

わがせこは かりほつくらす かやなくは こまつがしたの かやをからさね

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雑歌 作者:中皇命:間人皇女 紀州 和歌山 異伝 羈旅 植物

12

[題詞]

中皇命徃于紀温泉之時御歌

[原文]

吾欲之 野嶋波見世追 底深伎 阿胡根能浦乃 珠曽不拾 [或頭云 吾欲 子嶋羽見遠]

[訓読]

我が欲りし野島は見せつ底深き阿胡根の浦の玉ぞ拾はぬ [或頭云 我が欲りし子島は見しを]

[仮名]

わがほりし のしまはみせつ そこふかき あごねのうらの たまぞひりはぬ [わがほりし こしまはみしを]

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雑歌 作者:中皇命:間人皇女 紀州 和歌山 羈旅 異伝 魂触り

13

[題詞]

中大兄[近江宮御宇天皇]<三山歌>

[原文]

高山波 雲根火雄男志等 耳梨與 相諍競伎 神代従 如此尓有良之 古昔母 然尓有許曽 虚蝉毛 嬬乎 相<挌>良思吉

[訓読]

香具山は 畝傍を愛しと 耳成と 相争ひき 神代より かくにあるらし 古も しかにあれこそ うつせみも 妻を争ふらしき

[仮名]

かぐやまは うねびををしと みみなしと あひあらそひき かむよより かくにあるらし いにしへも しかにあれこそ うつせみも つまを あらそふらしき

[注解]

三山歌一首→ 三山歌 [元][紀][古] / 格 → 挌 [元][冷][文][紀]

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雑歌 作者:中大兄:天智 三山歌 兵庫 妻争い 羈旅 地名 伝説

14

[題詞]

(中大兄[近江宮御宇天皇]<三山歌>)反歌

[原文]

高山与 耳梨山与 相之時 立見尓来之 伊奈美國波良

[訓読]

香具山と耳成山と闘ひし時立ちて見に来し印南国原

[仮名]

かぐやまと みみなしやまと あひしとき たちてみにこし いなみくにはら

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雑歌 作者:中大兄:天智 三山歌 兵庫 妻争い 羈旅 地名 伝説

15

[題詞]

(中大兄[近江宮御宇天皇]<三山歌>)反歌

[原文]

渡津海乃 豊旗雲尓 伊理比<紗>之 今夜乃月夜 清明己曽

[訓読]

海神の豊旗雲に入日さし今夜の月夜さやけくありこそ

[仮名]

わたつみの とよはたくもに いりひさし こよひのつくよ さやけくありこそ

[注解]

祢 紗 [澤潟注釈] [元][類][冷] 弥

[検索用キーワード]

雑歌 作者:中大兄:天智 三山歌 兵庫 妻争い 羈旅

16

[題詞]

近江大津宮御宇天皇代 [天命開別天皇謚曰天智天皇] / 天皇詔内大臣藤原朝臣競憐春山萬花之艶秋山千葉之彩時額田王以歌判之歌

[原文]

冬木成 春去来者 不喧有之 鳥毛来鳴奴 不開有之 花毛佐家礼抒 山乎茂 入而毛不取 草深 執手母不見 秋山乃 木葉乎見而者 黄葉乎婆 取而曽思努布 青乎者 置而曽歎久 曽許之恨之 秋山吾者

[訓読]

冬こもり 春さり来れば 鳴かずありし 鳥も来鳴きぬ 咲かずありし 花も咲けれど 山を茂み 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてぞ偲ふ 青きをば 置きてぞ嘆く そこし恨めし 秋山吾は

[仮名]

ふゆこもり はるさりくれば なかずありし とりもきなきぬ さかずありし はなもさけれど やまをしみ いりてもとらず くさふかみ とりてもみず あきやまの このはをみては もみちをば とりてぞしのふ あをきをば おきてぞなげく そこしうらめし あきやまわれは

[検索用キーワード]

雑歌 作者:額田王 近江朝 大津 春秋優劣 植物 枕詞 宮廷

17

[題詞]

額田王下近江國時<作>歌井戸王即和歌

[原文]

味酒 三輪乃山 青丹吉 奈良能山乃 山際 伊隠萬代 道隈 伊積流萬代尓 委曲毛 見管行武雄 數々毛 見放武八萬雄 情無 雲乃 隠障倍之也

[訓読]

味酒 三輪の山 あをによし 奈良の山の 山の際に い隠るまで 道の隈 い積もるまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放けむ山を 心なく 雲の 隠さふべしや

[仮名]

うまさけ みわのやま あをによし ならのやまの やまのまに いかくるまで みちのくま いつもるまでに つばらにも みつつゆかむを しばしばも みさけむやまを こころなく くもの かくさふべしや

[注解]

<> → 作 [元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:額田王 天智 代作 三輪山 鎮魂 国魂 枕詞 地名

18

[題詞]

(額田王下近江國時<作>歌井戸王即和歌)反歌

[原文]

三輪山乎 然毛隠賀 雲谷裳 情有南畝 可苦佐布倍思哉

[訓読]

三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや

[仮名]

みわやまを しかもかくすか くもだにも こころあらなも かくさふべしや

[注解]

畝 [類] 武

[検索用キーワード]

雑歌 作者:額田王 天智 代作 三輪山 鎮魂 国魂 地名

19

[題詞]

((額田王下近江國時<作>歌井戸王即和歌)反歌)

[原文]

綜麻形乃 林始乃 狭野榛能 衣尓著成 目尓都久和我勢

[訓読]

綜麻形の林のさきのさ野榛の衣に付くなす目につく吾が背

[仮名]

へそかたの はやしのさきの さのはりの きぬにつくなす めにつくわがせ

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雑歌 作者:井戸王 三輪山 和歌 古歌 植物 枕詞

20

[題詞]

天皇遊猟蒲生野時額田王作歌

[原文]

茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流

[訓読]

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

[仮名]

あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる

[検索用キーワード]

雑歌 作者:額田王 滋賀 野遊び 求婚 宴席 枕詞 植物

21

[題詞]

(天皇遊猟蒲生野時額田王作歌)皇太子答御歌 [明日香宮御宇天皇謚曰天武天皇]

[原文]

紫草能 尓保敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓 吾戀目八方

[訓読]

紫のにほへる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも

[仮名]

むらさきの にほへるいもを にくくあらば ひとづまゆゑに われこひめやも

[注解]

天 大 [元][冷][紀] / 皆悉 [元][冷] 悉皆

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雑歌 作者:大海人 天武 滋賀 野遊び 求婚 宴席 枕詞

22

[題詞]

明日香清御原宮天皇代 [天渟中原瀛真人天皇謚曰天武天皇] / 十市皇女参赴於伊勢神宮時見波多横山巌吹B刀自作歌

[原文]

河上乃 湯津盤村二 草武左受 常丹毛冀名 常處女煮手

[訓読]

川の上のゆつ岩群に草生さず常にもがもな常処女にて

[仮名]

かはのへの ゆついはむらに くさむさず つねにもがもな とこをとめにて

[注解]

盤 [文][温] 磐

[検索用キーワード]

雑歌 作者:吹B刀自 十市皇女 阿閇皇女 三重 予祝

23

[題詞]

麻續王流於伊勢國伊良虞嶋之時人哀傷作歌

[原文]

打麻乎 麻續王 白水郎有哉 射等篭荷四間乃 珠藻苅麻須

[訓読]

打ち麻を麻続の王海人なれや伊良虞の島の玉藻刈ります

[仮名]

うちそを をみのおほきみ あまなれや いらごのしまの たまもかります

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雑歌 作者:時人 麻続王 愛知 伝承 枕詞 地名 植物

24

[題詞]

(麻續王流於伊勢國伊良虞嶋之時人哀傷作歌)麻續王聞之感傷和歌

[原文]

空蝉之 命乎惜美 浪尓所濕 伊良虞能嶋之 玉藻苅食

[訓読]

うつせみの命を惜しみ波に濡れ伊良虞の島の玉藻刈り食む

[仮名]

うつせみの いのちををしみ なみにぬれ いらごのしまの たまもかりはむ

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雑歌 作者:麻続王 愛知 伝承 歌語り 枕詞 植物 地名

25

[題詞]

天皇御製歌

[原文]

三吉野之 耳我嶺尓 時無曽 雪者落家留 間無曽 雨者零計類 其雪乃 時無如 其雨乃 間無如 隈毛不落 <念>乍叙来 其山道乎

[訓読]

み吉野の 耳我の嶺に 時なくぞ 雪は降りける 間無くぞ 雨は振りける その雪の 時なきがごと その雨の 間なきがごと 隈もおちず 思ひつつぞ来し その山道を

[仮名]

みよしのの みみがのみねに ときなくぞ ゆきはふりける まなくぞ あめはふりける そのゆきの ときなきがごと そのあめの まなきがごと くまもおちず おもひつつぞこし そのやまみちを

[注解]

思 → 念 [元][類][紀][古]

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雑歌 作者:大海人:天武 異伝 吉野 民謡 地名

26

[題詞]

(天皇御製歌)或本歌

[原文]

三芳野之 耳我山尓 時自久曽 雪者落等言 無間曽 雨者落等言 其雪 不時如 其雨 無間如 隈毛不堕 思乍叙来 其山道乎

[訓読]

み吉野の 耳我の山に 時じくぞ 雪は降るといふ 間なくぞ 雨は降るといふ その雪の 時じきがごと その雨の 間なきがごと 隈もおちず 思ひつつぞ来る その山道を

[仮名]

みよしのの みみがのやまに ときじくぞ ゆきはふるといふ まなくぞ あめはふるといふ そのゆきの ときじきがごと そのあめの まなきがごと くまもおちず おもひつつぞくる そのやまみちを

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雑歌 作者:大海人:天武 異伝 吉野 民謡 13/3260 13/3293 地名

27

[題詞]

天皇幸于吉野宮時御製歌

[原文]

淑人乃 良跡吉見而 好常言師 芳野吉見<与> 良人四来三

[訓読]

淑き人のよしとよく見てよしと言ひし吉野よく見よ良き人よく見

[仮名]

よきひとの よしとよくみて よしといひし よしのよくみよ よきひとよくみ

[注解]

多 → 与 [元(朱)] [寛] 與 [西(右書)] 欲

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雑歌 作者:大海人:天武 吉野 行幸 地名 土地讃美

28

[題詞]

藤原宮御宇天皇代[高天原廣野姫天皇 元年丁亥十一年譲位軽太子 <尊>号曰太上天皇] / 天皇御製歌

[原文]

春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山

[訓読]

春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山

[仮名]

はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あめのかぐやま

[注解]

<> → 尊 [元][冷][紀]

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雑歌 作者:持統天皇 飛鳥 季節 地名 枕詞

29

[題詞]

過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

玉手次 畝火之山乃 橿原乃 日知之御世従 [或云 自宮] 阿礼座師 神之<盡> 樛木乃 弥継嗣尓 天下 所知食之乎 [或云 食来] 天尓満 倭乎置而 青丹吉 平山乎超 [或云 虚見 倭乎置 青丹吉 平山越而] 何方 御念食可 [或云 所念計米可] 天離 夷者雖有 石走 淡海國乃 樂浪乃 大津宮尓 天下 所知食兼 天皇之 神之御言能 大宮者 此間等雖聞 大殿者 此間等雖云 春草之 茂生有 霞立 春日之霧流 [或云 霞立 春日香霧流 夏草香 繁成奴留] 百礒城之 大宮處 見者悲<毛> [或云 見者左夫思毛]

[訓読]

玉たすき 畝傍の山の 橿原の ひじりの御代ゆ [或云 宮ゆ] 生れましし 神のことごと 栂の木の いや継ぎ継ぎに 天の下 知らしめししを [或云 めしける] そらにみつ 大和を置きて あをによし 奈良山を越え [或云 そらみつ 大和を置き あをによし 奈良山越えて] いかさまに 思ほしめせか [或云 思ほしけめか] 天離る 鄙にはあれど 石走る 近江の国の 楽浪の 大津の宮に 天の下 知らしめしけむ 天皇の 神の命の 大宮は ここと聞けども 大殿は ここと言へども 春草の 茂く生ひたる 霞立つ 春日の霧れる [或云 霞立つ 春日か霧れる 夏草か 茂くなりぬる] ももしきの 大宮ところ 見れば悲しも [或云 見れば寂しも]

[仮名]

たまたすき うねびのやまの かしはらの ひじりのみよゆ [みやゆ] あれましし かみのことごと つがのきの いやつぎつぎに あめのした しらしめししを [めしける] そらにみつ やまとをおきて あをによし ならやまをこえ [そらみつ やまとをおき あをによし ならやまこえて] いかさまに おもほしめせか [おもほしけめか] あまざかる ひなにはあれど いはばしる あふみのくにの ささなみの おほつのみやに あめのした しらしめしけむ すめろきの かみのみことの おほみやは ここときけども おほとのは ここといへども はるくさの しげくおひたる かすみたつ はるひのきれる [かすみたつ はるひかきれる なつくさか しげくなりぬる] ももしきの おほみやところ みればかなしも [みればさぶしも]

[注解]

書 → 盡 [元][類][冷] / 母 → 毛 [元][類][冷]

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雑歌 作者:柿本人麻呂 荒都歌 大津 鎮魂 地名 枕詞 地名 滋賀

30

[題詞]

(過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌)反歌

[原文]

樂浪之 思賀乃辛碕 雖幸有 大宮人之 船麻知兼津

[訓読]

楽浪の志賀の辛崎幸くあれど大宮人の舟待ちかねつ

[仮名]

ささなみの しがのからさき さきくあれど おほみやひとの ふねまちかねつ

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雑歌 作者:柿本人麻呂 荒都歌 大津 鎮魂 地名 滋賀

31

[題詞]

(過近江荒都時柿本朝臣人麻呂作歌)反歌

[原文]

左散難弥乃 志我能 [一云 比良乃] 大和太 與杼六友 昔人二 亦母相目八毛 [一云 将會跡母戸八]

[訓読]

楽浪の志賀の [一云 比良の] 大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも [一云 逢はむと思へや]

[仮名]

ささなみの しがの [ひらの] おほわだ よどむとも むかしのひとに またもあはめやも [あはむとおもへや]

[注解]

二 [類][古] 尓

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 荒都歌 大津 鎮魂 地名 滋賀

32

[題詞]

高市古人感傷近江舊堵作歌 [或書云高市連黒人]

[原文]

古 人尓和礼有哉 樂浪乃 故京乎 見者悲寸

[訓読]

古の人に我れあれや楽浪の古き都を見れば悲しき

[仮名]

いにしへの ひとにわれあれや ささなみの ふるきみやこを みればかなしき

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雑歌 作者:高市黒人 荒都歌 大津 地名 滋賀

33

[題詞]

(高市古人感傷近江舊堵作歌 [或書云高市連黒人])

[原文]

樂浪乃 國都美神乃 浦佐備而 荒有京 見者悲毛

[訓読]

楽浪の国つ御神のうらさびて荒れたる都見れば悲しも

[仮名]

ささなみの くにつみかみの うらさびて あれたるみやこ みればかなしも

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雑歌 作者:高市黒人 荒都歌 大津 国魂 地名 滋賀

34

[題詞]

幸于紀伊國時川嶋皇子御作歌 [或云山上臣憶良作]

[原文]

白浪乃 濱松之枝乃 手向草 幾代左右二賀 年乃經去良武 [一云 年者經尓計武]

[訓読]

白波の浜松が枝の手向けぐさ幾代までにか年の経ぬらむ [一云 年は経にけむ]

[仮名]

しらなみの はままつがえの たむけくさ いくよまでにか としのへぬらむ [としはへにけむ]

[注解]

曰 [冷][紀][細] 云

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雑歌 作者:川島皇子 山上憶良 代作 紀州 和歌山 行幸 植物 地名

35

[題詞]

越勢能山時阿閇皇女御作歌

[原文]

此也是能 倭尓四手者 我戀流 木路尓有云 名二負勢能山

[訓読]

これやこの大和にしては我が恋ふる紀路にありといふ名に負ふ背の山

[仮名]

これやこの やまとにしては あがこふる きぢにありといふ なにおふせのやま

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雑歌 作者:阿閇皇女 羈旅 妹背 行幸 和歌山 紀州 地名 土地讃美

36

[題詞]

幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

八隅知之 吾大王之 所聞食 天下尓 國者思毛 澤二雖有 山川之 清河内跡 御心乎 吉野乃國之 花散相 秋津乃野邊尓 宮柱 太敷座波 百礒城乃 大宮人者 船並弖 旦川渡 舟<競> 夕河渡 此川乃 絶事奈久 此山乃 弥高<思良>珠 水激 瀧之宮子波 見礼跡不飽可<問>

[訓読]

やすみしし 我が大君の きこしめす 天の下に 国はしも さはにあれども 山川の 清き河内と 御心を 吉野の国の 花散らふ 秋津の野辺に 宮柱 太敷きませば ももしきの 大宮人は 舟並めて 朝川渡る 舟競ひ 夕川渡る この川の 絶ゆることなく この山の いや高知らす 水激る 瀧の宮処は 見れど飽かぬかも

[仮名]

やすみしし わがおほきみの きこしめす あめのしたに くにはしも さはにあれども やまかはの きよきかふちと みこころを よしののくにの はなぢらふ あきづののへに みやばしら ふとしきませば ももしきの おほみやひとは ふねなめて あさかはわたる ふなぎほひ ゆふかはわたる このかはの たゆることなく このやまの いやたかしらす みづはしる たきのみやこは みれどあかぬかも

[注解]

並 [古][紀] 并 / 竟→ 競 [元][類][紀] / 良思 →思良 [元][類][紀] / 聞→問 [元][類][冷]

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雑歌 作者:柿本人麻呂 吉野 離宮 行幸 従駕 宮廷讃美 国見 地名 枕詞

37

[題詞]

(幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌)反歌

[原文]

雖見飽奴 吉野乃河之 常滑乃 絶事無久 復還見牟

[訓読]

見れど飽かぬ吉野の川の常滑の絶ゆることなくまたかへり見む

[仮名]

みれどあかぬ よしののかはの とこなめの たゆることなく またかへりみむ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 吉野 離宮 行幸 従駕 宮廷讃美 国見 地名

38

[題詞]

幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

安見知之 吾大王 神長柄 神佐備世須登 <芳>野川 多藝津河内尓 高殿乎 高知座而 上立 國見乎為<勢><婆> 疊有 青垣山 々神乃 奉御調等 春部者 花挿頭持 秋立者 黄葉頭<刺>理 [一云 黄葉加射之] <逝>副 川之神母 大御食尓 仕奉等 上瀬尓 鵜川乎立 下瀬尓 小網刺渡 山川母 依弖奉流 神乃御代鴨

[訓読]

やすみしし 我が大君 神ながら 神さびせすと 吉野川 たぎつ河内に 高殿を 高知りまして 登り立ち 国見をせせば たたなはる 青垣山 山神の 奉る御調と 春へは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉かざせり [一云 黄葉かざし] 行き沿ふ 川の神も 大御食に 仕へ奉ると 上つ瀬に 鵜川を立ち 下つ瀬に 小網さし渡す 山川も 依りて仕ふる 神の御代かも

[仮名]

やすみしし わがおほきみ かむながら かむさびせすと よしのかは たぎつかふちに たかとのを たかしりまして のぼりたち くにみをせせば たたなはる あをかきやま やまつみの まつるみつきと はるへは はなかざしもち あきたてば もみちかざせり [もみちばかざし] ゆきそふ かはのかみも おほみけに つかへまつると かみつせに うかはをたち しもつせに さでさしわたす やまかはも よりてつかふる かみのみよかも

[注解]

吉→ 芳 [元][類][紀] / <> → 勢 [冷] / 波→ 婆 [元] / 判→ 刺 [元][類][紀] / 遊→逝

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 吉野 離宮 行幸 従駕 宮廷讃美 国見 地名

39

[題詞]

(幸于吉野宮之時柿本朝臣人麻呂作歌)反歌

[原文]

山川毛 因而奉流 神長柄 多藝津河内尓 船出為加母

[訓読]

山川も依りて仕ふる神ながらたぎつ河内に舟出せすかも

[仮名]

やまかはも よりてつかふる かむながら たぎつかふちに ふなでせすかも

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 吉野 離宮 行幸 従駕 宮廷讃美 国見 地名

40

[題詞]

幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

鳴呼見乃浦尓 船乗為良武 D嬬等之 珠裳乃須十二 四寳三都良武香

[訓読]

嗚呼見の浦に舟乗りすらむをとめらが玉裳の裾に潮満つらむか

[仮名]

あみのうらに ふなのりすらむ をとめらが たまものすそに しほみつらむか

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雑歌 作者:柿本人麻呂 留京 留守 伊勢行幸 地名

41

[題詞]

幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

釼著 手節乃埼二 今<日>毛可母 大宮人之 玉藻苅良<武>

[訓読]

釧着く答志の崎に今日もかも大宮人の玉藻刈るらむ

[仮名]

くしろつく たふしのさきに けふもかも おほみやひとの たまもかるらむ

[注解]

<> → 日 [類][冷][紀] / 哉 → 武 [類][冷][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 留京 留守 伊勢行幸 地名 枕詞

42

[題詞]

幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

潮左為二 五十等兒乃嶋邊 榜船荷 妹乗良六鹿 荒嶋廻乎

[訓読]

潮騒に伊良虞の島辺漕ぐ舟に妹乗るらむか荒き島廻を

[仮名]

しほさゐに いらごのしまへ こぐふねに いものるらむか あらきしまみを

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 留京 留守 伊勢行幸 地名

43

[題詞]

(幸于伊勢國時)當麻真人麻呂妻作歌

[原文]

吾勢枯波 何所行良武 己津物 隠乃山乎 今日香越等六

[訓読]

我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ

[仮名]

わがせこは いづくゆくらむ おきつもの なばりのやまを けふかこゆらむ

[検索用キーワード]

(幸于伊勢國時)石上大臣従駕作歌

44

[題詞]

(幸于伊勢國時)石上大臣従駕作歌

[原文]

吾妹子乎 去来見乃山乎 高三香裳 日本能不所見 國遠見可聞

[訓読]

我妹子をいざ見の山を高みかも大和の見えぬ国遠みかも

[仮名]

わぎもこを いざみのやまを たかみかも やまとのみえぬ くにとほみかも

[注解]

<>→ 廣 [西(右書)][元][冷][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:石上麻呂 伊勢 行幸 三重 羈旅 望郷 枕詞 地名

45

[題詞]

軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌

[原文]

八隅知之 吾大王 高照 日之皇子 神長柄 神佐備世須<等> 太敷為 京乎置而 隠口乃 泊瀬山者 真木立 荒山道乎 石根 禁樹押靡 坂鳥乃 朝越座而 玉限 夕去来者 三雪落 阿騎乃大野尓 旗須為寸 四能乎押靡 草枕 多日夜取世須 古昔念而

[訓読]

やすみしし 我が大君 高照らす 日の皇子 神ながら 神さびせすと 太敷かす 都を置きて 隠口の 初瀬の山は 真木立つ 荒き山道を 岩が根 禁樹押しなべ 坂鳥の 朝越えまして 玉限る 夕去り来れば み雪降る 安騎の大野に 旗すすき 小竹を押しなべ 草枕 旅宿りせす いにしへ思ひて

[仮名]

やすみしし わがおほきみ たかてらす ひのみこ かむながら かむさびせすと ふとしかす みやこをおきて こもりくの はつせのやまは まきたつ あらきやまぢを いはがね さへきおしなべ さかとりの あさこえまして たまかぎる ゆふさりくれば みゆきふる あきのおほのに はたすすき しのをおしなべ くさまくら たびやどりせす いにしへおもひて

[注解]

登→ 等 [元][冷][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 軽皇子 阿騎野 遊猟 狩猟 皇子讃歌 草壁皇子 追悼 大嘗祭 祭式 宇陀 地名 枕詞 植物

46

[題詞]

(軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌)短歌

[原文]

阿騎乃<野>尓 宿旅人 打靡 寐毛宿良<目>八方 古部念尓

[訓読]

安騎の野に宿る旅人うち靡き寐も寝らめやもいにしへ思ふに

[仮名]

あきののに やどるたびひと うちなびき いもぬらめやも いにしへおもふに

[注解]

<> → 野 [紀] / 自 → 目 [類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 軽皇子 阿騎野 遊猟 狩猟 皇子讃歌 草壁皇子 追悼 大嘗祭 祭式 宇陀 地名

47

[題詞]

(軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌)短歌

[原文]

真草苅 荒野者雖有 葉 過去君之 形見跡曽来師

[訓読]

ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見とぞ来し

[仮名]

まくさかる あらのにはあれど もみちばの すぎにしきみが かたみとぞこし

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 軽皇子 阿騎野 遊猟 狩猟 皇子讃歌 草壁皇子 追悼 大嘗祭 祭式 宇陀 地名 枕詞

48

[題詞]

(軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌)短歌

[原文]

東 野炎 立所見而 反見為者 月西渡

[訓読]

東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ

[仮名]

ひむがしの のにかぎろひの たつみえて かへりみすれば つきかたぶきぬ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 軽皇子 阿騎野 遊猟 狩猟 皇子讃歌 草壁皇子 追悼 大嘗祭 祭式 宇陀 地名

49

[題詞]

(軽皇子宿于安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌)短歌

[原文]

日雙斯 皇子命乃 馬副而 御猟立師斯 時者来向

[訓読]

日並の皇子の命の馬並めてみ狩り立たしし時は来向ふ

[仮名]

ひなみしの みこのみことの うまなめて みかりたたしし ときはきむかふ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:柿本人麻呂 軽皇子 阿騎野 遊猟 狩猟 皇子讃歌 草壁皇子 追悼 大嘗祭 祭式 宇陀 地名

50

[題詞]

藤原宮之役民作歌

[原文]

八隅知之 吾大王 高照 日<乃>皇子 荒妙乃 藤原我宇倍尓 食國乎 賣之賜牟登 都宮者 高所知武等 神長柄 所念奈戸二 天地毛 縁而有許曽 磐走 淡海乃國之 衣手能 田上山之 真木佐苦 桧乃嬬手乎 物乃布能 八十氏河尓 玉藻成 浮倍流礼 其乎取登 散和久御民毛 家忘 身毛多奈不知 鴨自物 水尓浮居而 吾作 日之御門尓 不知國 依巨勢道従 我國者 常世尓成牟 圖負留 神龜毛 新代登 泉乃河尓 持越流 真木乃都麻手乎 百不足 五十日太尓作 泝須<良>牟 伊蘇波久見者 神随尓有之

[訓読]

やすみしし 我が大君 高照らす 日の皇子 荒栲の 藤原が上に 食す国を 見したまはむと みあらかは 高知らさむと 神ながら 思ほすなへに 天地も 寄りてあれこそ 石走る 近江の国の 衣手の 田上山の 真木さく 桧のつまでを もののふの 八十宇治川に 玉藻なす 浮かべ流せれ 其を取ると 騒く御民も 家忘れ 身もたな知らず 鴨じもの 水に浮き居て 我が作る 日の御門に 知らぬ国 寄し巨勢道より 我が国は 常世にならむ 図負へる くすしき亀も 新代と 泉の川に 持ち越せる 真木のつまでを 百足らず 筏に作り 泝すらむ いそはく見れば 神ながらにあらし

[仮名]

やすみしし わがおほきみ たかてらす ひのみこ あらたへの ふぢはらがうへに をすくにを めしたまはむと みあらかは たかしらさむと かむながら おもほすなへに あめつちも よりてあれこそ いはばしる あふみのくにの ころもでの たなかみやまの まきさく ひのつまでを もののふの やそうぢがはに たまもなす うかべながせれ そをとると さわくみたみも いへわすれ みもたなしらず かもじもの みづにうきゐて わがつくる ひのみかどに しらぬくに よしこせぢより わがくには とこよにならむ あやおへる くすしきかめも あらたよと いづみのかはに もちこせる まきのつまでを ももたらず いかだにつくり のぼすらむ いそはくみれば かむながらにあらし

[注解]

之 →乃 [元][類][冷][紀] / 郎 → 良 [元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:役民 藤原 枕詞 地名

51

[題詞]

従明日香宮遷居藤原宮之後志貴皇子御作歌

[原文]

F女乃 袖吹反 明日香風 京都乎遠見 無用尓布久

[訓読]

采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く

[仮名]

うねめの そでふきかへす あすかかぜ みやこをとほみ いたづらにふく

[検索用キーワード]

雑歌 作者:志貴皇子 荒都歌 飛鳥 地名

52

[題詞]

藤原宮御井歌

[原文]

八隅知之 和期大王 高照 日之皇子 麁妙乃 藤井我原尓 大御門 始賜而 埴安乃 堤上尓 在立之 見之賜者 日本乃 青香具山者 日經乃 大御門尓 春山<跡> 之美佐備立有 畝火乃 此美豆山者 日緯能 大御門尓 弥豆山跡 山佐備伊座 耳<為>之 青菅山者 背友乃 大御門尓 宣名倍 神佐備立有 名細 吉野乃山者 影友乃 大御門<従> 雲居尓曽 遠久有家留 高知也 天之御蔭 天知也 日<之>御影乃 水許曽婆 常尓有米 御井之清水

[訓読]

やすみしし 我ご大君 高照らす 日の皇子 荒栲の 藤井が原に 大御門 始めたまひて 埴安の 堤の上に あり立たし 見したまへば 大和の 青香具山は 日の経の 大御門に 春山と 茂みさび立てり 畝傍の この瑞山は 日の緯の 大御門に 瑞山と 山さびいます 耳成の 青菅山は 背面の 大御門に よろしなへ 神さび立てり 名ぐはし 吉野の山は かげともの 大御門ゆ 雲居にぞ 遠くありける 高知るや 天の御蔭 天知るや 日の御蔭の 水こそば とこしへにあらめ 御井のま清水

[仮名]

やすみしし わごおほきみ たかてらす ひのみこ あらたへの ふぢゐがはらに おほみかど はじめたまひて はにやすの つつみのうへに ありたたし めしたまへば やまとの あをかぐやまは ひのたての おほみかどに はるやまと しみさびたてり うねびの このみづやまは ひのよこの おほみかどに みづやまと やまさびいます みみなしの あをすがやまは そともの おほみかどに よろしなへ かむさびたてり なぐはし よしののやまは かげともの おほみかどゆ くもゐにぞ とほくありける たかしるや あめのみかげ あめしるや ひのみかげの みづこそば とこしへにあらめ みゐのましみづ

[注解]

路 → 跡 [古] / 高→ 為 [万葉考] / 徒→ 従 [元][類][紀] / <>→ 之 [元][類][古][冷][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 藤原 宮廷讃美 御井 枕詞 地名 奈良

53

[題詞]

(藤原宮御井歌)短歌

[原文]

藤原之 大宮都加倍 安礼衝哉 處女之友者 <乏>吉<呂>賀聞

[訓読]

藤原の大宮仕へ生れ付くや娘子がともは羨しきろかも

[仮名]

ふぢはらの おほみやつかへ あれつくや をとめがともは ともしきろかも

[注解]

之→ 乏 [玉の小琴] / 召→ 呂 [元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 藤原 宮廷讃美 御井 地名 奈良

54

[題詞]

大寶元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀<伊>國時歌

[原文]

巨勢山乃 列々椿 都良々々尓 見乍思奈 許湍乃春野乎

[訓読]

巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を

[仮名]

こせやまの つらつらつばき つらつらに みつつしのはな こせのはるのを

[注解]

紀国 → 紀伊国 [元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 大宝1年9月 年紀 作者:坂門人足 紀伊行幸 和歌山 巨勢 従駕 羈旅 土地讃美 地名

55

[題詞]

(大寶元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀<伊>國時歌

[原文]

朝毛吉 木人乏母 亦打山 行来跡見良武 樹人友師母

[訓読]

あさもよし紀人羨しも真土山行き来と見らむ紀人羨しも

[仮名]

あさもよし きひとともしも まつちやま ゆきくとみらむ きひとともしも

[検索用キーワード]

雑歌 大宝1年9月 年紀 作者:調首淡海 紀伊行幸 和歌山 亦打山 従駕 羈旅 土地讃美 地名 枕詞

56

[題詞]

(大寶元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀<伊>國時歌)或本歌

[原文]

河上乃 列々椿 都良々々尓 雖見安可受 巨勢能春野者

[訓読]

川上のつらつら椿つらつらに見れども飽かず巨勢の春野は

[仮名]

かはかみの つらつらつばき つらつらに みれどもあかず こせのはるのは

[検索用キーワード]

雑歌 大宝1年9月 年紀 作者:春日蔵首老 或本歌 巨勢 羈旅 土地讃美 地名 植物

57

[題詞]

二年壬寅太上天皇幸于参河國時歌

[原文]

引馬野尓 仁保布榛原 入乱 衣尓保波勢 多鼻能知師尓

[訓読]

引間野ににほふ榛原入り乱れ衣にほはせ旅のしるしに

[仮名]

ひくまのに にほふはりはら いりみだれ ころもにほはせ たびのしるしに

[検索用キーワード]

雑歌 大宝2年 年紀 作者:長忌寸意吉麻呂 三河行幸 愛知 従駕 持統 羈旅 土地讃美 地名 植物

58

[題詞]

(二年壬寅太上天皇幸于参河國時歌)

[原文]

何所尓可 船泊為良武 安礼乃埼 榜多味行之 棚無小舟

[訓読]

いづくにか船泊てすらむ安礼の崎漕ぎ廻み行きし棚無し小舟

[仮名]

いづくにか ふなはてすらむ あれのさき こぎたみゆきし たななしをぶね

[検索用キーワード]

雑歌 大宝2年 年紀 作者:高市黒人 三河行幸 愛知 従駕 持統 羈旅 地名

59

[題詞]

譽謝女王作歌

[原文]

流經 妻吹風之 寒夜尓 吾勢能君者 獨香宿良<武>

[訓読]

流らふる妻吹く風の寒き夜に我が背の君はひとりか寝らむ

[仮名]

ながらふる つまふくかぜの さむきよに わがせのきみは ひとりかぬらむ

[注解]

哉 → 武 [西(訂正左書)][元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:誉謝女王 妻歌

60

[題詞]

長皇子御歌

[原文]

暮相而 朝面無美 隠尓加 氣長妹之 廬利為里計武

[訓読]

宵に逢ひて朝面無み名張にか日長く妹が廬りせりけむ

[仮名]

よひにあひて あしたおもなみ なばりにか けながくいもが いほりせりけむ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:長皇子 地名 奈良

61

[題詞]

舎人娘子従駕作歌

[原文]

<大>夫之 得物矢手挿 立向 射流圓方波 見尓清潔之

[訓読]

大丈夫のさつ矢手挟み立ち向ひ射る圓方は見るにさやけし

[仮名]

ますらをの さつやたばさみ たちむかひ いるまとかたは みるにさやけし

[注解]

丈 →大 [元][類][冷]

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雑歌 作者:舎人娘子 伊勢行幸 三重 従駕 国見 羈旅 土地讃美 地名

62

[題詞]

三野連[名闕]入唐時春日蔵首老作歌

[原文]

在根良 對馬乃渡 々中尓 <幣>取向而 早還許年

[訓読]

在り嶺よし対馬の渡り海中に幣取り向けて早帰り来ね

[仮名]

ありねよし つしまのわたり わたなかに ぬさとりむけて はやかへりこね

[注解]

弊→ 幣 [元][類][冷]

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雑歌 作者:春日老 三野連 入唐 餞別 地名 対馬

63

[題詞]

山上臣憶良在大唐時憶本郷作歌

[原文]

去来子等 早日本邊 大伴乃 御津乃濱松 待戀奴良武

[訓読]

いざ子ども早く日本へ大伴の御津の浜松待ち恋ひぬらむ

[仮名]

いざこども はやくやまとへ おほともの みつのはままつ まちこひぬらむ

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雑歌 作者:山上憶良 唐 望郷 地名

64

[題詞]

慶雲三年丙午幸于難波宮時 / 志貴皇子御作歌

[原文]

葦邊行 鴨之羽我比尓 霜零而 寒暮夕 <倭>之所念

[訓読]

葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて寒き夕は大和し思ほゆ

[仮名]

あしへゆく かものはがひに しもふりて さむきゆふへは やまとしおもほゆ

[注解]

和 →倭 [元][冷][紀]

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雑歌 慶雲3年 年紀 作者:志貴皇子 難波 行幸 従駕 大阪 望郷 文武 羈旅 動物 植物 地名

65

[題詞]

(慶雲三年丙午幸于難波宮時)長皇子御歌

[原文]

霰打 安良礼松原 住吉<乃> 弟日娘与 見礼常不飽香聞

[訓読]

霰打つ安良礼松原住吉の弟日娘女と見れど飽かぬかも

[仮名]

あられうつ あられまつばら すみのえの おとひをとめと みれどあかぬかも

[注解]

之 → 乃 [元][類][古][冷][紀]

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雑歌 慶雲3年 年紀 作者:長皇子 難波 行幸 従駕 大阪 地名讃美 文武 枕詞 地名

66

[題詞]

太上天皇幸于難波宮時歌

[原文]

大伴乃 高師能濱乃 松之根乎 枕宿杼 家之所偲由

[訓読]

大伴の高師の浜の松が根を枕き寝れど家し偲はゆ

[仮名]

おほともの たかしのはまの まつがねを まくらきぬれど いへししのはゆ

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雑歌 作者:置始東人 難波 行幸 従駕 大阪 持統 望郷 羈旅 地名 植物

67

[題詞]

太上天皇幸于難波宮時歌

[原文]

旅尓之而 物戀<之伎><尓 鶴之>鳴毛 不所聞有世者 孤悲而死萬思

[訓読]

旅にしてもの恋ほしきに鶴が音も聞こえずありせば恋ひて死なまし

[仮名]

たびにして ものこほしきに たづがねも きこえずありせば こひてしなまし

[注解]

<>→之伎<乃> [西(左右書)] / 乃→尓鶴之 [全註釈][注釈] /鳴(事)[西(左書)]→鳴 [元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:高安大嶋 難波 行幸 従駕 大阪 持統 望郷 羈旅 地名 動物

68

[題詞]

太上天皇幸于難波宮時歌

[原文]

大伴乃 美津能濱尓有 忘貝 家尓有妹乎 忘而念哉

[訓読]

大伴の御津の浜なる忘れ貝家なる妹を忘れて思へや

[仮名]

おほともの みつのはまなる わすれがひ いへなるいもを わすれておもへや

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雑歌 作者:身人部王 難波 行幸 従駕 大阪 持統 望郷 地名 序詞

69

[題詞]

太上天皇幸于難波宮時歌

[原文]

草枕 客去君跡 知麻世婆 <崖>之<埴>布尓 仁寶播散麻思<呼>

[訓読]

草枕旅行く君と知らませば岸の埴生ににほはさましを

[仮名]

くさまくら たびゆくきみと しらませば きしのはにふに にほはさましを

[注解]

婆 [元][類][紀] 波 / 岸→崖 [元][類] / 垣 →埴 [元][類] / 乎→ 呼 [元][類]

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雑歌 作者:清江娘子 長皇子 遊行女婦 難波 大阪 持統 恋歌 旅 地名

70

[題詞]

太上天皇幸于吉野宮時高市連黒人作歌

[原文]

倭尓者 鳴而歟来良武 呼兒鳥 象乃中山 呼曽越奈流

[訓読]

大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象の中山呼びぞ越ゆなる

[仮名]

やまとには なきてかくらむ よぶこどり きさのなかやま よびぞこゆなる

[検索用キーワード]

雑歌 作者:高市黒人 吉野 持統 行幸 大阪 従駕 望郷 地名 動物

71

[題詞]

大行天皇幸于難波宮時歌

[原文]

倭戀 寐之不所宿尓 情無 此渚崎<未>尓 多津鳴倍思哉

[訓読]

大和恋ひ寐の寝らえぬに心なくこの洲崎廻に鶴鳴くべしや

[仮名]

やまとこひ いのねらえぬに こころなく このすさきみに たづなくべしや

[注解]

<> → 未 [元][類][冷][紀]

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雑歌 作者:忍坂部乙麻呂 文武 難波 行幸 大阪 従駕 望郷 動物 地名

72

[題詞]

大行天皇幸于難波宮時歌

[原文]

玉藻苅 奥敝波不<榜> 敷妙<乃> 枕之邊人 忘可祢津藻

[訓読]

玉藻刈る沖へは漕がじ敷栲の枕のあたり忘れかねつも

[仮名]

たまもかる おきへはこがじ しきたへの まくらのあたり わすれかねつも

[注解]

G→榜 [元] / 之 →乃 [元][類][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 作者:藤原宇合 難波 文武 行幸 大阪 従駕 植物 枕詞

73

[題詞]

(大行天皇幸于難波宮時歌)長皇子御歌

[原文]

吾妹子乎 早見濱風 倭有 吾松椿 不吹有勿勤

[訓読]

我妹子を早見浜風大和なる我を松椿吹かざるなゆめ

[仮名]

わぎもこを はやみはまかぜ やまとなる あをまつつばき ふかざるなゆめ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:長皇子 望郷 難波 大阪 文武 従駕 行幸 地名 植物

74

[題詞]

大行天皇幸于吉野宮時歌

[原文]

見吉野乃 山下風之 寒久尓 為當也今夜毛 我獨宿牟

[訓読]

み吉野の山のあらしの寒けくにはたや今夜も我が独り寝む

[仮名]

みよしのの やまのあらしの さむけくに はたやこよひも わがひとりねむ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:文武 吉野 行幸 望郷 妹 異伝 地名

75

[題詞]

大行天皇幸于吉野宮時歌

[原文]

宇治間山 朝風寒之 旅尓師手 衣應借 妹毛有勿久尓

[訓読]

宇治間山朝風寒し旅にして衣貸すべき妹もあらなくに

[仮名]

うぢまやま あさかぜさむし たびにして ころもかすべき いももあらなくに

[検索用キーワード]

雑歌 作者:長屋王 吉野 行幸 妹 地名

76

[題詞]

和銅元年戊申 / 天皇<御製>

[原文]

大夫之 鞆乃音為奈利 物部乃 大臣 楯立良思母

[訓読]

ますらをの鞆の音すなり物部の大臣盾立つらしも

[仮名]

ますらをの とものおとすなり もののふの おほまへつきみ たてたつらしも

[注解]

御製歌 →御製 [冷][紀]

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雑歌 和銅1年 年紀 作者:元明 和銅 儀式

77

[題詞]

(和銅元年戊申 / 天皇<御製>)御名部皇女奉和御歌

[原文]

吾大王 物莫御念 須賣神乃 嗣而賜流 吾莫勿久尓

[訓読]

吾が大君ものな思ほし皇神の継ぎて賜へる我なけなくに

[仮名]

わがおほきみ ものなおもほし すめかみの つぎてたまへる われなけなくに

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雑歌 和銅1年 年紀 作者:御名部皇女 奉和

78

[題詞]

和銅三年庚戌春二月従藤原宮遷于寧樂宮時御輿停長屋原<廻>望古郷<作歌> [一書云 太上天皇御製]

[原文]

飛鳥 明日香能里乎 置而伊奈婆 君之當者 不所見香聞安良武 [一云 君之當乎 不見而香毛安良牟]

[訓読]

飛ぶ鳥の明日香の里を置きて去なば君があたりは見えずかもあらむ [一云 君があたりを見ずてかもあらむ]

[仮名]

とぶとりの あすかのさとを おきていなば きみがあたりは みえずかもあらむ [きみがあたりを みずてかもあらむ]

[注解]

迥 →廻 [元][類] / 御作歌 →作歌 [類][古][冷][紀]

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雑歌 和銅3年 年紀 作者:元明 持統 古歌 転用 遷都 望郷 恋情 枕詞 愛惜

79

[題詞]

或本従藤原<京>遷于寧樂宮時歌

[原文]

天皇乃 御命畏美 柔備尓之 家乎擇 隠國乃 泊瀬乃川尓 H浮而 吾行河乃 川隈之 八十阿不落 万段 顧為乍 玉桙乃 道行晩 青<丹>吉 楢乃京師乃 佐保川尓 伊去至而 我宿有 衣乃上従 朝月夜 清尓見者 栲乃穂尓 夜之霜落 磐床等 川之<水>凝 冷夜乎 息言無久 通乍 作家尓 千代二手 来座多公与 吾毛通武

[訓読]

大君の 命畏み 柔びにし 家を置き こもりくの 泊瀬の川に 舟浮けて 我が行く川の 川隈の 八十隈おちず 万たび かへり見しつつ 玉桙の 道行き暮らし あをによし 奈良の都の 佐保川に い行き至りて 我が寝たる 衣の上ゆ 朝月夜 さやかに見れば 栲の穂に 夜の霜降り 岩床と 川の水凝り 寒き夜を 息むことなく 通ひつつ 作れる家に 千代までに 来ませ大君よ 我れも通はむ

[仮名]

おほきみの みことかしこみ にきびにし いへをおき こもりくの はつせのかはに ふねうけて わがゆくかはの かはくまの やそくまおちず よろづたび かへりみしつつ たまほこの みちゆきくらし あをによし ならのみやこの さほかはに いゆきいたりて わがねたる ころものうへゆ あさづくよ さやかにみれば たへのほに よるのしもふり いはとこと かはのみづこり さむきよを やすむことなく かよひつつ つくれるいへに ちよまでに きませおほきみよ われもかよはむ

[注解]

宮京→京 [元][類][冷][紀] / 川 [類][古] 河 / <> →丹 [西(右書)][類][古][冷][紀] / 氷→水 [類][冷] / 来 [万葉考](塙)(楓) 尓

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雑歌 遷都 藤原 奈良 地名 枕詞

80

[題詞]

(或本従藤原<京>遷于寧樂宮時歌)反歌

[原文]

青丹吉 寧樂乃家尓者 万代尓 吾母将通 忘跡念勿

[訓読]

あをによし奈良の家には万代に我れも通はむ忘ると思ふな

[仮名]

あをによし ならのいへには よろづよに われもかよはむ わするとおもふな

[注解]

<>→ 作 [西(右書)][冷][紀][文]

[検索用キーワード]

雑歌 遷都 藤原 奈良 枕詞 地名

81

[題詞]

和銅五年壬子夏四月遣長田王于伊勢齊宮時山邊御井<作>歌

[原文]

山邊乃 御井乎見我弖利 神風乃 伊勢處女等 相見鶴鴨

[訓読]

山辺の御井を見がてり神風の伊勢娘子どもあひ見つるかも

[仮名]

やまのへの みゐをみがてり かむかぜの いせをとめども あひみつるかも

[注解]

依 → 作 [西(補訂)]

[検索用キーワード]

雑歌 和銅5年4月 年紀 作者:長田王 伊勢 三重 御井 土地讃美 和銅 地名 枕詞

82

[題詞]

(和銅五年壬子夏四月遣長田王于伊勢齊宮時山邊御井<作>歌)

[原文]

浦佐夫流 情佐麻<祢>之 久堅乃 天之四具礼能 流相見者

[訓読]

うらさぶる心さまねしひさかたの天のしぐれの流らふ見れば

[仮名]

うらさぶる こころさまねし ひさかたの あめのしぐれの ながらふみれば

[注解]

弥 →祢 [代匠記精撰本]

[検索用キーワード]

雑歌 和銅5年4月 年紀 作者:長田王 伊勢 三重 御井 古歌 転用 和銅 枕詞

83

[題詞]

(和銅五年壬子夏四月遣長田王于伊勢齊宮時山邊御井<作>歌)

[原文]

海底 奥津白波 立田山 何時鹿越奈武 妹之當見武

[訓読]

海の底沖つ白波龍田山いつか越えなむ妹があたり見む

[仮名]

わたのそこ おきつしらなみ たつたやま いつかこえなむ いもがあたりみむ

[注解]

<>→ 作 [西(訂正)][冷][紀]

[検索用キーワード]

雑歌 和銅5年4月 年紀 作者:長田王 伊勢 三重 御井 古歌 転用 和銅 羈旅 望郷 地名 序詞

84

[題詞]

寧樂宮 / 長皇子與志貴皇子於佐紀宮倶宴歌

[原文]

秋去者 今毛見如 妻戀尓 鹿将鳴山曽 高野原之宇倍

[訓読]

秋さらば今も見るごと妻恋ひに鹿鳴かむ山ぞ高野原の上

[仮名]

あきさらば いまもみるごと つまごひに かなかむやまぞ たかのはらのうへ

[検索用キーワード]

雑歌 作者:長皇子 志貴皇子 宴席 屏風歌 奈良 動物 地名